BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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モニカの面々は未だよく掴めずふわふわしてます。


【二葉つくし】ツクシちゃんは。
2020/04/15 気付けば出逢いの春土筆


 

 

 

春の陽気を感じられるようになってきた今日この頃。久々に訪れたショッピングモールで一人、潜り抜けた大戦の傷と疲れを甘いジュースで癒していた。

………大して幼くもない陰気そうな男が一人でクレープ二本と果汁たっぷり系ドリンクを三本も買ったのだ。カウンターのお姉さんの訝しげな表情がまだ脳裏を離れないがこの際置いておこう。

 

 

 

「…プハァッツ!……やはりキウイを選んで正解だった。快晴でもなく雨降りでもない、こんな中途半端な雲混じりの空も吹き飛ばすような、まさに至高の一杯…。ふふ、ふふふふ…いやぁ実に良い仕事だ。」

 

 

 

お分かりだろうが、僕は独り言が多い。…正しくは、一人だと思考が漏れ出てしまうだけなのだが。

周囲の視線が刺さる気がするのは、きっとこの仕入たての新作シャツがあまりにも輝いているから…そして僕にマッチしているからであろう。穏やかな心と余裕を醸し出す薄緑の地色に白と紺の直線が交わるチェック柄のシャツ。…うーん、流石の美的センスに街のみんなも釘付けってかぁ!?クゥーッ。

 

 

 

「…ん?…あれは…。」

 

 

 

無駄のない最小限の動きでクレープを平らげていると、視線の先には周囲をキョロキョロ見回す落ち着かない様子の少女が。やや小柄で幼い顔立ちに真面目そうな二つ縛りの黒髪、と絵に描いたような"幼さ"を孕んだ少女は何かを探しているのか、はたまた何かに迷っているのか。

時間帯のせいもあり然程込み合っていない店内の有象無象は困惑する少女を避けるように人波を作り、彼女が見えていないかの如く動き続けていた。…神よ、これは僕への挑戦か?相も変わらず泣き出しそうな顔で視線を泳がせる少女と全てが波に乗っている超絶イケの男。これらが同じ場所に存在して居るならば、僕に課せられた使命は一つであろう。

 

 

 

「ふむ、ならばここは僕が一世一代の男気を以てして、歴史に名を刻むような軽快なイケムーブを披露するしかないだろうね。」

 

 

 

僕は体も細いしコミュニケーション力も皆無。だが、やるときはやる奴だということは証明していきたいのだ。

震える手でジュースとクレープを置き、頼りない足で彼女へと向かっていった。

 

 

 

**

 

 

 

「………。」

 

「……ゲフッ、ゲフンッ…や、やぁ、マドモアゼル。何かお困りのようだが…?」

 

「…えっ?……あっ…ええと、ど、どなた?」

 

「い、いやなに、あちらからずっと君を見ていてね。…やけに不審な様子だったから気になったって訳さ。」

 

「ぇ…………。」

 

 

 

見よ、これが僕の実力だ。これ程まで不審な声のかけ方があっただろうか。

発言も内容も怪しい処だらけで…あぁぁ!見てる!滅茶苦茶眉根に皺を寄せて見られている!針の筵状態に二の句を注ぐこともままならない僕は、ただただ立ち尽くし冷や汗を振りまいている。

これはいけない。助けようにも満足に話もできない。そしてこの子、確かに小さい子供のようだがその実近くでよく見るとかなり整った顔立ちをしている。ただでさえ女性があまり得意でない僕にとって、彼女は最早劇薬だ。

こんなことになるなら、一人大人しく果汁でも啜っていればよかったのに。

 

 

 

「…助けて……くれるってこと…?」

 

「!!…そ、そそそうだが!?」

 

「………あ、ありがとう…。実はその、誰かに声をかけようとは思っていたんだけど、どうしていいか分からなくて…その…。」

 

 

 

だが神はまだ僕を見捨てちゃいなかった。どうやら声を掛けられたことで少し気が解れたらしい彼女は、一人内心テンパリング祭状態の僕に感謝の言葉を述べてきたのだ。

おいおい、これはもしかするともしかするんじゃないのか??

 

 

 

「ふっ…シュッ、淑女が困っているのだ…手を差し伸べるのが真の男…即ちダンディズムであろう?」

 

「っ!!」

 

「…まぁ、まずは座って話を聞こうじゃないか。ボクがさっき座っていたのはあっちの…ヒョッ」

 

「…??」

 

 

 

そろそろお察しだろうが、僕は他人と普通に会話ができない。一枚皮を被ってしまうというか、僕に僕じゃないボクを演じさせることでやっと会話を成り立たせているというか…。

現状、この混沌とした雰囲気を引き起こしているのも恐らくそれが原因だろう。何はともあれ、人の目を引く通路で立ち話をしているのも嫌だったために元居た席へと誘導しようとしたのだが。

恐ろしく自然な流れで服の袖先を掴まれ思わず変な声を上げる僕。何たる暴挙、何たる大胆なボディタッチ。もしや彼女は僕に気がある…?

 

 

 

「どうかした…?」

 

「あいえぇいや、君の可憐な指先の温もりを手首に感じてね。…思わず息が漏れてしまったのさ。失敬失敬。」

 

「あっ…ごめんなさい、急に掴んだりして。」

 

「ま、まあ謝ることでも無かろう。…れっ、レディをエスコートするのは紳士の役目だからね。」

 

「ッッ!!!」

 

 

 

…本当に、何を言ってるんだという声は尤もだし自覚もありますとも。

ただこれはどうにも治らない。幼少期はこのようなことも無かったと思うが、目まぐるしく変わり続ける環境の中、気付けば防衛手段としてこのような演者の真似事が始まったんだろうと思う。

テンパり滑稽な大根芝居を披露しつつも、思考は案外冷静だった。

 

 

 

「…さて、そちらに座って。」

 

「……あ、はい、ありがとう。」

 

「……。」

 

「………。」

 

 

 

状況説明待ちの僕と何も話し始めない彼女。会話が生まれるわけなど無く。

 

 

 

「……ええと。」

 

「………?」

 

「……どこから訊いたもんかな。」

 

 

 

初対面で、それも小さいとはいえ女性と真剣に話すことになろうとは、少なくともさっきの僕は予測しちゃいなかった。こう言った場合、まずは何から訊くのがセオリーか…いや、不快感を与えないといった観点から攻めるのが定石か?しかし、僕のトークスキルでは質問は疎か相槌すら打てないだろうし、ここはいっそボクの思うがままにイケムーブを披露して――

 

 

 

「…君、あんなところで立ち止まって何してたの?何か探していたようだけど…。」

 

「ええと、その……。」

 

「あ、その前に名前か。名前は?」

 

「へっ?…な、名前は…」

 

「そもそもそんな小さいのに一人で…危ないじゃないか。親御さんは?」

 

「おやっ!?…ちが、私は…」

 

「あと、ボクが言うのも何だけど知らない人にホイホイ付いて行っちゃいけないよ。何されるか分かったもんじゃ」

 

「ちょっと!ストップー!!!」

 

「ッ!?……何事だね?」

 

「そんなにいっぺん質問されたら喋れないでしょうが!…一つずつ答えるから、質問はそれを聞いてからにして!いい?」

 

「………う、グ…。」

 

 

 

頭も回るし口も上手い。そんな"ボク"の欠点があるとするならばこの不要な多弁力だろうか。口喧嘩ならいざ知らず、まともに意思疎通を図る上では邪魔以外の何物でもないのだが。

身体のサイズに見合わない大きな声で僕を制した彼女は怒っているだろうか、それとも辟易しているだろうか。

 

 

 

「…大声出してごめんなさい。順番に答えると、まず私は探し物をしていたの。」

 

「探し物。」

 

「うん。これくらいのがま口のお財布なんだけど、気付いたら無くなってて。」

 

「財布…?そりゃ大変だ。」

 

「そう。だから通り道を遡って…あそこに居たって訳。」

 

「ほほう。」

 

「私は二葉(ふたば)つくし。あなたは何さん?」

 

「えっ?…あっ、その…」

 

 

 

なるほどなるほど。目の前の彼女――つくしさんと言ったか――のコミュニケーション能力は流石と言ったところか、僕一人では引っ掻き回すだけになってしまっていたであろうファーストインプレッションも難なくこなして見せた。

とは言え急な質問返しにはたじろいでしまう。こちとら幸か不幸かこの多弁力一筋で説き伏せ突き進んできたのだ。まともに論を交わそうとなると…些かブレが出てしまうもので。

 

 

 

「ボ、ボク…は、名前は…」

 

「???……どうしたの?すっごい汗。」

 

「…○○。」

 

「…○○?…あ、お名前ね。」

 

「うん…。」

 

 

 

名前を訊かれただけでこの体たらく。まぁ、恐らく今後二度と関わることも無いんだろうけど、情けない男の代表格として彼女の脳裏に焼き付いたに違いない。

 

 

 

「○○さん?」

 

「ぁ……グ……そ、その、だね、つくしさん。」

 

「はい?」

 

「その財布探し、このボクにも手伝わせちゃ貰えないだろうか!?」

 

「わ、急に元気だ……そ、それは有り難い申し出だけど、でも初対面の人にそこまでお世話になるには…」

 

「なぁに、仮にもこの街きっての名探偵であるボクの元にキミの様な素敵なレディが現れたんだ。これは偶然と呼ぶには相応しくない…そう、まさに運命の様なものだとは思わんかね?」

 

「…は、はぁ。」

 

 

 

取り返さねば。久しぶりに他人とコミュニケーションを取ってしまったが故の使命感というか、今は得意分野である多弁に任せてボクにこの場を押し切ってもらおうと必死だった。

最早証明などどうでも良いが、今は何とかこの場をやり過ごしたかった。…それも、彼女を救いつつ、だ。

 

 

 

「だから、僕にも協力させてくれないかな?つくし…さん。」

 

「………ええ。それじゃあお願い…しようかな。」

 

 

 

だからこそ、彼女の手を取って提案したその言葉は、紛れもなく僕の意志だったわけで。

彼女の伏し目がちな返答に、思わずガッツポーズが出そうになってしまったのは仕方のない事なのだ。

 

 

 

**

 

 

 

結論から言えば、それは難しくも無く。広いモールの数か所にあるサービスカウンターで訊けばあっさりと出て来る物だった。

最初こそ彼女の無駄に自信満々な姿勢に負けて専門店を回りもしたが、結局こういった場合には自分よりも人を動かすことが解。使えるものは使う主義の僕からするなら当たり前の事だったが、「その手があったなんて…」と彼女は心底打ち拉がれていた。

まさに手のひらサイズで可愛らしい猫の刺繍が入った財布…というより小銭入れを無事受け取ったつくしさんと、酷使した足を休める為とベンチに腰を落ち着ける。久しぶりに不要な歩を進めた僕の体には少し汗が滲んでいたが、不思議と不快感は無かった。やり切ったことからくる充足感がそれを満ち足りたものに感じさせてくれたのだろう。

 

 

 

「……ふふっ。」

 

「…見つかってよかったね、つくしさん。」

 

「うん。…本当にありがとう、○○さん。」

 

「いいって。僕は何もしてない。」

 

「………それが、本当の○○さんの喋り方なの?」

 

「え」

 

「さっきまでと違って、変に格好つけてないって言うか、気張ってないって言うか。…そうでしょ?」

 

 

 

確かに疲労感から「ボク」を出す余裕も無かったことは認めよう。それでも、素の僕を無意識の内に出してしまっていて、そこを当の彼女に指摘されたという恥ずかしさは、意識した瞬間から一気に全身を駆け巡った。

煮えそうになる頭に響くはつくしさんの嬉しそうな声。

 

 

 

「私には何でもお見通しだよ!…でも、こっちの方が良いと思う。優しそうで力が入ってなくて、とっても素敵。」

 

「あぅ……グ、…ガァ……そ、恥ず…」

 

「あははっ、しどろもどろになっちゃうのはどっちでも同じなんだね!」

 

「……あんまり揶揄わないでよ、つくしさん。」

 

「ふふふっ、ごめんね。ちょっと、可愛くってつい…。」

 

 

 

子供らしい笑いを押し殺すように口を抑えるつくしさん。そういえば一連の流れの中でスルーしてしまっていたが、結局この子はどういう子なんだろうか。名前と目的以外何も知らない上で探し物に付き合うとは、我ながらお人よしすぎるとも思う…が。

 

 

 

「……さっき質問に答えてもらえなかった分だけどさ?」

 

「んぅ?…あー、親と一緒に居ないのかーっていう失礼なアレ?」

 

「しつっ…まぁ、そうだね。君ってば随分幼く見えるから…。」

 

「ま、まあ幼く見えるっていうのは良く言われるけど…でも失礼なことに変わりは無いよ。私だって立派な――」

 

 

「お、ふーすけじゃん。何やってんの?こんなところで。」

 

 

 

漸く聞けそうだった彼女の答えを邪魔したのは僕達の丁度右方向から飛んできた声。びくりと体を震わせたつくしさんから察するに、彼女の知り合いか或いは身内ということもあるだろう。ふーすけて。

方向的に僕をどう捉えているかは謎だが、どのみち手前に座っているつくしさんに声を掛けたのは間違いないと見て良いだろう。

 

 

 

「…と、透子(とうこ)…ちゃん?」

 

「ははっ、珍しいじゃんかー!一人?」

 

「ううん!○○さんと一緒!」

 

「…………はぁ?」

 

 

 

うんうん、そりゃそうなる。君は小一時間一緒に過ごしてすっかり距離感を掴んだ感じかもしれないが、そこの…透子ちゃん?だったかにとっては未知の生命体なのだ。

…とは言え、そんなに強く睨まなくても良かろう。縮み上がってしまうよ。

恐ろしくなってしまった僕は耳打ちをするようにつくしさんに顔を寄せ小声で訊くしかなかった。

 

 

 

「…つくしさん、のお友達?」

 

「うん。透子ちゃんっていって、私の――」

 

「おいアンタ、ふーすけとどういう関係だ?」

 

「ングッゥ!?」

 

 

 

あーなるほど。恐らく一生縁がないであろう陽キャ御用達の洒落た服に派手な金髪、おまけに棒付きの飴を咥えるといった"如何にも"ないで立ちからソッチ方面の方なのかとは予想していたが…まさかいきなり胸倉を掴み上げられるとは。

真逆の雰囲気を持つ二人がそこそこに深い仲であることは分かった。締まる首元が厭と言うほどに教えてくれているからね。

 

 

 

「チョマッ、ま、待ってくれ!違うんだ!ボクはそんなんじゃないんだ!!」

 

「違うって何だぁ!?どーせアンタもこいつのガキっぽい外見に惹かれた危ない男なんだろ!?あぁ!?」

 

「チョ、どーせって、ま、まずは降ろしたまえよ!?」

 

「うっせぇ変質者!いいか!?ふーすけはあたしのなァ…!」

 

「と、透子ちゃん!○○さんはホントにそんな人じゃないから!離してあげて!」

 

 

 

つくしさんの一声で訝しげなヤンキーさんもやっと僕の襟を解放してくれた。物事は実体験を以てこそ知るとは言うが、本当に花畑が見えるというのは今日の今日まで知らなかった新事実である。

新発見を心に刻み込みながら息を整え、視線を戻す。

 

 

 

「…説明、しろよ。」

 

「……僕?」

 

「アンタ以外に誰が居んだよ?…いや、確かに分かるよ。ふーすけは小さくて可愛らしいし、子供っぽい所もまた魅力的だ。何かと自信満々に行動するくせに空回り気味で、でもへこたれない頑張り屋さんだ。」

 

 

 

なんだ?知識自慢か?

 

 

 

「ちょ、透子ちゃん!?」

 

「……何が言いたいかってーと、そんな可愛いコイツが一人で居るのをみて、悪いようにしてやろうと近寄ってきたんじゃないのかってこった。…どうなんだ?あぁ?」

 

 

 

いちいち凄まないで欲しい。冷静な僕とすっかり加熱済みの透子ちゃ…さん。温度差のある二人が正面からカチ合ったとて真っ当な論を交わせるわけがない。

どうしたものかと"僕"が頭を回していると。

 

 

 

「へ、へんっ!つまりはアレかい?透子さん、キミはつくしさんにゾッコンってワケだ!」

 

「あ"ぁ?」

 

 

 

黙ってろボク!視界の隅でつくしさんが頭を抱える姿も見える。

すっかり彼女には僕の癖が読まれているようで、気恥ずかしい気もするが…いや今はそんな気分に浸っている場合じゃない。目の前のヤンヤン透子さんをどうするか、それが問題なのだ。

 

 

 

「……ええと、その…。」

 

「透子ちゃん!あのね!」

 

「あん?」

 

 

 

僕に凄んだ表情のまま、後ろからかけられる声に振り向く透子さんと怯え切った僕。その先では意を決したような表情のつくしさんが――

 

 

 

「○○さんは…私のボーイフレンドだから!変な人じゃないんだよ!」

 

 

 

――揉めている二人を包み込むほどの爆弾を投下してくれた。

 

 

 

**

 

 

 

これは一体どういうことだ。気付けば彼女の…つくしさんの家の前に立っているではないか。

つくしさんが玄関を潜りその小さな掌を振りながら光の中へ消えて行ったのが数分前。僕はあまりにも激動過ぎる今日の日に、未だ動けずにいる。

 

あの発言のあと、何とも納得いかなそうな透子さんも矛を収め去っていき、残されたのはとんでもない発言をした少女と巻き込まれた男。

場には「やっちまった」な空気が重々しく流れていて、その中でも行動を見せたのはつくしさんだった。

 

 

 

『…○○さん、大丈夫だった?』

 

『エヒィッ!!…う、うん…何とか…。ええと、助かった…のかな?僕は。』

 

『透子ちゃん、悪い人じゃないんだけど、私って何だか絡まれることが多いから…。』

 

『そりゃまあ、これだけ可愛いちっちゃい子が居たらわからなくもないケド…』

 

『え?』

 

『ンムグッ、な、なんでもないよ。』

 

『??』

 

 

 

疲労感から口を滑らせかけたが、聞かれていなかったようで。状況を分かっているんだかさっぱりなつくしさんも、次の会話では流石に慌てていたようで。

 

 

 

『それより……あんな事言っちゃって大丈夫?友達なんでしょ?』

 

『??あんな事って?』

 

『……僕が、ボーイフレンドだって。』

 

『……………。……!!!!』

 

 

 

突如顔を抑え身悶えを始めるつくしさん。見ている分には可愛らしいものだが、当事者である以上楽観視はしていられない。

だが今後を考えるとこのまま放置してしまうのも悪い気がして…。

 

 

 

『……どうしよう。』

 

『…つまりは、何も策がない上での発言だってこと?』

 

『……うん。』

 

 

 

助けてくれるためとは言え、その嘘は流石にリスキーだった。当の透子さんも納得はしていない様子だし、きっと数日もすれば問い詰められることだろう。その時に僕が消え失せているようではつくしさんに対して余りに無責任すぎるというものだ。

透子さんが言っていたように、空回り気味で頑張り屋さんなところが惜しげもなく出ている…ということなのだろうが。

 

 

 

『…………こういうのはどうだろう。』

 

『うん…どういうの?』

 

『…試しに…コッ、恋人になってみる…とか?』

 

『…………ヒュッ、ヒエッ、それはっ、ど、どうなの??』

 

『うんごめん、自分でもどうかしてると思った。聞かなかったことに…』

 

『いや。…でもそれ、アリかも。』

 

 

 

何がアリなのかさっぱりだが、彼女が言うには暫く恋人の"フリ"をしてほとぼりが冷めた頃に"友達に戻る"という方法。実はしばらく前から付き合っていたが言い出せなかった…という体にすれば事態が急に明るみに出たことへの説明も付くし、自然なフェードアウトで負担も少ないという事だったが…。

 

 

 

『…でも、○○さんに迷惑かけちゃうってことだよね。』

 

『………。』

 

 

 

正直、面倒だ。僕とて他人との付き合いに寛容な方では無いし、出来る事ならば一人で静かに過ごしたい。

…だが、先程の窮地から救ってくれたことへの恩赦と、気付けばすっかり脳に焼き付いてしまっている彼女の愛らしい風貌を体良く眺められることを鑑みればこれ以上ない提案なのではないか、とも思った。

大切な選択ということで"ボク"も抑えたまま、数秒の間を置いて引き受ける僕の姿があった。

 

 

 

『…いや、迷惑とかそういうのは考えなくていい。僕は、喜んでその役を引き受けるよ。』

 

『!!…ホント!?』

 

『うん。』

 

『…よ、よかったぁ…これで一安心、だね。』

 

『ん。……それじゃあ改めて、宜しく…でいいのかな?つくしさん。』

 

『うん!○○さん、宜しくね!』

 

 

 

…恋人ごっこ…とでもいうのだろうか。その一環として彼女を自宅まで送り届けた訳だが…。

何だこれ。何なんだこれ。何なんですかねこれ。これから正気で生きて行けるんでしょうかね。

 

 

ああそういえば、どうやら僕の一歳年下…つまり今年高校一年生らしいつくしさんは、その外見由来という事もあって子ども扱いされることを非常に忌避しているようだ。

身長差もそこそこにあるが、触れる度に握った手に力が入っていた気がする。…そう長くない付き合いとは言え、自然に見えるよう振舞わねばならんのだ。話題には気をつけなくては。

 

 

 




癖のあるシリーズになりそう




<今回の設定>

○○:我ながら面倒くせぇ主人公を生み出したものです。
   高校二年生、恐ろしく陰キャ。
   対外的なコミュニケーションが必要な場合はもう一つのイケイケ(だと思っ
   てる)人格である"ボク"が出て来て対処するようだが…?
   体よく最高のポジションを手に入れるのはどうしてこんなやつばかりなのか。

つくし:CutieBaby、作者のお気に入り。
    最高に可愛い。
    てんぱった結果始まった偽装だが実は満更でもないとか…?
    よく子ども扱いされるため一端のレディ扱いしてあげると大変喜ぶ。

透子:ヤンさん。
   何かに似ているとか言ってはいけない。

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