BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
少し遠出をして、今は離れ離れになっちゃった昔の
久しぶりに連絡が来たのはびっくりしたけど、また私と一緒に遊びたいんだって……凄く、嬉しかった。
私がまだ、友達についてアレコレ考えちゃう前の友達だったから。
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「おいしかった!!
「……鍋くらい誰でもできるだろ…。」
錫木
高校になって離れ離れになっちゃってたけど、他の男の子とは違って恋人とか言う関係には興味なさそうで。一緒に居て凄く居心地の良い子だった。
その錫木くんが、「泊りで遊びに来ないか~」なんて言うもんだから、わくわくしちゃって…。
「ねね、この後って何するの??前みたいにお風呂で――」
「あのさ。」
「??」
「お前、まだそういうことやってんの?」
「……そういうことって??」
私がここについて、お喋りしたりカードゲームで遊んだり、鍋の食材を買いに行ったり。やっとこれから友達
思いがけない質問に、頭もまるで追いついていなかった。
「あー……その、さ。俺も、それからクラスの連中も、別に○○と付き合ったりとかしてたわけじゃないだろ?」
「うん。みんな、友達だもん。」
「……でもほら、俺達もある程度大人になっちゃったし、やっぱり分別も付けるべきだと思うんだよ。」
「ふんべつ…?」
「悪かったとは思うよ。お前が抵抗しないのをいいことに、都合よく使っちゃってさ。…けど」
「錫木くん。私、使われてなんかいないよ?」
「………○○?」
「だって、私と錫木くんは――」
ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ…
「……?」
もう。折角謎が解けそうだったのに。居間に置いた鞄からスマホが鳴っているのが聞こえる。
私はそのまま放っておいても良かったんだけど、錫木くんに促されるままに画面を見てみた。鞄の元へ行く間も、奥底から引っ張り出す間もずっと鳴り続けていて、余程の大事な用にも思える。
「…………ぁ。」
画面には「リサ」からの電話を報せる表示。どうでもいい人からだったら切ってたけど、リサには何かとお世話になってるし…話だけでも聞かないとね。
「……もしもし?」
『あ、○○!?今ドコ!?』
「……街にはいないけど…何かあったの??」
『大変なんだってば!常盤が――』
かなり憔悴した様子だったけど、私が無事という事が分かって安心したらしく徐々に声のトーンも落ち着いて行った。
話を聞くに、常盤せんせが逮捕されたらしい。…また友達が一人減ってしまった訳だ。
『ふぅ…。ま、被害者が○○じゃなかったのは不幸中の幸いだね…。』
「…どうして、私だと思ったの?」
『だって、常盤とよく放課後一緒に居たじゃん?』
「うん。友達だからね。」
彼とはよく、彼の車の後ろで待ち合わせをしていたから。ひとりじゃ寂しいらしい常盤せんせは、結構な頻度で私を家に招いてくれた。
ごはんを食べて、お風呂に入って、一緒に遊んで。いっぱい色んな事も教えてもらったし、いっぱいお金も貰った。
お金なんかいらないっていつも思うけど、どの男の人も最初はお金を払おうとする…変な習慣だよね。
『…今回だって、被害にあった子はウチの制服着てたって言うし…ホント心配したんだからぁ!』
「ごめんね…?…でも何で心配したの?」
『当たり前っしょ!?友達なんだから!』
「…とも……だち…。」
友達っていうのは、心配が付き纏うものらしい。そういえば、私と初めてお友達になってくれたおじさんも、遊び終わった後にずっと心配してたっけ。
あの時は血がいっぱい出てたし、おじさんも奥さんが居る人だったから、そういうもんだと思ってたけど。
「じゃあ、私も常盤せんせのこと、心配してあげるのが当たり前…?」
『…いや、自業自得だし、心配することでもない…かな?…ところで、街には居ないって言ってたけど、どこか出かけてるの?』
やっぱり友達ってわかんないや。
「うん。友達の家。」
『あ……また、男の子の?』
「うん。…おかしかった?」
『えと………そ、その子も、付き合いたいなーって思ったりしてる、ワケ?』
「ううん。錫木くんは友達だもん。昔みたいに遊んで……あっ。」
そうだった。錫木くんもおかしい事を言ってたんだ。
ふんべつがどうとか。
「きいてリサ。」
『なに?』
「錫木くんがね、もう結構大人なんだから、そういう遊びはしないって…。」
『…………それで?』
「変…だよね?」
『…………。』
どうして。
どうして何も返事してくれないの。
リサは初めてできた女の子の友達で、他の子とは違うって思ってたのに。
リサも、私がおかしいって言う…のかな。
『……あのさ○○。』
「…うん。」
『アタシは、その子が言っている事が変かどうかはわかんない…けど…。』
「…。」
『だけど、やっぱ○○が心配。…常盤もそうだったけどさ、女の子を都合よく使いたいって男なんて、いくらでもいるんだよ?』
「でも、錫木くんは…」
『勿論、その男の子と常盤は違うかもしれない。悪く言うつもりも無いよ。……でも、○○はもうちょっと、自分を大切にしないと…さ?』
都合よく…つかう。さっき錫木くんも言ってたことだ。
私はそんな、使われているだなんて意識は微塵も無かったし、みんな仲良く遊んでくれている…くらいに思っていた。
…………私がやっていたことって、一体?
『…友達ってさ、難しいよね。』
「…え?」
『特に異性の友達なんて、さ。…小さい頃はみんな唯の仲良しなのに、大きくなるとどうして拗れちゃうんだろうね…。』
「………。」
リサは、男の子にも女の子にも人気があって、いつも周りには人が絶えなくて。友達の事も、大人たちとの事も、全部上手に熟せる人だ。
…でもそれは、少なくとも私が見ているリサであって、本当はどうなのかなんてわからなくて。
心配とはまた毛色の違う、寂しそうに絞り出した言葉は、私のしらないリサのもののように鼓膜を揺らした。
「…リサ――」
『ごめん、何か余計な事言っちゃったね!…きっとその男の子も悪い子じゃないだろうし、楽しんでね!』
「……うん。」
『んじゃ、また学校でね~。…あ、帰り道も気を付けるんだよ~??』
「…うん。またね…リサ。」
でもごめんリサ。
私やっぱり、どこかおかしいのかな。あんまりわかんないや。
だって、みんなと仲良くしたいし、もっと必要とされていたいもん。
「……お、電話終わった?」
「うん。ごめんね、話の途中で。」
「いやいいさ。さて、それじゃあ何して遊――」
「錫木くん。」
振り返ればいつの間にか片づけられていたテーブルにはお菓子の入ったバスケットと可愛らしいコースターを敷いたグラスが二つ置かれていて。
相変わらずのマメさと、彼の変わっていない可愛いもの好きが垣間見えた私は、やはり止まれないんだと知った。
私は、これしか知らないから。
「ん……ちょ、おま、だからそう言う事はしないって――」
「……私の事、嫌い?」
「そういう話じゃねえ、一人暮らしの男の家でお前…とりあえず服脱ぐのやめろって…」
「私、錫木くんとずっと友達で居たいんだ。……だから…」
大人になったって言うけど、錫木くんは錫木くんだもん。だから、気にしていた事さえ正当化してあげたら、何も問題ないよね。
「…私の事、好きに使って?……私、全然嫌とかじゃ、ないから。」
「………!!!」
ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。
「……お前が、誘ったんだからな?」
「あは。ともだちだもん。」
これで少なくとも今日と明日は、一人じゃない。
生き方は、人それぞれ。
<今回の設定更新>
○○:まだ覚醒前。
悪しき習慣を断ち切れずにいる。
リサ:主人公が道を踏み外さないか気が気でない。
お節介だというのも分かっているが、昔の出来事のせいで目を離せずにいる。
常盤:当然。
錫木:昔の愚行を悔いて真人間を目指したが…。
いや、そりゃあれだけ完璧な呪文唱えられたら屈するよ。