BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
俺は走っていた。それはもう走っていた。
己の足だけで法定速度を超越できるんじゃないかってくらい。…や、流石にそれは冗句だけども。
「これならなんとか…っ、間に合い…そうだ…っ!!」
別に俺は頑張り屋さんとかじゃない。特別早く出社したところで何もないしな。
…そう。つまりは遅刻しそうなわけだ。特に何だって訳じゃないが、社会人として遅刻はマズいだろう…。
**
「……ま、間に合った…。」
タイムカードを押した時間は何と八時二十九分。あと一分遅れて居たら遅刻ってところだったらしい。ナイスダッシュ、俺。
「おはよう。朝から頑張り屋さんね。」
「嫌味ですか湊チーフ…。」
「ふふ、思ったことを言ったまでなんだけど?」
「…嫌われますよ。」
席に着くなり湊チーフに声をかけられる。相変わらずお人形さんみたいな人だな。
…にしても、何だって違う部署の湊チーフがこんなところに?俺に用事でもあるまいに。
「貴方が来るのを待っていたのよ。」
「…俺、またなんかやらかしました?」
「ふふっ…そう身構えないの。別に悪い話じゃないわ。」
??…なんだろ。社内でこういう声のかけられ方も初めてだし、そもそも他部署に迷惑をかけるようなことは…
「実はね、今日面接があって…」
「湊……チーフ…。」
「あら、燐子。」
音もなく…そう、まるで忍びの者のようにそこに立っている白金。…お前ゲームだとウィザードじゃねえか。
「彼を………どうする気、ですか……。」
「あら?…別に、お手伝いを頼もうと思っただけよ?」
「…わざわざ部署も違う、○○さんに………ですか…?」
「確かに。」
「はぁ………貴方も随分好かれたものね。…どうやって誑かしたの?」
大袈裟に呆れる素振りを見せてから耳元で囁いてくる湊チーフ。…いや、その距離感はやらし過ぎます。
…と思ったけど、足元を見ると一生懸命背伸びしているのが見えて笑いそうになってしまった。…ぷるぷるしちゃってまぁ…。
そっ、と押し戻し、距離を置く。あのね湊チーフ、白金さんの顔がめっちゃ怖いの。
「…人聞きの悪いこと言わんでください。…にしてもいい香りだ。香水か何かで?」
「…使ってないわよ。…シャンプーかしら。」
「シャンプー?マ○ェリ?」
「何でよ。…美容室で買ってるから名前までは知らないけど…。」
「なるほどそりゃわからねえわ。…うぉっと。」
思い切り肩を押される。…急に力を掛けるから、危うく右側のデスクに倒れ込むところだったぞ。
なんだよ白金…って泣いてらっしゃるー!?
「………人の気も知らないで……イチャイチャ…イチャイチャ……と…」
「わーっ!ええと、どうした!?どこか痛いのか!?別に無視してたわけじゃないぞ!?…ただ匂いが気になってだな…ええと、その。
…あっ!し、白金もいい匂いだよな!?…何のシャンプー使ってんだ!?」
「…………どうでも、いいくせに……」
「そ、そんなことないって!…ってかほら、いま仕事中じゃん!?まず湊チーフの話聞いてからにしようぜ?な?うんそれがいいや!」
「……知りません………。」
「白金……。どうしよう湊ちゃ…チーフ。」
「……取り敢えず行きましょう。応接室よ。」
「え?いや、ちょ」
無表情のチーフに腕を引っ張られる。…いやいや有り得んパワーだなおい。どこにそんな怪力が眠って…じゃない!
このままの白金を放って置けるか!俺は逃げるぞ!この腕の束縛から…っ!
「ちょっちょちょちょ…ちょま、ちょまままま」
「うっさい。ほら、自分で歩くっ。」
「…ご、ごめん白金!…あとでちゃんと謝るからぁ!」
まぁ、無理でした。ってね。
**
「…で、無理やり座らされたわけですが。」
「あのねぇ…。ちゃんと話を聞かない方が悪いでしょう?…自分の恋人くらい、ちゃんと躾けておきなさい。」
「躾って…。あのね湊ちゃん?俺と白金はそういうのじゃないって何度も…」
「じゃあ説明するわね。」
「聞けや!!」
「…もう時間は迫ってるの。面接希望者はもう待機してるの。わかる?」
「……なら最初から面接って言って連れ出せばいいじゃないすか。」
何でわざわざあんな面倒事を起こす必要が…。
「何言ってるの?あの方が面白かったでしょ?」
あ、この人がもうめんどくさい人や。
反論するのもバカバカしくなってきたので大人しく資料に目を通す。
「…ふぅん…。俺と同い年なんすね。」
「あら、そうなの。…じゃあ仲良く出来そうね。…あなたの部下になるわけだし。」
「仲良く、ねぇ…。…んん?」
今なんつったの君。
「いやあの」
「どうぞー。」
「ちょっと…。」
あぁぁぁぁぁ、もう。確認したい事項なんか全部すっ飛ばして進めちゃうんだからこの人は…。
応接室のドアからは、元気な声とそう遠くないイメージの女性が入ってくるところだった。
もっとよく顔を見ようと、立ち上がりながらそちらに意識を向けようと…したところでまた近くに湊チーフの顔が。
「ちなみに、もう採用は決定してるから、色々質問して掴んでおきなさい。」
「はぁ?じゃあ何の為に面接なんか?」
「…上層部は全員採用で堕ちてるからね。…この面接は形式上の建前と、あなたとの顔合わせが大きいかしらね。」
そんなゆるい会社じゃないぞうち…。採用が決定してるって、そんな優れた人材なのか?
目の前に来て深々と頭を下げる新人さん。その旋毛を凝視して待っていると、勢いよく顔を上げる。ぴたっと合う目線で静止する笑顔。…にコンマ数秒遅れて、ゆさっと。
「いや胸ぇぇえ!!」
「ひっ!?」
「……はぁ、○○。それセクハラだから。」
いやごめん湊チーフ。…だって、リクルートスーツであれだけしっかり揺れるって何なんだよまじで。擬音も聞こえたぞ。
…あんなの、白金以来じゃないか…。
「いや、つい目が行っちゃって…。ご、ごめんね?ええと…」
名前を確認しようと手元の履歴書に目を落とす。
ええと…、あぁ難読とかじゃなくてよかった。
「上原さん。…どうぞ、お掛けください。」
「…あはは…よく言われるんで、もう慣れっこですから…。失礼します。」
その後
「…以上で面接は終了だけど、上原さんから質問はあるかしら?」
「…ええと、そうですねぇ…。…あっ!」
「ん?」
「○○さん?…でしたっけ。」
「そうですよ。」
俺に?やっぱり部署が同じだと訊かれることも多いよな。…事前に言ってもらえば、もっと資料とか準備できたのによ…。
「…○○さんって、湊さんとお付き合いしてるんですか?」
「……ええと、はい?」
「なんだか、入ってきた時もそうですけどずっと距離が近いので。」
「…いや、そういう…ないですよね?湊チーフ。」
「……さぁ?あなたへの質問だもの、あなたが答えなさい?」
「…えぇ…。…んん"っ、えー…社内恋愛は、その、良くないことなので…」
「よく言うわね。」
余計な茶々を入れんでくれ頼むから。あなたとの遣り取りを疑われてるんですよ?
…ほら見ろ。上原さんの目が輝いちゃってるじゃんか。
「まぁとにかく、私とこの人はそういう関係じゃありませんので。」
「あっ、そうなんですか…じゃ、じゃあ、彼女とかいますか??」
「いないわ。」
「えっ。」
何故食い気味であなたが答える。
「…だから狙うならチャンスよ?」
「ほ、ほんとですかっ!?」
またしても余計な一言を…。そして身を乗り出すな上原さん。まさか本気じゃああるまいね。
「…ふふっ、メモしとこーっと♪」
「あぁ、面接中一度も使わなかったメモ帳をここで初めて使うんかい…。」
「ほかに質問はあるかしら?」
「あ、あとは大丈夫ですっ!…採用されたら、いっぱい訊きますね。」
「そう。…じゃぁ、もう帰ってもらって結構よ?」
「はいっ!…ありがとうございましたぁ!」
礼儀よく深々と礼をした後、スキップでもしだしそうな陽気さで応接室を出ていく。ゆさっ、ゆさっ…。
「可愛い子だったわね、ひまりちゃん…って、目で追いすぎ。」
「だ、だってさ…。湊ちゃんも……あぁ。」
「何よ。死にたいの?」
ごめんて。
何にせよ、俺の役目は終わった。気づけば定時まであと少し。…さて、適当にサボるか。
あ、ちなみに、"ひまりちゃん"っていうのは上原さんのお名前の方だ。平仮名の名前って何だか可愛らしいよな。
「サボろうなんて思ってるんじゃないわよね?」
「…いいえ?」
「そうよね?…まだもう一つ仕事を頼みたいのよ。」
「…はぁ、なんすか?」
まだあんのか面倒事が。
「…私のデスクの引越し、手伝って?」
「は?…異動っすか?」
「そうよ?」
「あ、まじすか。じゃあま、適当に手伝いますね。」
「……だめよ?ちゃんとやらなきゃ。」
「………嫌です。」
「あなた、直属の上司の指示を聞けないって言うのね?」
「…………いやいやいやいや。」
どうやら、俺には上司と部下が同時にできるらしい。
**
「……長かった。」
定時を過ぎること二時間半。漸く終わったチーフの引越しに、すっかり疲労の溜まった腰を叩く。うーん、おっさん臭い動作だ。
まさかデスクごと動かす羽目になるとはね。まぁ、人が二人も増えるんだ。確かに次の新しいデスクも必要だよな。
「終わりましたよ……ってそうか、帰ったんだっけあの人。」
当の湊チーフは、予定があるらしく定時にさっさと帰ってしまった。ほんと何なんだあのチビ。…と悪態を好きなだけ吐けるのがモノローグのいいところだな。
「やっと………終わりましたか。」
「ひえっ!?」
「……もう、そんな……人を幽霊か何かみたいに…。」
「白金…。」
すっかり無人だと思っていたオフィスに、ただひとりずっと残っていたようだ。…何がしたいんだコイツは。
「ずっと…見てましたよ……。」
「声くらい掛けたらいいじゃんか?」
「……頑張っている貴方が……素敵だったので…邪魔したく、なかったんです…。」
「ふーん…?まぁいいや。帰ろっか?」
「はい……。」
なんだすっかり機嫌も直って…
「明日から、楽しみですね………。」
「…は?」
「………ハーレムじゃないですか。」
「…マジで言ってんのか。」
全然直ってなかった。
「……もう、…どうして貴方の周りは……そんなに女の子が集まるんです。」
「しらんよ。」
「…今度は、どんな子……?」
「……うーん…。なんかすげぇ……すごい子。」
「…チッ。」
「んん!?」
「………また体ですか………。」
「また!?またって何!?」
「私だけでは飽き足らず………第一、そこはキャラ被りじゃないですか………。」
何言ってんだ…別に、白金のことそんな風に見たことねえよ。
「別に、白金に対してそういうやらしい目で見たことはない…ぞ。多分。」
「ふーん………?」
「やや、本当だから、まじで。うん、きっと。」
「……へー?…………えいっ。」
「!?…な……な……」
急に抱きつくようにしがみついてくる白金。…あぁどっちも意味は一緒か。
物凄いクッション性に驚きつつも、こんなことをしてはいけないと、引き剥がす。
「…ば、ばばば、ばかやろう!…そういうのは好きな奴とかにやるもんだ!
…女の子なんだから、自分の体は、大切にしなさい…!」
「………………興奮しました?」
「……バカ言わない!…飯食いに行くぞ。」
あーもう。…今日は本当に厄日だ。
おっぱいは正義。(ほんとすみません)
<今回の設定更新>
○○:性的なことにもそれなりに興味はあるが線引きはしているつもり。
同僚をそういうふうに見たりはしないように心がけている自称紳士。
何故か他部署の人間からの信頼が厚い。
燐子:今回影が薄かった反動か、散々遅くまで待った後は少し大胆に。
ぼやぼやしてると奪われちまうぞ!
友希那:ぐいぐい来る上に職権も平気で濫用するやばいタイプの上司。
燐子が大好き。(ここ重要)
ひまり:面接を受けに来た上原です。
実は数日前に重役のみの面接をパスしており、今回はお遊びみたいなもの。
絶賛彼氏募集中。
次回、上原山はどう動くのか。