BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2020/02/27 はぐはぐでhshs
お、石が貯まったぞ。早速ガチャでも回してみようか。
ソーシャルゲーム、それは無限に金を巻き上げ、魅了された者の生活を破綻させる魔性のツール。
ある者は稼ぎをつぎ込み、またある者はなけなしの小遣いを突っ込む。破滅の様は十人十色…ゆっくり、しかし確実に破滅への道を歩んで行くのだ。
勿論、ボクもその一人。今日も今日とて少ないバイト代を――
「やめなさい。」
「あいたぁ。」
今正に最終確認のアイコンをタップしようとしたところで、リアル嫁のまりなタソに拳骨をもらう。リアル嫁とは読んで字の如く、リアルに存在する三次元の方の嫁である。
リアルじゃない方?それはもう、無数に、星の数ほどいるのだよ。ふひひ。
「○○くんこの前もいっぱいお金使っちゃってたでしょ?夢を掴むーとか言って。」
「あぁ、あれは儚き理想郷…手の届かないもの故の輝きを知る良い機会であった。」
「またわかんない事言う…。でも、今月はもう駄目でーす。」
「な、何故…」
「アルバイト代使っちゃったでしょ??先月もいっぱいお小遣い上げたんだから、今月は我慢だよ?」
「………でも、イベントは今日までぞ?逃せば二度とお目に掛かれない夢が、このボタン一つで届くんですぞ?」
はやく、この支払完了ボタンを押させてはくれないか。桃色にキラリ輝くアイコンが、ボクの9000円を待っているというのに。
確かにまりなタソの言う事も一理ある。一理で済むかは知らないが、最近のボクはことお金に関して軽んじ過ぎだ。食費も生活費も全部削ってこの「バンドリ!」なる面妖な
万が一急病を患ったら?外出時に怪我でもしたら?…ええい、そんな心配が何になるというのだ。ボクは今を生きる、それだけだ。ただ只管嫁の為に、ありったけの夢を搔き集めて突っ込むしかないのだ。
「そうかもしれないけど…また女の子がいっぱい出てるゲームなんでしょ?」
「勿論。」
「…キャラクターもいいけど、私ももうちょっと構って欲しいのになぁ…。」
お。
「おほー!まりなタソのレアヤキモチ顔ktkr!!」
「もー…」
「これはパシャパシャ写メってリアル嫁フォルダを満たす作業に没頭するしかないですな!うっひょー!」
「ちょ、「写メ」ってもう言わないみたいだよ?…じゃなくて、やめてよ!撮るならもっと可愛い顔撮って欲しい…。」
ウチの嫁が世界一可愛いんだが?
まあ、飽く迄も三次の話だ、が。と、ついテンションを上げてしまっている内に、肘か何処かが当たってしまったようで。軽快な効果音と共に課金完了画面が表示されていた。
「あ。」
「え、あ、あれ?しちゃったの?」
「……ごめんまりなタソ。つい、ついうっかりだお。」
「もー!!!いくらしたの!!」
「…きゅうせんえん(´・ω・`)」
「もぉおおおお!!!」
あわわわわ。えらいこっちゃえらいこっちゃ。
愛しのまりなタソも普段は可愛らしく纏まっている感じだが、流石に怒ると怖い。それはもう般若の様な形相で…
「怒るよ?」
「うっかりなんだお…。」
「……もう、今回だけだよ?」
「うっひょー!まりなタソマジ天使!愛が溢れてはち切れんばかりだお!!」
「もー…調子いいんだから…。」
訂正、やっぱり三次元最高の可愛さぞよ。
「んじゃ折角だから早速引いちゃお…」
「………見てていい?」
「勿論。」
「ん。」
十連というのはいい文化だ。ある程度纏めて引くことで効率化を図れる上、ゲームによってはおまけがつくこともある。ある程度のレアリティが確約されていたり、何かしらのアイテムが附属したり。要はお得感を出すことで単発との差別化を図り収益をアップさせようとの目論見だろうが…。
十という数字もまたいい。これが五十や百となると作業感が強く、ドキドキ・ワクワクといった興奮もまた一瞬。興醒めすることこの上ないだろう。
限られた元手の上で、ポンポンとガチャのボタンをタップしていく。…結果。
「可愛い子いっぱいだねぇ。」
「………ううむ、何ともコメントしづらい…」
「気に入らなかったの?みんな可愛いよ?」
目ぼしいキャラは掠りもせず、推しというには些か知識量の足りない子達が出た。勿論とびきりに可愛い。可愛いが彼女達を知らない。
…これはもう、
「まりなタソ。」
「なあに。」
「少し拙者を一人にしちゃあくれないか。」
「あらっ、お侍さん?」
「少し、頭を使うで候。中々治らない早漏。」
「??考え事したいって事?」
「うむ。」
ここからは得意のアレでキャラ補完を行う。
「わかった。…それじゃあ晩御飯、作って来るね。」
「んふぅ。」
こりゃ益々捗りそう。まりなタソの料理は絶品…星三つなのである。…いや、今の心情から言えば星四つ、か…。
晩御飯への期待に胸を膨らませつつ、アプリの画面へと目を戻す。オレンジのショートカットが似合う元気いっぱいの女の子。今日はこの
**
ここから妄想①
「はぐみちゃーん。」
「あっ!○○だ!コロッケ買いに来たの?」
「いや。」
「…ほかのおにく?」
「いや。」
「……じゃあ何しに来たの?」
「はぐみちゃんに会いに…かなぁ。」
「……うわぁ。」
精一杯の冗句に吐き気を催したような顔で返すはぐみちゃん。こらこら、看板娘が何て顔をしているんだい。
「そう言う事言うから嫌われるんだよ。」
「嫌われてんの?」
「うん。」
「…………。」
どうしよう、想像以上にショックだ。いつもの様に無邪気な顔を向けてくれるでもなく、笑ってごまかしてくれるでもない。
ストレートに、嫌悪の言葉…。
「はぐみちゃん、その」
**
「何つー残酷な妄想なんだ…!折角妄想なんだから、もっと楽しくて幸せな物を…!」
**
妄想②
「ねー○○。」
「ん。」
「はぐみ、カレンダーつくったよ!」
「カレンダー?」
もうすぐ春を迎えるからだろうか。年度初めとしては中々に良い試みと言えよう。
「みてこれ!」
スマホを突き付け写真を見せられる。…写っていたのははぐみちゃんの背丈と同じ程もある日めくりカレンダー。これを一体どう作ったのかは分からないが、一緒に写るはぐみちゃん本人は炭のような黒い液体で汚れながらもにっこにこだ。
何とも言えず愛しい孫娘の思い出話を聞いたような、そんな感覚になった。
「はぐみちゃん。」
「すごい?すごい??」
「これいくらで売ってんの?」
「……………かうの?」
「可能であれば。」
ああ、引いてる。すっごい引いてる。
だが、それもいい。
「……はぐみがつくった、はぐみだけのだから、あげないよ?」
「…じゃあはぐみちゃんをもらっちゃおうかな。」
「………はぐみはたいりょーせーさんじゃないから、上げられないよ。って、とーちゃんが。」
「どんな親子?」
目に見えて解る程汗ばんだ顔。さぞかし混乱している事だろう。
合法的な幼女臭のする彼女を困らせるのは成程楽しい。
「……はぐみは何円??」
「うーん。」
「ごひゃくえん?」
「すごいね。ワンコインはぐはぐだ。」
「わんこいんはぐはぐ………!!」
今度は目を輝かせている。多分、意味は分かっていないんだろうけど。
「わんこいんはぐはぐ!はぐみは、わんこいんはぐはぐなんです!」
「そっかー。そりゃあいいや。」
「かっこいい!」
「かっこいいね。」
「…にしし、かーくんにも自慢してやろー。」
かーくん。友達だろうが…。
あまり頭のいい子でない事を祈ろう。ワンコインと自称して喜んでいるなど、聞く人によっちゃ問題だからね。
「…はい、これ。」
「???…なんのごひゃくえん?」
「ワンコインはぐはぐを買って帰るんだよ。」
「……………かうの?」
「はっはっは。」
「もってかえるの…?」
「はっはっは。」
「…せんえんでもいい?」
「いいよ。」
「やっぱやだー!!!」
「はっはっはっはっは。」
「やーだー!!!!」
「はっはっはっはっはっはっは。」
無邪気で無垢で、そんでもって無知な良い子は弄るに限る。
**
「ふぉう…!!これだ…!!」
幼い少女を言葉巧みに弄り倒す。日本の明るい未来はその先に在るのではないだろうか。
狙っていなかった引きだったが、妄想により完璧に昇華された。今宵はいい飯が食えそうである。
「○○くーん。終わった?」
「ふ、フヒッ!!お勤めご苦労でござったぞよ。」
「終わったんだね。…ちょうどご飯できたから、食べよ?」
「むーん、今日も今日とて楽しみばい。」
「もー、調子いいんだからー。」
ボクが安心して妄想の世界に浸れるのは、安心して凭れ掛かることのできるリアル嫁が居るからなのだよ。
フヒッ。
新シリーズは、まりなさん+妄想バンドリガールズの短編集です。
短く、頭を使わずに読める内容を目指します。
<今回の設定>
○○:22歳既婚者。月島まりなに婿として貰われる形で結婚。
気が向いた時に気分で働き、只管二次元に溺れる駄目な奴。
口調が安定しない。
まりな:付き合った男をダメにするタイプ。
どうしようもなくダメダメな主人公を溺愛している。
告白もプロポーズもまりなからだったらしい。
ライブハウスで働きつつ、Youtuberとしても活躍しているそうな。
はぐみ?:かわいいかわいいコロッケ売りの少女。
妄想故少しお馬鹿だが、とにかく可愛い。