BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

14 / 278
2019/10/21 生徒会長

 

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 

 

昼飯時、後ろから飛んでくる声に何とは無く振り返ればご立腹の妹が。…態々学食にまで、ご苦労なこった。

 

 

 

「なんだ?今日は珍しく学校に居たぞ。」

 

「学校に来たって授業に出なきゃ意味ないでしょっ!!」

 

「……誰から聞い……アイツか。」

 

夏野(なつの)くんから聞きました!!……もう、どうして真面目に授業受けられないの…。」

 

 

 

夏野っていうのは俺の数少ない友人…所謂"悪友"ってヤツで、毎日つるんで一緒にサボったりフケたりする不良仲間みたいなもんだ。

元々はそんな奴じゃなかったんだが、入学後に色々あったせいですっかり落ちぶれちまった。…俺も人の事は言えないけどな。

今じゃ二人セットで、学校の爪弾きみたいな扱いをされる始末。別に慣れてしまえばどうってことは無いんだが、夏野の奴は、どうやらつぐみに気があるらしい。

しょっちゅう俺の事を報告するフリをして接する機会を作ってるっつー訳だ。

 

 

 

「あの野郎…。後でシメてやらにゃならんな…。」

 

 

 

昼時にも居ねえと思えばそういう事かよ。

 

 

 

「そもそもどうしてこんなところに居るの?お弁当渡してあったのに…。」

 

「あぁ、弁当はだな……。んー…と。」

 

「今言い訳考えてるでしょ。」

 

「いや?…ええと。」

 

「正直に言って。」

 

「………あれは、人にやっちまった。」

 

「…人?」

 

 

 

丁度いい言い訳が全く浮かばなかったので諦めて吐く。…まぁ、今日のは別にいいんだ。母親が寄越してきた奴だし。

「人にやった」という状況がイマイチ分からないのか、ポカンとして突っ立っているつぐみ。

 

 

 

「…ほれ、そんなとこ突っ立ってないで座れよ。」

 

「ふぇ?…う、うん。」

 

「順を追って説明するとだな…」

 

 

 

税込み360円のかけうどんを啜りつつ、二時間ほど前にあった出来事を説明してやることにした。

 

 

 

**

 

 

 

相も変わらず授業には後ろ向きな俺。移動教室の時間を利用して何とかフケてやろうと計画していたところに…

 

 

 

「わー!!どいてどいてー!!!」

 

 

 

喧ましい大声とともに何かが突っ込んでくる気配がして、何気なく後ろを振り返る。と、そこには

 

 

 

「どいてってばぁ!!」

 

 

 

眼前まで迫った、水色の髪と薄緑の瞳。…あぁ、うちの有名人の…と名前を思い出す前に

 

ゴンッ

 

鈍い音と共に視界は黒で塗りつぶされ、一瞬火花の弾ける幻覚が見えたかと思うとそのまま平衡がズレる感覚。…続いて周囲の喧騒が遠ざかり、恐らく衝突相手であろう元気な声が反響するように耳を擽り。

…気付けばそのまま、生徒行き交う廊下で大の字に伸びてしまったらしい。

 

 

 

次に覚えているのは固く冷たい床と暖かい枕、頭上から降ってくる耳に馴染みのない声だった。

 

 

 

「うぉ、目が開いた…!!死んでなかったんだね!!」

 

「起き抜けになんつー……()ッ…。」

 

 

 

酷く額の辺りが痛み、思わず顔を顰める。それを見てか見ずしてか、少ししゅんとなる水色。

恐らく痛みからして豪快なヘッドバッドを決め合ったのだろうとは予測できるが…。…こいつはどうしてそう平然としているんだ?ぶつかったのはお前も同じじゃないのか?

 

 

 

「ご、ごめん…痛かったよ…ね?」

 

「…結構重い一撃だったぞ…。お前は、大丈夫なのか?」

 

「へ?あ、あたし??」

 

「?あぁ。ぶつかった相手って、お前だろ?」

 

「……あ、あたしはほら…石頭、だから。あっでもでも、おねーちゃんの方が石頭かも!」

 

 

 

そういう問題じゃないだろ…。音と衝撃からして、共倒れになってもおかしくないぶつかり方だったはずだ。…というか、この状況は一体?

 

 

 

「なぁ。」

 

「なあに?」

 

「……今更だけど、あんた…生徒会長?」

 

「あたしを知ってるの?」

 

 

 

全校生徒の前に散々顔を晒しておいて今更何を言っているのかこの女は。第一、生徒の模範になるべき生徒が廊下を爆走していいと思ってんのか。

何故か頬を染める生徒会長様はそのまま言葉を続ける。

 

 

 

「あ、あたしを知ってるってことは、あたしに興味あるってこと…?」

 

「はぁ?これっぽっちも……いや、今のこの状況には興味あるかな。」

 

 

 

頭を強く打って意識が飛んだと思ったら学校一の変人として有名な生徒会長の太腿の上で目覚めるという奇々怪々な現象。

柔らかさに流されそうになるが、その間どれほどの時間が経っているのかも気になるし、キチンと確認することは必要だろう。

 

 

 

「そ、そっかー…。」

 

「一体何があった?そんで、一体何がどうなってこうなった。」

 

「んとね。あたしが走ってて、前に○○っちが出てきて…」

 

「待て。…俺、自己紹介したっけ?」

 

「う?…あぁ、校内で有名人だもん。君たち二人組。」

 

「……二人組?」

 

 

 

やっぱ不良連中ってことで目ぇ付けられてんのかな。生徒会所属なら教員連中とも絡みが多いだろうし。

…二人組ってことは、どうせもう一人は夏野(アイツ)だろうし…。

 

 

 

「うん!○○っちと、つぐちゃん!!超絶ラブラブのカップルだって!!」

 

「あ"!?」

 

 

 

どんな捻れた伝わり方してんだ。…いや、そもそもカップルじゃねえし。兄妹だし。

ただ生徒会長がこんなんだし、噂に尾ひれが着いて飛び回っている可能性は大いにある。誰に、どこまで伝わっているのか。

 

 

 

「待て待て……。いいか?ええと…」

 

氷川(ひかわ)日菜(ひな)だよ!!日菜ちんって呼んで!!るんるんっ♪」

 

「るん……?日菜はさ、知らないのか?」

 

「ちん!!…何を?」

 

「俺とつぐみ……双子の兄妹だぞ。」

 

「……へ?…だって、つぐちゃんの苗字って羽沢でしょ??」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「それで、○○っちは………羽沢?」

 

「おう、俺、羽沢。」

 

「…で?」

 

 

 

で?じゃねえよ。同い年の二人がいて、そこそこ珍しい苗字が被ってんなら双子を疑えよって話だ。

よくそれでカップルとか言えんな。

 

 

 

「日菜、お前バカだろ。」

 

「ちーんー!!!!…バカじゃないし!!」

 

「じゃあ、俺とつぐみの関係、わかるよな?」

 

「……夫婦?」

 

「……俺でも生徒会長出来そうな気がしてきたぞ。」

 

「褒めてる?」

 

「なわけ。」

 

 

 

全力で馬鹿にしてるよ。その答えが大真面目に捻出した物だとしたら俺はある意味尊敬する。その脳の謎構造に。

こいつは常識的な思考パターンというか、論理を持っていないのだろうか。生徒会長といえば確か一学年上だったと思うが、これを先輩と思うのは難しいだろう…。

気が付けば頭痛が額の痛みを上回っている。どうやら骨や脳まで異常は起きていない様だ。一応額を擦り、先ほど迄のような鈍い痛みが消えていることを確認…もぞもぞと起き上がる。

正直あの膝枕は魅力的だったが、硬い床に寝転がるのは少々しんどいんだ。

 

 

 

「…あれ、もう起きちゃうの?」

 

「…もっと寝てたほうがよかったか?」

 

「別に、もっと使ってくれてもいいのに。」

 

「今度疲れたとき頼むわ。膝枕。」

 

「いいよっ!…その代わり、日菜ちんって呼んでね!!」

 

「……それはまあその時考えるよ。」

 

 

 

頼むことはないと思うがな。俺にはつぐみがいるし。

周りの状況から察するに、ここは屋上へ続く扉の前、階段で言うところの最上段踊り場ってところか。そりゃ床も硬いわけだけど…何故わざわざこんなところまで連行して寝かせた?

 

 

 

「るん?…保健室とかだと他の生徒も来ちゃうでしょ?こうやってじっくりお話するなら二人きりがいいなって思ってさ!!」

 

「…じっくり話す必要があんのか?」

 

「…だって、気になるじゃん?あたしも双子だけど、他の双子って知らなかったからさ。」

 

「あそ。んじゃ行くから。」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

「……あんだよ。」

 

 

 

立ち去ろうとしているのに慌てて呼び止めようとする生徒会長さん。いつまでもこんなところで寝てるわけにはいかないんだが。

若干イラつきつつ階段に差し掛かっていた足を止め振り返る。

 

 

 

「…あたし、お礼が欲しいな?」

 

「あ?…なんの。」

 

「介抱してあげたお礼…?」

 

「元はといえばお前のせいだろ……。」

 

「でも、男子憧れのあたしの膝枕だよ?……なんなら、今後も好きな時に?つ、使わせてあげるし…」

 

「………はぁ…。…何を要求してんだよ。」

 

「んー……るんっ♪って来るやつ!!」

 

「あ"?」

 

「………伝わんないかなぁ…」

 

 

 

どうしてお前が面倒そうな顔出来るんだよ…。こっちは早く切り上げたいんだが…と、最早キレそうな心境になったとき。

 

ぐぅぅぅぅ

 

間抜けな音が、踊り場の狭い空間に響いた。

それと同時に真っ赤に茹で上がる目の前の少女。

 

 

 

「………何か買ってきてやろうか。」

 

「うぅぅ…一緒に学食、行こーよ…。」

 

「無理。今日弁当なんだ。」

 

「むぅ……あっ、じゃあ何か買いに行こ?」

 

「めんどい。………じゃあうちの教室まで来い。弁当やるわ。」

 

「ほんとっ!?いくいく!」

 

 

 

その後有名人を引き連れ教室に戻った俺。すっかり昼休みに差し掛かっていた教室は、「屈指の不良と稀代の変人生徒会長」という異質な組み合わせに騒然となったが。

それを全く意に介さない俺と不思議そうにぴょこぴょこ跳ねる日菜は俺の机へ。カバンに入っていた弁当の包を渡し、日菜に出て行くよう促す。

 

 

 

「え、一緒に行かないの??」

 

「行かねえ。一人で食え。」

 

「……ツンデレ?○○っち。」

 

「早く行かねえと弁当返してもらうぞ?」

 

「わっ、そりゃだめだ!……じゃあ行くね!お弁当ありがとー!!」

 

 

 

そうして、昼飯の無くなった俺は学食へと向かったのであった…。

 

 

 

**

 

 

 

「そっ、それで日菜先輩に…?」

 

「あぁ、今頃食ってんじゃねえかな。」

 

「………ずるいなぁ日菜先輩…。」

 

「あ?」

 

 

 

何やらボソボソ呟いたように聞こえたが、つぐみはふるふると首を振るので深くは追求しないことにする。

 

 

 

「もう、それでもサボっていたことに変わりはないでしょ?

 どうしたら真面目に授業受けてくれるの…??お兄ちゃん…。」

 

「えぇ…?………うーん、そうだな…。」

 

 

 

以前もやった交換条件というやつだろうか。この妹、味を占めたのかあれ以来頻繁にこの駆け引きを出してくる。

ならば今回は…

 

 

 

「…よし、じゃあ昼の弁当はつぐみが作ってくれよ。」

 

「へ?」

 

「そうしたら、お前の弁当をモチベーションに午前中は頑張れるからよ。」

 

「…ほ、本当?」

 

「おうとも。」

 

「……う、うん……わかった。明日から、そうするね?」

 

「………交渉成立だ。」

 

 

 

よし。これで明日からは、毎日つぐみの飯が食えるってわけだ。

図らずとも素敵な結果を呼び寄せたことで、心の中でのみあの変な生徒会長に少し感謝した昼休みだった。

 

 

 

 




遅くなりました。




<今回の設定更新>

○○:割とやんちゃボーイ。
   年上でもガンガンタメ口で行くタイプ。

つぐみ:お兄ちゃんの頼みなら断れない。
    生徒会長にはいつも振り回されるしっかり者さん。

日菜:自由な石頭。
   お弁当はうまかったらしい。

夏野:悪友。これからもどんどん登場する予定。
   友達の妹、つまりつぐみに恋しちゃってるんです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。