BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【白金燐子Ⅰ】Platinum dayS【完結】
2019/07/22 俺「同僚と深夜に行動するって実質夜勤だよね?」


 

某カラオケ店にて。

通された昭和テイストなその個室は、小上がり・板張り・掘り炬燵と寛ぐにはもってこいの部屋だった。が。

 

 

 

「どうして俺はヒトカラなんか…。」

 

 

 

実際、ここに来るまでは一人ではなかったのだが…。

事は二時間ほど前に遡る。

 

 

 

**

 

 

 

「晩飯どうすっかなぁ…。米だけ炊いたはいいけど作るのも怠いし買いに行くのも…うーむ。」

 

 

 

今日も今日とて定時上がり。

残業が無いのは良い事だが、その分退勤後の時間が独り身にはきついわけで。

こういう時友達の一人でも居れば違うのだろうが、生憎と地元でもないこの辺りには顔見知りすら居ない。

…と、しょーもない悩みに頭を痛めている俺のスマホが鳴った。

 

 

 

「……白金??」

 

 

 

画面には緑色のトークアプリの通知。

差出人は『りんりん☆彡』。

この痛々しいメッセージの送信者は、職場の同期であり数少ない趣味仲間である『白金燐子』という一風変わった女性だ。

勤務中はほぼ喋らないが、プライベートの時間で俺のスマホを鳴らすのは大体こいつかゲーム友達の『レックスさん』くらいだな。

 

 

 

「……はぁ。また随分と唐突だな。」

 

 

 

届いたメッセージは

 

「今から遊びに行きませんか?」

 

 

 

流石にこういった類のお誘いは珍しい。

お互いの共通点として、あまり外に出たがらないというものもある程、外出系の趣味はほぼ無い。

そのままメッセージを返そうとも思ったが、もはや文字入力さえ怠いので電話をかけることにした。

 

1コール…2コール…3コー『〇〇くん?』

 

 

 

「おぉ、流石電話だと反応良いな。」

 

「遊び……いかない?」

 

「それな。場所によるかなぁ…。」

 

「えっと…ね。……カラオケに…いきたくて。」

 

「カラオケぇ??何でまた、急だな。」

 

「ちょっと…ね。お友達と……歌の話に、なって…。」

 

 

 

あぁ、この人こういう喋り方なんだ。

テンポは悪いが嫌いじゃない。許してやってほしい。

 

 

 

「ほーん…?友達ってぇと、アコち?」

 

「う、うん……今度、一緒に行きませんかって……誘われちゃって。」

 

「なるほど、練習がてらって感じか。」

 

「あこちゃん、張り切っちゃってて……頑張らないとって…思ったの。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

「…ひどい。一緒に、いかない?」

 

「えー、外出るのめんどいもんよぉ。」

 

「私、迎えに……いくから、ね?」

 

「白金、最初から連行する気満々だったな?」

 

「えへへ、どうでしょう……?」

 

 

 

…あっ、切りやがった。

どうやら俺の意思など関係なしにカラオケ行きが決定してしまったようなので、諦めて身だしなみを整える作業に移る。

これが面倒で外出たくないんだよな。

 

これまでも何度か車で迎えに来たことはある。

白金曰く、車で7~8分といった距離だそうだ。うかうかしていると、魔のチャイムが鳴らされてしまうからな。急がねば。

 

 

 

予想通り8分後、間延びするようなチャイムが鳴った。

インターホンも付いているが相手も分かっているので使う必要はないだろう。

必要な持ち物を揃えた鞄を肩に下げ、玄関を開けると

 

 

 

「えへへ……来ちゃった。」

 

「それはアポなしで来る奴が言うセリフだぞ。」

 

 

 

職場のスーツ姿とはまた違って清楚な少女といったイメージの服装に身を包んだ白金が立っていた。

白のブラウスに深緑のロングスカート。大きく突き出た胸を強調するかのように、対照的に細い腰には締め付けるようなデザインの編み込みが。

うん、グッジョブ。

 

 

 

「さっそく……いこ?」

 

「おう、今日も運転任せたぜ。」

 

 

 

俺は生粋のペーパードライバー。もちろん車も持っていないので、こういうところは助かる。

まぁ運転したいとも思わないし、車が無くて不自由もないんだけどな。歩くの好きだし。

 

無言の車内で揺られること5分ほど。目的のカラオケ店に着く。

と、ここで知らされる新事実。

 

 

 

「受付終わったら……お部屋の番号、おしえてね…?」

 

「は?…一緒じゃないの?」

 

「えっ?……一人ずつ、でしょ?」

 

「……じゃあ何で一緒に来たの?」

 

「…入りづらい、から…。」

 

 

 

どうやら二人でそれぞれヒトカラになる流れらしい。一体何の意味が…。

それ以上は訊いても教えてくれなかったし、受付も済ましてしまったのでもう今更だが。大方恥ずかしいとかそんな感じだろう。白金だし。

久々のカラオケに少々緊張するが、これはこれで良い機会。何か有事に備えて練習と洒落込もう。

 

 

 

**

 

 

 

回想はこれでおしまい。

時間が勿体ないからフードメニューなんか頼んじゃったぜ。

目の前には大盛の味噌ラーメンと鶏の唐揚げ。冗談のようなカロリー重視料理だが、実はこのセット習慣付いてしまっているものなのだ。

その昔、学生時代にまで遡るが、当時バリバリのインターネットカラオケマン(笑)を気取っていた俺は油分を摂取することで声量が跳ね上がるという用途不明な能力を持っていた。

これにより、カラオケで歌う前には必ず油分多めな食事を摂取するという短命まっしぐらな習慣が生まれたのであった。

 

 

 

「流石に大人になると色々考えちまうよなあ…健康診断も近いし…。」

 

 

 

侮れない美味しさに舌鼓を打っていると、白金からメッセージが来た。

どうやら隣の部屋だったらしい。

こちらの部屋番号も返信し、唐揚げを頬張っていると

 

 

 

ガチョ

 

「ん。」

 

「お邪魔…します。」

 

 

 

白金が来た。

 

 

 

「どうした?なんか用か?」

 

「…またそんなに体に悪い物食べて…。健康診断、引っかかっても…しりませんよ。」

 

「いいんだよ。これが俺流なんだ。」

 

「……一つ、ちょうだい。」

 

 

 

言うや否や山の上から一匹、唐揚げを攫う。

響きの良い音を鳴らし味と熱を楽しんでいる白金は、見ていてムラつくほど素敵な笑顔だ。

 

 

 

「職場でもそれくらい笑えばいいのに。」

 

「…え?……それは、ない…かな…。」

 

「なんでさ。モテるぞきっと。」

 

「……〇〇くん、話しかけて…くれないし。」

 

「課が違うんだから仕方ねーだろ。見えるところには居るだろうが。」

 

「デスクまで、来て…いいんだよ?」

 

「用事がねえよ。」

 

「もう………さびしいなぁ。」

 

 

 

どうやら職場で表情が死んでいるのは俺のせいらしかった。

いや、それこそ学生でもあるまいし、休み時間のたびに人の机なんか行ってられるか。周りの目もあるし。

 

 

 

「歌……歌わないの?」

 

「あぇ?…まだ食ってるしなぁ…。」

 

「…じゃぁ…食べ終わるまで、待ってる…ね?」

 

「部屋戻らねえの?」

 

「……寂しいんだもん。」

 

「何故二人部屋にしなかった。」

 

「………恥ずかしい、から…。」

 

「はぁ…。」

 

「…だめ、だった?」

 

「いや、そんなこたあねえさ。

 ……よし、じゃあ飯の途中だが歌ってやろう。」

 

「わぁ…!!」

 

「耳かっぽじってよく聞くがいい。」

 

 

 

その後4時間、喉が消し飛ぶんじゃないかってくらい歌った。

いや、実際消し飛んだ。延長確認の電話なんて2、3回訊き返されたし。

 

 

 

「また…来たいです。……今度は同じ部屋で、ね?」

 

 

 

 




職場にもっと楽しみを。




<今回の設定>

○○:ちょっとお堅い仕事をやっております。
   燐子とはいつからの関係か覚えてない程自然に仲良くなった。
   オンラインゲーマー。

燐子:職場でハブられてる。
   表情が死んでいる。
   多分ちょろい。

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