BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【丸山彩Ⅲ】アイドルと綴る日常風景
2020/08/02 またもや始まる


 

 

 

「タネよーし!!」

 

「ああ。」

 

「具材よぉーし!!」

 

「たくさんあるね。」

 

「……ああ。」

 

「ホットプレートよぉし!!」

 

「こーら、火傷したらどうするの。燥がない。」

 

「ああ…。」

 

「お皿も行き渡ったよね!ね!!」

 

「………。」

 

「それじゃあ乾杯しよ!乾杯!!」

 

「えっ。……ち、千聖(ちさと)ちゃん、紙パックでも乾杯できるかなぁ??」

 

「いいのよ、所詮気分なんだから。」

 

「……そ、そうだよね!」

 

 

 

あれ、何かこれ、デジャブだ。

 

 

 

**

 

 

 

たこ焼き。

小麦粉と出汁をベースとした生地で新鮮な生ダコを包み、くるっと丸く焼き上げる料理。

久しぶりに(あや)日菜(ひな)・千聖三人揃ってのオフという事で、今夜はたこ焼きパーティナイト☆なのだ。(☆は付けないと日菜が煩い)

四人分とあってタネの量や具材のバリエーションもいつもより数割増し。買い出しから準備まで阿呆ほど時間がかかったためにもう腹ペコだ。

 

いつもの食卓では無くリビングのテーブルに小さな飯台をくっつけてセッティングするパーティ仕様。ちょっとした非日常感に場の雰囲気も浮ついているように感じる。

偶にはいいよな、こんな日があっても。

 

 

 

「はいはーい!!あたし、焼き担当やりたーい!!」

 

 

 

いの一番に高々と挙手したのは案の定、目立つことが大好き・お調子者代表の日菜。

居るじゃん?この手の料理で調理部分仕切りたがる奴。それがコイツだ。斯く言う俺もたこ焼きをこう…クルっとひっくり返したりチャッチャと成形する作業なんかは好きだ。職人感あるし。

……お察し頂けただろうか。つまりこの空間には()()()()()が二人居るのだ。

 

 

 

「えぇー、俺もやりたーい…。」

 

 

 

となれば当然抗議の声も上げるってものだ。

 

 

 

「…何を子供みたいなこと言ってるの…。」

 

「そうだそうだ、言ってやってくれお母さん。」

 

「誰がお母さんよ。それに、あなたに言ってるのよ私は。」

 

「げぇ!!」

 

「あはははっ!!それじゃあこの役目はイタダキだねっ!!」

 

 

 

聖なる母性担当・千聖が割って入る。最近すっかり丸くなってきて、一緒に住み始めた頃の刺刺しい姿は見る影も無くなっていた。

が、今この場に於いては敵であるようだ。

 

 

 

「日菜ちゃんも。…二人で仲良くやったらいいでしょ?こんなにいっぱいあるんだから。」

 

「ひょえっ……え?え??千聖ちゃんあたしの味方じゃないの…?そんなの全然るんってこないよ…?」

 

「はあ。文句があるなら私が全部やるけど?」

 

「「!!」」

 

 

 

いかん、お母さんが腕まくりを始めた。よくよく考えてみれば具材を用意したのは全部千聖だし、食器やら器具やらをセッティングしたのは彩だ。俺はタネを只管混ぜていた記憶しかない。

つまみ食いをしようとしてキッチンに突入したら千聖に冷たくあしらわれちまったんだよな。お陰で右腕がパンパンだぜ。…いや、パンパンパン、くらいにしとこう。

何かを感じ取った様子の日菜と目が合う。…うん、ここは一度休戦と行こう。このままじゃたこ焼きマイスターへの道すら危うい。

あ?たこ焼きマイスターが何かって?しらねえよ。語感だ語感。

 

 

 

「悪かったよ千聖。俺と日菜、協力して究極のたこ焼き、焼くからさ…。」

 

「う、うん。ごめんね千聖ちゃん。やっぱり協力って大事だよね!」

 

「ん。わかったならよろしい。あまり散らかさないように、火傷にも気を付けるのよ?」

 

「「はぁーい。」」

 

 

 

流れる様な連係プレイ。他人だとは思えないね。

呆れる様に微笑みながら彩の横に腰を下ろす千聖を見ながら、第一の壁を乗り越えた達成感を感じていた。

 

 

 

「隙ありぃっ!!」

 

「あっ!?」

 

「ふっふーん。○○くん油断したでしょー。」

 

「あぁぁ!!俺のタネがぁ!!」

 

「タネが無くなっちゃった○○くんはどうするのかなぁ~??ん~??」

 

「く、くそぅ……。」

 

 

 

俺の手からボウル一杯のタネを掻っ攫っていった日菜。勝ち誇ったように燥ぐのはいいが、種無しと連呼するのは辞めてくれ。何だか、他の大切なものまで失ってしまったような気がしてくる。

 

 

 

「悔しいが…今日は俺の負けだ…!!日菜よ…存分に、焼くが良い!!」

 

「よぉーっし、やっちゃうよぉ!!るんっ!るんっ!!」

 

 

 

大人しく引き下がるとしよう。いや、そもそもそこまでやりたいわけじゃないし。

勝利の舞と言わんばかりにるんるん言いながらタネを撒き散らす日菜は置いておいて、俺もそろそろ座ろう。座る先は勿論ここ、従妹である彩の隣だ。

 

 

 

「ふふっ。」

 

「?…どうした、何がおかしい。」

 

「○○くん、子供みたいだなぁって。」

 

「いい歳こいたおっさんにそれはきついぞ…。」

 

「ふふっ、ふふふっ…。ごめんね、つい可愛くって。」

 

「……馬鹿言え。」

 

 

 

俺からしてみれば彩の方がよっぽど子供みたいなんだが…。すぐ泣くし、すぐ怒るし、よく寝るし。

 

 

 

「さ、いつまでも遊んでないで、早く食べましょ。」

 

「そうしよう。…俺も、腹減り過ぎておかしくなりそうだ。」

 

 

 

気付けば空腹が度を超えて吐き気に変わりそうなところまで来ている。ナイスだ千聖。

そうして、夕食会は始まったのだ。

ここからはそう珍しくもない日常風景を送ろう。いや、アイドルたちの…と考えるならばある意味レアものなのかもしれないが。

 

 

 

「あら、おいし。」

 

「ん。何入ってた?」

 

「ふふ、オーソドックスなたこさんね。」

 

「……タコにさん付けすんの?」

 

「あっ。」

 

「かわいいかよ。」

 

「~~~っ///」

 

 

 

「ねーねー○○くん。あたし、焼いてばっかで疲れてきちゃったなー。」

 

「代わろうか。」

 

「うん。腕太くなっちゃうよ。」

 

「そんなんで筋肉が育つかよ…。」

 

「あたしね、チーズのがいいなぁ。」

 

「リクエストは受け付けておりません。」

 

「えっ、酷い!!」

 

「日菜のは全部プレーンにします。」

 

「ぷれーん……って?」

 

「具無し。」

 

「やだぁ!!」

 

「具材は焼き担当の気分次第ですから。」

 

「もー!!あたしがやる!!!貸して!!」

 

「腕太くなるぞ。」

 

「ぐぬぬぬぬ……!!!」

 

 

 

「あふっ、あふあふっ、あふぁふぁふふぁふぁふっ??」

 

「ごっくんしてから喋りなさいな。お行儀悪いわよ?」

 

「はふー…はふー………んぐっ。…あつあつだったけど、美味しいね千聖ちゃん。」

 

「そうね。……ああもう、ソースついてるわ。」

 

「えっ、どこどこ…?」

 

「口の端……そう、そこの…ああもう。」

 

「ま、まだ付いてる??」

 

「動かないで。……はい、取れました。」

 

「ありがとう千聖ちゃん!」

 

「火傷したら困るし、一口で食べるのやめたら…?」

 

「うぅぅぅ……でも、○○くんはひとくちで食べるんだもん…。」

 

「……はいはい、真似っ子なのね、彩ちゃんは。」

 

 

 

「…ほう!こりゃイケるなぁ。」

 

「何だったの??」

 

「納豆。」

 

「へぇ!○○くん納豆好き?」

 

「好きっちゃ好きだし…まあ普通かな。」

 

「ふーん。私とどっちが好き?」

 

「……お前、納豆に勝って嬉しいか?」

 

「うん!」

 

「……まあ、うん、彩はそういうところは子供だな。」

 

「私の方が好き?」

 

「ああ。」

 

「えへへへへへ……じゃあ千聖ちゃんは?」

 

「え。」

 

「納豆と…どっちが好き?」

 

「……彩、こっちのキムチ入りも中々だぞ。」

 

「ほんと??タコ入りじゃなければ食べるよ!」

 

「…お前よくたこ焼きパーティ参加するよなぁ。」

 

 

 

とまあこんな感じで、終始賑やかにタコを炒め付けて楽しんだ。

彩が居て、千聖も居て、日菜もいる。あれからずいぶん経っているけど、俺達の生活は特に変わっちゃいない。

 

これからも、か。

 

 

 

「ねーねー○○くん。これ……どう思う?」

 

「……何だこりゃ。」

 

「残ってた生地にチョコレート混ぜたの。」

 

「おい馬鹿正気か?」

 

「ち、ちち、違うよぅ。彩ちゃんだもん。」

 

「…………。」

 

 

 

粗方腹が満たされた終盤。大人しすぎると思っていた従妹がついに動いた。

日菜を困惑させるとは大したもんだが、どうするんだそんな実験まがいの物質。お母さんに怒られんぞ。

 

 

 

「……ナニコレ。」

 

「ヒェッ、ち、千聖?」

 

「……日菜ちゃん?」

 

「違うんだ千聖、日菜じゃない。彩だ。」

 

「……へえ。」

 

「ただーいま。」

 

 

 

トイレに行っていた彩が戻って来る。ボウルを囲み固まる俺達には目もくれず、席について皿に取っておいたたこ焼きに箸を伸ばしていた。

勿論お母さんが見逃すはずもなく。

 

 

 

「彩ちゃん。」

 

「う??」

 

「食べ物で遊んじゃいけません。」

 

「え……あ、あそんでないよ??」

 

「嘘おっしゃい。……どうして生地にチョコレートなんて混ぜたの。」

 

「あ…えと、そろそろ、デザートかなぁって…思って…。」

 

「…………。」

 

「…………その、ごめんなさい。」

 

「もう。どうするのよこれ…。」

 

「あぅぅぅ……。」

 

 

 

……ここ最近、彩の突拍子もなさに拍車がかかってきたような気がする。こんなことするお馬鹿な子じゃ無かった筈なのに。

千聖に叱られ、しょんぼりしながら擦り寄って来る従妹の髪を撫でながら。茶色の液体を眺める。

 

 

 

「……どうしてあんな挑戦的なことを?」

 

「……今日、あんまり○○くんに構ってもらえなかったから…。」

 

「それは理由にならないだろう…。」

 

「……ごべんねぇ……。」

 

 

 

鼻声になりながらシャツに顔を擦り付けてくる。恐らく鼻水やら口の周りの汚れやらでシャツは滅茶苦茶だろうが、洗濯は千聖の担当。心苦しさを演出しつつ任せよう。

 

 

 

「…ま、食ってみたら案外美味いかも知れないさ。」

 

「えぇ!?○○くん、コレ食べるの!?あたし焼きたくないよこれ…。」

 

「いいからいいから、折角だから食ってみようぜ。」

 

「もう。……甘やかしすぎるのも大概にね?」

 

「ああ。…ってお母さんかよ。」

 

「はあ……あなた達と一緒に過ごしていれば誰でもこうなるのだわ…。」

 

 

 

千聖にはだいぶ世話になっていると思う。俺と彩が絡むと、大体何事も無事には終わらないから。

……まぁ、楽しけりゃいいと俺は思うんだがなぁ。

 

 

 




丸山彩編、第三部です。




<今回の設定>

○○:日菜と波長が合ってしまうのか、千聖の前では二人のクソガキになる模様。
   優柔不断が良い様に作用したのか、誰も傷つかず誰も優先されない、ある意味
   幸せな世界。

彩:一応メインヒロイン。
  この面子だとどうしても影が薄くなりがち。
  最近ちょっぴり構ってちゃん。

千聖:お母さん。
   誰がお母さんよと言いつつも世話を焼いている私生活が楽しいのだとか。

日菜:どうやってもシリアスになれない。
   彼女は今日もるんっと鳴く。

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