BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

137 / 278
【丸山彩Ⅰ】アイドルと同居生活始めました。【完結】
2019/06/23 たこ焼きはアイドルを喚ぶ


 

 

 

「あ、あんた…どこから入って…ってか、アイドルの…?」

 

 

 

休日。

…まあ、友達も恋人も嫁も居ない俺には、ただ仕事があるか無いかの違いしかないのだが。

折角久々に何の用事もない休日ということで、1人たこ焼きパーティを開催していた。

といってもまだ鉄板に熱を入れ始めたところで、実食には至っていない。

 

夕方から食材を買い回り、久々に出した調理器具も綺麗に洗浄、タネも仕込みを終え、いざいただきます!というところで、さも当然のように一人の少女が部屋に入ってきたのだ。

 

 

 

「あら、鍵なら開いてたわよ?

 一人暮らしで在宅中とは言え、無用心だと思うけど…ねえ、○○さん?」

 

「な、なんで俺の名前を…知り合い…?いやいや、あの有名女優…いやアイドルか?

 そんな人と俺に接点があるとは…」

 

 

 

―――白鷺千聖。

かつて天才子役として登場して以来、芸能界という表舞台で活躍し続けているという、平凡な営業職の俺とは謂わば真逆の人間。

最近はアイドルバンドを結成したとかなんとか。

その"有名人"が、さらっと俺の名前を呼んだんだ。

そりゃ動揺もする。

なんだこれ、企画?ドッキリ?一般人の家に??

 

 

 

「接点…?おかしな事を訊くのね?

 貴方、自分の人間関係も把握できてないの?」

 

「えっ…俺には芸能関係の知人なんていないと思うけど…」

 

 

 

ガチャ。

 

 

 

「もう、千聖ちゃん…なんでそんなに足速いの…

 あ、○○くん!久しぶり、お邪魔します!」

 

「うぉ、あんた、パスパレの…」

 

「??

 丸山彩です!!」

 

「おぉおお……ファンです。サインください。」

 

「へ!?さ、サイン…?

 私のサインなんか…欲しいの?」

 

「当たり前じゃないですか!!

 彩さんの歌超好きで!この前のシングルも……あれ?」

 

 

 

あれ、ちょっと待て。

今まで散々メディアで見かけて引っかかりもしていなかったが。

俺の母方のじいちゃんの苗字が確か…丸山。

母さんには確か一つ違いの兄貴がいて、そこの一人娘の名前が…

 

 

 

「彩…。」

 

「ふぇ?…あ、思い出した?」

 

「ええと…爺さんの葬式の時に会った限りだったっけか…。」

 

「うん♪

 あの時は私まだ小学生だったけどね。○○くん、大きくなったね!」

 

 

 

いやいや、俺当時高校生だぞ…。

あんま伸びてねえよ。

 

 

 

「それで…こんな久しぶりに、ってか急に何の用だ?

 …お友達も連れてきちゃって…。」

 

「あ、そうだった。

 あのね、おばさんがね。」

 

 

 

彩の話だとこういうことらしい。

まず彩の住んでいたアパートが改築により一時的に住めなくなること。

とは言え田舎から出てきているため地元が遠い彩は泊めてもらうような知り合いもいないこと。

実家に相談したところ、親族内で宛を探すこととなり、俺の母親にも連絡が行ったと。

何を思ったか母さんはちょうど上京してる息子が居るから住んじゃえばと提案。

彩の両親も俺なら安心かとゴーサインを出した、と…。

 

親族全員アホなんじゃねえの。

ゴー出してんじゃねえよ…。

現役女子高校生を久しく会っていない従兄妹に預けるとか…。

 

 

 

「なるほど…話はなんとなくわかった。

 けどさ、不安とかねえの?」

 

「??○○くん、泊めるの嫌だった?

 あ、家事とかなら、出来る限りはするから!それにそんなに長くない間だし!」

 

「そういう問題じゃ…どれくらいの間?」

 

「えぇと…。半年くらい?」

 

「バカこの。それもう建て直しのレベルじゃねえか。」

 

「でもほらイトコだし!

 知らない人じゃないし!○○くんなら大丈夫かなーって。」

 

 

 

マジで言ってんのか。

危機感というか、女の子としての自覚無さすぎでは?

 

 

 

「…白鷺さんは、心配というか、止める為に付いてきたってかんじかな?」

 

「当たり前でしょ。仮にもアイドル活動をしている身で、そんなスキャンダルに繋がりかねないことさせられないし。

 そもそも、貴方みたいなよくわからない異性と一緒に住むって、危険極まりないでしょう。

 非常識にも程があるわ。」

 

「あんたが常識ある人でよかったよ。」

 

「わー。○○くん、たこ焼きしようとしてた?

 ね、ね、このぽこぽこ窪んでるのってたこ焼きの鉄板だよね!」

 

「……あー。食おうとしてたとこに白鷺さんが来たんだよ。」

 

「邪魔したみたいな言い方ね。」

 

「せめてチャイムとかノックとかは欲しかったんだぜ。

 それがあれば邪魔とは言わなかったさ。」

 

「○○くん、○○くん。たこ焼き、タコ以外の具はあるのかな?」

 

「……食いたいの?」

 

「うん。ご飯食べないで出てきちゃったから、お腹すいちゃって…。」

 

 

 

まぁ何とも自由なイトコだわ。

見ろ、白鷺さんも苦い顔してんぞ。

 

 

 

「今タネ追加するから…座って待ってな。

 白鷺さんもよかったら食うか?まさかあの状態の彩を残して帰るとか言わないだろ?」

 

「…はぁ…。仕方ない、いただくわ。」

 

「おう、苦手なものはあるか?」

 

「私は特には…

 彩ちゃんは、たこが苦手だったと思うのだけど…。」

 

「おい、食うのたこ焼きだぞ。」

 

 

 

独り寂しくたこ焼きパーティを開く予定だったが、思わぬ来客によりどエライ華やかさを纏ったパーティになっちまった。

芸能人と自宅たこ焼きとか非現実すぎる。

因みに、彩には適当に冷蔵庫の余り物を突っ込んだ謎焼きを食わせておいた。

おいしいおいしいと食べていたが、あいつの舌ぶっ壊れてんじゃねえの。

 

 

 

**

 

 

 

「……悪いな、片付けまで手伝ってもらって。」

 

「ご馳走になったんだもの、これくらい当たり前でしょ。

 …それよりどうするの、彩ちゃんのこと。」

 

「そうだなぁ…親サイドにもう一度相談して、取り敢えず今日はホテルでも取って…。」

 

「……そう。

 ………ねぇ、お願いがあるんだけど。」

 

「なんだ。」

 

「彩ちゃんを暫く泊めてあげて欲しいの。」

 

「はぁ?さっきまでと言ってることが違うぞ。

 どうした天才女優。」

 

「うるさい。

 あの子の態度とか接し方を見てたら、本当にあなたを恐れていないというか

 ただの親戚っていうよりももう少し近しい存在みたいに感じたのよ。

 だから…彩ちゃんがそれでいいと思っているなら、そうしたいと思っているなら、

 信じてあげるのも一つってね。」

 

「ふーん…。」

 

「ただ、条件があるわ。」

 

「なんの条件よ。」

 

「さっき挙げた不安要素。スキャンダルとか貴方が何か仕出かすとか…。

 そういったことを少しでも防ぐために、私も同じ期間ここに住むわ。」

 

「あんた、台本ないとバカみたいなことしか言えないのか。」

 

「なっ…!今日会ったばかりで随分な口を利くじゃない。」

 

「彩だけなら、親戚ですって話で何とかなるかもしれんが…

 白鷺さんと俺は完全に他人だろ?より不安要素が濃くなるんじゃねえの。」

 

「…でも……じゃあ、今日は彩ちゃんを連れて帰るわ。」

 

「それは別にかまわないけど…。」

 

 

 

ちらりと彩の方に視線を移す。

釣られるようにして白鷺さんもそちらを見て、あっと小さな声を上げる。

 

 

 

「すっげぇ気持ちよさそうに寝てるアレ、起こせるか?」

 

「……はぁ。

 今日はとりあえず私も泊まるから。あなたは床なりソファなり適当に寝て。」

 

「………わかったよ。」

 

 

 

俺のダブルサイズのベッドを占領するように、大の字で幸せそうな顔をしている彩。

さぞ満腹になったのか、これ以上ないほどに弛緩しきったその表情からは1ミリの力も感じられない。

 

かくして、久々に再会を果たした従兄妹と超絶有名芸能人と凡人の俺との

奇妙な共同生活は始まりを告げた。

 

 

 

「白鷺さん、そのパジャマ…。」

 

「な、なに?似合わない?」

 

「いや、泊まる気満々やんか。」

 

「ッ…!」

 

 

 

 




美味しかったんですが、中の汁のせいで唇を火傷しました。
絆創膏貼ってます。





<今回の設定>

○○:大学を卒業後、そこそこ大企業の営業職として普通に働いている。
   田舎より上京してきているため、友達は愚か知人すら同僚しかいない。
   それも中々上辺だけの付き合いで、プライベートには一切関わりがない。
   彩の従兄妹に当たるが、7~8年前の祖父の葬式以来面識がない。
   テレビや新聞で見かけても本当に気づいていなかった。

彩:ちょっと頭が弱い。
  あまりアイドルという自覚がないのか、割と思い切った行動を取りがち。
  恐らく、女の子であるという自覚も足りていない。

千聖:監視役として付いてきた。
   主人公に対しては、少し解れた感じはするが主人公が温厚なのをいいことに
   若干ナメた態度をとっている。…という風に装っているだけであり、実際は
   この距離の男性に免疫がなく振る舞いを一生懸命探っているだけである。
   因みに、潔癖性が過ぎるため家に彩を泊めることができなかったので
   今回の件について彩にはあまり強く言えない。。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。