BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「○○くんってさ。」
「む?なんだお?」
「どっちがほんとなの?」
手元で某ハンティングゲームをカチャりつつリアル嫁の質問に頭を捻る。ふむ…どっちがほんとなの…?
質問の意図が掴めないが、あまり物分かりが悪い様を見せるのも男として、いや、一人のヲタクとしてどうなのだろうか。
俺は、俺らしく俺を生きることに全てを賭けているが、真の姿となるとまた未知なる領域である。
「ほんと?といいますと??」
「んぅー…ほら、いっつも変な喋り方してるのに、たまーに格好いい声で普通に喋ったりするでしょ?」
「ああ。つまりまりな氏曰く、拙者には超絶イケメンな面と激烈キモオタの二面性があるということでござるなー?」
「そこまでは言ってないけど…。」
「ふむ、これは実に興味深い、興味深いですぞ…ズモモモモ…!」
「ほらまた、擬音の殆どが良く分からない言葉なんだもん…。」
頬を膨らませて拗ねたポーズを取るまりなタソ。うむうむ、神の如き可愛らしさでござるな。
因みにござるござる言っているのは只の気分的なノリで、以前"わんちゃん"と呼ばれるネット掲示板で知り合った人物から受け継いだ文化である。
わんちゃんっていうのは犬の事ではなく、『
うぅぅぅ!ネット掲示板でエンジョイする我…ゾクゾクしてきましたなぁ!にょほほほ!!!
それはそうと、今日あたりまた例のゲーム内ガチャが最終日を迎えるとか…?
こうしてはおれん、即刻狩りを切り上げ音楽(ゲーム)の波にライドオンしなくてはぁ!!
「ぬ!すまぬまりなタソ。拙者これより戰があります故。」
「…もー、またガチャガチャやるの??」
「お金を入れてランダムな商品を引き当てる仕組みを全てガチャガチャと言っちゃうまりなタソ激萌えキュンキュンだおー!!」
「え?え??」
「…まぁいいさ。おいで、まりな。ガチャの結果…一緒に見届けてくれるかな?」
困惑するリアル嫁の肩を抱き寄せ至近距離でバチコーンとウィンクをかます。直後、ボッ!と顔を赤くするまりなタソ。
拙者程度に良い様に弄ばれるのは少々心配な部分でもあるのだが、本当にチョロい嫁である。
「さぁてボタンを押しちゃうざますよ。」
「もう、私○○くんがわかんないよぉ…。」
明るくなった画面がやがて暗転し、まりなタソは頭を抱え。
今日も今日とて出逢いの時間である。
むほほほ、これはぁ!?
「フォカヌポゥwwwこれはこれは、嫁が出ましたぞぉ!!」
「えっ」
「えっ?」
「お嫁…さん?」
「うん。この子。」
緩く巻いた金髪を二括り…俗に言うツインテールに仕立て上げた
他にも二人ほど最高ランクのキャラを引き当てているし…。
今日は良いことがあるやもしれぬ。…と思いきや、暫く画面を凝視していたリアル嫁の方がぽろぽろと滴を双眸より溢れさせ始めたではないか。
「えっ、え!?まりな!?…どした!?」
「えぐ……ぐずっ……○○くんが、○○くんがぁ…!」
「むっ!?えっ??ちょ、泣かないで??ええ??」
「○○くんがぁ、浮気しちゃったよう!!!」
「浮気…。」
二次元の嫁に、本気で嫉妬しているというのだろうか。
…この嫁、可愛すぎる。
最高の嫁に出逢えたことを感謝しつつ、震える方と背中を摩りながら、いつもの妄想の世界へと飛び込んで行くのだった。
**
「ちょっと、これどーゆー事だよ?」
部屋に突入してくるなり机に拳を振り下ろしその怒りを露わにする有咲。彼女とは幼少期からの付き合いで、今は友人なんだか恋人なんだか分からないくらいのあやふやな関係である。
一応同じマンションに暮らしているが互いの部屋の鍵を持っていたり、互いに弱点と長所が噛み合っていたりと何だかんだで上手くやっている間柄だ。
しかし、こうも分かり易く怒って突撃してきたことは記憶の限りでは無い。
はて。
「何のことだよ。」
「恍けんなっつーの。浮気したろ。」
「はぁ。…浮気も何も、そういう関係だったっけ?俺達。」
「はあ!?」
先述した様に、気付けば中途半端になっていた腐れ縁といったところだ。告白めいたことも経験していなければそういった責任問題に発展しそうな事実関係も無い。
大方、誰に対しての事を怒っているかはわかるんだが…。
「付き合って…ねーのか!?」
「逆にどうして付き合ってると思ったんだよ。」
「だ、だって、よくお互いの部屋で遊ぶし、ご飯も一緒に食べるし、暇な時にはゲームしたり出掛けたり…ゴニョゴニョ」
「おーい、尻すぼみになってんぞ。」
「う、うっせぇ!!付き合ってるようなもんだろ!!」
「付き合ってるようなもん、くらいの間柄で浮気も何もないだろうに。」
全く。大学生にもなってまだそんな青い事言ってんのか。
「で?一体俺は誰と浮気したんだ?」
「おたえだ!
「おたえ?」
「あだ名!」
「ああ。」
花園たえと言えば最近知り合って仲良くなったあの子の事だな。キレーな長い黒髪が特徴的な、ちょっと不思議な雰囲気のあの子だ。
確かいつだったか、妙に元気があ有り余ってる夜に繰り出した街で出逢ったんだ。駅前の辺りの路上でギター弾いてたんだっけ。
「でそのおたえと、俺がどうして浮気なんか。」
「入れ!おたえ!」
「え、連れて来てんの?」
「やほー。」
「お、やほー。」
「だぁぁあ!ほのぼのしてんじゃねえ!!私は怒ってんの!!」
この温度差よ。
そもそも俺と彼女の間に疚しいことなど何も無いし、有咲との間も同様。連れてこられたところで話が進むとも思えないのだが。
「ありさ、何で怒ってるの??」
「おたえ!お前、○○に何されたか言ってみろ!」
「えー。…んーとね、たまーに街で会って、一緒に居て、最後にお金貰う。」
「それ見ろ!浮気どころか援〇じゃねーか!」
「馬鹿言え。…
「ゾノちゃん!?」
「えぇー、じゃあ○○様が説明してよぉ。」
「様!?」
二人の間で目を白黒させながらキレ続ける有咲に、ゾノちゃんが説明を省いた所を補填して再度説明する。
「いいか有咲。…そもそも、ゾノちゃ…おたえちゃんが路上でギター弾いてることは知ってるか?」
「え……そ、そうなのか??」
「うんー。いつかはプロになりたいんだぁ。」
「………い、今知った。…なんだよ、学校でもバイト先でも、そんな話したことないじゃんかぁ…!」
「でな?俺は客。」
「…きゃく。」
「ああ。アマチュアにしては妙に響く歌だったもんでな。暇を見つけては聴きに行って、適当にお喋りして音楽の対価を支払ってんの。」
「……………。」
黙り込んで二人の顔を交互に見る有咲。その表情からは、「やっちまった」感がこれでもかと言うほど出ている。
俺もゾノちゃんもその様子が微笑ましくてにっこり。
「ありさの髪見てたらエビフライ食べたくなってきちゃった。」
訂正、ゾノちゃんは晩御飯を想像してにっこりしてた。
「……じゃ、じゃあ…私の勘違い…?」
「うん。」
「!!」
えと、えと…と可哀想な程慌てふためいて次の言葉を探し始める。恐らくは謝罪やら質問やら弁解やらで混乱状態なのだろうが…。
俺は知っている。有咲は勉強こそできるが脳の容量が圧倒的に少ない。いや、ROMこそデカいがRAMが弱い、と言ったところだろうか。
ちょっとしたサプライズでこうなる彼女をもう厭というほど見て来た俺からすると、そこが可愛らしい部分でもあるのだが。
「あ、あぅ…あの…○○?」
「んー?」
「……嫌いに、ならない…?」
「何を?」
「……馬鹿な…私を…。」
「……。」
満面の笑みとサムズアップを返せば、ぱぁと表情を明るくした有咲が飛び込んでくる。
それを敢えて大袈裟なモーションで抱きとめると、胸の中で擽ったそうに笑って見せた。
これにて一件落ちゃ――
「おやぁ、その子が例の有咲ちゃんですかあ。○○さんも隅に置けませんなぁー。」
俺のやや斜め後方、キッチンの方から間延びするようなおっとりした声と共に顔を覗かせる銀髪の女性。
と同時に勢いよく体を離し、ズビシィ!と音が聴こえそうな程の綺麗なフォームで指をさす有咲。
「誰ぇ!!」
「おー。」
…感心するゾノちゃん。
「おいこら○○!やっぱりしてんじゃねーか浮気!!」
「うわき??○○っち浮気してんのー?」
「してないね。」
「だよねー。浮気はだめだよぉー、うん。」
自分に向けられている人差し指など見えていないかのように、ケラケラと笑う彼女。彼女は
最近できた友人にして、俺にとって唯一の"客仲間"である。
「あおっち、やほー。」
「む、その声はたえちー??」
「遊びにきちゃったー。」
「わー、それはそれは…ゆっくりしていくといいよー。」
「俺の部屋だけどね?」
「ちょ!こら!もう!私を置いてまったりすんなぁ!!」
客仲間ということからもお判りいただけるかと思うが、共にゾノちゃんの歌を聞きに行く彼女。勿論ゾノちゃんとも面識はあるし、何ならかなり仲は良いように思える。
その間柄からも、絶対に俺が浮気を糾弾されることは無いのだ。
「…なーに怒ってんだ有咲。」
「だって!○○が!部屋に女連れ込んでる!!」
「確かに女だけど……俺とは何も無いよ?」
「そんなのわかんねーだろ!私は初対面なんだし!…おたえは何か知ってんのか!?」
「え?…んと、カブトムシの折り方はねぇ、まず半分に折り目を付けて…」
「んなこと聞いてねえっ!あの女は何者かって話だ!○○と浮気してるアイツ!!」
「えー…。あいつ……むぅ。」
どこか抜けたようなゾノちゃんだが、有咲の剣幕に一瞬考える素振りを見せた後、とことこと俺の前まで歩いて来て…。
「とっちゃだめ。」
ぺちり、と頬を叩かれた。…いや、叩かれたというよりかは撫でられたに近い弱弱しさだ。
本人も何だか納得がいかなそうに自分の手を開いたり握ったりしているし。
「だぁあ!!そっちじゃねえ!!○○を取ってるのはそっちの女!!」
「……ありさうるさい…。」
「だな。」
「でもー、モカちゃん的にはー、元気いっぱいで可愛くてぇ…すっごくいいとおもいまーす。」
「え。」
青葉ちゃん…通称あおっちの言葉に驚きを見せたのはゾノちゃん。今度はとてとてと有咲の前に歩いて行き…。
「ゆうわくしちゃだめ。」
ぺちり、と。先程俺にやって見せた様に有咲にも一撃をお見舞いしていた。
……有咲のあの顔。最早大混乱の極みであろう。頭の周りを盆踊りの様に"?"が囲んでフワフワ漂っているようにすら見えた。
「うひゅひゅ…そろそろ助けてあげたらー?」
「あおっち…でもちょっと、面白くない?」
「おもしろいけどー、教えてあげないのもかわいそー…みたいなー?」
「ああもう、わかったよ。」
いつの間にかすぐそばまで来ていた青葉ちゃんに釘を刺され、有咲を救出することに。
この状況何が面白いって、理解している筈のゾノちゃんもしきりに首を傾げている事なんだよなぁ。
「ほら、有咲。」
「………ん、ぅおっ!?何…だよっ!」
「説明するから、落ち着いて聞いてくれな。」
「あぁ!?」
落ち着けと言っておろうに。
「いいか。俺が青葉ちゃんと浮気しない理由、それは簡単だ。」
「あんだよ!?」
「…彼女、女の子にしか興味ないんだ。」
「………あんだって??」
「えへへー、ぴーすぴーす。」
そう、青葉ちゃんは俺に…というか異性に全く興味を持たない。
今日だって、今頑張っているとある手続きについて勉強する為に俺の元を訪れたんだから。
「…わ、わかるように説明しろよ!!」
「………ゾノちゃん、住む部屋ってどうなったんだっけ。」
「えとね、あおっちも、このマンションに越してくるから、部屋が近いといいねーって。」
「成程な。」
「内見は済ませたよー。…っていっても、○○っちの部屋見てるから大体わかるけどー。」
「あおっち、申請の方はまだなんだっけ?」
「うんー。色々用意するものもあるみたいでさー。」
「成程。……あのな有咲。簡単に纏めて言うと…。」
表面上はのほほんとした二人ではあるが、色々と複雑な問題の真っ只中にいるのだ。
つまりは…
「この二人、デキてんだよ。」
「…………………。」
そういうことである。
「じゃ、じゃあ○○とは。」
「何も無いし、それに――」
何もない、との言葉に再び明るい表情を取り戻す有咲だったが…
「――俺はお前と付き合ってるつもりは無いぞ。さっきも言ったように。」
「……。」
何もない、その事実にまたしょんぼりとしてしまうのだった。
**
「ぬっほほほほほ!!悪くない、悪くないぞぉ!!」
成程。浮気、というワードも一見悪い印象しか無いように取れるが、こうもコメディ路線に繋がるワードとしても使えるとは。
そもそも浮気の定義自体曖昧な物ではあるが、勘違いして空回りする子…というのも俺の琴線にはビクンビクンと触れ申した。
事実上の関係は無いと言いつつも美少女たちに囲まれてある種平和な時の流れに身を置く自分…ぬぉぉお!!!素晴らしい!素晴らすぃ!!素晴らスウィートだぁ!!
「あああああん!!!!○○くんが他にお嫁さん作ったぁああ!!」
おっといけない。トリップし過ぎて忘れかけていたが、こっちはこっちで大変な嫁を抱えているんだった。
「…まりな、いいかい?」
「えぐ…えぐっ……な、なあに?」
「二次元は二次元、君は君、だ。…詰まるところ、人は画面を越えられず、俺もまた、君唯一人にゾッコンなんだぜ。」
「○○…くん…!!」
「俺が浮気なんてするわけないだろう?
「…!!う、うん!!ごめんね!疑ったりして!!私一筋だよね!?ね!?」
「はははははははは、当たり前じゃないかぁ。」
「うわーい!○○くん好きぃ!!」
…可愛い。が、大丈夫なのか?この嫁。
と、あまりのチョロさに心配になってきた賢者モードの拙者であった。
三人引いた日だったんです。
<今回の設定更新>
○○:勿論普通に喋っている方が素。
妄想力が上がってきた最近ではオカズを必要としないとか。
まりな:かわいそう。
有咲?:付き合いが長いと関係性も曖昧になりがち。
気軽に身体を許していないだけまだマシとも言える。
たえ?:プロを目指して日々頑張っているミュージシャンの卵。
有咲?とは大学とバイト先が同じ。
モカ?:女の子が大好き。
後に有咲に関係を迫ることになる。