BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/07/27 アルコール→アンコール

 

自慢じゃないが、自分は割と酒に強いほうだと思っている。

量はそこそこ飲めるし、特に飲めないほど苦手な酒もない。

ちびちび飲むタイプでもないし、周りの雰囲気を壊さない程度には飲めるって感じだ。

 

…が、今日は如何せん飲みすぎた。

 

 

 

「…ただいま。」

 

「おかえ…うわっ、すっごい顔色…!

 ○○くん、○○くん!だいじょうぶ?具合悪い??お水飲む???」

 

「彩…ちょっと黙っててくれ…。

 今お前の声、頭に響くわ…。」

 

 

 

深夜、日付が変わった頃だろうか。

フラフラになりながらも漸くたどり着いた我が家で出迎えてくれた従妹。

その声質もあり、今尚鐘を鳴らし続けている頭にダメージを伴う呪詛(おかえり)をくれたため思わず拒絶。…少々きつい言い方になってしまった。

…傷ついただろうか、いや、酔っていることを言い訳に押しきれるか。

酔いもあって柄にもなく不安になり彩の顔を見ると

 

 

 

「あ…ご、ごめん……なさい…。

 今、千聖ちゃん呼んでくるね…。」

 

「あ…」

 

 

 

想像以上に落ち込んでいたようだ。

確かに、声なんて自分で選べるものでもないし、いきなり「黙れ」なんて言われたら誰でもああなるか…。

居た堪れなくなったかのようにリビングへ引き返していく従妹を追おうとし――たところで再度頭痛の波が高まる。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

ここまでおよそ一時間弱の道を歩いて帰ってきたことも相まってか、気づかないうちに足腰が限界を迎えていたようだ。

燗の一気なんてやるんじゃなかった…。そう下らない後悔をしながらも膝は折れ、感覚の鈍った頬はフローリングの冷たさを伝えていた。

 

 

 

**

 

 

 

いってぇ。

頭がいってぇ。

 

 

 

「…なさい。」

 

「あ"ぁ?」

 

「…てなさいってば。」

 

 

 

なんだよ。

誰かが俺の頭を押さえてる。

お陰で起き上がれねえし、頭痛は止まねえし。

 

 

 

「暴れんなっての、この馬鹿。」

 

「るっせぇな!…あれ。」

 

「……今は正気?」

 

「…千聖。」

 

「えぇ、私がわかる?」

 

「………下から見上げるのは初めてだな。」

 

「ふふっ、そう。私も人を見下すのがこんなに愉快なことだとは知らなかったわ。」

 

「趣味悪ぃな。」

 

 

 

状況から察するに、帰ってきてなんやかんやあった後に千聖に介抱されてるって感じか。

そんで後頭部のこの感触は…ははっ、どうだ世の中の男子諸君。羨ましいか?白鷺千聖の膝枕だぞ。

 

 

 

「…起きられそう?」

 

「あぁ…まだ、頭は響いてるがな…。」

 

「ゆっくり起きて……ふぅ、人の部位で頭部が一番重いってのは本当みたいね。」

 

「すまんな。…生足だったのか。」

 

「起きていきなりそれ?マジキショいんだけど。」

 

「お前最近ちょいちょい素出すよな。」

 

 

 

起き上がり振り返ると千聖の整った細い腿に赤みが差している。

一時的とは言え、重さに耐えていたことは一目瞭然だ。

 

 

 

「はいお水。」

 

「さんきゅ。…………ふぅ。」

 

「ん、さっきよりは顔色も落ち着いたわね。

 お店とか帰り道で吐いたりしなかった?」

 

「それは大丈夫だ。未だかつて酒関係で吐いたことはない。」

 

 

 

それも自慢の一つである。

 

 

 

「そ。迷惑かけてないならいいんだけど。

 …それより、帰ってきたときのこと覚えてる?」

 

「帰ってきたときのこと?」

 

「具体的に言うと、フローリングにキスする直前のことね。」

 

 

 

帰ってきてから……なんだろう。

正直家の扉を開けた感覚さえあやふやなんだよな…。

 

 

 

「……はぁ。あなた、そういうところは本当残念よね。」

 

「なんかやらかしたのか?俺。」

 

「…この部屋に居候してるのって、私だけだった?」

 

「はぁ?彩も居るだろ。

 ……あれ、彩は?もう寝たのか?」

 

「はぁぁぁぁ……。部屋、行ってあげなさい。」

 

「??あぁ。」

 

 

 

何だよ。介抱してくれたのはそりゃありがたいけどよ、そんな不機嫌になることねえじゃねえか。

そんなに重かったかよ……。

と心の中で愚痴りつつ、いや、少しは声にも出ていたかもしれない。

ともかく、彩が使っている部屋へ入る。

 

 

 

「彩?寝てんのか?」

 

「ッ!!」

 

 

 

電気もついていない暗い部屋でビクッと何かが動いた。

 

 

 

「…何やってんだ電気もつけないで…。」

 

「…○○くん?」

 

「そうだよ、それ以外の誰かに見えるか?」

 

「…暗いからわかんないもん。」

 

「電気付けるぞ?」

 

「…やだもん。」

 

 

 

意味がわからん。

俺も見えないし、きっと彩からも何も見えちゃいないだろう。

いやそもそも、布団かなんか被ってる?声も籠っているし人影も見えない。

 

 

 

「…わかった。そっちにいくのはいいか?」

 

「…うん。」

 

 

 

恐らくベッドと思われる場所が盛り上がっている。

暗いので手探りだが、近づき隣に腰掛ける。

うん、膝も腰も復活したようだ。

 

 

 

「…彩?」

 

「…………。」

 

 

 

被っていた布団をそっと脱ぎ捨てる。

長い時間被っていたであろう事を物語るボサボサの髪と泣き腫らしたその顔を見て…

…紛れもなく俺自身がぶつけた理不尽な怒りを思い出した。

 

 

 

「あ……彩、その……。」

 

「具合、もうよくなったの?」

 

「え?あ、あぁ……おかげさまで、な。」

 

「そっか……さすが千聖ちゃんだね。

 …私じゃやっぱり、何もできない、から…。」

 

「いや、そんなことは…。じゃなくて。

 …彩、さっきはその、ごめんな。」

 

「…ううん、もういいの。

 確かに、私の声って千聖ちゃんと違ってちょっと変な声だから、聞き苦しいよね。」

 

「そうじゃなくて…そうじゃ、なくて…。」

 

 

 

そういうことが聞きたいんじゃない。そういうことが言いたいわけでもない。

まだほろ酔いが抜けきれてない頭と凹みからの復帰が遅い彩。

この場の悪は確実に俺だというのに伝えたい言葉が出てこない。というか会話のテンポに頭がついていけない。

だからチャンポンはやめとけとあれほど…

 

 

 

「うぅ……ごめっ、ぐすっ…。ひっく…ひっく……。」

 

「あ、あ彩?」

 

 

 

思えば部屋に入った当初から何だかスンスン聞こえていたが。

今も目の前の従妹が涙と嗚咽を零し続けているのは間違いなく俺の責任だろう。

社会に出たあとも人と交流を持たず自分の好きなことだけしてきた自分を呪う。

何かうまいフォローを…ええと…ええと…

 

 

 

「えいっ。」

 

「ぃたっ!?」

 

 

 

この状況を打破すべく、彩を悲しませないようにすべく俺の低スペックコンピュータが弾き出した答えは…まさかのチョップ。

突然の衝撃に涙目のまま固まる彩。それと俺。

 

 

 

「……ぁ、ごめ、なんか、なんとかしなきゃと思ったら体が勝手に…。」

 

「…なにそれ。」

 

「ご、ごめん。痛かったか…?」

 

「はぁ……あのね、そういう時は、いきなりでもいいからぎゅってしたりとか、なでなでしたりするもんなんだよ。」

 

「…まじか。女の子ってみんなそう?」

 

「し、しらないっ。…私は、そうしてくれたら嬉しいってだけ…だもん。」

 

 

 

なんだそりゃ、全然使えない情報だな…。

しかしいいことを聞いた。

 

 

 

「で、でも別に、それをされたから悲しくなくなるってわけじゃ…ひゃぁっ!?」

 

 

 

アドバイス通り、横並びの状態から体を捻って抱きしめてみた。

髪に籠る熱気が寧ろ心地いい。

 

 

 

「…あぁ、確かにこりゃいいや。」

 

「え、えと!?○○、くん!?」

 

「…ごめんな。」

 

「っ…。」

 

「俺は彩の声、変だとか全然思ってないよ。さっきはちょっと、具合が悪かったのと、言葉のコントロール?が聞かなくて強く言っちゃったんだ。

 …ほんとごめん。」

 

「…うん。」

 

「しかもそれをさっきまで忘れてるって…最低だよなぁ。

 彩の顔見て、泣いてるその目を見て思い出したんだ。」

 

「…すごく酔っ払ってたから、仕方ないよ…。」

 

「それでも、ごめんはごめんだ。…あと、お前の、彩の声、寧ろ大好きだから。」

 

「え!?」

 

「最初にお前がうちに来た時も言ったろ…ファンだって。」

 

「…ぁ。」

 

「歌ってる姿も、仕事で頑張ってる姿も、可愛らしい見た目も、全部もちろん好きだけど。

 …その声。癖になるような彩しか持っていないその声が好きだ。」

 

「ちょ…うん。」

 

「その声が毎日聴けてるんだから、俺は日本一、いや世界一幸せな男だと思う。

 だからもっと…」

 

「ちょ、ちょと…すとっぷ!」

 

「…なんだよ。」

 

「…○○くんっ、い、色々見失ってないっ!?」

 

「……俺何が言いたかったんだっけ。」

 

「もう、ごめんねっていうのは伝わったから、ね?

 あ、あとあと、ぎゅーの力がすごく強くて苦しい…。」

 

「おぉ、それはすまん。」

 

 

 

指摘されるまで気付かなかったが、自分もほんのり汗をかくくらいには熱くなっていたらしい。

腕も若干乳酸が溜まっている気がするし、ここら辺で離しとこう。

 

 

 

「えっと…つまり、なんだ。

 もう、俺のせいで彩が泣いちゃわないように気をつける。…今日は本当ごめん。」

 

「…う、うん。もう、わかったからいいよ…。えへへ…。」

 

「あぁ…。」

 

「わ!私!お風呂入ってこよっかなぁ!!」

 

「…?あ、あぁ。まだ入ってなかったのか。」

 

「う、うん、じゃあね!」

 

 

 

脈絡もへったくれもない流れだがバスタオルを引っ掴んだ彩はぱたぱたと駆けていってしまった。

取り敢えず乱れた布団を直して、電気を消して俺も部屋を後にする。

と、そこで千聖にぶつかりそうになる。

 

 

 

「…っと。」

 

「……ちゃんと謝った?」

 

「おう、まぁ言いたいことは言った。」

 

「…彩ちゃんは?」

 

「わからんが、急に風呂に行ったぞ。」

 

「はぁ…。」

 

「こんな遅くまで風呂も入らないで何やってたんだあいつは。」

 

「…あんたを待ってたんでしょーが。」

 

「え?あ…あぁ。」

 

「ったく…。どこまで馬鹿なのあんた。」

 

「うぅ……。」

 

 

 

いかん、これはまたよくわからんところで地雷を踏み抜いてるパターンだ。

最近は千聖が素かどうかでなんとなく分かるようになってきた。

 

かくなる上は…!

 

 

 

「えいっ」

 

「きゃっ」

 

 

 

どうだ。これで俺も学習ができることを証明できるだろう。

ただの馬鹿じゃない俺が繰り出す秘技、彩から教えてもらいたての…

 

 

 

「なっわっ…えと、ちょっと…へっ?なに、これ」

 

「千聖。ありがとう。

 お前が居なかったら彩と仲直りできなかったよ。本当にありがとう…!」

 

「べ、別に、それくらい、彩ちゃんの為だからいいんだけど…

 これ、放しなさいよ…。」

 

 

 

よし、伝えたいことはちゃんと伝わる。

凄いな彩のこの技。

改めて威力を実感しながら抱擁を解く。

 

 

 

「なによ、いきなり抱きしめるなんて…。」

 

「彩から教わった。女の子はこうして欲しいもんなんだろ?ぐぅっ…!?」

 

 

 

一瞬何が起きたのか把握できなかったが、どうやら鳩尾にキレのいいやつを一発もらったらしい。

おぉ、千聖、いいフォームじゃんか…。

 

 

 

「それは彩ちゃんにだけしてあげなさいっ…!馬鹿!!」

 

 

 

二度、俺が意識を手放すのにそう時間はいらなかった。

 

 

 

 




二日酔いにならなくてよかった…。




<今回の設定更新>

○○:馬鹿に磨きをかける毎日。
   気遣いも知識もアルコールもザル。

彩:髪ボサボサでも可愛いからええやん?
  人生初の異性とのハグだったらしい。

千聖:最近よっぽどヒロインしてる気がする。
   どんどん素が出てきます。
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