BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/11/16 級友

 

 

「おい○○…○○…おいってば!」

 

 

 

授業中。二限目だったか三限目だったか覚えちゃいないが、取り敢えず今は大事な睡眠時間だったはずだ。

それを隣からの喧しい声に目覚めさせられた訳で…。

 

 

 

「あんだよ夏野…殺すぞ。」

 

「どうして起こしただけで殺されなきゃいけないんすかね…。」

 

「で?…授業中だぞ、私語は慎めよ。」

 

「それ、ブーメランね。」

 

「…真面目に授業受けろよ、不良野郎が。」

 

「アンタに言われたくねぇよ!!」

 

 

 

ほんとに煩い奴だ…。夏の暑い日に顔の周りをぶんぶん飛び回る羽虫より五月蝿い。

 

 

 

「おい、羽沢、夏野、騒ぐなら外でやれー。轢き殺すぞー。」

 

アッハハハハハハハ

 

 

 

ほれみろ、単車乗りで有名な数学教師のジジイに目ぇ付けられたじゃねえか。オマケにクラスの連中からはいい笑いもんだし…隣の元凶を見ると、必死になって教科書で顔を隠し「ヒィ」とか抜かしてやがった。

遅ぇよ。

 

 

 

**

 

 

 

「ちょっと、羽沢。」

 

「あん?」

 

 

 

数学の授業も終わり、騒がしくノイズに包まれる教室の中、一人の女子生徒が目を吊り上げて話しかけてくる。

 

 

 

「あれ、いいんちょ。なーに怒ってんの。」

 

「糞虫は黙ってなさい。あたしは羽沢に用があんの。」

 

「扱い酷くないっすかね…。」

 

 

 

一蹴され涙目で黙る糞虫…もとい夏野。いつもそういう扱いなんだからちょっかい出さなきゃいいのによ。

この目の前で偉そうに腕組みしている髪の長い女はこのクラスの学級委員長…瀬川(せがわ)桜恋(さくらこ)だ。何とも画数の多い名前だこって。

 

 

 

「あんだよ桜恋。怒るんなら相手が違うぜ。」

 

「アンタでいーのよ。…アンタね、ちゃんと授業受けるってつぐみと約束してるんでしょ?」

 

「あぁ、弁当と引き換えにな。」

 

「…だったらもうちょっと集中なさい。報告する身にもなって欲しいわ。」

 

 

 

お前までイチイチ密告(チク)ってたんか…と精一杯恨めしそうな顔で睨みあげてやる。…直様、「あによ」と鋭い眼光を返されてしまった…。

 

 

 

「うっせぇな…お前は俺のかーちゃんか。」

 

「アンタみたいな出来の悪い息子を産んだ覚えはないわよ。」

 

「しってらぁ。」

 

「……あんたら仲良いっすね。」

 

「良くないわよ。」「よかねえよ。」

 

 

 

………うん、こういう息の合い方とかが揶揄われる理由なんだろうが…夏野のげんなりした顔にもまま納得だ。

 

 

 

「…兎に角、つぐみを困らせるような事するんじゃないわよ。」

 

「言われんでもわーってるよ。…早く席戻れおてんば娘。」

 

「…馬鹿にしてんの?」

 

「はよ戻れっての…。」

 

 

 

腑に落ちない様子で自分の席へと歩いていく怒り肩を見送る。…つぐみもあんなのとよく仲良くできんな。

 

 

 

「…なー、○○。」

 

「あんだよ。」

 

「実際どうなの、いいんちょのこと。」

 

「桜恋が?…どう、ってのは何だ。」

 

 

 

何とも逆らいがたい気迫は背負っていると思うが。

 

 

 

「んー……例えば、告白されたら付き合えるか…みたいな?」

 

「無理。」

 

「即答かよ…。」

 

「あのなぁ、もう少し幻想見せてくれるような女ならいいけどな?…アレだぞ?」

 

「でもほら、見た目だけなら結構モテたりするじゃん。」

 

「……マジ?」

 

 

 

夏野の話によると、あれはあれで連日のようにラブレターやら呼び出しを受けているらしい。今日日ラブレターって…平成初期かよ。

ただその度に全て断っているようで、桜恋を攻略することがこの学校での男のステータスになりつつあるとか何とか。

 

 

 

「怖。」

 

「命知らずな連中も居るもんだよなぁ…。」

 

「暴力振るわてるのは俺らだけらしいけどな。特に夏野だけど。」

 

「差別酷くないっすかね…。」

 

 

 

恐らく"不良"に属する生き物が心底嫌いなんだろうな。この学校で俺たち二人だけに当てはまるステータスといえばそれくらいだし。

…ただそれをそのままこの馬鹿に伝えても面白くない。ここはひとつ、揶揄いつつも扇動してみることにした。

 

 

 

「バッカ、逆に考えんだよ。…お前にだけ暴力振るうってことは、お前だけ特別扱いしてるってことだろ?」

 

「…というと?」

 

「お前が真剣に行けば、ワンチャン落とせる可能性があるってことさ。」

 

「…マジかよ!○○お前天才だな。」

 

「あぁ。…だからここは、夏野が男を見せる場面だってことよ。」

 

 

 

この単細胞馬鹿のことだ。これくらい煽ててやれば後は自ずと…

 

 

 

「○○、僕いっちょカマしてくるよ!」

 

「おう、精々ぶつかって砕けて来い。」

 

「HAHA、僕は成功を約束された男だからね。拾う骨はないと思いな…アデュー。」

 

 

 

あぁ、こいつ本格的にアホなんだなって。

ボロ雑巾の様な夏野を引き摺った桜恋が文句を言いに戻ってきたのは、それからほんの五分ほど後だった。

 

 

 

**

 

 

 

「……って訳だわ。」

 

「ふーん。じゃあやっぱりお兄ちゃんが全部悪いんだ。」

 

「やっぱりって…桜恋は何も言ってなかったのか?」

 

 

 

深夜、既に就寝の形を取っている二人。布団の中で、昼間の出来事を問い質されていた。

どうやらあの後、昼食の時間を共に過ごした桜恋に散々愚痴られたらしい。

 

 

 

「桜恋ちゃん、本当に迷惑そうだったんだよ…。「夏野は見境が無さ過ぎるー」とか、「どうせ羽沢のせいなんだろうけど」とか。」

 

「それで俺に訊いてきたってわけか。」

 

「……まぁ。」

 

 

 

俺の左手を下敷きにしている妹が、寝返りを打ち背を向ける。…あぁ、少し痺れてきたかも。

 

 

 

「じゃあ真相も分かった事だし、自分の布団帰んな?」

 

「うっ………」

 

「うっじゃないよ。…話がしたくて潜り込んできたんだろ?」

 

 

 

元はといえば、早めに寝ようと布団を被っていた俺のもとに枕を持ってやってきたのが切っ掛けでこの話は始まったんだ。

以前一緒に寝る約束をしていたが、何故か親父に怒られた結果睡眠時だけは部屋を別にしなければいけなくなったのだ。…流石に思うところがあったのかどうかは定かではないが、話が終わった以上帰るのが良いだろう。

 

 

 

「……今日、ここで寝ちゃダメ?」

 

「親父がまたキレるぞ……どうした、お兄ちゃんラブなのか?」

 

「ちがいます。……さ、寒いからっ。」

 

「ふーん……?」

 

 

 

外では雪も降っているし、寒いという言い分はわからなくもないんだが…屋内なんだし、お前の部屋にも布団あるじゃねえか。

 

 

 

「いーでしょっ!お兄ちゃんだって、私と寝られて幸せでしょっ!」

 

「……や、言っても妹だからなぁ…。」

 

「夏野くんだったらきっと喜ぶと思うよ??」

 

「あいつは女なら誰でも喜ぶさ。」

 

「うぅぅぅぅ…。」

 

 

 

背中を向けたままジタジタと踵を打ち付けてくる。こりゃ追い出すのはもう諦めて、さっさと寝てしまったほうが得策かもしれないな。

 

 

 

「わかったわかった……わかったから一回頭上げてくれ。痺れて適わん。」

 

「…やった。」

 

「…親父に言うなよ?」

 

「わかってますっ。」

 

 

 

左腕に血が行き渡る感覚。じわぁ…と温度が戻ってくると同時に、ほんの少しの痒みが…

 

 

 

「えいっ。」

 

「ちょっ…」

 

 

 

どすんと降ってくる妹の頭部。完全に戻りきっていない腕の感覚にもどかしさを覚えつつも、仕方なく妹の頭を撫でて眠りにつくのだった。

 

 

 




兄の身の周りの人達




<今回の設定更新>

○○:忘れかけていたが一応不良。
   悪い奴じゃないし馬鹿でもない。
   妹には何だかんだで甘い。

つぐみ:出番少なめ。クラス違うから仕方ないね。
    怒りっぽい親父さんも娘には甘いのだが、兄妹で一緒に寝ることは何故か禁止された。

夏野:主人公の悪友。全体的にノリが軽く、弄られポジション。
   かなりタフで、常人なら致命傷になる傷でも数分で回復する。

桜恋:主人公や夏野と同じクラスの学級委員長。綺麗な緑の髪を腰下まで伸ばしている。
   その整った外見から異常な程モテるが誰ひとり成就しない。
   その実なかなかにお転婆で、その有り余る攻撃力を受け止めるのは夏野である。
   同じクラスの美竹蘭としょっちゅう揉めるがつぐみとは仲良し。

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