BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/10/17 燐子「有給休暇の申請なんて久しぶりです……。」

 

 

 

「……送信っと。」

 

 

 

有給休暇を申請し、少し遅めの起床となった休日。同僚である白金燐子に起床を報せるメッセージを飛ばす。

 

ピロン

 

送信してから僅か数秒。画面に表示されている返信は最初の二行のみ表示されていて、かなりの長文を送り返されていることを表している。

 

 

 

「…暇かよ。……うぉっ。」

 

 

 

いざ開いてみると文字がビッシリ。彼女の場合、実際に口頭での会話では見せないような顔文字・絵文字の類が所狭しと使われていることも関係するのだが、それにしてもこの情報量は凄まじい。

……うん、要約すると、二時間後に駅前に来い、ということらしい。斜め読みは得意なんだ。

 

 

 

**

 

 

 

「よう燐子、早ぇなオイ。」

 

「あ、○○さん………。丁度、今来たところ…ですから。」

 

「そういうのいいよ。外で待ってないで、そこの喫茶店にでも入っていりゃ良かったのに。」

 

「いえ……待つのも、デートの醍醐味、ですから……。」

 

「……まあいいか。どこいく?」

 

 

 

今日は燐子の誕生日。事前にプレゼントは何がいいのか相談した時に、「一日一緒に外出する権利が欲しい」と言われたんだ。そんな権利、他に誰も欲しがらないし言ってくれりゃいつでも付いて行くんだけどな。

時間が正午近くということもあって、まずは近くの店で昼食をとることに。

 

 

 

「…つっても、俺そんなに洒落た店とか知らんぞ?」

 

「大丈夫です……元から、期待して……ないので。」

 

「あ、そ…。…で?どういうものが食べたい?」

 

「そうですね……○○さんの行きつけのお店とか……あります??」

 

 

 

行きつけ、行きつけかぁ……。そもそも外出自体しない俺じゃあ、上司に連れて行かれたとか飲み会で行ったとか、そういった店しか知らないわけで。

 

 

 

「んー……今見渡した感じだと、ファミレスか牛丼屋くらいしか入ったことないなぁ。

 …逆に、燐子って普段何食って生きてんの?」

 

「私は、あまり……外食自体、しないので……自炊が殆ど、ですね。」

 

「ほー、俺と似たようなもんか。」

 

「……○○さんは自炊、しないでしょう……?」

 

「……まあ、な。外で食わないってのは一緒じゃん?」

 

「一緒にしないで……ください。」

 

 

 

参ったな。お店で食わない二人ということは、このまま延々と空腹で歩き回る可能性すら浮かび上がってくるというわけだ。それはもう、誕生日云々以前に最悪のデートになってしまう。

 

 

 

「おっけ。……ならこうしよう。昼は軽めにファミレスとかで済ませて、夜、家でガチの料理しよう。」

 

「私は全然構いませんが……○○さん、お料理…できるんですか?」

 

「いや、全く。…カレーくらいなら作れると思うけど。」

 

「…どうして、そう無計画でものを…言うんですか。」

 

「ううん……これも頓挫したなぁ。」

 

 

 

出航する前に座礁した気分だ。

 

 

 

「……私のしたいこと、言ってもいいですか…?」

 

「んぉ?いいぞ、どんどん言ってくれ。今日は燐子が主役なんだから。」

 

「……夜は、○○さんのおうちで……私が晩御飯を用意しても、いいですか…?」

 

「え"」

 

「………だめです…?」

 

「いや、ダメってことはないけど……それじゃあ俺がプレゼント貰う側みたいじゃんか。」

 

 

 

誕生日のイメージっつったら、主役の襷を掛けた主役はどっかり座ってて、周りがサプライズだなんだと面倒を見てやる。そんで最後にプレゼントを手渡してハッピーバースデーを歌って…ってもんだったんだが。

燐子が料理して二人で食べて…って、俺が誕生日みたいじゃないかよ。

 

 

 

「私的には、手料理を食べて貰えることが……私にとってのプレゼント…になるくらい嬉しいことなんですが。」

 

「そうなの……?…なんか、変わってんなお前。」

 

「普通ですよ……女の子、ですから……。」

 

 

 

女の子ってのはみんなこうなのか…。……いや、少なくともうちの上司とかはそうじゃなさそうなんだけどな…。

頭の中で薄ら笑うちびっ子パイセンの姿を思い浮かべていると、目の前の燐子が頬を膨らませていることに気付く。

 

 

 

「どうした。カービ○の真似か?」

 

「今、他の女の人のこと…考えてましたよね。」

 

「…何でわかんの。」

 

「貴方のことですから。」

 

「湊ちゃんなら手料理を食べてくれなんて言わねえよなぁ…って考えてただけだよ。ほら、あの人顎で人使うようなイメージじゃん?」

 

「しりません。……私といるときくらい…他の人のこと、考えないでほしい…です。」

 

「…それも女の子だから、か?」

 

「そういうもんなんですよ。」

 

 

 

いかん。このままじゃどんどん空気が悪くなる一方だ。どうやら俺の配慮が足りないことが原因らしいし、ここは話題を変えていかないと。

 

 

 

「……んじゃ、取り敢えずどこか入ろうぜ。あそこのファミレスでいいか?」

 

「……お好きにどうぞ。」

 

「悪かったって。今は頭の中燐子で一杯だからさぁ。」

 

「……本当に?」

 

「当たり前だろ。…ほら、手。」

 

「…は…はい…。」

 

 

 

手を繋ぎ一丁先にあるファミレスへと向かう。

手を繋いだことですっかり大人しくなってしまった燐子を引っ張るように歩きつつ、全く考えていなかった午後の予定を考えていた。

 

 

 

**

 

 

 

特に特筆すべき出来事も起こらないままファミレスでの食事を終えた俺達。初めて見る店だったが、味はなかなかのものだった。

すっかりご機嫌になったらしい燐子に、次の方針を決めるべく話しかける。

 

 

 

「なかなかいい店だったなぁ。」

 

「ええ…珍しい名前、でしたけど……。」

 

「ファミリーレストラン・ザ・ロイヤルガスト・バーゼリヤ……どっかで聞いたことあるような名前ではあるんだよな。」

 

「次は……そうですね……。」

 

 

 

飯のことはいいとして、誕生日だというのにプレゼントの一つも準備していないことに気づいてしまったんだよな。

燐子はそんなもの要らないと言うが、それに対して「はいそうですか」じゃぁ、男が廃るってもんだ。

 

 

 

「うっし、じゃあ次はショッピングと行こうじゃないか。」

 

「…?何か、買いたいものでも……?」

 

「まぁ滅多に外なんか出ないしな。……あんまり、好きじゃないか?」

 

「いえ!……○○さんと一緒なら……どこでも。」

 

 

 

午後は近くにあるショッピングモールへ向かい、ウィンドウショッピングと洒落込むことに。幸いにも平日ということもあって人は疎ら…目的の物があったとて容易に買い回りができそうだ。

晩飯用の食材も一階に併設されているスーパーで買っていけばいいしな。

 

 

 

「あ、これ………」

 

「ん。」

 

「………ふふ、○○さん…サングラスなんて、如何でしょう……?」

 

「…似合うと思うか?」

 

「……面白いと、思います……」

 

「お前がかけろ!!」

 

「きゃー………ふふふふっ」

 

「すっげぇ棒読み。」

 

 

 

ショッピングモールというのは中々に楽しいものだ。一人で歩いていても全く思わないけど、隣に誰かがいるならばまた話は変わってくる。

 

 

 

「まじか。」

 

「…何です?……ぁ……」

 

「最近のこういう施設って、普通におっぱいマウスパッド売っていいの?」

 

「………こういうのが、お好きなんですか…?」

 

「あいや、その、…手首が!手首が、ね?楽っていうか。」

 

「……………ふぅん。」

 

「それにほら、黒髪ロングとか、俺の好みどストライクなんだよ!」

 

「…………ふ、ふーん。」

 

 

 

"ショッピング"って、買い物を指す言葉だと思っていたんだよ。……でも、何も買わない"ショッピング"もあるんだなと。今日、生まれて初めて知った気がする。

 

 

 

「燐子、ケーキ買ってく?」

 

「……食べたいんですか?」

 

「俺はあんまり甘いものは……けど、誕生日っていったらケーキだろ?」

 

「それはまた随分と……安直というか…?」

 

「安直でもいーの。……嫌いなら別のものにするけど?」

 

「いえ、折角なので奢ってもらっちゃいます……」

 

「奢……おーけい。……じゃあ燐子は……これか?」

 

「!!……どうしてわかったんですか?」

 

「ふふん、俺だって最近は燐子のこと見てるんだからな。傾向くらい把握済みだ。」

 

「…や、やるじゃないですか。」

 

「だろ?因みに」

 

「○○さんはこれですよね?」

 

「……早いな。正解だよ。」

 

「ふふん。」

 

 

 

きっと、互いにある程度解り合っている相手だからこそ、というのもあるんだろう。…俺の隣を歩くのは、俺の傍で笑っているのは、もう燐子以外に考えられなく……いや、そんな関係でもないし、あまり変な気は起こさないようにしないと。

 

 

 

「お、ちょっとあそこ寄ってみないか?」

 

「何のお店……でしょうか。」

 

「ほら、俺たちがやってるオンゲのさ…」

 

「コラボ店?」

 

「そう。グッズとかあるっぽいぞ。」

 

「……行きましょう、是非。」

 

 

 

気付けば日が暮れかけている。その時間の経過を感じさせない、まるで自然な空気のように、そこに居ることが当たり前であるかのように……。

小物屋を物色し文具屋でグッズで散財し、……ケーキと食材を持ってモールを後にしたのは、もうすっかり日も落ち街灯に明かりが灯る頃。

 

 

 

「いやぁ…足が棒のようだぜ。」

 

「いっぱい……歩きましたもんね。」

 

「まあな。……んじゃ、帰って飯に……って、本当にウチでいいのか?」

 

「…やっぱり、迷惑ですか?」

 

「いや、俺は気にしないけど……ほら、男の家に女の子が一人で来るってのもさ。」

 

「…○○さんだから………信用してるんですよ?」

 

「…なんだかなぁ。」

 

 

 

**

 

 

 

流石にゴミがゴロゴロ落ちているわけではないが、お世辞にも綺麗とは言えない部屋。…まぁ男の一人暮らしなんてこんなもんだろ。こんなもんだよな?な?

その、ある意味聖域とも言えるエリアに、今日は二人の人間が踏み込む。もう一人の方…燐子は何がそんなに珍しいのか、キョロキョロと室内を見回し、あっちへウロウロこっちへウロウロ…。

 

 

 

「燐子、何か面白いものでもあった?」

 

「あ、いえ………こういうところに、住んでるんですね……。」

 

「きったない家だろ…?」

 

「ふふっ……○○さんっぽいです。」

 

 

 

口と足を動かしながらも、エプロンをつけるのは素早く。家主の俺が荷物とジャケットを置いて戻ってくる頃には、完璧な戦闘態勢の燐子が調理器具を漁っているところだった。

ぶつぶつと何かを言いながら指差し確認をしている様は少し可愛らしく、一瞬慣れてないのかと不安になり近づいていったが、無言の圧力を受けたために居間へと退散した。

……正直、燐子が料理をするイメージは全く以て無かった。想像できないし、そもそも想像することもなかったし。

 

 

 

「~♪……~~♪」

 

 

 

鼻歌を歌いながら長い黒髪を揺らし、軽快なまな板の音を響かせるその光景は宛ら新婚生活のような。

……案外、悪くないのかもしれんなぁ。

 

 

 

「燐子ー。」

 

「………はい?」

 

「…今日、楽しかったか?」

 

「…どうしてですか?」

 

「別に。……今日みたいなのってさ、俺初めてだったんだよ。で、悪くねえなって思ってさ。…だからもし、お前が嫌じゃなかったんなら」

 

「それは…………プロポーズですか…?」

 

「いきなり過ぎるなぁ……まだ付き合っても居ないだろ。」

 

「……じゃあ、告白……ですか?」

 

「まさか、そんな………いや、もし告白だとしたら、どうだ?」

 

「ふふっ……喜んでお受けするに…決まってるじゃないですか。」

 

 

 

そりゃ全く喜ばしいことだね。誕生日ってこともあるし、燐子も燐子なりにこの状況を楽しんでいるのかもしれない。

さてさて、どんな料理が出てくるのか…。一旦俺の質問に対し料理を中断していた燐子だが、今はまた調理に戻っている。鼻歌こそ戻ってきてはいないが、相変わらず楽しそうに揺れるその背中をふと……独り占めしたいと思った。

 

 

 

**

 

 

 

「ほぉ……!」

 

 

 

約一時間後。食卓に並べられた食事に思わず感嘆の声を漏らす。

派手な料理こそないが、家庭的だからこそ出せる暖かさを醸し出している。

 

 

 

「お前、本当にできるんだな…!」

 

「…疑っていたんですか…?」

 

「そうじゃないけど……。…なぁ。」

 

「…?……食べないんですか?」

 

「さっきの話。……告白がどうとかって。」

 

「あぁ………なんですか?」

 

「あれが本当に……ええと、その……こっ、告白だとして、付き合ってくれって言ったら……どうする。」

 

「…さっきも言いましたけど………喜んで、お受けすると……。」

 

「だったらその……お願い、したいんだけど……。」

 

「……………。もうちょっと、格好よく…できないですか?」

 

 

 

確かに、今の言い方は中途半端な上にあまりにも情けなさすぎるかも知れない。もっと男らしく、男らしく……格好よく…格好…よく…?

 

 

 

「燐子。」

 

「はい。」

 

「……俺の、……彼女になれぇ!」

 

「………ぷふっ……なんですか…それは。」

 

「……格好いいとか、わかんねえし。…告白とか、したことねえし。」

 

「やっぱり○○さん…好きです。…………よろしくお願い、しますね?」

 

「…お、おう!」

 

「ふふふ…じゃあ、食べましょう?」

 

 

 

俺、どうしてこんなタイミングで告白したんだろう。変な汗かいてきたし、正直もう味もわかりません。でもきっと美味しいし、つか燐子の誕生日に告白って、プレゼントやなんやかんやはどうしたんだ…。

 

 

 

「……最高の誕生日に……なりました。」

 

「そういう恥ずかしいことをいうんじゃないっ。……でも、そうなら嬉しいけどさ。」

 

「ふふっ、本当ですから……。」

 

 

 

参ったなぁ。

 

 

 




誕生日おめでとう。




<今回の設定更新>

○○:何となくの感覚だけで生きる男。家庭的に女性に弱いらしい。
   外出は基本的にしないため、一人でお店に入るのも苦手。
   翌日一緒に出勤して早速上司に揶揄われることとなる。

燐子:また一つ大人になりました。
   料理はこの日のために練習したと言っても過言ではない。
   サプライズはするのもされるのも苦手らしく、プレゼントも事前に本人に相談する派。
   幸せいっぱい夢いっぱい。

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