BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2020/07/21 早起きは三文の徳
よく言うだろう。
人は誰しも、心の中に天使と悪魔を飼っていると―――。
「おはよ…………何してんの。」
「おべんと作ってんの!!いつも買ってばっかりでしょ。」
「えっちょっと待って
「
「…………どうでもいいけど、食費には響かないようにしてくれな?」
俺は、家に飼っている。
それも、同じ顔で同じ名前の、得体の知れない生命体だ。
**
「うっすー。」
「おぉ、来なすったか○○殿。」
「相変わらず早ぇな
まだ人の居ない教室。電気も点けないまま窓際の自席へ着けば、斜め後ろで黙々と何かを描いている顔見知りに声を掛けられる。
ここ
敷地面積の差を考えるなら納得ではあるのだが、如何せん改増築が追い付いていない為不便が多い。結果としてよそ者扱いされている我々男子生徒陣は(そもそもの人数も少ない)イマイチ馴染めず、こうして早朝登校などの対応をせざるを得ないのだ。
「フヒヒ、早起きは三文の徳、と言うでござろう?」
「そうか。…ま、これから待ってるのは地獄なんだがよ…。」
「ううむ…近いうちに、待遇改善のために立ち上がらねばならんようでござるなぁ。」
「…………。お前が言うと一揆でも起きそうな気がするな。」
佐崎は絵に描いたようなオタク…に見えるのだが、去年男群に入学したときは至って普通の生徒だった。それが合併を機にこんな…。
急な環境の変化はストレスになるとも聞くが、これほどまでに彼を変えたのは一体…。
「まあいいや。…またあの変なのに絡まれる前に片付けろよ?」
「勿論、心得ているでござる。フヒヒ」
ただでさえ女子の扱いがよく分からなく慣れることも無いというのに、居るのだ。妙な絡み方をしてくる変人が。
それに加えて俺の脳内では―――
「「!!」」
教室後ろ側の引き戸が鳴り、反射的に身を固くする俺と佐崎。例の変人か、はたまた他のクラスメイトか。
どのみち面倒なことには変わりないのだが、このクラスで圧倒的アウェイとして扱われている少数男子にとってみれば結局は同じ。ビクつきながら顔色を窺う相手でしかないのだ。
侵入者…もとい登校してきたクラスメイトであろう人物は、暫し無言で教室内を見渡した後…扉も閉めずに自席へ向かったらしい。
椅子が引かれる音を聞きながら佐崎と目を合わせ息を吐く。
しかしその直後に吐いた息ごとビクリと肩を震わせることになる。今まさに席に着いたばかりの人物から声を掛けられたのである。
恐ろしくてそちらは向けていないが、声を聴くに未だ関わったことの無い人間だ。
そっ…と、内心最高潮にビビりながらも視線を向けて相手を確認する。
「………うぉっ。」
「ど、どうしたでござる?」
「……不良だ。」
ウェーブがかったセミロングの髪は眩しいばかりの銀色。おまけに毛先は紫色にグラデーションが効いている。
何度か視界に収めたことは有るが、間違いない。このクラス唯一の不良だ(当社調べ)!
そこそこに整った顔でありながら刺すような目付き。机についた肘は不機嫌さを表しているようで…。
「は?……別に、不良っぽい事なんかしてないっしょ?」
「……いやいや、その髪でそれは無理だろ。」
「地毛だし。」
「地毛でそんな丁度良くグラデーションがかかるかよ…。」
機嫌を損ねてはいけないと、飛んでくる言葉に対して必死に反応を返す。…がしかし、これはより一層神経を逆なでしている様な?
「ま、まずいでござるよ○○殿。あまり輩を刺激しては…」
「誰が輩よ。」
「ヒョェッ…矛先が、矛先がこっちにも向いたでござる…!」
「…………うちの学校、忍者いたんだ。」
流石は不良。コレをガチのシノビとして認識してらっしゃる。恐らく俺達のような日陰者とは真逆の人生を歩んでいるんだろう。
「……でさ。」
「ん。」
「アンタ達、合併になってからずっと二人でくっ付いてるけど…そっち系?」
「んな…!?」
違わい。と返したかったが丁度息を吐き切った直後で上手く声が出せず。
奇妙な音が漏れただけで咽てしまった。
「……ははっ、何それ、変なの。……そっか、これが、アレか…。」
「ゲッホ、…アレ?何の話だ?」
「ああうん?昨日、たえにさ。「早起きはサーモンのトークショーなんだって!!」…って言われて。」
気のせいだと思いたい。彼女の口から親し気に吐き出された名前が、俺達の最も恐怖する変人の名であった事は。
「…俺達はサーモンなんかじゃねえぞ。」
「言い間違えたことくらい分かってるよ。…けど、"三文の得"って…要は"何かしらいいことあるぞ~"くらいの感覚でしょ?」
「まあ。」
「……何となく早く登校してみたらさ、アンタ達みたいなおかしなのと遭遇するし。」
「む、おかしくなんかないでござるよ!」
「忍者とも、初めて喋っちゃったし。」
「……あのなあ。」
そしてもう一つ、気のせいだと思いたい。
恐れていた女子連中の、それも特にヤバいと思っていた不良(?)の彼女が、案外話しやすい人間に見え始めている事。
「ま、いいじゃん。…皆も男子がよくわかんなくて、接しにくいだけなんだと思うんだよね。」
「……なあ、お前、もしかして」
「もっとガンガンいっちゃいなよ。皆、受け入れてくれると思うからさ。」
「…………ああ、ありがとう。ええと…。」
そういえば不良不良と連呼していたせいもあり名前を知らない。
言い淀んだところを見計らって、訊いても居ないものを名乗ってくれた。
「
「……月渚。」
「どうせ名前知らないんでしょ。」
「……まあ。」
月渚。
人は見かけによらない?らしい。
**
昼休み。
佐崎と弁当をモソモソ突きながら、脳内に浮かんだ喧しい二人の声を聴いていた。視線は遠くで、例の変人と怠そうにお喋りしている月渚を捉えてはいるが。
そもそもこの、脳内でギャーギャーとやり合っている二人に出逢ったのは数カ月前。丁度合併から二週間ほど経った頃である。
とうの昔に他界した両親が唯一残した一軒家に、先行きならない不安を抱えて帰ってみればそこに奴らは居て。…いやそら、最初はもう驚いたなんてもんじゃなかったね。
部屋に入るなり知らない人間が居る…ってだけでもかなり非日常的なのに、声を合わせて振り返る顔が全く同じなんだから。
オマケに姿を消せたりこうして脳内に住み着いたり…訳アリとは思っていたが、人間ですら無かったとは。それでも順応してしまう辺り、人間ってのは末恐ろしい。
「んで。」
「ん。」
「月渚殿…でござったか。」
「ん。」
「……朝のアレは、どう捉えるべきでござろうか。」
あれ以来、特に彼女と話すでもなく午前中の授業を過ごしてしまった訳で。
どこか引っ掛かりはしているものの、イマイチ踏み込む勇気も出ず結局こうして佐崎と過ごすいつもどおりの流れになっている。
ガンガンいっちゃいな…か。
「どうもこうも、なぁ。」
「少なくとも拙者は無理でござるよ。」
「知ってる。」
佐崎はただでさえ極度のアガリ症な上に女性そのものが苦手なのだ。もしかしたら
「……信用、するでござるか?」
「そうさなぁ…。」
脳内の
……どうしたもんか。
「む。」
「なんだよ。」
「……
「ショウ?……あぁ、便所か、行って来いよ。」
「かたじけない。影走りするでござるよ。」
「はよ行け。」
話の流れなどお構いなしに、トイレ宣言をかましてくる佐崎。多少大袈裟になるのも仕方ない話だが、いちいち芝居がくどい気もする。
とは言えこの学校内に置いて男子が催すのは危険だ。何せ例の事情により男子トイレが無いのだから。
よって俺達男子陣は、離れにある旧校舎の警備員室のトイレまで向かわなければいけない。このクラス…2年E組がある本校舎の二階から向かうには、およそ十分弱は走らなければいけないだろう。
ハッキリ言って苦行である。
「……。」
こうなると、昼休み中の合流は絶望的だ。昼飯もすぐに食い終えてしまうだろう。
「…いやいや、まさか。」
「なんてこった…。」
天使と悪魔って、意見が割れて選択を迫って来るもんじゃないのか?
一致したんだが。
「!!」
脳内会議に釣られて声を出してしまう癖は直した方がいいのかもしれない。ついにソレを切っ掛けに絡まれるという、想像する中でもかなり上位の事件が起きてしまった。
ぽむぽむと叩かれた右肩越しに、その声の主を見る。…なんだかチンチクリンな、間抜けそうな表情の女生徒と目が合った。
「……ぶつぶつなんか、言ってないが。」
「嘘だぁ。「ナンテコッタ…」って、おっかない顔して言ってたの、はぐみ見たもん!!」
「くっ…見られていたのか…。」
両手で握り拳を作り熱弁する彼女。
御多分に漏れず名前は知らないが、いつもやたらと元気よく声を張り上げている奴だ。勿論苦手である。
最早天使なのか悪魔なのか、どっちがどっちだか分からなくなってきた。
「キミって、○○って言うんだよね!?」
「……ああ。」
「どうして、いつも一人で居るの??」
「グゥッ……どうしてかな。わかんねーや。」
それは真理だよ。
しかし邪気も無く興味を持ってくれるのは却って有難いか。脳内のヒナ達に言われたから…という理由では決してないが、腹を括って話してみるとしよう。
「…おま…きみ…いや、あんた…」
「???」
……女子って、何て呼べばいいんだ?
月渚の様な奴は特例として、佐崎や他の男共に対する様に"お前"でいいんだろうか。高圧的か?でも"君"というのも気障ったらしい気がする。ううむ…。
お前らもう天使でも悪魔でもないだろう。ただの観客になってやがる。
「……ああくそ、何て呼べばいいんだ…。」
「よぶ??…はぐみの呼び方に困ってるの??」
「あ、ああ…って、"はぐみ"ってのが名前か?」
「そうだよ!はぐみははぐみ!!……前に自己紹介したよねぇ?」
そうだっけか。確かに合併後の初登校日、ホームルームで突発的な自己紹介を強要された挙句、クラスの皆の事も覚えてねだとか……中々に苦痛が続いたせいで記憶からは吹き飛ばしてしまっていたが…。
確かにこんな元気印も居たかもしれない。
「そうだった……気もしなくも、ない。」
「ばかなの??」
「…あんだって?」
脳内的にはやはり真っ二つか。流石に表現が色々マズい事は実行しないが吉だろう。
……深呼吸を一つ。恐らく、目の前の少女はあまり聡い方ではない。直情型というか、興味先行型というか…好奇心の赴くままに行動してしまうパターンなんだろう。
分からせ…てやる程苛ついちゃいないし、先手がそれなりに失礼なら気兼ねなく自然体で話せるってもんだ。
「……あー…はぐみ。」
「うん!!」
「呼び捨てでも…いいか?」
「いいよ!!」
いいらしい。
悪魔の方のヒナ、お前はもう悪魔じゃなくて戦神かなんかだな。そして天使の方のヒナ、お前は俺をガキ扱いしすぎだ。
ま、何はともあれ、危機は乗り切ったわけだ。
佐崎無しで、昼休みを無事越えた。……それも、女生徒と会話するというおまけつきだ。
訊いても居ないのに、好きな食べ物だの昨日は買い物に出かけただのと楽しそうに捲し立てているはぐみ越しに、銀の不良と目が合った。
少し恥ずかしかったが、照れ隠しも兼ねてガッツポーズを贈ってやった。相変わらずの冷めた目付きで見詰めてきたのは、言うまでもないが。
**
「ただいま。」
「うわーい!おかえり○○くーん!!」
「おかえりヘタレー!!」
「
夕刻。
家に帰るなり忠犬のように出迎える天使と悪魔。外見はこれと言っておかしなところは無く、馴れるまでは正直どっちがどっちか分からなかった。
今現在の状況で言うと、水色のネグリジェにエプロンという珍妙な恰好で出迎えているのが天使の方で、俺の中学のころの学校指定ジャージを着て眼鏡を掛けているのが悪魔の方だ。
さっきまで確かに脳内に居たはずで、まるで原理は分からないが……俺は特に別に気にならなかった。
「晩御飯できてるよー!!」
「いつ作ったんだ…。」
「ふふん、今日はね…あたしのリクエストが採用されたんだ。」
「おい在宅組のリクエストはズルいだろ。」
「いいじゃんいいじゃーん。ほら、今日は○○頑張ったでしょ??だから、ご褒美上げないと!って…。」
「……お前、悪魔ならもっと悪魔らしくキャラ徹底せえよ…。」
「るんっ!
「え。……お前が作った…の?」
「うん!!」
「じゃあ、どうして
「えへへー、気分。」
「…………。」
「ほら、天使ってあざとさ担当みたいなとこあるし?」
「で、結局晩御飯って??」
「「
「手抜きィッ!!」
両親も兄弟も居ない俺にとって、自宅が賑やかになる事に何のデメリットがある訳もなく。
何より、俺を見ていてくれる存在が嬉しかった。
ただ、それだけだ。
新シリーズ、るんるんする話が書きたい。
<今回の設定>
○○:高校2年生。元・都立男群高等学校生。
今年度から共学化…という名目の元母校を吸収されたために肩身の狭い日々を
過ごす。
謎の存在二人と暮らしているが特に疑問も無く。
多分殆どの事がどうでもいい。
日菜:×2。
今回の日菜ちゃんは天使と悪魔という概念の具現化。
両極端な意見…かと思いきや以外にも息の合ったコンビネーションで主人公を
引っ掻き回す。
人の形で顕現したり、脳の中に寄生して囁きかけたりできるらしい。
かわいい。
はぐみ:(`・ω・´)
佐崎:フルネームは佐崎亮(りょう)。
主人公とは高校入学時からの付き合いだが、合併を機に変わってしまった。
本当は何のオタクでもないし忍者でもない。
月渚:銀髪は地毛。別作品では主人公。
彼女は彼女でガールズバンドを組んでおり、メンバーは花咲川のみならず
羽丘や月ノ森にも分布している。
目付きや口調は決して良い方じゃないが普通に良い子。