BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「なぁ、機嫌直してくれよ…。」
「……………。」
フイッ
「…ほんと、俺が悪かったって。今度ご一緒、するからさ?」
「……………。」
フイッ
「なーあー。…燐子さーん?」
「…………。」
フイッ
「……手ごわいな。」
昼下がり。少し遅めの昼休憩に入った俺は、白金のデスクの前で……ええと、言葉は悪いがヘコヘコしていた。
俺のせい…かは分からんがとある事件により極限まで機嫌を損ねてしまったんだが…。機嫌の悪い時の白金は本当にどうしていいかわからない。目も逸らされるし口も利いてくれないし。
くそ、あの人のせいだからな…。
**
「あの………。」
「…あん?」
午前中の架電ラッシュが終わった頃。おずおずと声をかけてきたのはあの白金だった。
…珍しいこともあるもんだ。部署も違う上に、会社じゃほぼ絡んでこないあの白金が…何かの用なんかな?
「どうした白金…?何か頼まれごとか?」
「いえ、その……個人的な……用事で……。」
「個人的ぃ??」
おいおい勤務中だぞ…。
さて、なにやらひまりちゃんも気にし出している様だし、さっさと用件だけ聞いちゃおうか。
「どうしたんだ?」
「えっと………○○さん、お昼は……。」
「あぁ、当然まだだよ。」
「予定とか………あります…?」
「んー………」
PCの画面を切り替え今日のスケジュールを確認する。
……ふむ、会議は15時からだし、それまでは特になさそうだな。
「や、今のところはないかな。一緒に食うか?」
「!!……はい、丁度お誘いしたくて………来たんです…」
なるほど。ランチのお誘いって訳ね。…逆に俺から誘ってちょっとあれだったかな。
「ん。…じゃあ、昼入ったらそっちのデスク行くわ。」
「はいっ!………私、待ってます…ね?」
「おう。」
あぁ、久しぶりにいい笑顔を見た。不覚にもトキメキそうなほど綺麗だったぞ…。
「ひまりちゃんはここんとこ毎日だったろ…。また今度な。」
毎日って言っても約束したりしてるわけじゃないけどな。デスクの
…さて、それじゃあ午前のタスク片付けちまおうかね…!
**
「よしっ…!!」
一段落つき、時計を見上げると丁度正午を過ぎたところ。昼飯にはちょうどいい時間だ。
この後社食で食うメニューを想像しながら席を立―――
「ちょっといいかしら。」
「………マジかあんた。」
「…何の話よ?」
肩に置かれた手に振り返ると、ちびっ子クールビューティこと湊マネージャーが立っていた。…不思議だ。中腰の俺と目線が同じだ。
「あの、マネージャー?ぼく、これからお昼ご飯の時間なんですけど…」
「あら?いつもみたいに湊ちゃんって呼びなさいよ。」
「いやーなんのことだか」
「なんなら、ユキちゃんでもいいけど…?」
「…背伸びするくらいなら耳打ちやめたらいいじゃないすか。」
ぷるぷるしてんぞ。…因みに、別の意味でぷるぷるしていた俺は遠くの白金をチラ見したが、ヤツは物凄い形相で睨みつけてた。黒いオーラが見えるぞ白金…。
「…少し、付き合って欲しいのよ。」
「あいや、僕は湊ちゃんをそんな風には見てな」
「バカ…///行くわよ。」
ノリに合わせるのか突っぱねるのかどっちかにしてくれませんかね。
斯くして、首という急所を掴まれた俺はまたしても行く宛のない旅に連れ出されるのであった。
「…さて、ここら辺でいいかしらね。」
「……ここ、は?」
散々引きずり回されてたどり着いたのはいつもの応接室。促されるままに隣り合って座る。
時計を見やるも恐らくもう無理だ。ここからは抜け出せないんだろう…。
「大丈夫よ。13時過ぎには開放してあげるわ。」
「はぁ…で?ここで何をすればいいんです?」
「あぁ。少し、私の話し相手になって欲しいのよ。」
「…………あ?」
「何よ、不満?」
「……いや、俺昼飯…」
「知ってるわよ?見てたからね。」
こいつ…。上司じゃなかったらブチギレ案件ですぞ。
「…どうしてそんな意地悪なんですか。」
「ふふっ、可愛らしくってね。」
「…お、俺が?」
「何自惚れてんのよ。…あなた達ふたりが、よ。」
可愛くて邪魔したって?ホント意味わからないこの人。なんなのもう。
やっぱあれか?体の体積が小さいとその分脳みそも…
「二度と立てないようにするわよ。」
「どっちの意味で?」
「…ッ!!…死ね。」
「っ…!」
相変わらず考えを読んでくる上司だ…。白金曰く「○○さんは顔に出るからわかりやすい」だけど、文字でも浮かんでんのかってくらい察するんだよなこの人。
口悪いし。
「恋は障害があるほど燃え上がるって言うじゃない?」
「はぁ。」
「多分、あなた達は放っといてもくっつくと思うのよ。」
「はぁ?」
「だから、私が障害になってあげようかと思って。」
「…あぁ?」
「何よ、真面目な話なのよ?」
真面目な話だというなら勤務中にしていただきたい。本当なら白金とご飯やら何やらピーチクパーチクチュッパチャップスしている筈だというのに…。
「なぁゆっきー。」
「…ぁによ。」
「今だけは上司とかそういうの置いといて、俺の気持ちを伝えるぞ?」
「…いいじゃない。聞くわ。」
「うっせぇ!邪魔すんな!…ば、ばーか!」
「ひぅっ!?」
もう流石に限界だった。こんなしょーもないことで長時間拘束されるのも、訳のわからない理論を聞かされるのもだ。…あっ、あと白金が傷つくのもだった。
「……ふふっ、合格よ。」
「えっ。」
「いいじゃない……あなたの心意気、しかと受け取ったわ。」
「はぁ。」
「この後、あなたと燐子には外回りを命じるわ。……定時まで適当にドライブして直帰なさい。」
「…んん!?」
おやおや?俺は大声を出したせいで頭も耳もおかしくなってしまったのかな?
それは実質、残り勤務時間はデートして気が向いたら帰れとかいうとんでもなく幸福な命令…?
「ゆきぴょん……。」
「…そろそろ呼び方統一してくれないかしら。何でもいいから。」
「じゃあ友希那。」
「…ッ。……あ、新しい、パターンね…。」
「……照れてんの?」
「うっさいわね。…早く、行きなさいよ。」
俯いて髪を弄りだした上司を背に、いざ白金の元へ。
**
「頼むよ…白金……。」
「……いーじゃないですか別に。…湊さんと行けば……」
「だーかーら。…ゆき、湊チーフが俺とお前で行ってこいって言うんだよ。」
「…………いやです。忙しいので。」
「燐子!!」
「ッ!?」
もうかなりの時間をロスしている。遠回りだというのに、ただただ他人のデスクで時間を潰しているのもおかしな話だろう。
…ほらみろ、言いだしっぺの友希那も貧乏ゆすりをしながら右手をぐるぐる……巻きでってか。
「行くぞ燐子。……これは仕事だ。」
「あぅ、…えっ?………○○、さんっ…?」
じれったいので強制連行だ。イジイジとしているその手首を掴み、立ち上がらせる。
……まあ最初からこうすりゃ良かったのか。
「俺は車回してくるから、準備して玄関に行ってくれ。」
「え、あの………はいぃ。」
ひゅーひゅーと白金の部署の連中の冷やかしを他所に、自分のデスク、湊チーフのデスクと回る。
「さんきゅー友希那。…ちょっくら行ってくらぁ。」
「………早く行きなさい。馬鹿。」
今日の燐子の機嫌は俺に懸かってるってわけだ。
…一際気合を入れ、車に向かう。
「俺の戦いは、まだまだこれからだ。」
結局特に荒れることもなく、いつも通り帰るだけなんだけどな。
何かありそうで何もない一日なんです。
<今回の設定更新>
○○:ぶれてきた。
燐子:かわいい。
友希那:名前呼びになった、