BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「じゃあありがとう、イヴ。…この御礼は、今度必ずするから。」
「…寂しく、なりますね。」
「なぁに、うちは知っているだろう?…いつでも遊びに来たらいいさ。」
「〇〇さん…。出来ることなら、行かないで…。」
「……すまないな。助けてもらった手前、こんなこと言うのもどうかとは思うが…。
男には行かなきゃいけない時がある。…それが男の、いや、"漢"の武士道なんだ。」
「!!これが…ブシドー……。」
「…さらばだ。」
「あぁっ!〇〇さぁん!!」
早朝。高級マンションのとある一室の玄関先で茶番を繰り広げる俺とイヴ。
千聖にボコられ、鍵を奪われた状態で追い出されてから数日、拾って面倒を見てくれた若宮家を、ついに去る時が来たのだ。
まぁ要するに、
…若宮家での生活は、まさに夢の様だった。…あまりにも幸せだったので、ここでいくつか回想を入れておこう。
**
「〇〇さぁん。まだ体は痛みますか??」
「うーん…少し良くはなっているんだけど、肩回りとか腰回りとか、関節系がきついかも…。」
「ナルホドですねっ!…それじゃあ、御着替えは私がやりますっ!」
「えっいや、ちょっ……いやんっ///」
「遠慮はいらないです!怪我をされたんですから、今は私に全て委ねてくださいっ!!」
「イ、イヴ…」
**
「ご飯ができましたよぉ!」
「あぁ、いつもすまないねぇ…。」
「おとっつぁん!それは言わない約束でしょ??です!」
「…おぉ、君イメージに反してガッツリ和食なんだねぇ!…いや、ある意味イメージ通りか。」
「〇〇さん、まだ利き手は動かしにくいですか??お箸持てますか??」
「まぁ、流石に飯くらい自分で…いや、これはまだ厳しいかもしれない…うん、きっとそうだ!」
「ナルホドですねっ!…それじゃあ、全部私に任せてください!!」
「イヴ…。」
「あっ」
「??」
「私としたことが、腕がまだ動かし辛いのにお味噌汁を作ってしまいました…。
…あっ!じゃあ、お椀も私が支えますから、〇〇さんはゆっくり飲んでいってください!!」
「えっ、あっ、そんな抱き抱え……んっ///」
「こうしていると、おっぱいをあげるママさんみたいでぇす!」
「
**
「もぉ~、まだ寝てるんですかぁ??早く起きないとチコクですよぉ??」
「うーん…もうちょっとぉ…。」
「うふふっ、しょうがないですねぇ〇〇さんは…。じゃあ、起きたくなるまで隣に居ますね。」
「…イヴ、仕事とか、学校は?」
「今日はお仕事はオフで、学校も創立記念日でぇす!!」
「……有給つかお。」
「あっ、それじゃあ私が替わりにお電話します!!」
「…まじ?」
「はいっ!今はお世話させて貰ってる身ですからっ!」
「
**
う~ん、甘やかされていた記憶しか思い出せないなぁ。…ワンチャンここに居続けるのも…いやいや、流石にそこまで迷惑を掛けるわけにはいかんよなぁ。
千聖も何やら話があるっぽかったし。
ということで先程の茶番である。…内心かなり楽しい。
とはいえいつまでもまごまごやっている訳にもいかないので愛しのイヴを振り切って帰る。…はぁ、我が家に向かう、というのがこんなにも重苦しい気分になるものだなんて。
「ただーいま。」
「おぉ、あy…おわっ!?」
家に入るなり桃色の物体に飛び掛かられる。
「ぅぅぅぅ……〇〇くん、〇〇くぅんっ……」
「…ただいま、彩。…何で泣いてんの?」
胸元に顔を埋めえぐえぐ言っている従妹。…余りの急展開ぶりに、全く頭がついて行かない。
「だっで、だっでぇ…〇〇ぐんがばばべばぼ、ぁぇぁぁぉ…」
訊いてみても埒が明かない。このまま抱きしめていても何も進展しそうもない上に俺のシャツも水没の危険性が出てくる。
一先ず無理に引き剥がさずに、あやす様に背中をトントン叩きながら髪を梳くように撫でる。参ったな、大泣きだ。
このままじゃ冗談抜きで
「…………彩、寂しかったか?」
「……っ!…っ!」
相変わらず日本語は喋っていないようだが、何度も頷くところを見るとよっぽどなんだろう。…ただの従妹にここまで依存されるのもどうかとは思うが、好かれてる分には悪い気はしない。
「…はぁ、無事に帰ってこれたんだ?」
「発端はお前だかんな。」
「あなたが女性にだらしなさすぎるのが悪いんでしょう…。」
「…そうでもないと思うけど。」
久々に見た千聖と相変わらずの軽口を叩き合う。こいつ、反省していないな?
そうし始めると同時に、少し落ち着きを取り戻した彩が顔を上げる。
「〇〇くん…。」
「なんだ?……おいおいひっどい顔だな。…アイドルの汚れっぷりじゃねえぞ。」
「………おかえりっ。」
再び顔面を押し付けてくる。…先程とは違い、泣く素振りではなく匂いを嗅いでいるようだ。
「…あれっ。この服、イヴちゃんの…?」
「えぇっ!?」
「……あぁ、着の身着のままだったからさ。借りたんだ。」
妙に胸元が緩いと思ったら、やっぱり女物の大きいサイズだったかぁ…。
それはそうと、千聖が妙にキレかけているのは何なんだ?俺なにかした?
「相ッ変わらずデリカシーのない…!!」
「えぇ……お前が追い出すからだろ。」
「うっさいわね!…全く、もうすぐ出ていく相手を、もうちょっと気遣ってあげるとかないわけ?」
「…は?」
今なんつった?…もうすぐ、出ていく…?
「ぁ……う、うん。…もうすぐ、改築が終わるからって…。」
「………彩。」
「だから、もうすぐお別れになっちゃうんだから、それまでの間くらい優しくしてあげたら?って。」
「彩……。」
「○○くん……。」
嫌だ。…折角この騒がしさにも居心地の良さを感じるようになってきたのに。折角、彩ともこんなに仲良くなれたのに。
千聖とも…こいつはまあいいや。兎に角、何我が儘言ってんだと笑われるかもしれないけど、俺はもっと、もっと長いあいだ彩と過ごしたかった。
「…ダメだ。」
「…え?」
「……出て行くなんて、ダメだよ。」
「ちょっと…何馬鹿なこと言ってんの?…元々居た家に戻るだけよ。当たり前のことじゃない。」
「…うっせぇ千聖。俺は、…俺はまだ彩と離れたくないんだよ。お前にこの気持ちはわからねえだろうがな。」
「そりゃわからないわよ、あなた頭おかしいんじゃな」
「…決めた。」
唐突に不機嫌になった俺とそれに呼応するように牙を剥く千聖。一触即発の雰囲気が生まれたとき、間で中間管理職よろしく板挟みになっていたふわふわピンクは声を上げる。
「「…あ?」」
「私…私ね、ずっとここにいるよ!○○くんっ!!」
「な、何言ってんの彩ちゃんっ!?…こんな男と、ずっと一緒に居て良いわけないでしょう!!」
何気に失礼なことを言われているがそんなことよりも目の前の従妹だ。発する言葉一つ一つが、全部俺を惑わせてくる子だよ。
「いいのっ!…私、○○くんと、もっといちゃ…仲良くなりたいのっ!」
「彩ちゃん……。」
「……だってさ。…どうよ、千聖?」
これはもう確定だな。彩は俺のもんだ。
「……わかったわよ。…で、でも、二人きりで放っておくことなんかできないからっ!」
「…だから?」
「わ、私もっ…」
「あたしも!あたしも一緒に住むよぉっ!!」
「
「日菜ちゃんっ!?」
おいおいおい、こんなに幸せなことがあっていいのか??というか、全員本気なのか…??
彩と目が合う。続けて日菜も…。あぁ、この輝き、本物だ。
「ようしっ!!そうと決まれば!!
…俺と彩と日菜…、新たな三人暮らしの始まりだぁっ!!!」
「「ぅわぁあああい!!!」」
「……も、もうしらないっ!!みんなのバカぁっ!!」
その後、改めて真面目なトーンで話し合ったが二人ともマジで住む気らしい。…後ろの金髪ツンデレさんは、どうするかわからない、ということだが…。
まぁ住むだろ。ハブられるの嫌いな寂しがり屋さんだし。
とはいえ、同居するにあたって色々な方面とのやり取りが必要なわけで。
「あっ、そのへんはだいじょーぶ!大天使日菜ちゃんだよぉ??全部根回し完了ってわけ♪
るんっ♪るんっ♪」
わかったわかった…。お前のスゴさはわかったから、頭をぐりぐり押し付けてくるな…。
…ということで、三人暮らしから四人暮らしになる訳だし、それぞれの部屋も必要だろうしで…四人最初の共同作業は部屋探しと引越しになりそうだ。
**
「ちょっ!?…私はまだ住むって言ってないんだけど!!」
「はいはい……でもどうせ一緒がいいんだろ?
あぁもちろん、俺とってことじゃなくて、彩や日菜が心配だからって意味な?」
「う"……そ、そうよ、悪い?」
「じゃあ、結果四人暮らしじゃん?」
「……そう、なるわね…。」
「んじゃ、これからも宜しくなっ?」
「………ほんっとばか。」
改築が終わったので終わりです。
…第二部があるとしたら、もう少し賑やかにお届けできるかな、と。
ご愛読ありがとうございました。
<今回の設定更新>
○○:存外に強靭な肉体の持ち主かも知れない。
この流れだけで女を囲う感じ…。これが主人公…?
思いつきで引越しを決められるくらいには貯蓄がある。
彩:作者のお気に入り。
永遠に弄り倒していたい。
ここぞというときの恐ろしいまでの行動力を発揮した結果、終了の流れを第二部に繋いだ。
とにかく可愛い。
千聖:ナンナノホントコノヒトタチハ…ワタシガソバデミハッテナイト、ナニヲシデカスカワカッタモンジャナイワ…
素直になれない子を書こうと思ったら変な子になっちゃったんです。
ふんっ、とそっぽを向くときの広がる綺麗な髪が素敵。
日菜:待っていました乱入者。
第二部、参戦決定。
イヴ:主人公に強烈なバブみを与えた張本人。
こんな子に死ぬまで甘やかされたいもんです。
今後絡みはあるのか…?