BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/07/18 ともだちでいたいもん。

 

 

 

少し遠出をして、今は離れ離れになっちゃった昔の()()の家に泊まることになった。

久しぶりに連絡が来たのはびっくりしたけど、また私と一緒に遊びたいんだって……凄く、嬉しかった。

私がまだ、友達についてアレコレ考えちゃう前の友達だったから。

 

 

 

**

 

 

 

「おいしかった!!錫木(すずき)くん、料理人さんみたいだねぇ!」

 

「……鍋くらい誰でもできるだろ…。」

 

 

 

錫木琢磨(たくま)くん。中学生の頃はよく一緒に遊んだり出かけたりしていた男の子。

高校になって離れ離れになっちゃってたけど、他の男の子とは違って恋人とか言う関係には興味なさそうで。一緒に居て凄く居心地の良い子だった。

その錫木くんが、「泊りで遊びに来ないか~」なんて言うもんだから、わくわくしちゃって…。

 

 

 

「ねね、この後って何するの??前みたいにお風呂で――」

 

「あのさ。」

 

「??」

 

「お前、まだそういうことやってんの?」

 

「……そういうことって??」

 

 

 

私がここについて、お喋りしたりカードゲームで遊んだり、鍋の食材を買いに行ったり。やっとこれから友達()()()事が始まると思っていたのに。

思いがけない質問に、頭もまるで追いついていなかった。

 

 

 

「あー……その、さ。俺も、それからクラスの連中も、別に○○と付き合ったりとかしてたわけじゃないだろ?」

 

「うん。みんな、友達だもん。」

 

「……でもほら、俺達もある程度大人になっちゃったし、やっぱり分別も付けるべきだと思うんだよ。」

 

「ふんべつ…?」

 

「悪かったとは思うよ。お前が抵抗しないのをいいことに、都合よく使っちゃってさ。…けど」

 

「錫木くん。私、使われてなんかいないよ?」

 

「………○○?」

 

「だって、私と錫木くんは――」

 

 

ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ…

 

 

「……?」

 

 

 

もう。折角謎が解けそうだったのに。居間に置いた鞄からスマホが鳴っているのが聞こえる。

私はそのまま放っておいても良かったんだけど、錫木くんに促されるままに画面を見てみた。鞄の元へ行く間も、奥底から引っ張り出す間もずっと鳴り続けていて、余程の大事な用にも思える。

 

 

 

「…………ぁ。」

 

 

 

画面には「リサ」からの電話を報せる表示。どうでもいい人からだったら切ってたけど、リサには何かとお世話になってるし…話だけでも聞かないとね。

 

 

 

「……もしもし?」

 

『あ、○○!?今ドコ!?』

 

「……街にはいないけど…何かあったの??」

 

『大変なんだってば!常盤が――』

 

 

 

かなり憔悴した様子だったけど、私が無事という事が分かって安心したらしく徐々に声のトーンも落ち着いて行った。

話を聞くに、常盤せんせが逮捕されたらしい。…また友達が一人減ってしまった訳だ。

 

 

 

『ふぅ…。ま、被害者が○○じゃなかったのは不幸中の幸いだね…。』

 

「…どうして、私だと思ったの?」

 

『だって、常盤とよく放課後一緒に居たじゃん?』

 

「うん。友達だからね。」

 

 

 

彼とはよく、彼の車の後ろで待ち合わせをしていたから。ひとりじゃ寂しいらしい常盤せんせは、結構な頻度で私を家に招いてくれた。

ごはんを食べて、お風呂に入って、一緒に遊んで。いっぱい色んな事も教えてもらったし、いっぱいお金も貰った。

お金なんかいらないっていつも思うけど、どの男の人も最初はお金を払おうとする…変な習慣だよね。

 

 

 

『…今回だって、被害にあった子はウチの制服着てたって言うし…ホント心配したんだからぁ!』

 

「ごめんね…?…でも何で心配したの?」

 

『当たり前っしょ!?友達なんだから!』

 

「…とも……だち…。」

 

 

 

友達っていうのは、心配が付き纏うものらしい。そういえば、私と初めてお友達になってくれたおじさんも、遊び終わった後にずっと心配してたっけ。

あの時は血がいっぱい出てたし、おじさんも奥さんが居る人だったから、そういうもんだと思ってたけど。

 

 

 

「じゃあ、私も常盤せんせのこと、心配してあげるのが当たり前…?」

 

『…いや、自業自得だし、心配することでもない…かな?…ところで、街には居ないって言ってたけど、どこか出かけてるの?』

 

 

 

やっぱり友達ってわかんないや。

 

 

 

「うん。友達の家。」

 

『あ……また、男の子の?』

 

「うん。…おかしかった?」

 

『えと………そ、その子も、付き合いたいなーって思ったりしてる、ワケ?』

 

「ううん。錫木くんは友達だもん。昔みたいに遊んで……あっ。」

 

 

 

そうだった。錫木くんもおかしい事を言ってたんだ。

ふんべつがどうとか。

 

 

 

「きいてリサ。」

 

『なに?』

 

「錫木くんがね、もう結構大人なんだから、そういう遊びはしないって…。」

 

『…………それで?』

 

「変…だよね?」

 

『…………。』

 

 

 

どうして。

どうして何も返事してくれないの。

リサは初めてできた女の子の友達で、他の子とは違うって思ってたのに。

 

リサも、私がおかしいって言う…のかな。

 

 

 

『……あのさ○○。』

 

「…うん。」

 

『アタシは、その子が言っている事が変かどうかはわかんない…けど…。』

 

「…。」

 

『だけど、やっぱ○○が心配。…常盤もそうだったけどさ、女の子を都合よく使いたいって男なんて、いくらでもいるんだよ?』

 

「でも、錫木くんは…」

 

『勿論、その男の子と常盤は違うかもしれない。悪く言うつもりも無いよ。……でも、○○はもうちょっと、自分を大切にしないと…さ?』

 

 

 

都合よく…つかう。さっき錫木くんも言ってたことだ。

私はそんな、使われているだなんて意識は微塵も無かったし、みんな仲良く遊んでくれている…くらいに思っていた。

…………私がやっていたことって、一体?

 

 

 

『…友達ってさ、難しいよね。』

 

「…え?」

 

『特に異性の友達なんて、さ。…小さい頃はみんな唯の仲良しなのに、大きくなるとどうして拗れちゃうんだろうね…。』

 

「………。」

 

 

 

リサは、男の子にも女の子にも人気があって、いつも周りには人が絶えなくて。友達の事も、大人たちとの事も、全部上手に熟せる人だ。

…でもそれは、少なくとも私が見ているリサであって、本当はどうなのかなんてわからなくて。

心配とはまた毛色の違う、寂しそうに絞り出した言葉は、私のしらないリサのもののように鼓膜を揺らした。

 

 

 

「…リサ――」

 

『ごめん、何か余計な事言っちゃったね!…きっとその男の子も悪い子じゃないだろうし、楽しんでね!』

 

「……うん。」

 

『んじゃ、また学校でね~。…あ、帰り道も気を付けるんだよ~??』

 

「…うん。またね…リサ。」

 

 

 

でもごめんリサ。

私やっぱり、どこかおかしいのかな。あんまりわかんないや。

だって、みんなと仲良くしたいし、もっと必要とされていたいもん。

 

 

 

「……お、電話終わった?」

 

「うん。ごめんね、話の途中で。」

 

「いやいいさ。さて、それじゃあ何して遊――」

 

「錫木くん。」

 

 

 

振り返ればいつの間にか片づけられていたテーブルにはお菓子の入ったバスケットと可愛らしいコースターを敷いたグラスが二つ置かれていて。

相変わらずのマメさと、彼の変わっていない可愛いもの好きが垣間見えた私は、やはり止まれないんだと知った。

私は、これしか知らないから。

 

 

 

「ん……ちょ、おま、だからそう言う事はしないって――」

 

「……私の事、嫌い?」

 

「そういう話じゃねえ、一人暮らしの男の家でお前…とりあえず服脱ぐのやめろって…」

 

「私、錫木くんとずっと友達で居たいんだ。……だから…」

 

 

 

大人になったって言うけど、錫木くんは錫木くんだもん。だから、気にしていた事さえ正当化してあげたら、何も問題ないよね。

 

 

 

「…私の事、好きに使って?……私、全然嫌とかじゃ、ないから。」

 

「………!!!」

 

 

 

ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。

 

 

 

「……お前が、誘ったんだからな?」

 

「あは。ともだちだもん。」

 

 

 

これで少なくとも今日と明日は、一人じゃない。

 

 

 




生き方は、人それぞれ。




<今回の設定更新>

○○:まだ覚醒前。
   悪しき習慣を断ち切れずにいる。

リサ:主人公が道を踏み外さないか気が気でない。
   お節介だというのも分かっているが、昔の出来事のせいで目を離せずにいる。
   
常盤:当然。

錫木:昔の愚行を悔いて真人間を目指したが…。
   いや、そりゃあれだけ完璧な呪文唱えられたら屈するよ。

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