BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

111 / 278
【山吹沙綾】色とりどりの闇の中から
2020/02/01 #FDD876「モカ」


 

 

「いいかい沙綾(さあや)。…我が娘よ。」

 

 

 

僕は決めたよ。

この世界の、まだ見ぬ顧客が君の閃きを待っている。

僕と君が揃えば…二人ならば、きっとやれる。

 

人々に、笑顔を。

 

 

 

「あー…何を言いたいんだか忘れちゃったなぁ。…兎に角、頑張ろう、沙綾。」

 

「うん。パパ…じゃなくて、○○さん?だっけ。」

 

「…呼び辛かったら、"パパ"に戻してもいいんだよ。」

 

「んーん。だって血のつながりはないんだよね?…頑張って、こっちの呼び方にも慣れないと。」

 

 

 

彼女は沙綾。…いや、正式には山吹(やまぶき)沙綾の()()()()…というべきか。

生まれたての彼女に名前を与えたはいいものの、真っ白な彼女に"設定"を書き込むのは容易なことじゃなかったんだ。

 

 

 

**

 

 

 

「パ……じゃない、○○さん!依頼が入ったよ!」

 

「お。……それじゃあ依頼書を見せてくれ。」

 

「はい!…今回は二枚だから、シンプルな内容かな?」

 

「ふむ。依頼人は……ほほう。娘さんをご所望の…結構な大手企業で働くサラリーマンお父さん、だな。」

 

「さらりーまん?」

 

 

 

渡された依頼書にザッと目を通してみる。どうやら中々に財産を持つが子供に恵まれないお父さんからの依頼であるようで。…一度授かったが幼いうちに亡くしてしまった娘を、もう一度その手で抱きたいという。

大体は依頼したい人物像を書き込むことで、依頼書の方も枚数が増えていくものなんだけど…今回の枚数が少なかったのはその情報も少なかったからだ。「銀髪」「甘えん坊」「タレ目」と、初対面の人間のような印象しか書いていないあたり、かなり幼いうちにお別れしてしまったのだろう。

物心つく前だったのか、仕事が忙しくてあまり触れ合うことができなかったのか…何にせよ仕事は仕事。心を無にして取り掛かろう…っと、その前に。

 

 

 

「ええとね。働いて貰えるお給料…つまりはお金だね。これをサラリーというんだ。」

 

「うん。」

 

「サラリーを貰って働く人。つまりはサラリーマン。…覚えたかい?」

 

「………うんっ!それじゃあ○○さんもサラリーマンってこと?」

 

「うーむ…僕はお給料はもらっていないからね。自営業は、純粋にサラリーマンではないのだよ。」

 

「???」

 

 

 

沙綾に社会の知識を【書き込んで】おこうと思ったのだが中々に表現がうまくいかない。そもそも僕はコミュニティ能力に乏しく、他人と会話をすることを苦手としている。顧客との会話・受注でさえ沙綾に一任しているほどだ。

結局のところで首を捻っている沙綾に勤労の概念を伝えるのは難しいと判断し、仕事の準備に取り掛かることにした。

 

 

 

「また今度、ゆっくり【勉強】していこうか。」

 

「そうだね。…今は先に、この人に応えてあげないと。」

 

「うん。じゃあ、いつものお話を始めよう。」

 

 

 

結論から言えば、僕はちょっとした【魔法】が使える。沙綾をクローンした時に使ったのは【魔法】というより【奇跡】に近いものだったが、基本的に仕事の中で使うのは飽くまで【魔法】。

 

降霊術…に近いものだろうか。

この世の中には無念の内に命を落とした…いや、僕の定義では、()()()()()()()()()()()()()()()()魂が無数に飛び交っている。その魂に呼び掛け、萃め、一つに混ぜ合わせて再度殻を与えることが出来る。

…俗に塗れた言い方をするならば死者蘇生。蘇りだとか復活だとか……あぁいやわかっている。生命の、世の中の理に背く行為であると。実際に、禁忌に触れていると糾弾されることも少なくないが…特に()()()には酷く罵られたものだが、生憎と人の身を捨てた今の僕にはどうでもいいことだ。

求めている人がいる限り、その人の要求に応えるために只管魂を蒐めて煉り合せ続けるしかないんだ。

 

 

 

「甘えん坊……。」

 

「ん。…あぁ、確かに、それだけは外見じゃないね。」

 

「…小さい子だったのかな。」

 

「そうかもね。…小さいながらにも一生懸命に諸手を向ける幼い我が子…その姿に、"甘えている"んだと感じたんだろうな。父性ってやつだ。」

 

「……私は、おとうさんが居ないからよくわからないけど…きっとその子、おとうさんが大好きだったんだよね?」

 

「ふむ。………小さすぎるのであれば、本能か気まぐれか…。」

 

「…猫みたいだね。」

 

「猫、かぁ…。」

 

 

 

沙綾と依頼の人物を突き詰めていく。僕の力では特定の魂を指定することはできない、よってこうしてイメージを膨らませる。

外見こそ大人びた沙綾だが、精神的には生まれて一年も経っていない子供だ。その心は純粋で、閃きの突拍子もなさは目を見張るものすらある。

……要は彼女とこうして会話を重ねることで彼女には経験を、僕には魂のヒントを。…いい事尽くめなんだ。

 

 

 

「猫はいいよね。にゃんにゃーんって。」

 

「……沙綾ごめん、今のもう一回。」

 

 

 

カメラを向けてもう一度。…これはあれだ、成長記録ってやつだ。

 

 

 

「??にゃんにゃーんって。」

 

「もうちょっとこう……そうそうそう、それで小さい声で…少し上を見るような感じで…」

 

「にゃん??…にゃんっ!にゃーんっ!」

 

 

 

ようしよしよし、沙綾フォルダが順調に潤っていく。…じゃない。猫、猫かぁ。

確かに気まぐれで、本能から甘えるときはものすごく甘える。…まぁ、この場合、幼すぎるが故に感情表現の幅もなく本能の赴くままに意思を伝えようとしたのだと推測されるが…。

それに銀髪……氏名や居住地からして人外の血は混ざっていなさそうだが…とはいえ、()()異変以後人種というのも実に乱れた。わかりやすいので言えば髪色だ。

昔の【日本】では基本は黒髪、赤掛かったり茶色掛かったり…金や白なんてのもあったらしいが、異変以後は青や緑、ピンクに紅なんてのも地毛として現れるようになった。…だからこそ、銀髪というワードが引っかかったのだが…。

斯く言う僕も髪の色は銀。針金のようだと言われたこともあったっけ。…銀髪は即ち、人であることを捨てた種族が得られる特徴の一つなんだ。

 

 

 

「う、うん…可愛いぞ…じゃなかった、猫は確かにあるかもね。でかしたぞ沙綾。」

 

「へっへへー!後はね、いっぱい食べるのがいいな。」

 

「いっぱい…たべる?」

 

「うん。……だって、小さいうちにおとうさんとさよならしちゃったんだもんね?…だったら、今度は美味しいものいっぱい食べて、大きくなって…おとうさんとずっとずっと一緒にいられたらいいなって。…変かな。」

 

「…あぁ、いや……。」

 

 

 

沙綾の基本的なスペックに関してはクローン元の影響が強いのか、特に感性や思い遣りの部分で秀でたものが見られる。…堅苦しい言い方はやめよう。

凄く、優しい子なんだ。命を扱う仕事ということもあってか、悲しい想像をしてしまうことも少なくない…僕もできる限り心を無にして向き合うようにしているし。でも沙綾は、事実も可能性も全てひっくるめた上で思いを馳せ、あったかもしれない未来と失われてしまった過去に涙を流すことができる。

それを繰り返したことで、心が壊れることもなく…とても強い子だ。

 

 

 

「だからね、いっぱい食べるのが好きな子、いいと思うな。」

 

「……そっか。じゃあ折角なら、沙綾と一緒で美味しいパンが好きな子ってのもいいよねぇ。」

 

「あ!そうだね!!パンはねぇ、いろんな種類があってね、どれも全部美味しくて…あっ、焼きたてが美味しいんだよっ!」

 

「……。」

 

 

 

沙綾がパンを好んで食べるのも、僕が【書き込んだ】訳じゃない。気付けば最初に欲した食べ物もパンで、ずっと変わらず好きだと言い張る食物もまたパンだ。

…やはり本能が、遺伝子が覚えているんだろうか。沙綾の元の体は――

 

 

 

「じゃあ、○○さんはいつもの準備に入ってね!私はほら、【身体】を用意しなくちゃだからね。」

 

「お?おぉ…。じゃあそっちは任せるよ。」

 

「らじゃ!」

 

 

 

言うや否や、外から持ってきた得体の知れない()()を水と混ぜ捏ね始める。何をしているのかは分からないが沙綾はああしていつも【生地】を作る。

そうして僕が萃めた魂を流し込みたっぷり寝かせ、気付けば人の型を成しているというわけだ。…こう書いても意味がわからないだろうとは思う。だが僕も、そして沙綾もこの行為の詳しくを知らない。知らずとも使命感からか繰り返すこの行為はきっと【魔法】なんだ。

奇跡には遠く及ばないまでも、人智を超える何か。

 

 

 

「猫…それによく食べる……大食い…?……銀髪……パンが好き……」

 

 

 

意識を現世に重なるもうひとつの不安定な世界へと向ける。確かにそこにある意識と悲しみが僕の差し出す手に集まってくるのが感じられ、正直気持ち良いとは言えないゾワゾワとした感覚が手から腕、胸、腹へと染み渡る。

しっかりとイメージするのは末永く父親と一緒に幸せに過ごす少女の姿。

 

 

 

「…意識集約……魂格定着……規格統合……逸脱…反転…………沙綾ァ!!」

 

「うん!思いついてるよ。」

 

 

 

術は為った。

たった今この手で再度生成した【命】は、確かに目の前の【生地】に宿っている。

後は沙綾が、思いを込めた名を冠するだけ。それだけでこの仕事は、終わる。

 

 

 

「始まりの、青葉のように若々しく、瑞々しい内にその形を散らした子。…貴女に冠するのは…。」

 

「…………。」

 

「うん、これだ。…【梔子(クチナシ)】!!」

 

 

 

沙綾が"彼女"から連想した名前()を与えた直後、呼応するように光り輝く新たな【殻】。

光が収まった時、そこには僅かにくねる様に動くアメーバのようなものが残った。…今日もまたひとつ、生み出し終えたんだ。

 

 

 

**

 

 

 

「依頼人は、何て?」

 

 

 

依頼者――青葉(あおば)さんといったか。連絡を入れるとすぐに引取りに来た。注意事項や料金の支払い等は全て沙綾に任せてあるが…戻ってきた顔を見るに、また一つ想いに応えられたようだ。

やり遂げた笑みを見せる沙綾は綺麗に並んだ歯を見せて、

 

 

 

「青葉さん、子供には前と同じ「モカ」って名前付けるんだって!」

 

 

 

と、たった今聞いたであろう情報を教えてくれた。

…モカ、か。いい名だ。

 

 

 

「なぁ沙綾。」

 

「なあに?」

 

「これから、僕らは一体どれ程の命を創っていくんだろうね。」

 

「んー…いっぱい?」

 

君が山吹に辿り着く(終わりが来る)のは…いつなんだろうか。」

 

「…私、悪いことしちゃった?」

 

「……あぁいや、ごめんね。忘れてくれ。」

 

「…????」

 

 

 

僕は正直、疲れているんだ。

 

 

 




新シリーズは沙綾ちゃん。
ぷちシリーズの対極に来るような、黒くて難しいお話が書きたかったんです。
最初は謎が多いかもしれません。




<今回の設定>

○○:年齢不詳。外見は高校生か大学生くらい。銀髪が特徴的。
   人と話すのが苦手な上、過去に心に刺さる暴言を刺された記憶から他人を避ける。
   いつもパーカーとジーンズを身に纏い、フードは脱がない。

沙綾:高校2、3年生程の外見。
   だが精神的にはまだ幼く只管に学習を続ける段階。
   ヒトの素となる体を小麦粉から作ることが出来る。
   主人公をパパと呼ぶのは、目覚めて最初に見た主人公がテンパって父親だと
   自己紹介したことに起因する。
   現在は外を出歩くことや仕事のことも懸念して修正中。

梔子色:クチナシの実で染めた、少し赤みのある黄色。
    色合いの赤みの濃淡には幅がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。