BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「…はい、……はい?…あー。
………そこを何とか……はい。……あっ、なるほどですね…。」
「あはい、存じ上げております。……いえいえそんな!
………それでは一度検討させて頂きまして……はぁ。」
「かしこまりました…はい、では、………。
…ええ、そのように。……失礼しますー。……ふぃー。」
いつものように取引先と週明けの連絡を取っている。
ただ、電話中ずっと感じていたが、全然いつも通りじゃない視線が突き刺さってくるのを感じる。
………。
「…んー?」
その熱視線の送り主に目を向けると、視線が重なるや否や全力で逸らされてしまった。
その「ずっと一生懸命仕事してます」みたいなすまし顔をやめろ。
「…………。」
仕返しに、今度はこっちからメンチを切ってやる。
目ぇ逸らしたら負けなんじゃい。と言わんばかりに真っ直ぐ、堂々と見てやる。
…あ、今目だけ動かして一瞬こっちを見たな。すぐ正面に戻してたけど。
タイピング中の手が止まり、黒目が落ち着きなく動き回る。
やがて顔がみるみる赤く茹で上がっていき……。
ぶっ倒れた。
…凄いな。どうやら俺は、「目力だけで遠くの人間の意識を奪う」力を手に入れたらしい。
今度部長でやってみよう。
「おい、…おいって。」
「?…あぁ?んだよ
「お前、仕事中に女の方ばっか見やがって…。
弛んでんじゃないのか?」
「そういうんじゃねえよ。…見ろあれ、俺の超能力ってやつさ。」
「お前、人生楽しそうでいいな。〇〇。」
同期の山外だ。日頃口を開けば女の事ばかり言うようなやつで、コイツに何度合コンのセッティングを頼まれたかもう覚えていないほどだ。
…その癖、いざ女性を前にするとアガッて何も喋れなくなるんだよなぁ。
現に今も、倒れた白金と群がっている女子社員の方ばかり気にしている。
「なぁ君ら、何をそんなに見てんの?」
「決まってんだろ、女の子見てんだよ。」
「決まってねえわ、お前と一緒にすんな山外。」
「ははっ、クロは相変わらずだな。」
「クロ」というのは山外の愛称だ。考えてみたら名前も分からないし、何でそんな愛称を授かったのか謎だが、割とこう呼ぶ人間は多い。
「〇〇、助けに行ってやれよ。可哀想だろ?」
「うっせえ、アレをやったのは俺だ。」
「…何言ってんだお前?」
「超能力だと。目力で女の子を骨抜きにする力らしい。」
「嫌な言い方すんなよ。」
「つよいきみはえすぱーだ…。」
山外に続いて絡んできたのは
こいつのワイシャツ、いつも水色と白のストライプ柄のやつで目に付くんだよなぁ…。
「……あれ?あの子たち、こっち見てないか?」
「…俺がやったってバレたかな?」
「ばぁか、あるわけないだろ超能力なんて、クロのジョークだよ。」
「あ?ちげぇよ酒匂。言い出したのは〇〇だよ。」
「…………。」
そんな目で俺を見るな。
それはそうと、人だかりの中から一人の女性社員がこちらにやってくる。能力云々は置いとくとして、注意か説教かは覚悟した方がいいだろうな。
「〇〇さん…?少し、いいかしら?」
「あはい、ええと…。」
「あぁ、部署が違うと顔を合わす機会もないものね。
…私は湊。一応白金さんと同じ部署でチーフをやってるわ。」
「湊…チーフ。はい、覚えました。宜しくお願い致します。」
湊チーフ、湊チーフ…。
なんというかこの人、纏ってるオーラは半端ないのに見た目お人形さんみたいで可愛らしい人だな。
「えぇ…。じゃなくて、あなたにお話があります。」
「〇〇、お前何したんだよ。」
「いや何も…。」
心当たりはない。が、状況からして白金関連かな?
山外が肘で突いてくる。
「デートのお誘いだぞきっと!」
「死ね。」
「…ここじゃアレだし、少し〇〇さんを借りていくわね。」
「「どーぞどーぞ!」」
**
「な、何すかこんなところに連れ出して…まだ勤務時間ですよ。」
本当にデートのお誘いか?そう思ってしまうような、例の入り組んだ通路の途中。
勤務時間中ということもあって人はほぼ通らない。その上薄暗い。
壁を背にするように立つ姿は、まるで追い詰められた逃亡者だ。…俺、ちょっぴりダサいね?
「細かいことは良いのよ。…あなた、燐子とはどういう関係?」
「…りんこ?とは?」
「は?」
「りんこって…あ、あぁ!白金の事ですか!」
「なんだと思ったの…。」
状況も状況だし、頭もそりゃ正常に回らんて。
「どういうも何も、ただの同僚ですよ。
たまに同じ趣味で遊ぶ、みたいな。」
「…趣味?」
「ええ、二人とも、同じオンラインゲームをやってて…。」
「…ふーん?…それだけ?」
「ええ。」
「…………。」
「……………。」
「付き合ってるとかではないの?」
「俺と白金が?まっさかぁ。」
「……そう。」
「そう見えます?」
「…もういいわ。一応医務室に居るらしいから、行ってあげなさい。」
「はぁ?医務室?俺が?何故?」
「燐子が居るからよ。倒れたの、見てたでしょう?」
「あぁ…やっぱ俺のせいだってバレてんですね。」
「そりゃ見てたらわかるわよ。」
まじかぁ。俺の異能を見抜くとは、この人も何かしらヤバい人なんだろうか。
流石、こんなにちっちゃくて可愛らしいのに肩書持ってるだけあるな。
「いつも、ずっと見てるんだから…。」
「…はい?」
「な、何でもないわ。」
「え、怖。」
「は、早く行きなさい!」
背中を突き飛ばすように押される。そっちは壁なんですがね。
かくして、無事?に医務室へたどり着いた俺だったが。
「よう、調子どうだ白金?」
「……あ、〇〇さん…………。普通、です……。」
「普通てお前…。にしても、何で急にぶっ倒れんだよ?
朝から具合悪かったとかか?」
「………いえ、そういう…わけでは…。」
「まあいいや、暫くゆっくり休め。湊チーフも心配してたぞ。」
「…何故、湊チーフの名前が……?」
「あぁ、さっきそこで色々訊かれてな?
どういう関係だーとか、そういう。」
「………なんて、答えたんです…??」
「…別に?たまにゲームするくらいの同僚ですよーって。」
「……そう、ですよね。はぁ……何となく、予想は出来ました…。」
「マジかよ…っ!白金もそういうの、あるんだ?」
「…ありますよ………。一応、女の子ですから…。」
「すっげぇな…。じゃあやっぱり、湊チーフにもあったんだな。
伊達に可愛らしいだけじゃないぜ。」
女の子ってのはみんな超能力持ちだったんだな。
まあ、女の直感って言葉が根拠として罷り通る程だし、ある意味納得だ。
この際、女の"子"の部分に関しては置いておこう。
「湊チーフ……にも、何か言われたんです……?」
「まあな。「ずっと見てる」とか言われたけど、あれもきっと何か意味がある言葉だとは思うんだよな。
ひゃー↑こりゃおっかないことになりそうだ…!」
いかん、そういう能力にはやっぱり憧れ的なものもあるし、実際に使える人間を前にすると舞い上がっちまう。
ひゃーとか、喉裏返っちまったぜ。
それはそうと、何故白金はこんな怖い顔をしているんだろうか。
睨まれるようなこと、俺やったかな。
…あっ、もしや、俺がふざけて言っていた「目力だけで遠くの人間の意識を奪う」を既に会得していて…ッ!?
「湊チーフ……要注意人物……ですね。」
「なんでよ。」
「いずれ、打ち倒すべき相手になるかも……しれません……。」
「マジか。能力者同士の直接対決が…!?」
「能力……?…そうですね…私に、超能力でもあれば……」
「あ?ないの?」
「…………はい?」
「超能力…。」
「………ふふっ、…相変わらず、〇〇さんは……面白い人です……。」
「????」
意味が分からない。
さっきまで人を殺せそうな目をしていたかと思いきや、今は柔らかく微笑んでるし…。
「…そういう、ところも……嫌いになれない、理由です………。」
「いや別に嫌ってもらいたくはねえよ。折角なら好きになってくれ。」
人に嫌われたいとか態々思う奴居ないだろ。
「…………ばか。」
本当に、意味が分からない。
かわいい。
<今回の設定更新>
〇〇:超能力者に憧れがある。
大体M〇THERのせい。
尚、人の心はイマイチ分からない模様。
燐子:恥ずかしがり屋さん。
そりゃ倒れますよ。
友希那:素敵な上司。
スーツに"着られている感"がとてもかわいい。
お人形さんというのは揶揄でも何でもなくそのままの意味、可愛い。
怒った時と恥ずかしい時は早口になる。可愛い。
山外:コミュ障なむっつり系。ノリは悪くないが口は悪い。
「クロ」という愛称は、
酒匂:水色のボーダーが好き。メガネの素敵な優男系。
イケメンなのに不思議とモテない。