BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「もー!またこんなとこにいるー!」
天気もよく、程よい気温に保たれた屋上。ここ四時間ほどの安眠を妨げるように、開け放たれたドアから届く可愛らしい怒声。
その声に、閉じきっていた目をうっすら開ける。
「お兄ちゃん!午前中の授業、全部出てないでしょ!」
「……ああ、今日はでなくてもいい日なんだ。」
「嘘ばっかり。そんなわけ無いでしょ。」
「うるせぇなぁ…。」
相変わらず世話焼きの妹だこと。…つぐがここに来るってことは、時間的には昼休み頃ってわけだ。
道理で腹が鳴る…と思いつつ横たえていた体をゆっくり起こす。
本来立ち入り禁止の屋上。その隅、貯水タンクと避雷針があるブロックの影が、俺たちの絶好の寛ぎポイントなんだ。
「大体な、屋上は立ち入り禁止なんだ。そんなところにつぐみたいな"良い子"が来ちゃダメだろ?」
「お兄ちゃんもでしょ!…ほら、早く行くよ。午後の授業はちゃんと出なきゃ。」
「こらこら引っ張るな…。…ふんっ!」
「きゃぁっ!?」
ぐいぐいと引っ張ってくる腕を逆に引き返し、体勢を崩し倒れ込んでくるところを抱え込む。そのまま先程までの寝る姿勢に入り…
「ちょ、ちょっとだめだってば!…こんなところに寝転がったら制服も汚れちゃうし髪だって…」
「いいだろ?たまにはお兄ちゃんと一緒に寝やあな。」
「……一緒に、寝たいの?」
「あぁそうだなぁ、つぐが一緒に寝てくれなくなって寂しくなったもんなぁ…」
「うーん……。」
勿論そんなことはない。ある程度の年になった子供たちが部屋や寝所を分けるのは当たり前のことだと思うし、それに対してなんの不満もない。
プライベートが確立されるって大事だしな。
「じゃあ…」
「ん。」
「……きょ、今日から一緒に寝てあげるから…。午後は授業、出よ?」
「……んん??」
どうやら俺の適当な口先マジックを本心と受け取ったらしい妹は、それを交換条件に授業へ出ることを提案してくる。
だがな妹よ。それはいくら何でも安すぎる取引だと思わんかね?
「寝るだけか?」
「えっ?」
「俺が授業に出たら、一緒に寝てくれるだけなのか?」
「えっ、えっ?…もっとしてほしいこと…あるの?」
そうだなぁ……。どうせなら、もっと恥ずかしがる姿も見てみたいし、困っている様子を見るのも面白い。結局のところ、妹ってのは可愛いもんだしな。
「よし、じゃあ帰りに着ぐるみパジャマを買って帰ろう。」
「!?どうしてそうなったの!?」
「んで、それを着て暫く俺の部屋で過ごしたあとに一緒に寝よう。…それくらいしないと、交換条件にはならないなぁ。」
「…お兄ちゃん、ただ困らせたくて言ってる?」
鋭いな。
「……いや、お兄ちゃんはこう見えて寂しがり屋さんだからな。もっとつぐを近くで見て、ずっと一緒にいたいんだ。」
どうせなら本気っぽく、ということで熱演してみることにした。
妹への愛情を熱く語る兄貴。…うん、この程度で騙されるようなら余程の馬鹿者だ。
「……へー?そ、そうなんだ…。お、お兄ちゃんがそうしたいっていうなら、べ、別にそういう条件にしてあげても?いいけど?」
馬鹿だった。
「……はぁ。…行くか、つぐ。」
「う、うんっ。」
**
久々に真面目に授業に出た気がする。当然そこまでの過程を全く受けていないわけだから内容はチンプンカンプンだし、周りの奴は物珍しそうにジロジロ見てくるしで全く居心地の悪い時間を過ごした。
そんな無意味な時間を経て、放課後。
「お兄ちゃーん!」
「……つぐ、恨むぞ。」
「ん??…授業、どうだった?」
「最悪。」
「もーまたそんなこと言って…」
「…約束、忘れてないだろうな?」
「う……。」
「あ!うーん!ちょっとだけ待っててー!」
「……宇田川の姉の方か。」
「うん。校門まで一緒に帰ろうって。」
「ふーん……俺も一緒にいて問題ないのか?あいつは。」
宇田川巴。…俺とつぐの幼馴染と呼べる関係性の女だ。どうもここ数年馬が合わなく、顔を合わせては啀み合ってばかりな気がする相手だ。
その度につぐが空気の回復に一苦労する羽目になるので、あまり関わらないようにしていたんだが…
「……どうだろ。ちょっと訊いてくるね。」
教室の入口まで駆けていくつぐ。何やら話しているようだが……おっ、つぐからOKのハンドサイン。
カバンを持ち二人に近づいていく。
「ようトモ。俺も一緒で平気なのか?あ?」
「…なんで最初から喧嘩腰なんだよ。」
「さあな。行くぞつぐ。」
「あっ。」
俺と巴の間でキョドキョドしているつぐの手を握り、引っ張るように歩き出す。
つんのめる様な形で付いてくるつぐのもう片方の手を、巴が掴んだ。
「……何の真似だ?」
「兄貴だからってつぐを独占しすぎなんだよ。…校門までは、アタシが先に約束してたんだからさ…。」
「巴ちゃん…。」
「ちっ…好きにしろ。早く行くぞ。」
廊下を横並びに広がって歩く三人はさぞかし滑稽だっただろう。
宇田川巴はそういうやつなんだ。昔から、俺とつぐが一緒にいると必ず割り込んで来て張り合おうとするような。
**
「ばいばーい!また明日ねー!!」
校門まで、なんとか揉めることなくたどり着いた。と言っても、口を出さないようひたすら歩きスマホに勤しんでいただけなんだけど。
漸く煩いのも居なくなり、俺たちの家路に就く。
「…偉かったね、喧嘩我慢できて。」
「…ガキ扱いすんな。お兄ちゃんだぞ。」
「ふふっ、双子だもーん。…考え方によってはわたしの方がお姉ちゃんなんだからね?」
「そうかよ。……あ、忘れてないよな?」
「なに??」
「ド○キ行くぞ。パジャマ買わなきゃ。」
「う……ほ、本当に行くの?」
「当たり前だ。」
「うぅ…。」
**
店内でも散々
今はあいつが風呂に行っているため、その内どれを着て戻ってくるのか予想し待っているところだ。
候補は、ピンクのファンシーな豚、黄色いふわっふわのひよこ、グレーでさらさら素材が素敵なネズミだ。ふふん、風呂に合わせて好きなものを選ばせる兄貴の懐の深さよ。どうよ?
「しかし、どれも可愛いからって奮発しすぎたなぁ…。暫くは贅沢できねえぞこりゃ…」
一着
○ンキ侮れねえわ。
!!
「おかえ………り?」
「………は、はずっ、はずかしいんだけど、これ。」
「つぐ………お前……」
「お、お母さんにも変な目で見られたしっ!」
正解は…………ネズミだった。
ドアから少し覗き込んで入室してくる様子も、ちょこちょこと小股で隣まで駆けてくる様も、全てがぴったりマッチしている。最高の可愛さだ。
「…………。」
「も、もう!何か言ってよ!!」
「……お前、何かあざといな。」
「!?……お兄ちゃんが着させたんでしょ!?」
「でもそれ選んだのはつぐじゃん?」
「うっ…!」
「…いいじゃん。似合ってて可愛いぞ?つぐ。」
「………ばかぁ!」
真っ赤な顔でジタバタするつぐ。いいじゃん、可愛いって褒めてんだから…。
結果的に、つぐ自身気に入ったようで、これ以降家の中で着ぐるみパジャマのままウロウロすることが多くなった。
眼福、眼福…、
着ぐるみパジャマは至高
<今回の設定更新>
○○:朝のHRが終わってずっと屋上にいた。
友達と一緒だったがそいつはつぐみの波動を察し撤収していたらしい。
シスコンではない。
つぐみ:お兄ちゃんにはちゃんとしてほしい。
別に恥だとかはないけど。
ブラコンではない?
巴と主人公がバチバチやりだす度に胃が痛むが、もう諦めている。
巴:主人公が堕落し始めてから嫌悪するようになった。
ただ、嫌っているわけではなく、元の真人間に戻って欲しいと思っている。