BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/03/13 不甲斐無イ

 

 

 

壁越しに刻まれるビートを聴きながら、俺は自分が担当するアイドルの悩み相談を受けている。…が、その内容をいくら聞いてもところで真剣な悩みに聴こえないのは彼女が独特な雰囲気を醸し出し、一見ヘラヘラと能天気そうに見える為だろうか。

――氷川(ひかわ)日菜(ひな)。俺がスカウトした三人とは違い、メンバーの中で唯一オーディションを勝ち抜いて採用された逸材。何をやらせても初見で熟してしまう上、数時間あればプロ並みの技能を発揮するまさに天才型だ。

おまけに容姿も整っていて性格も悪くない…と、まさに非の打ちどころのないアイドルである。

 

 

 

「プロデューサーさー、真面目に聞いてないでしょー?」

 

「…こらこら、いちいち顔が近いんだよ君は…。」

 

「"君"って呼ぶの嫌だなって言ったでしょ!…あたし、日菜って言うんだから、ちゃんと名前で呼んでくれないとー!」

 

 

 

否。ファンや観客として"観る"分には完璧なアイドル像である。が、ビジネスパートナーとしては最悪だ。嘗めている…と言う訳ではなさそうだが、彼女はどうも上下関係や他人との上手な距離が掴めていない。勿論、悪気がある訳では無いのは分かっているのだが…一体どんな環境で育ってきたらこうなるんだ。

 

 

 

「それじゃあ日菜。」

 

「はいはーい!あたし!日菜だよ!」

 

「しってます。…もう一度訊くが、何故レッスンに参加したくないんだ?」

 

 

 

俺が凭れている壁の向こう側ではリズムレッスンが行われており、先日スカウトした二人と業務提携先からユニットという形で送り込まれた一人の女優が汗を流しつつ体を馴染ませている。

というのにこの目の前の少女は何だ。レッスン室の手前で呼び止められたかと思えば訳の分からん言い訳でサボろうとする。…あぁ、因みに麻弥ちゃんは事務仕事に追われデスクでひぃひぃ言っていたっけ。彼女の場合本職は事務員ということになるので、どうしてもこの辺りで差が出来てしまいそうだ。何とか調整できたらいいが。

 

 

 

「だーかーらー!簡単すぎるのっ!」

 

「そりゃあ…まだ基礎の段階だったろう?素人が三人も居るんだし、そこは仕方がないじゃないか。でもほら、助け合ったり教え合ったりして友情を」

 

「えぇー!?マジで言ってんの??…差が目に見える方が、みんなのやる気にも影響でちゃうでしょー?」

 

「いや、それはもう屁理屈だろ。」

 

 

 

滅多にレッスンに参加しない奴が「あなた達を気遣って~」などとほざいては、グループのガンとして扱われるのは目に見えている。友情だの絆だのが馬鹿馬鹿しく見える程、明らかな挑発行為になってしまう。

実際に彼女の…日菜の練習風景や実力を見た訳では無いので断言は出来ないが、まさか本当に面倒臭がっているだけじゃ…いや、では何故このオーディションに参加した?勝ち抜いて、その果てでアイドルとしてデビューすることを何故選んだ?彼女の言動が真とするならば、謎は深まる一方だ。

 

 

 

「うぅ…………だって、つまんないんだもん。」

 

「…ん。」

 

「もっと!…面白いものに出逢えると思ったの!」

 

 

 

一度は引き下がった日菜だったが、またグイと身を乗り出してくる。どうやら気分や声のテンションと連動する様に、他人との距離を詰めていくらしい。

また鼻先同士が触れ合いそうな距離まで近づいた顔は、成程物足りなさと不満を足して割った様な苛ついた表情をしていた。ドウドウとその肩を押さえて戻そうとするが頑としてひるみはしない。

 

 

 

「だから、距離が」

 

「アイドルになったら、きっと新しい世界が見られるって……あやちゃんが…」

 

「なに?」

 

「もういい!分かってくれないプロデューサー何て大っ嫌い!!」

 

「あっおい!!」

 

 

 

言うだけ言って怒り肩のままにフロアを飛び出していく背中に、反応がワンテンポ遅れてしまった俺は呆然と見送ることしかできなかった。

大嫌い、か。あの至近距離で見た表情は、何もただの物足りなさから来る不満のソレでは無かったように思える。他に何か気に掛けて欲しいことがあったかのような…

 

 

 

「とは言え今は基礎を固める為の期間だしな…」

 

 

 

去って言った日菜も心配だったが、本日の本当の目的…実際のレッスンに一人一人が付いて行けているのかも視察しなければならない。大所帯のアイドルグループなら兎も角、五人くらい個別でマネージメントもしていかなければ…腕の見せ所ってやつだ。

俺は、駆けて行った廊下の先でこちらの様子を窺う彼女に気付くことも無く、重々しいレッスン室の扉を開くのだった。

 

 

 

**

 

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト」

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファッ!?あぁ!」

 

 

 

やってるやってる。

騒がしい中に踏み込んでみれば、丁度音楽に合わせてステップを踏む練習の様だった。左手はマイクを持つことを想定してか、それぞれボールペンや畳んだハンカチなどを握りしめて顔の前へ。トレーナーのカウントに合わせて各々が声を張り上げ、正面の鏡から目を離さずに体を動かす。…成程、到底真似出来ることじゃないな。

運動神経が残念過ぎる俺にとっては縁の無さすぎるその光景に、極力邪魔をしてしまわないよう隅ですっと見守っていたのだが…鏡越しに目が合った茶髪の少女はバランスを崩し尻餅をついてしまったようだ。恥ずかしそうに俯きおしりを摩る姿も堪らない。

 

 

 

「はーい一旦止めまーす。…大丈夫?つぐちゃん。」

 

「いたたたた……ご、ごめんなさい…」

 

 

 

つぐちゃんと呼ばれた少女はトレーナーに手を取られ何とか立ち上がりながらも鏡越しのこちらが気になるようで。真っ赤な顔と潤んだ瞳を向けられた俺も少々居心地が悪くなる。

入ってきてただ観察するのも何だし、ここは一つ挨拶でもしておこうか。

 

 

 

「…結構な転び方だったが…尻は大丈夫か?つぐみ。」

 

「は、はひゃっい。い、意外と頑丈なお尻なんです!」

 

 

 

そうは見えないが。つぐみ――以前羽沢珈琲店でスカウトした看板娘――の尻のお陰もあってか、違和感なく輪に入ることができた。

そんなことよりも、立ち上がったつぐみを心配する様に寄り添うのはトレーナーだけで、他の二人のメンバーはそれぞれで離れて立っているのが目に付く。透き通るような金髪を高い位置で一つにまとめ、涼しい顔で汗を拭いている白鷺(しらさぎ)千聖(ちさと)は全く興味も無いといった様子だし、もう一人のスカウト生も付き添いの専属マネージャーに滅茶苦茶に甘やかされている。

確か(みなと)友希那(ゆきな)、だったか。名前は憶えても苗字が最初は覚えられなかった彼女に付き添うのは、自称(阿呆社長も入れるなら他称も)友希那の専属マネージャーである今井(いまい)リサさんだ。スカウトの際に俺を震え上がらせた張本人だが、今は何とも当たり前といった様子で友希那にべったりしている。正直邪魔な時は目一杯邪魔になっているのだが、彼女が居ないと友希那が機能しない…と単純な様で複雑な関係なのである。

 

 

 

「…前途多難だな。」

 

「何か言いました?」

 

「……いや。…ところでどうだい、レッスンの方は。」

 

「…あー……あ、あはは…私、あんまり運動神経良くないみたいで…。」

 

「キツイ?」

 

「…まぁ、ちょっとだけ。」

 

 

 

ふむ。日菜の件もあるので力量の差は知っておかなければ…とは思っていたが、どうやら純粋な身体能力にはバラツキがありそうだ。確かに、外見だけで選んでることもあり仕方のない事なのだが…。

トレーナー曰くグループ内での会話や交流はほぼ無し。最初こそ付いて行けていたつぐみも徐々に調子を崩し始め…と言ったところらしい。…このグループ、早くも破綻しているのでは?

白鷺さんに至っては芸能活動も長く、単純に一つ分野が増えるだけと考えれば問題も無いのだろうが、残りのスカウト組と麻弥ちゃんをどうしたものか。あ、因みに麻弥ちゃんはほぼ参加できていないにも関わらず中の上くらいの出来を保っているそうな。ハイスペックだな。

 

 

 

「そっか。でも無理はしちゃいけないぞ。」

 

「え。」

 

「…そのおしりも、いつまでも頑丈とは言っていられないだろうし…」

 

「あの、すみませんプロデューサー。」

 

「…ん?」

 

 

 

真面目で頑張り屋さんらしいつぐみに無理をさせ過ぎないよう、どう釘を刺したものかと言葉を探していると、今度は背後から矢鱈に綺麗な声で呼ばれる。

振り向けば完璧な笑顔の白鷺さん。…ある程度見慣れたからこそ言える事ではあるが、この表情…怖い。業界を生き抜く上で必要と捉えるべきか、要するに磨き上げられた闇を封じ込めるための仮面な訳だ。純粋な善意と勘違いしてしまいそうになる感覚も、それを呼び起こさせる彼女自身も…改めて、芸能界という魔界の闇を感じるのだ。

 

 

 

「事前にも申し出てはいたのですが、この後取材が入っていまして…」

 

「あ、ああ…ええと…」

 

「失礼…しますね?」

 

「そか…お疲れ様。」

 

「お疲れ様です。」

 

 

 

なるほど売れっ子は違うなぁ。かつて天才子役として世間を沸かせた彼女も、高校へ入学してからというものその魅力により磨きがかかり、今ではドラマに映画、舞台にコマーシャル…と、その活動の幅を広げに広げ、毎日多忙で学生生活が儘ならない程だとも聞いている。…益々雲行きが怪しくなるウチのグループだが、そもそもこの提携の話を持ってきた社長(バカ)も何を考えているんだか。

ともあれ、さっさと身支度を整えそそくさと部屋を出ようとする白鷺さん。…が、扉をロックしているノブに手を掛けたところで、振り返ることも無くこう言った。

 

 

 

「…ああそうそう、アイドルを目指すことに異論を唱える気はありませんが…今のままではプロデューサーの目も腕も信用に足りません。」

 

 

 

決して静かな部屋では無かったが。その言葉は痛く胸に届いた気がした。

二人に投げた言葉か、俺に訴えた言葉か。結局のところ、俺のスカウト眼はその程度かと吐き捨てられたようなものだ。

 

 

 

「…あぁ!?ちょっとアンタ、それどーゆー意味!?」

 

 

 

その背中に噛み付いたのは今井さん。大方、自分の溺愛する友希那を貶められたとでも感じたのだろうが…できれば友希那本人が言い返すくらいの意欲は欲しかったが…今井さんに言われるがままにレッスンに取り組む姿を見る以上、無理な注文だとも言えよう。

半ばヒステリックに叫ばれたその言葉にゆっくりと振り返った白鷺さんは事も無げに言う。

 

 

 

「どういうも何も、言葉通りですが?現状を見る限り、本気でステージに立とうと…いえ、本気でグループ活動をしようとしているようには見えないと言っているんです。」

 

「ウチの友希那は何時だって本気ですけど!?」

 

「…ふふ、それは微笑ましい事でなによりです。」

 

「…ムカつく。」

 

「そもそも、全員揃った試しがまだないでしょう?始動して数日のプロジェクトじゃないんですよ?一度も全員の顔合わせが出来ていないって言うのはどういう了見なんです?」

 

「はぁ?それはアンタだって同じでしょーが!」

 

「…はい?」

 

「女優だか何だか知らないけどさ、アンタだって別件の仕事って早上がりしたり休んだりするでしょ?」

 

「ふっ……ええ、まあ。私にとっては飽く迄仕事の一件…求められた内容は熟している筈ですが。貴女から見て、私の何処かに不備がありますか?実力や技術面で、お宅の友希那さんに劣っている部分がありましたか?」

 

「ぐ………」

 

「そういうことですので。…では、ごきげんよう。」

 

 

 

完敗。パタリと閉じられた扉と訪れた静寂の中、ガックリと肩を落とす今井さん。白鷺さんが吐き捨てて言ったことは間違っちゃいない。正論も正論、核心以外の何物でもない言葉だった。

だが、それだけに辛辣で、悪意とも取れる言い方に見えた。少なくともこれから共に活動していく身内に言っていいものじゃない。

隣のトレーナーも不安げに指を噛んでいるし、つぐみもぺたりと座り込みすすり泣いている。この状況は間違いなく俺の力不足が引き起こした訳で、何よりも今は動き出さなければいけないということで。

 

 

 

「……問題だらけだな。」

 

「ええ。…あの、○○さん。」

 

 

 

誰にも向けず放った言葉に頷くのはトレーナーの女性。俺自身あまりレッスン自体には関与していなかったし、実際ここまでの期間を見守ってきたのは彼女だ。

彼女なりにも、思うことは有るのだろう。

 

 

 

「はい。」

 

「私、思うんですけどね…○○さんの方で、この子達を個別にサポートしてあげるのは難しいですかね…?」

 

「…と言うと?」

 

「ええと、私は主にダンスやパフォーミング、後は基礎的な身体造りや発声なんかを担当してるわけです。」

 

「はい。」

 

 

 

そうだった。目の前の小柄な女性――確か二十歳そこらとまだまだ若い上に謎の多い人物だった――は、アイドルとして活動する上での基盤…スタートの段階で鍛えておくべき地の部分からステージ周りでのパフォーマンスまで、割と広い分野を一人で担当している。何でも人体と精神について研究していた時期があるとか何とかで…まぁその辺は追々知っていくとしよう。

トレーナーと言いつつもウチの事務所と契約関係にあるわけでも無く、その給与もどこから出ているのか不明と、一体どんなスタンスで接していいのか分からない間柄である。

 

 

 

「レッスン中の彼女達については大体把握しているつもりです。…が。」

 

「が?」

 

「普段の…プライベート…とまでは行かないですが、レッスン外での人格や思考傾向を知らない。だから、主に精神面でのサポートになるとは思いますが、その辺りを○○さんにお願いしたいんですよ。」

 

 

 

つまりは俺の不甲斐なさに見兼ねて担当業務を割り振ってきたと言う訳か。成程、流石頭のキレるお方だ。

確かに俺も発足以来、外回りがメインだったために彼女等と触れ合う時間はあまり設けられなかった。割としつこく付き纏われるせいで時間を割いてしまっていた日菜でさえあの様だ…俺はどこかで「プロデューサー」としての在り方自体を履き違えていたのかもしれない。

仕事を取って来るだけがプロデューサーじゃない。所属タレント一人一人とコミュニケーションを取り、それぞれを一人前のアイドルとして立たせることが使命なのか。

 

 

 

「……分かりましたよ(かのう)さん。そっちは俺に、任せてください。」

 

「…まずは全員集合が目標、ですね。」

 

「確かに。」

 

 

 

全員集合…普通の組織で考えれば当たり前の事ではあるが、成り立ちも所属タレントも特殊なこの会社ではそこから統率を取らなければいけないらしい。

まずは日菜と、それから白鷺さん。麻弥ちゃんについては会社の問題だから後回しとして…

 

 

 

「……んん?」

 

 

 

考えに耽る中、突如訪れたくいくいと袖を引っ張られる感覚に斜め後ろを向けば。

 

 

 

「プロデュシャーさんプロデュシャーさん。」

 

 

 

独特な呼び方で俺を呼ぶ無表情と目が合った。彼女が俺をこう呼ぶのは、今井さん曰く「プロデューサー」が単語としても存在としてもいまいち理解出来ていないかららしいが…。

 

 

 

「どうした友希那?」

 

「あっち。」

 

「…あっち?何かあるのか?」

 

「うん。」

 

 

 

小さい歩幅でトテチテと駆け出す後を追えば、レッスン室に唯一設置されている大きな窓。窓というよりかは壁の一部が硝子…と言った方がいいかも知れない。普段は黒の遮光カーテンで覆っている場所だが、潜り込めば眼下に都会の喧騒を見下ろすことができ、ここレッスン室が地上十二階の高さにあることを改めて思い出させてくれるのだ。

その窓にベターっとおでこを押し当てながら、先程の白鷺さんを想起させるような声音で言葉を紡ぐ。

 

 

 

「何だかぴりぴりしているけど、私はいまいち付いて行けてないわ。」

 

「………。」

 

「でも見て、こんなに高い所からの景色、初めて見たの。ふふふっ。」

 

「……ええと、友希那?」

 

「この景色で、全て忘れられると思わない?」

 

「………いや、特には。」

 

「そう…。」

 

「うん、ごめんね。」

 

「…ところで、何があったの?」

 

「あ、聞いてなかったの?」

 

「だって、疲れていたもの。」

 

「………。」

 

「あ、ちょうちょ。こんな高さでも飛べるのねぇ。かーわいっ。」

 

「……………。」

 

 

 

本当に、問題だらけだなぁ…。

 

 

 

**

 

 

 

「あ、お疲れ様っす。」

 

「…お疲れ。」

 

 

 

その夜。つぐみを慰め、ついでに今井さんを元気づけ…全員が帰った後の事務所で振り返りをする。正直床すらも素敵なベッドに見えてしまいそうな程くたくただが、業務を疎かにする訳にはいかない。

もうすぐ深夜と呼べる時間に差し掛かろうというのに未だ書類整理に追われている麻弥ちゃんと挨拶を交わし、定位置へ。ギシリと古いデスクチェアが音をたてた。

 

 

 

「ふぅ……。」

 

「…ホントにお疲れみたいっすね。」

 

「麻弥ちゃんもね。まだ帰れそうにないの?」

 

「ああいえ、大方は終わっているんですが、明日のレッスンこそ参加しようと思いまして。」

 

「…今更ながら、ごめんなぁ。」

 

「え。…そんなそんな!これはこれで楽しいっすよ!謝られるような事じゃ…」

 

「そっか。……実は色々、大変でさぁ。」

 

「話は聞いているっす。相変わらず社長はヘラヘラしてましたけど…。」

 

 

 

あの野郎。

 

 

 

「……麻弥ちゃん。」

 

「はいっす。」

 

「これからどうやら、アイドル一人一人と向き合っていくことが必要そうなんだ。」

 

「…は?」

 

 

 

いや分かるよ。そこまでいったらもうマネージメントの領域…

 

 

 

「いやいや、今更っすよ○○さん。…というか、よくその過程を省いてプロデュースできると思ってましたね。」

 

「……………あ、そうなの?」

 

「だって、みんなそれぞれの事知らないと売り込むのも難しくないっすか?…例えば、ジブンの良いところとか悪い所とか、分からないっすよね。」

 

「あー…いや、まぁ、その……ごもっともです。」

 

 

 

結局のところ、この子の方がよっぽど上手にプロデュースできるのかもしれない。

いやそもそも俺が業界について無知すぎるのが悪いんだけど。さっきは叶さんに大見得切ったけど、自信なくなってきたぞ…。

 

 

 

「全く…前途多難っすねぇ。」

 

「昼間の俺も同じこと言ってたよ。」

 

「ホントっすよ。」

 

「…でも動き出しちゃったんだ。俺も腹を決めるよ。」

 

「その意気っすね。」

 

「……麻弥ちゃん。」

 

「…今日はやけに名前呼ぶっすね。」

 

「ああごめん。……俺は知っての通り、ズブの素人だからさ。迷惑掛けちゃうと思うけど、頑張ろうと思う。」

 

「…。」

 

「……でも必ず、君を…君達を何処に出しても恥ずかしくないアイドルにしてみせるからさ。…付いて来て、もらえるかな。」

 

 

 

何の話をしていたんだったか…気付けば決意表明になっているし、麻弥ちゃんも仕事の手を止めて呆然と見上げているし。

でも少しの間を置いて、小さく微笑んだ麻弥ちゃんが返してくれる。

 

 

 

「何言ってるんすか?らしくないっすよ。…○○さんはもっとこう強気で、ジブン達を弄ってくるくらいじゃなきゃ。」

 

「…俺普段そんな風に見えてる?」

 

「ふへへ、どーっすかね。」

 

「……俺だって自分の足りないところは人に頼るさ。」

 

「…うぇっ!?じ、ジブンに頼ろうとしてます!?」

 

「うん。」

 

「ひぇー…………え、いや…ひぇぇ…!!」

 

 

 

二回言った。

 

 

 

「…だから、君には特に宜しく、かな。」

 

「も、もう…アイドルに頼るプロデューサーって何なんすか…」

 

「お、やっとアイドルの自覚出てきたんだね。」

 

「あっ……ぁぁぁあああ!!わ、忘れてくださいっすぅ!畏れ多いっすぅ!!」

 

 

 

先の見えない仕事だとは思う。正解も分からなければ、少女を把握して売り込むなどと未知の大任。

…それでも、もう少し我武者羅にやってみようと思った。事務員の美少女を弄り倒して元気を取り戻した夜。

 

 

 

「麻弥ちゃん、俺やるよ。君を正真正銘のアイドルにしてみせる。」

 

「う……何でそんな真っ直ぐな目で」

 

「あいや、もうアイドルとして自覚が…」

 

「もぉぉおおお!!!!」

 

 

 

…まずはあの子から、だな。

 

 

 




長くなりそうですね




<今回の設定更新>

○○:何せ新人なもんですから…勘弁してやってつかあさい

つぐみ:つぐぅぅぅ

友希那:ユッキィナッハッ!!↑
    イメージはすっかり幼女

千聖:思ってたより黒い

日菜:デレたら可愛い

麻弥:安定のヒロイン感

リサ:もう何でもアリ

叶:トレーナー・講師…もう何なんだこの人。
  下の名前は結夢(ゆめ)ちゃんというらしい。
  別のシリーズではちっちゃい生物作ってるあの人です。

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