BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「あらあら、てっきり一人で帰ってくるもんだと思ったけど。」
帰って早々、母親から言われた一言がこれだ。
それもその筈、その場には俺を含めて4人。…事前に人数は伝えていなかった。
俺だって一人で帰る予定だったもんよ。
**
遡ること半日前…。
帰省の為押入れから引っ張り出してきた大きめのボストンバッグとキャリーバッグに荷物を詰めていた俺。
隣でそわそわとその様子を見ている彩。
「○○くん、何日くらいで帰ってくる?」
「んー…3日くらいかなぁ…。」
「○○くん、歯ブラシ持った?」
「おう、セットで持ったぜ。」
「ねね、○○くん、トランプとか持っていかないの?」
「キャンプじゃないんだぞ…。」
「あっ、○○くん、ティッシュ持ったほうがいいよ。」
「車にも積んであるし、行く先は実家だぞ?」
「えーとえーと…。あ!○○くん!虫除けスプレーいらないの?」
「キャンプじゃないんだぞ…(二回目)。」
なんだ。今日はやけに絡んでくるな。
全然捗らないぞ…。
「なぁ彩。」
「な、なに!?」
「お前ひょっとして、さびs」
「○○さん?ちょっといいかしら?」
割り込むように白鷺さんが質問を飛ばしてくる。
何焦ってんだ。
「??いいけど…。」
「今、何訊こうとしたの…?」
「いや、お前ひょっとして寂しいのかって。」
「はぁ……。」
「何だよそのため息。」
「○○さん…あなた、全然よ。」
「うるせえよ。何がだよ。」
「全然わかってない、わかってないわ…。」
さっぱりわからん。
「だから何がだよ。」
「あのね?女の子、特に彩ちゃんは…」
「誰だ?」
今日は誰のアポも受けた覚えがない。荷物でも届いたかな?
何やらまだ言いたそうな白鷺さんを放置し玄関へ向かう―――とそこには。
「あ!ここの家の人?もしかして君が○○くん?
あ、言い忘れてたけどおじゃましまーすっ!」
天使がいた。
「日菜…たん?」
「??そーだよー。日菜ちゃん、来ちゃいました~。」
「ま、まじか…。」
「あ、彩ちゃんだ!奥に居るの??」
「は、はい…上がっていかられましゅか?」
ダメだ、緊張とテンパリでまともに喋れない!
「あははは!!!なにそれ~変な喋り方~!
じゃあ、上がっちゃうね~。」
「はひ、どうぞ…。」
あぁ…あの日菜たんがうちの廊下を歩いているなんて…
これから居間に入ってそこで……夢のようだね全く。
「あーやちゃーん!」
「うぇ!?えっ?えっ!日菜ちゃん!!」
「日菜ちゃん…!?」
「え!?○○くん!?どういうこと?」
「い、いや…ピンポン鳴って、玄関行ったら…居て。」
「聞いてよ彩ちゃん、今日すっごく暇でさ?おねーちゃんもどっか行っちゃうし、一人だなぁって。
それで、前に彩ちゃんが言ってた○○くん?の家に行ってみようと思ってさー?」
なぜそうなる。いや嬉しいけど。
つかそれで来れるって俺の個人情報の管理どうなってんの。
「で、でも…ここの住所とかって、日菜ちゃんは知らないわよね…?」
「え!?」
どうやってきたんだマジで。
「んー??…よくわかんないけど、こっちの方が"るんっ♪"とくるな~って方に歩いてたらここについたよ?」
「ば…化物だ…。」
「あー。酷いんだー。日菜ちゃん傷ついちゃうー。」
「わ!すっごい棒読みだよ日菜ちゃん!」
「…ところで、この荷物は何?おでかけ?」
広げた荷物の横にしゃがみ込む日菜たん。
あぁ非日常。
「…○○さん、今日から帰省するのよ。ご実家にね。
今はその準備していたところ。」
「ふーん?千聖ちゃんも行くの??」
「いくわけないでしょう。」
「そうなんだ……彩ちゃんは?」
「ふぇ!?…え、えっと。」
いや、こっち見られても。
留守番するんだろ?
「…い、いくよ。」
「へ?」「は?」「おー。」
「ま、待て彩。聞いてないぞそんな話…。」
「い、いいの!行くことになりました!準備してきます!」
部屋の方へ走っていってしまった…め、滅茶苦茶だ…。
そして相変わらず俺の意思は関係ないのな。いーさ、もう。
「あ、彩ちゃんが行くなら私もっ」
「はぁ?」
「な、何よその顔。」
「白鷺さん…何しに来るの。」
「ちょっと!私にだけ言い方キツくない?
…あと、また苗字で呼んでるし。」
「だって本当に実家まで来る意味わからないし。
や、あの呼び方抵抗すごいし。」
「呼び方?千聖ちゃんは千聖ちゃんでしょ??」
「違うんだ日菜たん…ちょっと特殊な呼び方を要求されてだね…フヒッ
あ、えっと…すごい恐ろしい脅しをされるんだ。…デュフ」
だめだ、まだ日菜たん相手だと正気を保てない!
あと、あの脅しはすごいぞ。(語彙)
「いいから、呼びなさい。」
「よくわかんないけど、呼んであげれば??」
「えー…嫌。」
「そう………。
いいのね?」
「良くはないけど…って、またアレをやるのか。」
「???」
あぁ、初見だとビビると思うぞ日菜たん…。
「もう、○○くんったら!どうして千聖のことだけ苗字呼びなのぉ??
ちーちゃんって呼ばないと、千聖拗ねちゃうんだから☆」
……………。
「うわぁ…。」
「…はぁ。」
「これはまた強烈なのが出たね。
パスパレがどんなに追い込まれても千聖ちゃんだけはいつも冷静ポジなのに…。」
「…すごいでしょ?」
「うん、全然るんっ♪と来ない。
…ゾンッ。って感じ。」
「あー!!日菜ちゃんもぉ、そんなに酷いこと言っちゃ、「めっ☆」だゾ!
…あ!そうだぁ!!日菜ちゃんも、千聖のこと、ちーちゃんって呼ぶことにしよぉよぉ!!ね?いいでしょぉ??」
「ちーちゃん、気持ち悪い。」
うわぁ!この子言っちゃったよ!
俺も我慢してたのに。
「……………。」
ほら見ろ!さっきまで語尾に☆までつけてた人間の出来る無表情じゃないぞあれ!
あの二人だけ時が止まってらぁ!
「…………。ねー!○○くぅん!
○○くんは、ちーちゃんって呼んでくれるし、おうちにも連れてってくれるよねぇ??」
うわこっちきた。
相変わらずの理解不能っぷりに恐れ慄いていると大天使日菜たんが耳元に顔を寄せてきた。
「あのさ、もう面倒くさいから言うこと聞いちゃおうよ。
…この千聖ちゃん、すっごい嫌い。」
「…そうだね。」
びっくりした。右見たらものっそい至近距離に憧れのアイドルの顔があるんだぞ。
…キスでもされんのかと思った。
「キス?してほしいの?いいよー。」
…!?
事も無げに言い放った日菜たんはそのままやってのけた。有言実行だ…。
俺は多分、この右頬を一生洗わない。
いや待て、今俺の心を…!?
「やる気になった?…千聖ちゃんをお願いしてもいい??」
「任せろ日菜たん。」
ガッテンショウチノスケダァ!!!
何処からそんな声も聞こえてくる。この重大な任務を遂行するためには心の奥のスイッチを入れ…
「あー!!ずるいんだぁ!!日菜ちゃんばっかりちゅーとかして!!
千聖も!!千里もするのぉ!!」
「ちーちゃん。…一緒に俺の実家行こ?ね?」
精一杯のキメ顔と低音ボイスで囁く。
「…もう、仕方ないわね。
そんなに言うなら、ついて行かない訳にはいかないじゃない…。彩ちゃんもいるし…。」
「…すっご。」
「凄いよな…。」
「うん…あ!あたしもついて行くからね?」
「はぇ?」
「だって、○○くん凄く面白いし!
一緒にいたら、もっとぎゅぅん!ってなってぐぃーんってできる気がするの!!」
「…アッハイ」
かくして、俺は居候組二人と突然の来訪者を乗せて、実家のある田舎へと車を走らせることになったのだ。
**
「ええと…ただいま。」
「あんた…身に余るモテ期だねぇ。」
全くだよ。
今更ですが、色物の中で頑張る丸山氏を見守るのがこのシリーズのテーマです。
<今回の設定更新>
○○:世界中のパスパレファンに刺されたらいいと思う。というか刺される。
彩:大正義。一緒に居候している金色がもう滅茶苦茶やってるけど負けずに頑張れ丸山。
地味ながら確かな可愛さを見せつけていく。
千聖:天才が壊れると何をしでかすかわからない。
前回と今回の間に豹変技能をマスターした模様。
これからどう壊れていくのか。天災。
日菜:天使。日菜ちゃんがいれば世界は救われる。
キスの時は目を閉じないタイプ。