BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/08/28 平々にして和みの水音

 

 

リビングには俺と麻弥ちゃん。ついでに日菜。

彩が自室で打ち合わせも兼ねた電話中で、千聖は現在買い出し中。

特に居心地が悪いわけじゃないが、この三人は特に話題も弾まず少々気まずい雰囲気になりがちだ。

手持ち無沙汰なのもアレなので、取り敢えず来客者をイジる。

 

 

 

「…で、何で来たの?麻弥ちゃんは。」

 

「いきなり酷くないっすか。」

 

「だってそりゃ、なぁ…。」

 

 

 

家に来るなり被っていた帽子をソファに叩きつけ、要件も言わずにテレビを眺めてぼーっと……勝手知ったる他人の家とはよく言ったものだが、たまに遊びに来たと思えばこれだ。

俺の疑問だって当然だろうに。

 

 

 

「む。〇〇さんはどうせ一人で寂しく過ごしていると思って、構いに来てあげたんすよー。」

 

「……それが本心だとしたら言いたいことはたくさんあるが……。とりあえず、俺以外に三人も住んでるこの家で一人寂しく~なんて日はない。」

 

「はぁ、全くフシダラなもんっすね。」

 

「うるせぇ。」

 

 

 

元はと言えば確かに俺がハッキリしないせいかもしれない、が、確かにあまり褒められた生活空間では無いと思う。…いや、それで一緒に住もうとするあの二人もどうかと思うが。

日菜は本当に意味がわからないんだが、彩も千聖も声を揃えて「そういうもんだ」と投げやりだ。

もはや新たな生命体だ。

 

 

 

「で?彩さんとは相変わらずヨロシクやってるんすか?」

 

「言い方よ。……彩とは、別に普通の、イトコ的な関係でしか無いわけで…」

 

「ほぉ~。」

 

「あんだよ。」

 

「んじゃ、千聖さんとは??」

 

「……それもまあ、ぼちぼち…。」

 

「ほぉ~?」

 

「……あ?」

 

 

 

いちいち間抜けな声とアホ面で見上げてきやがって。相変わらずPastel*Palettesでもトップクラスの煽りキャラっぷり、マスコミに向けたらそこそこ売れると思うぞ。

事情を知っている友人にもイジられたりはするが、関係性を聞かれたところですんなり答えられる甲斐性があればこんな状況になっていないわけで。

そう言えば日菜が随分静かだ。いつもは一人で五人分くらい煩いだけに静かで居られるのもそれはそれで気になってしまうもんだ。

 

 

 

「……。」

 

「今度は日菜さんを視姦っすか?いい趣味っすねぇ。」

 

「てめぇ、表出やがれ……。」

 

「ハハッ↑冗談じゃないっすかぁ。」

 

「言葉がえげつなさ過ぎんだよ…。」

 

「日菜さぁん!今何中っすかぁ??」

 

 

 

リビングの中央に置かれたテーブルに向かい何やら黙々と書いていた日菜に話を振る。水色の髪をさらりと揺らした彼女は一瞬こちらに視線をやったかと思うとまた手元に戻し、「日記」とだけ言った。

 

 

 

「日記ぃ?」

 

「うん。」

 

「ほえー、日菜さんも案外女の子なんすねぇ。」

 

「お前、言いたい放題な。」

 

 

 

言動が自由奔放を極める今日の麻弥ちゃんは置いておくとして、日記とな?

また何かに感化されたのだろうが、ここ数日オフとかで家に籠りがちな日菜は一体何を書いているのか。

気にはなるが日記だしな。追求するのも無粋と言えるだろう。特に言及することもなく、覗き込もうとする麻弥ちゃんと珍しく恥ずかしがる日菜の攻防を眺めているうちに玄関に人の気配がした。

夏も終わりに近づき、幾分か早めに薄暗くなった廊下に明かりを灯しつつ廊下を覗けば、二つの大きなエコバッグをぶら下げた千聖と目が合う。

 

 

 

「おかえり。重かったろ。」

 

「ただいま。…四人分だしね。すっかり慣れちゃったけど。」

 

「ん。苦労かけるな。」

 

「……あなたがもう少し頼りになればいいんだけどね?」

 

「……持つよ。」

 

 

 

二つの大きな袋を受け取る。できる限りの家事はしているつもりだが、事あるごとにダメ出しを食らうため自身を持って担当できている部分は少ない。

迷惑をかけているとは思うが、買い物に関してはどうも苦手なのだ。目についた商品を買いまくった挙げ句必要なものを何一つ買わず帰宅するなどザラにある。呆れた千聖が買い出しを担当するようになってから我が家の在庫状況はやっと安定したのだ。

頭が上がらないとはこのことだな。

 

 

 

「……ふむ。」

 

「何よ。」

 

「や、想像以上に重いなと思って。」

 

「そうね。」

 

「このちっこい体の、どこからそんな力が出てんだ……?」

 

「……芸能界って、案外体力いるのよ?」

 

「バッグに負けないくらい重みのある言葉だこと。」

 

「上手いこと言ってないで、早く冷蔵庫に仕舞ってちょうだい。」

 

 

 

左手でぱたぱたと顔を仰ぐ千聖を引き連れリビングへ戻る。卵が入っているからあまり乱暴に扱うなとのことだ、慎重を心がけるとしよう。

相変わらずドタバタと騒いでいる日菜麻弥には目もくれず、二人してリビングを通りキッチンへ向かう。

 

 

 

「麻弥ちゃん来てたのね。」

 

「ああ。煩いったらありゃしねえ。」

 

「ふふ。子守、ありがと。」

 

「参っちゃうぜほんと…。」

 

 

 

いつものように二人して荷物を片していると、トタトタと床を鳴らし近づいてくる音が。

長かった電話も漸く終わり、我が従妹が打ち合わせから開放されたらしい。千聖もそれに気づき、「次の仕事がね、中々に込み入ってるらしいの」と補足する。

クイズだったかトーク番組だったかバラエティ系の仕事とは聞いていたが、あまり負担にならないようにしてほしいものだ。芸能人とは言えまだ高校生の女の子。社会の荒波に揉まれるにはまだ準備が足りなさすぎる。

 

 

 

「〇〇くぅん!……あ!千聖ちゃん帰ってたんだ!おかえりー!!」

 

「ただいま。彩ちゃんの方も、無事終わったみたいね。」

 

「う、うん。千聖ちゃんも、聞いた?」

 

「ええ、まあ。あの局、いつも段取り悪いじゃない?」

 

「うん……仕方ない、かなぁ。」

 

 

 

俺にはよくわからない話題ではあるが、ひとまず終わったのなら良しとしよう。話に入れないこともあって手持ち無沙汰だった手で彩の頭を撫でくり回す。

 

 

 

「わふっ…わふわふぅ……っ。」

 

「随分長かったじゃねえか。そんなにヤバい仕事なのか?」

 

「わぷっ……んと、多分大丈夫…かな?前にも似たようなことあったし。」

 

「そか。俺にできることあったら、言えよ?」

 

「う、うん!ありがとう〇〇くん!」

 

 

 

これくらいしか俺に言えることはないが…。少し伸びてきた桃色の髪をぐちゃぐちゃとかき混ぜるようにして撫で続ける。

わふわふ鳴く彩を弄るのは非常に楽しい。癒やしなのだ。本当に、そう、犬を可愛がっているような…。

 

 

 

「も、もういいよっ!」

 

「あん?なんだ、反抗期か?彩。」

 

「そ、そうじゃないけど…ぐ、ぐちゃぐちゃになっちゃうよ!髪!」

 

「……あともう飯食って寝るだけじゃねえか。あ、飯といえばちさ……と…?」

 

 

 

今日の献立を確認していなかったと千聖を見れば、顎に手を当てた神妙な面持ちで彩の頭を凝視しているようだ。

畳まれたエコバッグを見るに収納作業は終わったようだが…。

 

 

 

「千聖?」

 

「え……あっ、何??」

 

「どした、ボーッとして。」

 

「いえその……別に、なんでも無いけど。」

 

「……?」

 

「あ、彩ちゃん。これからご飯の支度するから、先にお風呂入っちゃったら?」

 

「う?……そ、そうだね。あでも日菜ちゃんもまだ入ってないよね。どっち先に…」

 

「あいつならまだ麻弥ちゃんと騒いでるから後でいいだろ。先入ってこいよ。」

 

「そっか。わかったよ。」

 

 

 

風呂の用意は数少ない俺の担当分野だ。勿論、後は湯を張るだけという段階にまで仕上げてある。

家の中だと言うのに小走り気味で遠ざかっていった従妹は自室に寄ってから浴室へ向かったようだ。

先程の千聖の様子は気になったが、本人が何でも無いというのなら何でも無いのだろう。晩飯の用意の邪魔にならないように退散して――

 

 

 

「彩ちゃんは?」

 

「のわぁ!!」

 

 

 

キッチンから出ようと後ろを向けばぶつかりそうなほどの距離に日菜の顔が。気配もなく後ろに立つんじゃない。驚くでしょうが。

 

 

 

「びっくりさせんな…。」

 

「お風呂?」

 

「話を聞け…。」

 

「う?」

 

「……いやいい。風呂行ったよ。日菜はまだ日記書いてるかもってことで、先に行かせたんだ。」

 

「ふうん。」

 

「それがどうかしたか?」

 

 

 

珍しく大人しい日菜は暫し考え込むような素振りを見せ、漸く口を開いたかと思えば微妙にずれた質問を寄越してきた。

 

 

 

「〇〇くん、もうお風呂入った?」

 

「あ?入ってねえよ。」

 

「……一緒に入る?」

 

 

 

ああまたいつものか、と。こいつは少し自分の身を案じたほうがいい。

後ついでに俺の身も。国民的アイドルと一緒に風呂だ?殺されるっつの。

 

 

 

「あのなぁ、だからそういうことは…」

 

「……入らない?」

 

「入りません。」

 

「………。…そ、っか。そうだよね!うん!」

 

「日菜?」

 

「あっははー、〇〇くん変な顔ー!!」

 

「日菜てめえ!!」

 

 

 

なんだか妙な間があったような?

しかしまたすぐにいつものような誂いを始め、軽快な笑い声で罵ってくれた。生まれ持っての顔なんだ仕方ないだろうに。

 

 

 

「千聖ちゃーん、今日の晩ごはんなぁにー??」

 

「んー。最近外食とかお惣菜が続いちゃったでしょ?ちょっと本格的に、和食にしてみようと思うの。」

 

「和食……ふむふむ和食ね。お魚とかー?」

 

「あら、勘がいいのね。鰯が安くなってたから、煮物でも…」

 

 

 

俺を弄り終えたら今度の興味は飯へ。千聖と二人、楽しそうに献立の話をする日菜を置いて、リビングへと撤退した。

 

 

 

「〇〇さぁん!!暇で死んじゃいそうなんっすよぉ!!助けてくださぁい!!」

 

「……君はもうほんとに、帰ったら?」

 

「酷くないっすか!!あんまり邪険にされるとジブンでも、流石に泣けて来るっす…!!」

 

 

 

と思ったら小煩い眼鏡に捕まる。ダラケの極みを家で過ごす彼女にかける温情など無い。

特にリアクションも返さず無言で掛け時計を指差せば、「あ、もうこんな時間なんっすね。やること無いし帰るっす。」とすんなり帰っていった。

本当に何だったんだあいつ。

 

 

 

**

 

 

 

「わふっ、今日も美味しいねぇ〇〇くん!」

 

 

 

少し遅めの夕食。煩いのも帰りいつもの四人での食卓だ。

風呂からあがったばかりのほっこほこな彩は、実に美味しそうに白米を掻っ込んでいる。まさに犬、それもとびきりいい笑顔のだ。

 

 

 

「ま、千聖の料理だしな。ハズレはないだろ。」

 

「そ、お口に合ったならいいけど。」

 

 

 

すっかり当たり前のようになってしまった千聖の料理だが、彼女は一体どこでこの技術を学んだのだろう。思えばあまり千聖の家事情も聞いたことがないし、ここやテレビで見る以外の彼女を知らないのも事実。興味がないと言えば嘘になるが、あまり容易に踏み込んでいい問題でもないような…。

 

 

 

「ねね、〇〇くん、お魚食べた?」

 

「あん?……ああ、食ったけど。」

 

 

 

日菜に訊かれ、手元の煮物を見る。程よく味の染みた鰯の煮物に梅干しが乗っている。

夏も終りが近いとは言えまだ暑さの残るこの時期に、スタミナをつけるにはナイスな選択と言えよう。この魚に、何か仕掛けでもあったのか?

 

 

 

「これね、あたしも手伝ったんだよ!」

 

「……へえ。」

 

「おいし?」

 

「日菜が手伝ったにしては、不思議と美味いな。」

 

「む、どーして素直に褒めてくれないかな…。」

 

 

 

日菜はお世辞にも美味いとは言えない飯を拵えることで有名(俺調べ)だったような。

その彼女が手を加えたとあっては、素直に調子付かせるわけにも行かないだろう。膨れ面の彼女を宥めるように、ぽんぽんとその髪を撫でる。

 

 

 

「はは、そう膨れるなっての。美味しい、美味しいよ。」

 

「もー…すぐイジワルするー…。」

 

「!!」

 

 

 

千聖を見ればなにか言いたげな顔でこちらを見ていたが、目が合うや否や取り繕うように食事を再開した。

また妙な引っ掛かりを覚えはしたがそのタネを聞く。

 

 

 

「千聖、教えるのも上手いもんな。」

 

「……別に、大したことはしてないわよ。」

 

「面倒見がいいっつーか……やっぱお母さん感あるよな。」

 

 

 

前に揶揄った時には弄り半分だったが、最近の千聖を見るに母性のようなものさえ感じる事がある。

事実、我が家から突然千聖が居なくなったりしようものなら、生活も大いに破綻することだろう。有り難いこった。

 

 

 

「千聖ちゃん、お姉ちゃんだもんね。」

 

「は?」

 

「え?」

 

 

 

何だって?

 

 

 

「千聖ちゃん、妹いるんだよ。確かみっつかよっつくらい年下の。」

 

 

 

なんてこった。千聖に妹?

三つか四つ違いといえば、今は中学生か。成程面倒見の良さも頷ける。

彩は「言ってなかったっけ?」とすっとぼけた顔をしているが、仮にも芸能人のプライバシーに関わる情報をそうぽんぽんと喋っていいものじゃないだろうに。抜けている従妹で、本当に申し訳ない。

 

 

 

「そりゃまぁ…千聖に似て、可愛いんだろうな?」

 

「なっ…!」

 

「うん、すっごく可愛いよ。一回か二回くらいしか会ったこと無いけど、挨拶もしっかりできるしいい子なの。」

 

「ほほう…!」

 

「い、妹のことはいいじゃない。そんなにも似てないし…。」

 

「なんかね、千聖ちゃんと背はあんまり変わらないんだけど、髪が短くってね。顔はほんとにそっくりって感じだった。」

 

 

 

……背は、同じくらいなのか。

いやしかし、この可愛らしさが二つ並ぶと考えると…

 

 

 

「それは、眼福だよなぁ…。」

 

「っ…!」

 

 

 

つい、口に出してしまうほど、素敵な光景を思い浮かべてしまった。

その後も千聖弄りをしつつ楽しい夕食時を過ごした。

 

 

 

**

 

 

 

食事後の片付けも、俺の数少ない家事担当だ!

千聖と並んでシンクに跳ね返る水音を聞きながら食器を洗っては仕舞っていく。

因みに日菜は風呂に、彩は課題が何とか言いながら自室に引っ込んでしまった。

 

 

 

「…………。」

 

「……………。」

 

 

 

無言の間に、食器の当たる音と水の流れ落ちる音だけが響く。

それでも日常のワンシーンとして、とても居心地のいい無言の間だった。

 

 

 

「……にしても、千聖に妹とはな。」

 

「もう、そんなにおかしい?」

 

 

 

目線は逸らさず、手も止めずに。

不意に出したのは先程の話題だった。

 

 

 

「おかしかないけどさ。てっきり一人っ子だと思ってた。」

 

「へえ。……我儘に見えたかしら?」

 

「そうじゃない。……意外っつーか、なんつーか。あまりにも芸能人として出来上がりすぎてて、「きっと大人達の中だけで過ごしてきたんだろう」って、勝手に思ってたんだよな。」

 

「そう。……こんなんでも一応お姉ちゃんよ。誇れるほど、立派な姉じゃ、ないけど。」

 

「馬鹿言え。お前で誇れねえなら世の姉は大概ミソッカスになっちまう。」

 

「ふふ。」

 

「だろう?」

 

「優しいのね。」

 

「真剣だぞ、俺は。」

 

「……キャリアは恵まれたものだから。姉として、私があの子にしてあげられたことなんて、何も。」

 

「…………。」

 

 

 

沈黙。

千聖がそう言うならそうなのだろうが。これだけの経歴を築き上げる中で、家庭の時間など無いに等しかったのだろう。

自嘲気味に零す千聖に、多忙を極め一杯一杯になっている幼い彼女の面影を見るのは、そう難くないことだった。

俺は、どんな言葉を掛けてやることができるだろう。

 

 

 

「きっとあの子も恨んでいる……いえ、案外何とも思っていないかもしれないわね。殆ど、会話もない姉妹だったから。」

 

「だったら、今からでも……いや、よくやってるよ、千聖は。」

 

 

 

黙々と作業していたからだろうか。気づけばもう洗うものは何もなく、止まった水音に二人して濡れた手を拭くだけだった。

妙に手持ち無沙汰になり、二人立ち尽くす。

 

 

 

「本当に?」

 

「……ん?」

 

「よくやってる、って。」

 

「……ああ。」

 

「あなたも、いいお兄さんよね。」

 

「……俺に兄弟居るとか言ったっけ。」

 

「彩ちゃんがいるじゃないの。」

 

「従妹!!」

 

「妹みたいなもんでしょ。」

 

「いや……あれ、そうなのかな。」

 

「いい兄妹よ。」

 

「……意外つったらさ。」

 

「?……ああ、ふふっ、彩ちゃん?」

 

「ああ。」

 

「妹さん、居るのよね。」

 

「やばいよな。」

 

「彩ちゃんは完全に妹よね。」

 

「それな。」

 

 

 

そういやそうだった。話が流れに流れている気もするが、彩はあれでいて姉なのだ。

親連中の話を聞く限り、妹のほうがよっぽどしっかりしてそうな気もするが……。

以前に聞いた話じゃ本気になって同等の喧嘩をするとか何とか……千聖とはまた一風違った"お姉ちゃん"であるらしい。

歳が大きく離れていることもあって妹くんには未だ会ったことがないが、苦労していることだろう。南無。

 

 

 

「さて、と。」

 

 

 

しゅるりとエプロンの紐を解いた千聖が小さく零す。

俺が顔の知らぬ従妹に思いを馳せている間に、シンクやら三角コーナーやらの後始末は済ませてくれたようだ。

 

 

 

「ん。おつかれさん。」

 

「あなたもね。」

 

「……。」

 

「……私はお風呂に行くけど、あなたは?」

 

 

 

何と言っていいか妙な間にぼんやり眺めていると、その端正な顔から事も無げにトンデモワードが繰り出される。

ここへ来てその話題……もしかして、誘っているのか?

 

 

 

「それ、は、一緒に、って、こと、かっ?」

 

「ぶはっ」

 

 

 

吹き出した。ちくしょう。

 

 

 

「もう、真剣な顔で何言ってるの……!馬鹿?」

 

「違ったのか……。」

 

「彩ちゃんじゃあるまいし、そんな大胆な誘い方しないわよ。」

 

「へ?彩?」

 

 

 

ケラケラ心底可笑しそうに笑う千聖。何だか無性に弄ばれた気分だが、彩だってそんな事は言わないだろう。

そういった揶揄いは寧ろ日菜の担当だと思ったんだが……千聖にはそのイメージがないのか。

先程彩の姉感の意見が合ったばかりに、少し寂しい気分だ。

 

 

 

「日菜じゃなくて、彩?」

 

「はぁ?日菜ちゃんはあなたにそんな思い切ったこと言わないでしょ?」

 

「言ったが?」

 

「……なんですって?」

 

「一緒にお風呂入るかーって、さっき。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「まさか、一緒に入っ」

 

「入るわけ無いだろ!?」

 

 

 

一ミリでもその可能性があると思われているのも何だかな。お前こそ、真剣な顔で何言いいだすんだ。

俺の食い気味な返答に、尚も笑い声を上げる千聖。今日はご機嫌だな。

「そうよね、あなた意外と意気地なしだものね」と聞き捨てならないセリフを残し、キッチンを出ていった。

その意気地なし故のこの状況か、()()()と考えられるか……何にせよ、今日も変わらず時は流れる。

 

 

 

「……このまま、彩とも千聖とも関係性を変えずに居られたら、なぁ。」

 

 

 

あの告白以来、二人の"お姉さん"に半ば怯えながら生きているような、そんな気がした。

 

 

 







<今回の設定更新>

〇〇:ずっとこのまま何事もなければいいなぁ……なんて思ってみたり。

彩:妹、居るようには見えないのよね。(千聖)

千聖:妹とは多少ギスギスしているようだ。
   しっかり者でありながら日陰を好む妹とはあまり馬が合わないそう。

日菜:最近おとなしめ。どうした日菜たん。

麻弥:相変わらずのポジション。
   主人公に対しての遠慮もどんどん無くなっていく。
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