BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/08/21 さらば通い妻(終)

 

 

 

「お、おぉぉぉぉ…!!」

 

「ふふん。どーだ?」

 

「お前すげえな。あの汚かった俺の部屋とは思えねえ…!!

 帰ってくる部屋間違えたかと思ったわ。…もうずっと家にいろよ。」

 

 

 

仕事から帰宅し、玄関のドアを開けるなり眩しく光り輝かんばかりに綺麗になった部屋に目を奪われた。

 

 

 

「ははは!そーだろそーだろ!!…え、ずっとって言った??」

 

「あ?あぁ。」

 

「わひゃぁあ……///」

 

 

 

隣の口の悪いツンデレさんが顔を手で覆って踞る。直前までその立派な胸を張ってドヤ顔してたのに、百面相かね。

 

 

 

「なんだよ、いないいないばあか?」

 

「うっさいな!恥ずかしがってんだよばーか!!」

 

 

 

お、韻を踏んでくるたぁ余裕あるじゃないか。

そもそも事の発端は今日の朝、出勤前の出来事。

 

 

 

**

 

 

 

「…ーい、おきろよぉ。」

 

「……あ?」

 

「○○…おきた?」

 

「……おきた。」

 

「おはよ。」

 

「おはよ。」

 

 

 

()()()、あの彩沙さんの一件があって以来、有咲は毎朝起こしに来るようになった。

朝はそのまま飯やら色々やってくれて、俺の出勤に合わせて帰る。

夜は俺の帰宅より少し前に来ていて、帰った時には晩飯を用意して待っててくれる。そんな毎日だった。

もちろん、鍵は渡してある。不法侵入じゃないからね。

今日も同じように、起こしに来てくれている。

 

 

 

「お前、いつになったら自分で起きられるんだよ…」

 

「んー…有咲にフラれたらかなぁ…」

 

 

 

勿論自分ひとりで起きれないわけじゃない。

今は使っていない目覚まし時計も、何ならスマホのアラームアプリやパソコンの目覚ましソフトなんてのもある。

有咲が起こしに来る以上、有咲に任せたほうが心地良く起きられるし、何より二人ともハッピーになれる。

よって、この答えは嘘じゃない。

 

 

 

「…それはあれか、一生起きねえぞっていう宣言か何かか?」

 

「……それは、一生一緒にいてくれる的な答えってことでいいのか?」

 

「~~~~~ッ!!」

 

「…照れるなら言うなよ…」

 

「うっさい!ばかっ!早く起きろっ!」

 

 

 

寝起きの弛んだ鼓膜を、有咲のちょっと癖のある声が震わす。…今日もいい目覚めだ。

有咲に指差しで指示されつつシャワー・着替え・飯・歯磨き…と進めていく。

因みに、有咲の提案で所謂「朝シャン派」に転身を遂げた。俺は寝癖が凄いんだ。

 

 

 

「…あ、ほら、またネクタイ結んでるぞ?

 今の期間はクールビズでノーネクタイだろ??」

 

「あー…ぼーっとしてたわ…。」

 

「それにほら、ヘアアイロンかけてないだろ?電源だけつけて放置してからに…。

 後ろも横も…ふふっ、まだ撥ねてるぞ。…ちょっと可愛いけど。」

 

「あらー、そら大変だな。飯食ってからでいいかな。」

 

「もー…。飯食ってろ、その間に私がやる。」

 

「おー…いただきまぁす。」

 

「しっかり食べろよ?今日も忙しいだろ??」

 

「んぅ………。…なぁ有咲。」

 

「相変わらず強ぇ癖だな…あ?なに?」

 

「いつもありがとうなぁ…。」

 

「…!!……別に、○○が私居ないと何もできないの…知ってるし…。」

 

 

 

別にできるんだけどね。とは言わなかった。

野暮ってもんだ。もっと照れさせておこう。

やがて、ぶつぶつ言いながらも進めてくれていた髪のセットが終わったらしく、後頭部から熱が離れていく。

 

 

 

「…あの、さ…○○。」

 

「んむんむ……んぁ?」

 

「よかったら…その………。」

 

「むぐむぐむぐ………ごくっごくっ、ふぃー。」

 

「私、暫くの間、泊まり込みで世話したげようか…?」

 

「!!ゲッホゲェッホ!!ォェエ!!」

 

「わ!わ!ご、ごめん…!そんな驚くこと…ないだろ…ほら、お茶!」

 

 

 

とんでもない提案に喉を過ぎた直後の味噌汁を気管支にもお裾分けしてしまったようだ。

近年稀に見る酷さの咽せ方を見せてしまったわい…。

涙目で茶を啜り、有咲を見上げる。

 

 

 

「ぅ……わ、わるかったよ…。

 で!でもほら、私が毎日一緒に居たら、嬉しくない…?

 …な、なんちって!なんちって!あははは!」

 

「……そうだな。それもいいかもな。」

 

「へ…?」

 

「でもほら、簡単に言ってもそういうわけにはいかないだろ…?がっ」

 

「い、いーんだよ!別に家にいてもすることないし、ばあちゃんならOKくれるだろうし!!」

 

「いやそうじゃなくて、がっこ」

 

「じゃぁ、早速電話してみるよ!!○○はご飯食べてて!!」

 

 

 

…泊まりたいならそういえばいいのに。わかりやすい奴。

お祖母さんと電話してるあの顔よ。あんなに嬉しそうな表情久しく見てないぞ…?

…あれ、待てよ?俺(社会人・成人済み)の家に、有咲(高校生・当然未成年)が暫く泊まるってことだよな…?

あぁぁあ!やめろ!湧いてくるな!"犯"から始まって"罪"で終わる二文字!!

あんまりそういうの詳しくないけど、高校生相手に手ぇ出しちゃまずいんじゃないか!?

同意とか非同意とか関係あるのかな?あってもダメそうだな…!うえぇぇ…めんどくさそう…。

 

 

 

「そだよ!○○のとこ!」

 

「…うん。……うんっ!そーそー。」

 

「…………。」

 

「…えへへへへ、うん。…う?」

 

「うんっ!○○が、いーって!!」

 

「あぁ…………。」

 

「そーするっ!じゃあ昼過ぎに一回帰るね。」

 

「わーかってるよぉ。面倒見てるの私の方なんだから~。えっへへ。」

 

 

 

幸せそうに話している有咲を見てると、何だか色々どうでもよくなってきた。

確かに色々面倒臭そうとも思ったけど、なんでもいいや。

取り敢えず、毎日有咲と一緒にいられるってことだよな?…それがいいや。

 

 

 

「おっ、どーしたぁ?○○ー。」

 

「お前、すげえゴキゲンな。」

 

「へへーん、ばあちゃんが、暫く泊まっててもいいってさ!」

 

「おー…。じゃあ、今度挨拶行かなきゃなぁ。」

 

「ばっ!?…そ、そういうのじゃ、ないだろ…

 まだ、早ぇよ……ばか。」

 

「…そういうのじゃねえよ。ウチに泊まる件。

 お前、ちょくちょく妄想が飛躍するよな。」

 

「~~~ッ!!」

 

「い、いてえ!いてえって!味噌汁溢れる!!」

 

 

 

ウチに泊まるにあたって、その恥ずかしがる時に人を叩く癖はやめような。

あーあー…味噌汁浸しの焼き鮭なんか食いたかねえよ…。

 

 

 

「お、お前が変なこと言うからだろっ!!」

 

「変なのはお前だ。…まあいいや、じゃあ今日からよろしくな?」

 

「う"……うん。よろしく…。」

 

「うっし、じゃあ時間もないし、さっと食っちゃって行ってくるわ。

 今日は?昼頃荷物取りに行ってからはずっとウチにいるのか?」

 

「う、うんっ。…そのあと掃除でもしてようかと思ったけど…だめ?」

 

 

 

食べ終わり、流しの指定された場所に纏めて重ねる。…水だけは張っておかないとな。

そのほかの準備は有咲のヘルプもあって大体終わっているので、そのままの状態で洗面台へ。

仕上げに歯を磨かなきゃ。これもちゃんとやってるかどうか監視されてるんだよなぁ…。

 

 

 

「いや、助かる。戸締りだけよろしく頼むな?」

 

「うん!!」

 

 

 

それだけ告げて口を泡で満たす。

勿論返事が出来る状態じゃないのは有咲も承知なので話しかけてこない。

ただ、腰に手を当てて仁王立ちの有咲(衛生士)さん。あぁ、居心地は悪いけど、俺の歯が心配とのことなのでそっとしておこう。

いつもそうだけど、ブラッシングが終わるまでの数分間、ずっと身動ぎ一つせず見てるんだよな。

 

 

 

「OK?」

 

「うん、よくできました。」

 

「はいはい、ありがとう先生。」

 

 

 

先生のOKを貰ったその足で玄関へ。

本当に、一人の時よりスムーズに事が運ぶなぁ…。

 

 

 

「よし、じゃあ今日は初めて言う事になるな。」

 

「…う?」

 

 

 

玄関で革靴に足を入れ、振り返る。

鞄を持って首を傾げる有咲。

 

 

 

「家を任せたぞ?…行ってきます、有咲。」

 

「ぁ……!…い、いってらっしゃい…あなた…」

 

 

 

最後の一言は別に期待しちゃいなかったが、あいつの頭の中ではまた何かが飛躍したんだろう。

俺は後ろで「ひゃぁぁああ…///」と壁に頭を擦りつける有咲をしっかりと目に焼き付け、出勤した。

 

 

 

**

 

 

 

「さっすが、有咲の家事の腕はピカイチだなぁ…。」

 

「うぅ……そ、そうだろ…」

 

「ところでさ、朝は訊けなかったんだけど。」

 

「なに?」

 

 

 

散々訊こうとしたのに有耶無耶になっちゃったからな。

 

 

 

「お前、学校は?今は行ってなくても、いつかは行かなきゃ…」

 

「あぁ?…い、いーんだよ、学校は。」

 

「いいってことはないだろ…。

 うちに泊まるからってのは理由にならないからな?」

 

「違う理由、だけど…。

 あの…就職、決まったから。」

 

 

 

…おいおい聞いてないぞ。

いつ就活を?…というか、学校すら行った素振りなかったのに…。あっ。

 

 

 

「あぁ、結局継ぐのか?流星堂。」

 

「…いや、そうじゃないけど。」

 

「んん??じゃあ、どこに…」

 

「……○○の、お嫁さん。」

 

「………あ、アイヤー。」

 

「な!…だ、だめだった……?」

 

 

 

うーん。突拍子もなさすぎて思考が止まっちまったぞ?

思わず似非中国人みたくなっちまった。

でも、そのウルウルの上目遣いで我に返ったぞ。

 

 

 

「だめじゃないけど、いきなりだったからなぁ…。」

 

「ご、ごめん…だからそのっ、じゅ、準備期間的な…?居候っていうか…?その…。」

 

「……ブフッ。…はははっ!!大丈夫大丈夫!

 そうだな。準備期間とか、体験期間?みたいのは大事だもんな。」

 

「う……ばかに、してる?」

 

「してないよ。でもこれで、外で有咲のこと「嫁」って紹介しても問題ないよな?」

 

「え、あっ…ひゃわぁぁぁああ…///」

 

 

 

有咲は"通い妻"から"居候妻"にクラスアップした!!

流星堂からの居候、かぁ。

 

 

 

終わり




【市ヶ谷有咲・通い妻】編、最終回になります。
ご愛読ありがとうございました。




<今回の設定更新>

○○:懐は広いのかもしれない。
   恐らく一生自力で起きることはない。

有咲:クラスアップおめでとう。
   残す段階は何段階あるのやら…。
   そういえば今更だけど、まだ付き合ってもいないよね…?

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