BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

149 / 278
2019/09/15 俺「休日出社?当たり前じゃないですか。」

 

 

 

「はい、じゃあこれ。」

 

「……一応訊きますがね、湊ちゃ……マネージャー。」

 

「何よ。」

 

「普通こういうのって、背が小さいほうがウケがいいんじゃないです?」

 

「つべこべうっさいわね。細かい事いつまでも穿り返してるような細かい男はモテないわよ。」

 

「や、別にモテたいわけじゃ…じゃなくて!」

 

 

 

日曜日。本来休日であるはずの今日、こうして職場でちびっ子上司にパワハラを受けているのには理由がある。

まず一つ、今日はうちの会社の敷地を使ってそこそこの規模のイベントがあること。まぁ、これは秋祭りのようなものを想像してくれるといい。

そして二つ、その中で地元のゆるキャラの着ぐるみに入る人員が不足していた為、何故か湊マネージャーが俺を推薦した事。

…一つ目はいいとして二つ目はなんだ。普通着ぐるみって小さい人が入るんと違うんか。…この湊マネージャーみたいな。

 

 

 

「あ"?失礼なこと考えてなかった?」

 

「…滅相もございません。」

 

「そう、なら早く着替えてらっしゃい。」

 

「これを、一人で着ろと?」

 

 

 

大体この手の大きな着ぐるみは二、三人の補助をつけて装着ものだ。正直、自分一人じゃどうやっても無理なところがあるからな。

 

 

 

「何言ってるの、あなたには可愛い可愛い部下が居るじゃない。」

 

「えぇ…。」

 

「はぁい!私じゃ不満です??〇〇さんっ。」

 

 

 

ゆさっ。

一体どう隠れていたというのか。ちびっ子の後ろから、ジャイアント上原丸――通称ひまりちゃんが顔を出す。顔を出すというか胸を揺らすというか。

 

 

 

「…ひまりちゃんが補助役やるの?」

 

「そうですっ!その後の付添人も私ですよっ!」

 

 

 

着ぐるみと言っても様々で、普通の人型で視認性の良いタイプから、キャラクター感が強すぎて視界がほぼ無いタイプまである。今回俺が入らなきゃいけないのが後者の方で、視界はほぼ無いと言っても過言ではない。

つまり、会場を歩き回る際に先導し安全を確保する"付添人"が必要なのだ。

 

 

 

「…多分初めてこんな大きな仕事をするので、もうわっくわくのどっきどきですよ!」

 

「のぶ代ちゃん…じゃない、ひまりちゃん…。できるの?」

 

「なっ!…〇〇さん、私の事舐めてるでしょう!!」

 

「はいはいわかったわかった…。同い年って言う割に妙に子供っぽくて元気なんだから…。」

 

 

 

苦手だわぁ…とは言わないが思っている。単純に元気過ぎて苦手なのだ。もっとこう…そう、白金みたいな、静かなタイプの方が一緒に居て楽だし俺は好きなんだよな。

 

 

 

「はいはい、脳内で惚気なくていいから、さっさと準備なさい。」

 

 

 

控室として宛がわれている応接室へ押し込まれる。そうせっつかなくても、と思ったが、確かに開始時刻はそこまで迫ってきていた。

仕方ないがこれも仕事だ。切り替えていこう。

木製の長テーブルに並べられた各パーツを一通り目視で確認。全て揃っていることを改めて確認して、一つずつ装着に入る。

 

 

 

「うわぁ…!これ、かわいいですね!!」

 

「…そうかな。ひまりちゃん、特殊なセンスしてるとか言われない?」

 

「言ーわーれーまーせーんーっ。」

 

「あそう。」

 

 

 

インナーに当たるチョッキのようなパーツを装着。ここに小型の送風機を入れるようになっていて、頭部に涼しい風を送り込める仕組みらしい。

次に首から下、大きな靴、ヘルメット型になっている大型の頭部、腕、手、と順に装着していくのだが……何せ装着段階で既に暑い。蒸し暑いというか何というか、兎に角風通しが皆無なためまるでサウナにでも入っているような錯覚を覚える。

 

 

 

「どうですかぁ?〇〇さん。」

 

「…結構息苦しいけど、これで完成、かなぁ。」

 

「ふわぁ…っ!!」

 

 

 

視界が無くても何となくわかる。可愛さのあまり見惚れているんだろう。…どうしてこうゆるキャラって得も言われぬ気色悪さを纏っているんだろう。

今日俺が入るこのキャラだってそうだ。自分がこんな見た目で生まれたのを知ったら即行舌を噛み千切るだろう。

 

 

 

「〇〇さん…。」

 

「なんだい。」

 

「抱きついても、いいですか…?」

 

「……駄目だって言ってもするんでしょ。」

 

「ご名答!とりゃー!!!」

 

 

 

この姿になって一番最初にスキンシップを取ったのは、イベントに来ていた小さな子供でもゆるキャラファンでもない、ただの巨乳の後輩だった。

 

 

 

**

 

 

 

疲れた…。

イベント会場に出るや否や、気色悪い生命体に群がる人、人、人。もみくちゃにされる中で、このキャラのどこにそんな魅力があるのか只管考えていたが、結局到底見当もつかなかった。

そのままひまりちゃんに手を引かれ歩き回り媚を売ること二時間。…用意された"ユルキャラ"とでかでか書かれたテントで一旦の休息を取っていたのだが。

 

 

 

「すごいです!感激です!」

 

 

 

この巨乳ちゃん、興奮が収まらないのか終始煩くて気が休まりやしない。飲み物を飲む隙すら与えない程の密度で話を振ってきやがる。…まぁ、地元の名産品や何かの売込みに関しては流石のコミュ力、といった感じだったが。

 

 

 

「あのさぁひまりちゃん。…んっ」

 

「もー動かないでくださいよぉ。汗が垂れちゃいますよっ?」

 

「いや自分で拭けるってば……んんぅ。」

 

「はいはい、〇〇さんは休まなきゃいけないんですから、こういうのはお任せください!なんですよぉ。」

 

 

 

あのクソ重たい上に熱の篭もる頭部を漸く外し、所謂"中の人がこんにちは"状態で休む俺の汗を、ひまりちゃんがちょこまかと動き回りながら拭き取っていく。

暑いから仕方ないんだろうが、そんな薄手のタンクトップ一枚じゃその、当たるんだが。クッションが顔に。

 

 

 

「もー。面接のときもそうですけど、〇〇さん胸ばっか気にしすぎですよぉ。

 私じゃなかったらセクハラになっちゃいますよ?」

 

 

 

めっ、と人差し指を突き付けてくるひまりちゃん。だって君、敢えて強調するような服装とか仕草ばっかりするでしょ。そりゃ気にもなるわい。

――と。再びその部位に視線が行ってしまいそうなその時、すーっと凍えるような何かを背後から感じた。…殺気?

振り返ってみると――

 

 

 

「〇〇……さん。………励ましに来てあげたのに…何ですか、部下とイチャイチャイチャイチャ………」

 

「……白…金…?」

 

「あっ!燐子さん!おはようございまーっす!」

 

 

 

―――青い炎を連想させるような、静かな怒りを纏った白金が無表情で立っていた。いや、別にイチャイチャなんてしてない…よ。

あとひまりちゃん、多分そんな呑気に挨拶してる状況じゃないわこれ。

 

 

 

「……上原さん。………おはよう、ございます………。○○さんの、お世話なら…替わりましょうか?」

 

「あっ大丈夫ですよっ!私に課せられた使命なので!」

 

 

 

ドヤァ…ゆさっ

 

 

 

「………チッ。……でも○○さん、セクハラ紛いのことばかりで………大変でしょう?」

 

「いや、俺変なことは何もしてな」

 

「もう慣れましたからねぇ。それでも私、お世話できるんで大丈夫です!」

 

「…………へぇ。」

 

 

 

ひ、ひぃっ。白金が未だかつて見せたことのない氷のような微笑みで俺を見ている。これマジなやつだ。今日が命日かもしれん。

俺が恐怖に恐れ慄いているというのに、ひまりちゃんはどんどんと白金をテントから追い出そうとしているようだ。

 

 

 

「ほらっ、燐子さん今日お休みですよねっ?…ここは私に任せて、是非催しの方回ってきちゃってくださいよっ!」

 

「……ちょっ、……嫌、です…。」

 

「そもそもここ部外者以外立ち入り禁止ですから!!」

 

「部外者って………あなたっ……」

 

「ストップだ二人共!!」

 

 

 

このままじゃどんな化学反応が起きるかわかったもんじゃない。…ここは…。ここは俺が、道化を演じることで争いを止めねば。

 

 

 

「…俺は、君たち二人にお世話をしてもらいたい。」

 

「え?」「は?」

 

「いや何、単純明快なことさ。…俺は、その大きな胸に目がない。

 …正直、君たちは二人共魅力的だ!!だからこそ!俺の付添人という一番傍で行動を共にする人間には、君たち二人を採用したい!!」

 

 

 

…何言ってんだ俺。

しかしこの効果の程はどうだ?ひまりちゃんもやれやれ的なリアクションで済んでるし、白金も満更でもなさそうじゃないか。…すっかり大人しくなっちゃって。

 

 

 

「もう……○○さんは本当どうしようもない変態さんですねぇ。」

 

「………そこまでいうなら、二人で付添い……やってあげなくも…ないですけど…。」

 

 

 

斯くして。

まるで悪質な情報商材の成功例よろしく、巨なる美女二人を侍らす謎のご当地キャラという奇妙奇天烈な図が完成したのである。

この珍事は、後に"9・15ゆるキャラ成金問題"として、当社に語り継がれていくことになるのだが、それは今ここで語るべきことではない。

…本当、何やってんだろう俺。

 

 

 

**

 

 

 

「……はぁぁぁぁ。」

 

「お疲れ様。……随分とやってくれたわね。」

 

「ホント参っちまいましたよ…。」

 

「あなた、そんなに大きいのがいいわけ?」

 

「いや別にそういう訳でもないんですがね。」

 

「……私くらいだと?」

 

「湊ちゃんかぁ………。ま、アリっちゃアリ?」

 

「…なんかムカつくわね。」

 

「振ってきたくせに。」

 

「……まぁいいわ。片付けは大まかでいいから、さっさと帰りなさい。」

 

「あれ、湊ちゃんは?」

 

「運営サイドは色々忙しいの。貴方は休日出社なんだから、早く帰って明日の勤務に備えること。いいわね?」

 

「へいへい…本当態度だけはでかいんだから…。」

 

「……態度だけじゃなくて色々大きかったら、私も混ぜてもらえたのかしら?」

 

「冗談キツイっすよ…」

 

「ふふっ。……おつかれ。」

 

 

 

 




一部割とガチ実話です。




<今回の設定更新>

○○:そこそこのタッパがある。
   揉め事を回避するためなら道化にもなる。仕事人である。
   …相手を一人に絞れとかは言っちゃいけない。

燐子:ちょっと顔を出すだけでこの掻き回し様。
   これでいて主人公には「なんか最近よく喋るようになったなぁ」程度にしか思われていない。
   立ち上がる時の「…よいしょ」がちょっとやらしい。

ひまり:可愛い。元気いっぱい。特にあざとさがあるわけではない。
    セクハラに強い女の子って不思議な魅力があると思うんです。可愛ければ。
    脇と二の腕、横乳のラインが最高だと社内で専らの評判。

友希那:大体こいつのせい。
    小さいのを気にしてはいるが売りだとも思っている。
    主人公を可愛がるのが好き。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。