BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/09 相性

 

 

 

「お前らいい加減にしとけって…」

 

「うっさい馬鹿、〇〇は黙ってて。」

 

「そうだよ、〇〇には関係ないから。」

 

「えぇ…?」

 

 

 

放課後の教室。いい夕暮れ時だと黄昏ていた俺だったが、妹の悲痛な呼び声の為にこの戦に立ち合わされている。

対峙しているのは学年規模で有名になる程相性の悪い、我らが鉄壁の委員長こと桜恋…それに、綺麗な黒髪にインパクトのある赤メッシュが特徴的な俺達の幼馴染、美竹蘭。見ている分にはただ只管に整った外見の二人だが、その気性は獰猛を極める。

…正直、逃げ出したいです。

 

 

 

「蘭、アンタさ、結局はただの構ってちゃんなんでしょ??」

 

「…は?何それ意味わかんないし。あんたこそ、誰かとつるんでいないと行動できない、ただの小心者なんでしょ。」

 

「「チッ」」

 

「構ってほしいなら構ってほしいって言えばいいのに、クールぶっちゃってさ~。恰好つけてるつもりなの??」

 

「別にぶってないし。あたしはあんたとは違って、一人でも何でも出来るし。」

 

「「クッ…!」」

 

 

 

何故こんなしょーもない言い合いを繰り広げているのかは正直謎だ。…ただ、しょーもない諍いとは言えそこに俺の可愛い妹が巻き込まれているというのは事実であって。

…そのせいでこうして長々と居残りに付き合わなきゃいけない訳である。

 

 

 

「…なあなあ○○、早く帰ろうぜ。」

 

 

 

夏野、お前は勝手に帰れ。誰も引き留めちゃいないんだから。

 

 

 

「うるせぇ、一人で帰ればいいだろ。」

 

「えぇ…?…んじゃ、つぐみちゃんかーえろ!」

 

「ふぇ??……や、でも桜恋ちゃんと蘭ちゃんが…」

 

「えー、いーじゃんか!そんなガサツ女共は放っておいてさ!僕と遊びに行こうよ!ね!?」

 

「でもぉ……」

 

 

 

早く帰りたいのか、つぐみと一緒に居たいのか。何はともあれ、無駄に燥ぐ事で手一杯の夏野では気づけなかったようだ。気の強い二人が一時休戦の姿勢を取り夏野を睨みつけていることに。

 

 

 

「……ねえ、夏野。」

 

「はい?」

 

「ガサツ女~とか聞こえたんだけど…誰の事かしらね?」

 

 

 

音も無く距離を詰め、ポンと夏野の肩に置かれた桜恋の手。一見穏やかな声が聞こえるや否や、その白く綺麗な手に筋が立つ。

同時に聞こえる何かが軋む音。

 

 

 

「ンギョァァアアアアア!!か、肩がぁ!!!」

 

「あら~、ごめんなさいね。何だか握りつぶし易そうな肩だったから。」

 

「〇〇…鬼だ…鬼だよこいつぅ…」

 

 

 

哀れ夏野。それを機に反省してくれ。……あと気色悪いから這い寄ってくるな。

 

 

 

「…ちょっと瀬川。やりすぎでしょ。」

 

「……あによ蘭。アンタこの馬鹿の肩持つわけ?」

 

「肩ならたった今あんたが握りつぶしたじゃん。」

 

「…それもそうね。」

 

 

 

まさかここでも再度勃発するとは。夏野め余計な真似を。

 

 

 

「……あのさ。」

 

 

 

何時まで経っても帰れないのは流石に御免だし、頼りにしていた人身御供も肩を粉砕されてしまったので俺も参戦することにする。

ほんと、はやく、かえりたい。

 

 

 

「〇〇。」

 

「お兄ちゃん…?」

 

「まず、何をそんなに揉めてたんだ?お前ら。」

 

「それは……その……」

 

 

 

まずは原因の究明。俺も途中で観戦を始めたクチなので、何が何やらチンプンカンプンなんだ。

やけに桜恋が口籠る隣で、蘭が淡々と説明してくれる。

 

 

 

「放課後についてなんだけど、あたしがつぐみと約束あってさ。授業終わったつぐみがあたしのところに来た訳。」

 

「ん。それは俺も見てた。」

 

「で、二人で帰ろうと思ったら瀬川が絡んできて。」

 

「それもまあ見てたよ。」

 

「うん。…あとはまぁ、売り言葉に買い言葉…みたいな。」

 

 

 

終始クールな無表情で話し続ける蘭だったが、最後だけはバツが悪そうに眉尻を下げていた。自分でも思うところはあるんだろう。

…さて、次は我らが委員長に訊かなきゃなんねえな。

 

 

 

「……で、桜恋。お前は?」

 

「…………ぅぅ。」

 

「唸っててもわかんねえよ。何で蘭に突っかかって行ったんだ?」

 

「…………ったから。」

 

「…あ?」

 

 

 

蘭が話し始めたあたりからずっと床とにらめっこの桜恋。少し強めに訊いたら何かをぼそぼそと呟いた様だがまるで聞こえやしない。

 

 

 

「私も、つぐみと一緒に帰りたかったから!!」

 

「……いやいや、だからって絡んでいく意味が分かんねえわ。一緒に帰ろって言やあいいだろ。」

 

「だって………ぃもん。」

 

「あぁ?でっけぇ声で喋れよ。」

 

「恥ずかしいもん!!!」

 

 

 

顔を真っ赤に染めて叫んだ桜恋に、思わず引いた。ガキかよ。

揉めるよりよっぽどいいと思うんだが、何故こいつはいつもこう攻撃的なカードを切ってしまうのか。

 

 

 

「…難儀な奴だなぁ…」

 

「うっさい!!」

 

「今までの時間返せよ…ったく。」

 

「う、うっさいっての!」

 

「…つぐ、お前蘭とどんな約束してたん?」

 

 

 

隣であわあわしている妹に問いかける。いつの間にか掴まれていた制服の裾はより一層強く握りしめられていて、千切れてしまうんじゃないかと心配になる程だったが、少し考えるように顎先をトントンやったあとに妹は続ける。

 

 

 

「んぅ……えっとね、特に用事があったわけじゃないんだけど、お茶でもしてから帰らない?って。」

 

「お前なぁ……仮にも自宅がカフェだっつーのに、他所の店に金落とすんか…」

 

 

 

うちはあまり繁盛はしていないながらも潰れない程度に細々やっているカフェなのだ。一応、その名を「羽沢珈琲店」という。

珈琲が飲める羽沢さんち…うん、まんまだなぁ。

 

 

 

「お父さんとおんなじ事言う…。」

 

「そういうもんなの。ま、用事ってそれだけだろ?」

 

「うん。」

 

「…なぁ蘭、俺も一緒に居ていいか?」

 

「……〇〇が?珍しいじゃん。」

 

 

 

目を丸くする蘭。確かに一緒に過ごすことはほぼ無いが、一応肩書は幼馴染だし変な事ではないだろう。

特に拒否するわけでも無かったので、許可が出たものとして考えよう。

 

 

 

「たまには蘭と一緒に過ごすのもいいかなー…なんつって。」

 

「……ふ、ふーん。…まぁ、別に、いいんじゃない。ぁああたしはどっちでもいいけど…さ。」

 

「よし決まりだ。…んじゃあさっさと行こうぜぇ、腹減ったよ…。」

 

「ぁ……。」

 

 

 

話を強引に纏め、未だ地面で突っ伏す夏野の背を踏み越え歩き出す。カエルの潰れたような声が聞こえたが、あいつはもうどうでもいいや。

流れの中で自然につぐみの手を制服から引き剥がし、右手で包み込み…そのまま蘭の背を押し、教室を出ようとする中後ろから聞こえる小さな声に振り返る。

 

 

 

「そうだ桜恋。よかったらお前も来いよ。」

 

「ぇ……?」

 

「つぐみも蘭も、問題ないだろ?」

 

「いいよ!桜恋ちゃん、一緒に行こ!!」

 

「…来るなら来たら?あたしは別に、来てほしくないとかじゃ、ないから。」

 

 

 

折角だし、全員連れてウチの家計の足しにしてやろう。それにつぐみの友達として(見た目は)可愛い女の子がお客になりゃ親父も喜ぶだろうしな。

窓から差し込む夕日をバックに、いつになくオドオドした様子の桜恋は小さく問う。

 

 

 

「……本当に、私も行って……いいの?」

 

「良いに決まってんだろ…早く来いよ。」

 

「…〇〇…。…じゃ、じゃあ…一緒に行く!行きたい!」

 

「ん。…ほれ、遅くなる前に行くぞ。」

 

 

 

どうやら同行する気になったらしいので、そのまま再び歩き出す。背後では、夏野の泣き声(カエルの潰れる声)がもう一つ追加で聞こえていた。

 

 

 

**

 

 

 

「はぁ…マジ腹減ったな…。」

 

「…ごめんって、〇〇。」

 

「ところでつぐみ。」

 

「なあに桜恋ちゃん?」

 

「アンタ達っていつもそうやって手ぇ繋いで帰ってるの?」

 

「そうだよ~。」

 

「……兄妹よね?」

 

「うん!」

 

「……なーにを疑っとるんだお前は。」

 

「いや別に…でも珍しいじゃない?この歳でそういうのって。」

 

「さあなあ。……んだよ蘭、見過ぎだぞ。」

 

「…手、繋いだことない。あたし。」

 

「蘭ちゃん!私の右手空いてるよっ!」

 

「んー……。」

 

「俺の左手も空いてるぞ。」

 

「お兄ちゃん…?」

 

「や、ノリだよノリ。」

 

「本当にノリだけ…?下心とかは」

 

「まぁ別に繋ぎたかったら繋いでも」

 

「繋ぐ。」

 

「…早いなぁ!」

 

「〇〇手汗やばいね。」

 

「蘭、そこはそっとしといてくれないと。」

 

「ふふ、緊張してる??」

 

「どうしてこうなったのか意味不明過ぎて困惑してる。」

 

「……ほんとに繋ぐんだ。」

 

「な、俺もびっくりだよ桜恋。」

 

「というか待って、私だけ仲間はずれじゃん?」

 

「桜恋ちゃん!私の右手空いてるって!」

 

「…でも道で広がって歩くのってマナー違反よね。」

 

「私の右手……」

 

「ここは正論言う流れじゃないでしょ。…これだから瀬川は…」

 

「あぁ?上等じゃないの。…蘭、あんたが毎度毎度吹っ掛けるから…」

 

「お前ら、うちで騒いだらすぐ追い出すからな?大人しくしろよ?」

 

「あれぇ?お兄ちゃん?…結局ウチのお店になったの??」

 

「さっき言ったろ?」

 

「言ってないよっ!」

 

「…あー、んじゃ察しろ。」

 

「無茶だよ!!」

 

「本当に俺の双子の妹か?つぐみ。」

 

「双子にそんな力ないもん!」

 

「………っとに仲良しよね。」

 

「うん。……つぐみと〇〇は、昔からこう。」

 

 

 

久々に賑やかな下校ってやつに落ち着いた。

こういうのも、悪くはないもんだな。

 

 

 




とにかく賑やかな雰囲気を書いてみたかったんです。




<今回の設定更新>

○○:蘭とはあまり接点がないせいで少し他人行儀気味。
   妹が大事なだけなので、妹を戦場から離脱させるためには紳士っぽい
   振舞いも時にはする。

つぐみ:毎度毎度影は薄いが、結局つぐみが居ないとこの話は成り立たない。
    全員に共通し、全員を結びつけるのが大天使つぐみ。
    かわいい。

蘭:クール。表情や感情が乱れることもあるが基本的には冷静。
  感情は現状声のトーンと眉の動きだけで判断するしかない。
  未経験の事が多すぎる箱入り娘だったりする。

桜恋:扱いにくい。
   気が強いのは引っ込み思案で人見知りな自分をカバーしようとした
   結果であり、コンプレックスから生まれた人格なせいでより面倒。
   でもきっと悪い奴じゃない。

夏野:歩くサンドバッグ。
   生きる屍。起き上がりこぼし。
   負けるな、南無。

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