BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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新シリーズ、お題箱から頂きました。
『パスパレかRoselia、アフグロのVoとKeyの中身シャッフルとか見てみたいです』
ありがとうございました。


【シャッフル】そうだ。アイドル、なろう
2020/02/15 ロマン、夢見て


 

 

 

「…いや、そんな急にスカウトっつっても。」

 

「えー?何とかなるでしょ?アイドルって女の子の憧れ的なとこあるしさー。」

 

 

 

滅茶苦茶な経営陣、盛り上がりそうにない企画の嵐、おまけにプロデューサー丸投げのアイドルユニット結成…。もう嫌だこの会社、辞めたい。

 

 

 

**

 

 

 

「兎に角、何とか三人集まっただけでも奇跡な訳ですから、残り三人だっていつ見つかるかなんて…」

 

「細かい事はいーじゃんよー。ほら、集まっちゃった二人だって、いつ活動できるのか未定って言い続けるのも可哀そうでしょ?」

 

「くっ……。」

 

 

 

RomaN(ロマン)プロダクション――今俺がプロデューサーとして働いている小さな芸能事務所。業界的にも社会的にもまだまだ無名のこの事務所で、地を這うような収益を何とかすべく、適当な社長が適当なプロジェクトを立ち上げた。

…そのプロジェクトこそ、今俺に課せられている無茶な使命を乗り越えた先に実現するらしいもので、要点は「ノウハウも何もない事務所がイチからアイドルを作り出す」という、まともな人間が一人でも居たら確実にストップがかかりそうなコンセプトなのだ。

そもそも俺自身、社長と遠い親戚という事で無理矢理プロデューサーの席に座らされたのであって、この会社自体あとは事務のお姉さんが一人いるだけ…そんな極小な、あっても無くても全く世の中に影響しないゴミみたいな会社なのである。つまり何を言いたいのかというと――

 

 

 

「おいおい○○。モノローグでだいぶ失礼な事言っちゃってんじゃないのー。ノウハウはあるって言ってんじゃんかよぉ。」

 

「アンタのはほぼ無いに等しいんだよ馬鹿が!」

 

「無いってこたぁ無いだろぉ!?アイ○スシリーズは筐体の頃からやり込んでんだっ!」

 

「ゲームじゃねぇか!!」

 

「最近はリズムに合わせて○△□✕を押すだけで立派なアイドルが…」

 

「だからゲームじゃねえかっ!!」

 

 

 

――纏めるならば、前途多難。その一言に尽きるのだ。

 

………。

さて、少し現実に目を向けるとしよう。

こんなバカげた企画にも夢や憧れを持って応募してくる純粋な子は居たもので…現状二人のメンバーが集まっている。二人という人数に対して"集まる"と言って良いかは分からないが、少なくとも内一人はオーディションを勝ち抜いてきた実力派だ。

所謂天才型ってやつで、社長も全力でプッシュ。俺も何度か接しているが人当たりも良く容姿も淡麗、頭の回転も感情の切り替えも早い上に無駄に元気…と、これと言った欠点が無い少女だった。

もう一人は厳密には審査を潜り抜けた訳では無いが、今まで女優として生きてきた少女を新たな道で売り込んでいきたいと、他事務所からオファーがあった子。オファーとは言え事実上の業務提携であり、コラボレーションというよりかは事務所の垣根を超えたユニットを組む…といった流れになるだろう。

 

俺に課せられたのはこの二人を含む計五人のアイドルグループを結成。マネージメントから営業まで全てを熟した後に、我がRomaNプロダクションの看板になる一大ムーブメントを創り上げろというミッション。

正直、連日の胃痛から死にそうです。

 

 

 

「あ、あのぉ…」

 

「ん。麻弥ちゃん、居たの?」

 

「ひ、酷いっすねぇ!今日は朝からずっとデスクに居たっすよぉ!」

 

 

 

眼鏡がチャームポイントな我が社の紅一点。…影が薄く中々存在に気付けない彼女、大和(やまと)麻弥(まや)ちゃんが、熱く火花を散らす俺と社長の背におずおずと声を掛ける。

 

 

 

「気付かなかった……んで、何かあった?」

 

「そのー、社長にお訊きしたいんですがー。」

 

「なんだぁ!?俺の推しは○早ちゃ」

 

「スカウトはいいんすけど、宛てはあるっすか??」

 

「んぅぐ…っ……………。」

 

 

 

ナイスな一言。急所をピンポイントで突く刺突のような、おっとりした口調が違和感にすら感じる一撃だ。やや変態チックな社長も思わずその力説を止め考え込む。

 

 

 

「………どうなんです社長?」

 

「もし宛ても心当たりもないまま○○さんにスカウトさせるって言うなら、ジブンも付いて行こうかと思いまして。」

 

「ふむ………んっ!?」

 

「んぇ?」

 

 

 

予想外の切り口に思わず間抜けな声が出てしまった。だがよくよく考えてみたら俺は麻弥ちゃんのことをあまり深く知らない。もしかしたらアイドルや芸能界について深い知識を持っているのかもしれないし、何なら地下系なんかにも詳しそうだ。

前に話した感じでは機械いじりが好き~なんて言っていた記憶しかないが、もしかしたら…!

 

 

 

「○○さん、アイドルっていうとどういう活動するイメージっすか?」

 

「あー、えーと……歌ったり踊ったり…?最近じゃCMやらドラマなんかでも見るけど…」

 

「そっすねぇ。恐らく基本的な、活動の根底にある部分は○○さんも言った通りの「歌」や「踊り」といった…音楽に纏わる部分だと思うっす。」

 

「ほう?」

 

「だって、可愛い女の子がただぼーっと突っ立ってても興味持てないじゃ無いっすか?」

 

 

 

いや、それはそれでシュールな絵面だと思うぞ。俺は多分見ちゃう。

 

 

 

「…んぅ、上手く伝えるのは難しいっすね。要するに、音楽に携わっている可愛い女の子の引き抜き交渉をした方が手っ取り早いんじゃないかって事っす。」

 

「……………ふむ。」

 

 

 

一理ある。喋りやファンの対応なんてのは後で付いてくるものだと思うし、演技やら営業ってのも直接は身につける必要のないものだ。となればまず最初に知名度を上げる為にどうしていくか…そう、舞台に立つことである。

舞台に立つならば発表する題材が必要で…成程成程、麻弥ちゃんの言葉は進行方向を確立するに十分だった。

 

 

 

「さすが麻弥ちゃん!地味で存在感無くてクソくだらねぇ独り言ばかり言ってるけどたまには良い事言う!!」

 

「…悪口っすね?悪口っすよね?」

 

「それは置いといて、音楽をやっている女の子に心当たりでもあるって事かい?」

 

「置いとくんすね…まぁいいっす。心当たりって言うか、ジブン行きつけのライブハウスがあるんっすよ。」

 

「らいぶはうす……??」

 

 

 

はて、人生でまだ一度も接近した事の無い単語だ。音楽を聴くことに関しては特に拘りも興味もなく、そこらで流れている流行りの歌が耳に入る程度。そんな音楽用の施設なぞ行く筈がない。

 

 

 

「今はガールズバンドが熱いっすからねぇ。きっとバンドマンな美少女も居るっすよ?」

 

「なるほどそこで引き抜きを…」

 

 

 

しかし、引き抜きという行為自体禁忌の筈だ。勿論運営陣にとってもそうだが、バンドを組んでいるとなればメンバーにも迷惑が掛かる。絆のような関係性だって崩れる危険性があるだろう。

若い世代の仲を引き裂くような真似はしたくないものだが…

 

 

 

「その辺は大丈夫っす。」

 

「と言うと?」

 

「まず、ライブハウスでステージに立つ子達はみんながみんなプロって訳じゃ無いっすからね。素人の子達なら言わば無所属、学生とかに絞れば後ろ盾が無いのが当たり前っす。」

 

「…そういうもんなのか。」

 

「っす。」

 

 

 

ふむふむ、つまりは引き抜き交渉自体が発生しないと。そうなれば確かにスカウト行為になる訳だな。

…実を言うと俺も一切経験がない仕事の為、業務上のレッドゾーンの線引きが曖昧なのだ。勉強になるのは有り難いが、麻弥ちゃんって何者なんだ…?

 

 

 

「…あとは、メンバーとの関係性についての危惧っすけど…まぁこれも問題ないっす。」

 

「今の子がドライすぎるってことか?」

 

「あ?話は最後まで聞くもんっすよ。」

 

「あはい。」

 

「つまりは、ウチってクソみたいに弱小…というか無名の事務所な訳っすよね?ブランドも無いし。」

 

「うん。」

 

 

「麻弥ぁ、辛辣ぅ!」

 

 

「社長は黙ってて欲しいっす。…つまり、そんなに多忙になるって事でもない訳っすよ。」

 

「まー、駆け出しってのはそんなもんだよなぁ。」

 

「だからまぁ、いきなりヘッドハンティングするわけじゃないっすから、今やっているバンドはそのままに活動できると思いますよ。」

 

「ほほう。それなら仲間も安心だなぁ。」

 

 

 

麻弥ちゃんの計画はもしかしたら完璧なのかもしれない。話を聴く中で僅かながら可能性が見えた気がした俺は、麻弥ちゃんの手を取って外回りの準備を始めた。

社長に定時までには帰社することを伝え、社用車の鍵を借りて外へ。閉じ行くドアの向こうから社長の声を聴きながら今日のプランを立てるのであった。

 

 

 

「なんだぁ!?ひとりぽっちじゃやる気でねぇやぁ!」

「いっちょデリ○ルでも呼んでパァっとやるかねぇ!!」

 

 

 

………やっぱ今日は直帰にしよう。

社長…いや、河底(かわぞこ)大吾(だいご)。建前とは言え事実上の上司であり、掴み処の無いドブのような屑男である。

 

 

 

**

 

 

 

日に日に暖かみを増す中途半端な季節の中を事務員のお姉さんと並んで歩く。時期的にもマスクを着けた人と多く擦れ違い、もう少し経てばマスクをつける理由が更に増えるんだろう等とどうでもいい事を考えていた。

 

 

 

「ところでこれから行くライブハウスなんすけど。」

 

「んー?……CiRCLE(サークル)だったっけ?」

 

「ええ。ここから行くと市電に乗らなきゃいけないんすよ。」

 

「ふむ。」

 

「……で、その停留所の近くに商店街がありまして…」

 

 

 

…?何の話だ?

 

 

 

「今ってその、お昼時を過ぎた辺りじゃ無いっすか?」

 

「そうだね。十三時…ちょい過ぎか。」

 

「その商店街、ブラウニーの美味しい喫茶店があるらしいんすよ。あ、別に食べたいとかじゃないんすけど、一服するのもありかなっていうそういう」

 

「はぁぁ……そこで昼めし食ってから行こか。ライブってのは時間大丈夫なの?」

 

「うっはー!マジっすか!?まじまじっすかぁ!!」

 

 

 

分かり易いんだか分かり難いんだか分からないなこの子。どうやら寄り道癖のあるらしい麻弥ちゃんを引き連れ、新たに経由地として決定した喫茶店へ向かう事に。絶賛歩きスマホでウンウン唸っていた麻弥ちゃん曰く今日のライブは十七時頃開始との事なので、安心して一息つけそうだ。

久々に缶やインスタントじゃない珈琲が飲めると思えば悪くない寄り道、か。特にカフェイン中毒の気は無いが、美味しい珈琲が体に染み入って行くあの感覚は好きなのだ。

妙にハイテンションになった麻弥ちゃん先導の下、大して迷う恐れも無い大きな道をのんびり歩けばそれらしき風景が見えてくる。市電の停留所と、その奥に見える個人経営店が立ち並ぶエリア。

 

 

 

「中々風情なモンだ。」

 

 

 

少し懐かしささえ漂う商店街の雰囲気に思わずそう零せば、隣からはきゅぅぅぅ…と間の抜けた音が。横目で見れば妙な姿勢のまま顔を真っ赤にして固まっている麻弥ちゃんが、同じように横目でこちらを見上げているところだった。

 

 

 

「…趣もへったくれも無いな…。」

 

「ち、ちちちちっ、ちがうんすよ、これはその……え、何か聞こえたっすか?」

 

 

 

麻弥ちゃん、それは無理があるぞよ。

余程この昼食が待ち遠しかったと見えて吹き出しそうになるのを堪え…無言で手を取って一番手近な喫茶店に入る。店の名前など確認しちゃいないが、近くに似たような建物は無かったし恐らくここだろう。

少し低めの室温で暖房が効いた店内には年配の客が二人、それぞれ別々のテーブルで思い思いの時を過ごしているようだ。奥のカウンターでは渋めのマスターが「お好きな席へ」と短く言った。

 

 

 

「麻弥ちゃん、カウンターでいいかい?」

 

「構わないっす!」

 

「それじゃあ……………ふぃー。」

 

 

 

誰も座っていないカウンターへ二人並んで座る。上着を脱いで、改めて店内を見回してみる。落ち着いた雰囲気で中々に良い…無駄な装飾が無いのもグッドだ。

麻弥ちゃんに渡したメニューが程なくして返って来る。随分と即決したと見えて、俺も急――ぐ必要は特になく、どうせコーヒーを一杯注文するだけだ。注文をと思い顔を上げるが、先程迄そこでミルに豆を入れていた筈のマスターの姿がない。

暫しキョロキョロと店内を見回し、他の店員を探すと―――

 

 

 

「あっ、ご注文お決まりでしょうかっ?」

 

 

 

―――ウェイトレス姿の天使と目が合ってしまった。

同時に胸の奥で俺の直感が叫んでいる。「この子だ、この子こそアイドルに相応しい。」

一見地味そうに見えるそのルックスだが、裏を返せば目立った負の要素も無いと言う事だ。しっかりと完成された骨格に端正に整った完璧なパーツの配置に長すぎない明るめの茶髪も良い。ちらりと見えた真っ白な歯は綺麗に並び、彼女が一度笑えば辺りが一瞬にして春の歓びに包まれるが如し。

ジャケットの胸ポケットから名刺を取り出すまで、一瞬たりともブレーキがかかることは無かった。

 

 

 

「ふぇっ!?」

 

「失礼、私RomaNプロダクション…通称ロマプロでプロデューサーをやっています。」

 

「め、名刺…?ご、ご丁寧に、ありがとうございます。」

 

「今日は新しく結成予定のアイドルユニットのメンバーを探していまして……単刀直入に言います。我が社でアイドルやりませんか?」

 

「アイ……えぇっ!?」

 

 

 

目をまん丸に…というのは彼女のような表情を言うのだろう。名刺と俺とを交互に見比べて、まるで金魚か何かの様に口を開閉。驚くのも無理はないか…何せいきなりこんな話が…

 

 

 

「でも…こんな地味な私に、どうして…」

 

「地味…ですかね?」

 

「えっ………派手、ですか?」

 

「あぁいや、そういうわけではなく…。」

 

 

 

反対の意味と言う訳じゃないが。その天然っぽい対応も実に良い。

 

 

 

「何というか私の…いや俺のプロデューサーとしての感性にクるものがあったんだ。」

 

「碌にスカウトなんかしたことない癖に…大した感性っすね。」

 

「うるせえやい。」

 

「…あ、え、これ、ドッキリとかじゃ……ないんですか??」

 

「勿論真剣な話だとも。もし必要なら親御さんにも…」

 

「は、はいっ!今、よんできますっ!」

 

 

 

実に初々しく可愛らしい子だった。ものの数分で現れたご両親の感触も悪くなく、話はトントン拍子に進んだ。

事務所が近場である事、まだまだ小さな事務所の為多忙になる事は無く学生生活や私生活に支障は来さない事、どうやら幼馴染達と組んでいるらしいバンドの活動にも影響を及ぼさない事、その他諸々を詰め、後日同意書を提出してもらう運びとなった。

恐ろしい程ラッキーな滑り出しだったが、俺は今まで生きてきた中であれ程純朴な美少女というものを見たことは無いかもしれない。あまりの嬉しさに、このお店、「羽沢珈琲店(はざわこーひーてん)」をPRすることも約束にいれてしまったほどだ。

…勿論態々PRするつもりは更々無いが、彼女に人気が出たならば自ずと結果は付いて来るであろう。

 

その後は浮かれ切っているマスターの好意に甘え、いくつかのオススメのメニューを楽しませてもらい、店を後にした。

そして市電から降り少し歩いた先での目的地、ライブハウス「CiRCLE」の中でスタッフさんに今日の出演バンドを教えてもらう今に至る。

 

 

 

「…成程、初めてさんなんですね!」

 

「えぇ。○○と言います。…そしてこっちはウチの事務員の」

 

「あれ!?麻弥ちゃん!?」

 

「フヘヘ、お久しぶりっす。」

 

「………。」

 

 

 

どうやら連れてきた紅一点とこちらのスタッフさんは知り合いらしい。何でも、ここの機材のメンテナンスや簡単な修理を麻弥ちゃんが格安で請け負っているとか。…いや本当何者なんだ麻弥ちゃん。

諸々の事情は麻弥ちゃんから話してもらった上で、スタッフさん――まりなさんというらしい――に期待できそうなバンド、今勢いがあるバンド、ビジュアル面で人気が高いバンド、と様々な観点での推薦をしてもらった。

貰ったパンフレットにもメモはびっしりさせてもらったし、ライブ中手元を確認できるようにとサイリウムも買った。…麻弥ちゃんに至っては、ただ楽しむ気満々な気はするけど。

 

 

 

「それじゃあ、後十分くらいで始まりますので、入場しちゃってください!」

 

「何だか色々とすみません…お忙しいのに。」

 

「いえいえ、ウチの常連の子達からアイドルが出るかもしれないなんて…協力するのも当然ってもんですよ~!」

 

「体のいい売名行為っすねぇ。」

 

「ま、麻弥ちゃんっ!」

 

 

 

そうして未知の部屋へ、少し緊張しながらも踏み入れてみれば……おぉ、これは凄い!!

薄暗いホールの中、まさに鮨詰めの状態で人が入っている。表情までは見えないが、学生から大人まで、男女問わずにかなりの人数が開演を今か今かと待ち詫びているようだ。

ざわつきからも十分すぎる熱気が漂っているのだ、これはかなり期待でき

 

 

ギュウィイイイイイイイイイイイ――――ン…

 

 

文字に起こせばこんな音だろうか。鋭いギターの音が轟き、観衆から歓声が上がる。…ついに始まるのか…!!

 

 

 

**

 

 

 

二バンド程終わった頃だろうか。想像していた以上に熱く、心を揺さぶられるような感覚に、不覚にも釘付けになっていたのだが。

ちょいちょいと袖を引っ張られる感覚に右側を見れば、サイリウムの仄かな明かりでパンフレットを指し示す麻弥ちゃんの姿があった。…見ろと言う事らしい。

 

 

 

「次のバンド?」

 

「そっす。…Poppin'Party(ポッピンパーティ)。女子高校生の友達同士で結成したバンドですが、かなり熱いんす。可愛らしい印象の子も多い、伸び率も中々なバンドっすよ。」

 

「ほほう。…特に見どころの子とかはいる?」

 

「うむむ……みんなそれぞれ方向性が違いますからねぇ。…しいて言うならドラムの…あっ、始まるっす!」

 

「おぉ!?」

 

 

 

何やら摩訶不思議な掛け声の後に暗転、明転したときには五人の少女が板付いていた。

真ん中、スタンドマイクを前に真っ赤なギターを抱える少女が一人ずつメンバー紹介をして行き、それに呼応する様に沸き立つ会場。先程の二組より声援が大きいように感じる。

 

 

 

「Poppin'Party、と……おや、あの子はなかなか…」

 

「どの子っすか?」

 

「あのキーボードの…」

 

「………あぁ。」

 

 

 

何とも苦い顔をする麻弥ちゃん。何かまずい事を言っただろうかと振り返ってみるも、特におかしな点は無いように感じるが…

 

 

 

「男ってみんなデカいのが好きなんすかね。」

 

「でか…?………ああいや!そういうことじゃない!確かにスタイルは重要かもしれんが、顔も整ってるしそういう」

 

「ほら、曲始まるんで静かにしてください。」

 

「くそぅ……。」

 

 

 

確かにあの子、衣装が少々露出過度なことも相まってか、とても豊かに見えた気がする。そういう需要も考えはしたが、出来ればそういった飛び道具には最初から頼りたくない。

邪念を追い出し、音楽を聴くことに専念する。

…こうして、事前情報を基に麻弥ちゃんと会話、実際の第一印象をメモして引っ掛かることがあれば個人名を控え、一組終わる毎に麻弥ちゃんと意見交換…。決して普通のライブの楽しみ方では無かったが、純粋に心が躍った。そんな作業をどれ程繰り返したか…気付けば最後のバンド。

 

 

 

「何だ、もう最後か。」

 

「○○さん割とノリノリっすね。」

 

「うん、俺こういうの好きみたい。」

 

「……なら、次はかなり痺れると思うっすよ。」

 

「痺れる??」

 

「恐らく今最もアツいバンド……Roselia(ロゼリア)の出番っすから。」

 

「ロゼ…」

 

 

 

手元のパンフレットに視線を落とす暇もなく落ちる証明。ステージ全体がぼうと青く照らされる中、静かに響くピアノの音色…。ピアノ、なるほどキーボード主体なのか…?

そこに静かながらも力強く重ねられるボーカル。……ふむ、筋の通ったいい声だ。恐らくイントロに当たる導入の部分なんだろうが、ここからどんな世界が…

 

 

 

『潰えぬ夢へ…燃え上がれッ!!』

 

「ッ!?」

 

 

 

それは歌詞として存在して居る文言なのか、はたまたボーカリストの温まり切った魂から生み出された言葉なのか。マイクが無くても届きそうなそのワードに心臓を握り潰されたような衝撃が走った。ハイハットが小気味よく弾けた音を先導として待機していたメンバーが一斉にその音を轟かせる。

その凄まじいまでのテクニックと音圧の応酬の中、俺は改めて照らし出された一人の少女に釘付けだったが。

 

 

 

「…………見つけた。」

 

「うぉぉぉおおおお!!!熱いっすぅううう!!!」

 

「見つけたぞ…早速行動だ…!!!」

 

 

 

**

 

 

 

街はすっかり夜の帳に包まれている。興奮冷めやらぬ面持ちの麻弥ちゃんと、別の意味で興奮が収まらない俺。まりなさんに許可を貰って、全てのバンドがCiRCLEを後にするのを待っていた。

理由は勿論、先のライブ中に見つけた逸材をスカウトする為だ。何でもまりなさん曰く、Roseliaは余程のことが無い限り一番最後まで反省会で残るらしく、話をするにしても兎に角待つしかないとの事だった。

麻弥ちゃんとまりなさんのハイテンションなトークをぼんやり眺めながら、あのライブ中に見た少女の事を思い出していた。

熱く激しい曲の中で一人氷のような冷たさも併せ持ったあの銀髪の少女。見たところ楽器は担当して居ないようだったが、力強い歌声と圧巻のステージパフォーマンスが今も頭から離れない。…それにあの綺麗な長い銀髪と明け方の入江の様に澄んだルックス…見過ごすにはあまりに惜しい人材だ…!

例えこの頭を床に擦り付けてでも…!!

 

 

 

「失礼するわ。…まりなさん、控室はいつも通り片づけたわ。それと」

 

 

 

何と。件の少女が従業員用の扉から入ってきたではないか。衣装を脱ぎ捨て、何とも力の抜けるような猫のデフォルメキャラが書き殴られているTシャツを着てはいるが、それはそれでまたギャップが堪らない。麻弥ちゃんも今にも飛び掛かりそうな目で見つめているし、この子は何処まで俺達を魅了したら気が済むんだ…!?

まりなさんからのアイコンタクトを受け取るよりも早く、シャツの襟を正し名刺を準備して彼女の前へ。正面でこうしてみると想像以上に小さな体を持っていることが分かったが…勢いそのままに攻勢に出る。

 

 

 

「…?ええと、どちらさ」

 

「失礼、先程の演奏見させてもらったよ!あっ、俺はこういう……者なんだけど、実は今アイドルをスカウトして回ってて…」

 

「えぅ、あぅ……あ、あいど…」

 

 

 

半ば押し付けるようにして名刺を渡す。興奮のあまり敬語がどこかへ飛んで行ってしまったようだけれど、今を逃せばもう出逢う事の無い逸材を目の前にして、俺のベシャリスキルは最高のポテンシャルで発揮されていた。

 

 

 

「そう、アイドル!君なら歌も情熱的だし勿論技術的にも問題ない。そして何よりこの守ってあげたくなるような可愛さは何だい!?ステージの上とはまるで別人じゃないか!おっとごめんごめん捲し立て過ぎちゃったかな?ははははっ!震えちゃってる姿も可愛……震え?」

 

 

 

気付けば目の前の小さな彼女はその小さい体をぷるぷる震わせながら両目に一杯の涙を溜めていた。…あぁ、成程熱すぎるのも問題だと頭の何処かで冷静な俺が分析できたのも僅かの間。

直後名刺を握りしめて泣きながら引っ込んでしまった彼女の背中を呆然と見送る事しかできなかった。

 

 

 

「あぁ~~~ん!!!リサぁ~~!!」

 

「うわぁ!?友希那(ゆきな)ぁ!?」

 

(みなと)さ…っ、ボロ泣きじゃないですか…!!」

 

 

「…あーあー…何やってんすか○○さん…。」

 

「いや、まさか泣くとは…」

 

「レアな光景だったっすね。」

 

「友希那ちゃん、案外泣き虫だからねぇ…最近はあんまり泣いたとこ見てなかったけど…。」

 

 

 

あの子はどうやら泣き虫らしい。ギャップ要素がまた増えたな。

 

 

 

「ちょ…一体誰が湊さんをこんな…っ!」

 

「さ、紗夜(さよ)…落ち着いて!ギターは武器じゃないからさ!」

 

「……あれ?友希那さん……何を持って………」

 

「うぁぁあああ!!!な"ん"がもらっだぁあああ!!」

 

 

「大泣きじゃん…」

 

「やっちゃいましたね。」

 

「やっちゃったのかぁ…。」

 

 

 

どうしようどうしようどうしよう。泣きたいのはこっちの方だ。

せっかく逸材を見つけたというのに、交渉の前段階で警戒心を最高まで高めてどうする。これを逃せば、新生アイドルユニット誕生の夢もまた遠ざかって…!

必死に涙を堪えていると、先程彼女が逃げ帰って行った通用口からひょこっと女性が顔を覗かせた。少し大人っぽい…というより艶めかしい印象の彼女は…あぁ!確か真っ赤なベースを弾いてた…

 

 

 

「…こんちはー。○○さんって…そこの男の人?」

 

「う、うんそうだよ!リサちゃん!」

 

「んー…ねえねえまりなさん、ここ閉めるの、もうちょっと後になっても大丈夫??」

 

「ぜ、全然いいよぉ!」

 

「やったっ。…じゃあそこの○○さん?こっち来てもらっていい?お話があんだけど。」

 

「えっ、お、俺…?」

 

「○○さん、南無っす。」

 

 

 

麻弥ちゃんに物理的に強く押され、手招きをしている「リサ」さんとやらの元へ。まりなさんはそそくさと何処かへ逃げて行ってしまった。

部屋の境界線を越えると同時に勢い良く閉められるドア、そして壁を背に胸倉を掴み上げられる。無論、リサさんにだ。

 

 

 

「ちょ、ちょちょちょ…苦しっ」

 

「アンタさぁ……ウチの友希那泣かしておいて、何ヘラヘラしてるわけー?」

 

 

 

ヘラヘラとは。恐らく恐怖のあまり引き攣っているであろうこの顔を見てその形容ができる感性については小一時間問い詰めたい気分ではあるが、まずはこの誤解を解かなければ。

 

 

 

「ご、誤解なんだ、まさか自己紹介しただけで泣くとは思わなくて…」

 

「あぁ!?そりゃいきなり知らないオニーサンに近付かれて迫られて話しかけられたら怖いでしょーがぁ!そんなこともわかんないのかなァ!?ウチの友希那は繊細なんだぞ壊れちまったらどうすんだゴラァ!?」

 

 

 

怒りはまるで加速度の様に。最初こそ怒ってもあまり怖くないパターンを想像していたのだが、言葉を紡ぐ毎にその勢いは増し終いには猛火の如く怒ってらっしゃった。

まるで自分という感情の炎に自ら薪をくべている様な、異様な怒り方。

…だがこんなことで負けていられない。

 

 

 

「……それはすまなかった。非礼は詫びよう。…だが、こちらもそう易々と諦める訳にはいかなくてね?」

 

「なに、オニーサンそっち系の趣味の人なん?それならウチのメンバーに適任が居るからそっちにしときな?マジで友希那は辞めとけっていうか」

 

「違う違う!…ええと、リサさんといったね。俺の話を聞いて、不審者だとか変質者だとか判断したなら、刺すなり裂くなり突き出すなり好きにしていいさ!」

 

「………ほー?」

 

「だけどな!こっちも仕事にプライド懸けてやってんだぁ!あの子の、友希那ちゃんの輝く才能を見て声かけてんだァ!!」

 

 

 

プライド云々は、嘘だ。

 

 

 

「…才能?」

 

「あぁ!あれだけの観衆を前にしてのあのパフォーマンス、落ち着きと同居する冷徹さ、それでいて歌声に一本通っている真っ直ぐな芯…!そこにあのルックスが合わさればどれ程の破壊力を有するか!近くで見ている君なら分かるだろう!?俺はその全てを見て、アイドルになって欲しいとスカウトに来たんだッ!!」

 

「………友希那が…アイドル……?」

 

 

 

襟を掴んでいた手が離れた。逃げるには絶好のチャンスだが、あの子を口説き落とす為にこのリサという少女は避けられない壁なのだと直感した俺は真っ向から対峙する道を選んだ。

信じられないものを見たといった様子で暫くブツブツと何かを呟いていたが…やがて勢いよく顔を上げたかと思えば両手を掴まれる。

 

 

 

「了承ッ!!」

 

「あえっ!?」

 

「ちょい待っててねっ!!」

 

 

 

去るときは風の如し。そう言い残した彼女が控室の中に飛び込んで行く。

 

 

 

「リサ姉!ふしんしゃやっつけた??」

 

「すごいの!不審者じゃなかったの!」

 

「…一体どういうことですか?詳しい説明を求めます。」

 

「そういうのは後々!ほら、友希那行こっ!」

 

「えっ」

 

「えじゃないよ?アタシも付いて行くから、ほーらっ!」

 

「い、嫌よ…離して……!」

 

「いーからいーからー!抱えてくね~。」

 

「や、やだ、やめ……ぁぁあああああん!!!」

 

 

 

乱痴気騒ぎの控室から、軽快な足音と泣き声が近づいて来る。言われた通りに待ってみれば、何とも話のしづらい状況を作り出してくれたものである。

間違いない、このバンド一番のトラブルメーカーはこのリサさんだ。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ……っはい!これ、友希那!」

 

「そんな秘密道具みたいに突き出されても…ってか腕力凄いね?」

 

 

 

小柄とは言え一人の女の子を担ぎ上げて走ってきたのだ。担がれる方もその恐怖たるや堪ったものではないだろう。

最早何かを悟り諦めたような顔の友希那ちゃんが突き出される形になるのだが、目を合わせてもスイッと逸らされてしまう。印象は最悪だ。

 

 

 

「ええと……さっきはごめんね。でも、酷いことしようとか、怖い人だとか、そう言う訳じゃないんだよ。」

 

「………ほ、本当に?いじめない?」

 

「虐めない虐めない。…まず…あぁ、もう名刺ぐちゃぐちゃだね。こっちが新しい名刺…俺の名前だよ。」

 

 

 

握りしめられた挙句涙が染み込んでぐっちゃぐちゃになった"かつて名刺だったモノ"を彼女の右手から回収し、新しく取り出した名刺を差し出す。

少しそのままで待ってみたところ、今度は自分から受け取って興味深そうに見つめてくれた。

 

 

 

「○○…っていうの?」

 

「うん。俺は○○。今は芸能事務所でプロデューサーをやっていてね。…新しくユニットを組むためにアイドルをスカウトして回ってたんだ。」

 

「それでねっ、友希那もアイドルとしてスカウトしたいんだって!アタシ、アイドルとしてステージに立つ友希那見てみたいなぁ!」

 

 

 

漸く地面に降ろしてもらえた友希那ちゃんは暫し名刺を見詰め、無駄にハイテンションなリサさんの言葉を聞き流す。リサさんが未だにはあはあしているのは、絶対さっきの騒動とは無関係だと思う。

 

 

 

「……やだ。」

 

 

 

名刺を見詰めたままつまらなそうに言う。そりゃそうだ、いきなりあんな恐ろしい思いをしたんだから。

 

 

 

「どうしてさ!可愛い格好して、歌って、踊れるんだよ!?」

 

「…私は別に、一人で可愛くなりたいわけじゃないし、その……ここに入ったら、アイドルになっちゃったら、リサたちともお別れしなきゃなんでしょ?」

 

 

 

あぁ。俺の危惧していた事がここで。

というか無茶苦茶ピュアで良い子じゃないか友希那ちゃん。正直、益々欲しくなってきたよ。説得の材料は勿論揃っているのだが、この可愛い生き物、なんだかいじめたくなるような…。

デビューした暁には沢山のファンが同じ気持ちになることだろう。もう、虜だ。

 

 

 

「友希那ぁ…。」

 

「大丈夫よリサ…私はずっと貴方たちと一緒よ。」

 

「えっとだね、一つ補足をするとだ…」

 

 

 

いい雰囲気のところ申し訳ないがこのまま方っておくと見入ってしまいそうになる。というか話の途中でドラマを挟まないで欲しい。

ここで、例のウチはまだ無名の事務所だから忙しくないし云々を説明、最初こそ怪訝そうに聞いていた友希那ちゃんだったが、話が核心に近づくに従って笑顔になるリサさんに吊られるように乗り気になっていったようだ。話が終わる頃にはすっかり食いついてしまって、鼻息荒く目を輝かせた友希那ちゃんから質問攻めを受ける羽目になっていた。

 

 

 

「可愛いのってどれくらい可愛いのかしら?」

 

「そりゃもう凄まじいほどにだよ。世界中の人を虜にできるようなね。」

 

「わた…私にも、できるのかしら。」

 

「出来ると思ったからスカウトしに来たんだ。…俺はもう、君のことが頭から離れなくて。」

 

「ッ。…あなたはその、アイドルが好きなの?」

 

「そりゃこういう仕事してるくらいだからね。」

 

「そう。…私はアイドルになったら、何をしたらいいの?」

 

「まずは歌、かな。勿論十分すぎるほど技術はあるんだろうけど、何せグループでの活動だから合わせとか諸々…」

 

「グループ?全部で何人なの?」

 

「君を入れて五人の予定だ。」

 

「……ふーん。私を口説くにしては気が多すぎるんじゃないの?」

 

「??…ん、まあ仲良くね。」

 

 

 

泣き止み冷静になったためか、さっきのステージで見た彼女の色が出始めている。少しツンツンしたこの様子も、さっきの泣き顔を見たあとだとクール()()()()()ように見えて可愛らしい。グループに一人居て、最高に映える存在になってくれるんじゃなかろうか。

とまぁこんな感じで交渉を続け、中々の好感触に最終確認へと移ることに。リサさん、全然息整わないな。

 

 

 

「それでどうだろう。俺にプロデュース、させてくれないだろうか。」

 

「…………リサはどう思」

 

「やろう!友希那!!」

 

「……り、リサがそこまで推すなら仕方ないわね。」

 

「…ということは?」

 

「やるからには、頂点を目指すわよ。」

 

「!!!!」

 

 

 

やった。やりました。

リサさんと無言のハグを交わし、これからの希望に思いを馳せた。…この人、友希那ちゃん好きすぎるだろ。

 

詳しいことはまた後日…ということで、二人を楽屋へ戻した俺はCiRCLEの受付まで悠々と戻るのであった。

 

 

 

**

 

 

 

「おぉ、生きて帰ってきたっす。」

 

「勝手に殺すんじゃない。」

 

「だ、大丈夫だったんですか??」

 

 

 

酷く心配されていたようだが無事に帰還した俺を見て一安心といった様子の二人。このままおしゃべりと洒落込んでもいいのだが時間も時間、おまけにまりなさんにしてみれば閉店時間を大きく超えて残業している状態だし…ということで、麻弥ちゃんと二人、協力に対する感謝を伝えた上で家路に就くことにした。

 

 

 

「…にしても、これで四人かぁ…!」

 

 

 

伸びが背筋に気持ちいい。ひと仕事終えたあとの達成感は言葉で言い表せないがクセになる。

この感覚をマゾヒストと取るか仕事人と取るかはお任せしよう。

 

 

 

「すっごい偶然が重なったっすねぇ。」

 

「なー。」

 

「…あと一人、すぐに見つかるといいんすけど。」

 

「………あぁ、それなんだけど…さ。」

 

「???」

 

 

 

実は一人だけ、心当たりがあったりする。と言ってもずっと前からの知り合いなどではなく、さっき…丁度ライブ中に気づいたことだったが。

 

 

 

「麻弥ちゃん、どうよ?」

 

「何がっすか?」

 

「アイドル。」

 

「……………うぇえええ!?じ、じじ、ジブンがっすかぁ!?」

 

「うん。」

 

「ムリムリムリムリムリッ!!絶対無理っす!!!ジブンッ、そんな器じゃないっすからぁ!」

 

 

 

何も面倒臭がったりヤケを起こしているわけじゃない。これだって立派なスカウト行為で、交渉なのだ。

ライブの最中、熱くなっていたのは俺たちだけじゃなくあの会場全体…つまり室温の上昇も同じことであった。暑さから皆汗を流し一様に物販のタオルで拭いていた。

麻弥ちゃんも例外ではなく、何度も額から零れ落ちる汗を拭いていたのを俺は隣で見ていたのだ。勿論、メガネっ子である彼女は汗を拭うときにそのメガネを外す。その下の素顔は―――

 

 

 

「いやいやっ!そんな漫画みたいなことないっすから!!メガネの下もジブンはジブンっす!」

 

「ええい、まどろっこしい!!」

 

「あっ!?」

 

 

 

わたわたと否定の一手を譲る気のない麻弥ちゃんから隙を衝いてメガネを奪い去る。そしてすかさずスマホで激写!

……………なんだよ、こんな近くに居たじゃん。美少女。

 

 

 

「ちょっ、何するんすかぁ!」

 

「あぁごめん、ほら返すよメガネ。」

 

「もぉー……って、これ…ジブンの顔っすか?」

 

「あぁ、今日のふたりに負けず劣らず可愛いと思うけど?」

 

「うぅぅぅう…マジマジ見られると恥ずかしいっす…!」

 

 

 

恥ずかしがる様子が面白くてつい見つめてしまう。うん、キャラも悪くないし意外と器用で有能な麻弥ちゃんならいろんな場所で重宝されるポジションに就けるだろう。

改めて名刺を差し出してみる。

 

 

 

「…へ?」

 

「麻弥ちゃん、俺にさせてよ。プロデュース。」

 

「……………うぅ、そんな評価するの、世界で○○さんだけだと思うっすけど…。」

 

「嫌?」

 

「…褒められるのは、嫌じゃ…ないっす。」

 

「よし決定!!これで五人!!やったぜぇっ!!」

 

 

 

多少強引すぎたかもしれない。が、それくらいでいいのだ。

俺たちがやろうとしていることは普通じゃない。それにトップが普通じゃないあいつなんだ。必死の思いで集めた五人がこれからどんなサクセスストーリーを駆け抜けていくのかは、これからの彼女らの頑張りと俺の手腕に懸かっているのだ。

あのゴミみたいな社長に言われたこととは言え、責任を持ってこの子達をアイドル界の頂点まで導く…それが俺の使命なんだ。

 

 

 

「なぁ、この写真壁紙にしても」

 

「消してっすぅ!!!」

 

 

 

寄せ集めアイドル道、始まります。

 

 

 




あいどるぅ




<今回の設定>

○○:RomaNプロダクション期待の新人プロデューサー。
   期待…と言っても社長の河底が適当な後輩に声をかけただけなのだが。
   意外にも能力は高く、積極性と情熱が素晴らしい。
   可愛いものに弱い。

麻弥:RomaNプロダクションの事務員。正社員として在籍してはいるが、中卒のため
   まだ十六歳。
   独特な語尾とメガネが特徴的な地味っ子だが、機械に音楽にと幅広い分野で
   能力を発揮できそう。
   メガネを取るとすげぇ可愛い。らしい。

社長:河底大吾、思いつきでRomaNプロダクションを立ち上げたどうしようもない
   ダメ人間。
   好きなものは金と女と酒。好きな言葉は酒池肉林。
   好きな食べ物はミキプルーン。

金髪メンバー:ママ

天才系メンバー:妹の方

喫茶店の天使:つぐってるぅ

友希那:原作と少し性格が違う。
    ステージに立っているときや何かに集中して頑張っているときはクール系。
    気を抜くと幼児退行する?というか素の子供っぽい部分が前面に出るらしい。

リサ:友希那の専属マネージャーとして臨時契約。
   社長をノせるのが上手かったため、事実上好き放題できる権利を手に入れたも
   同然なのだ。
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