BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/08/25 姉妹、近すぎる関係

 

 

 

「これは、由々しき事態ね、日菜。」

 

「確かに、これは事件の匂いだね、おねーちゃん。」

 

「二人してなにやってんの、テーブルの下なんか入って。」

 

 

 

日曜日の朝。

とても朝型とは言えない僕と、恐ろしく早朝型の姉二人が会ったのは食卓。

ただ二人は何やら相談中らしく、テーブルの下でヒソヒソと囁き合っている。何かの新しい遊びかな?

…にしては、紗夜ねぇが乗ってあげるなんて。珍しいこともあるもんだ。

 

 

 

「○○っ!」

 

ゴンッッ

 

「っつぅぅぅぅぅぅぅ……。」

 

 

 

驚いたのかその場で立ち上がろうとし、テーブル底面にしこたま頭をぶつける紗夜ねぇ。

今のは痛かったろうな。すっごい音したもん。

日菜ねぇも、ただでさえでかい目を余計大きく見開いて見ている。

 

 

 

「…大丈夫?紗夜ねぇ。」

 

「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……痛いわ…。」

 

「…まずはこっちに出てきたら?」

 

 

 

四つん這いのままベイビーのように這い出てくる姉①。

椅子に座る僕の元までそのまま来て、太腿に両手を乗せる。そのまま涙目でこちらを見上げてくる紗夜ねぇはなんというか…犬みたいで可愛くて…

気づけばその頭を優しく撫でてしまっていた。

…日菜ねぇは、何を思ったかまたテーブルの下へ潜り込んでいった。

 

 

 

「…うわぁ、結構コブになっちゃってるね。…冷やす?氷持ってこようか?」

 

ゴンッッガンッッ

 

「…いい。そのままナデナデして。」

 

ドゴォッゴガァッ

 

「もー。…また紗夜ちゃんになっちゃったの?」

 

ゴッゴッゴッゴッ…

 

「うー…。だって○○のなでなで好きなんだもん…。」

 

 

 

あぁこれ、痛みは大体収まってるな?

あの鍋事件以降、紗夜ねぇは頻繁に幼児退行を見せるようになった。どうやら撫でられるのが好きらしいこのモードの時は、何故か姉扱いすると不機嫌になるので"紗夜ちゃん"と呼ぶようにしている。

ただひたすらに滅茶苦茶可愛い、ずるいモードだ。

 

 

 

「…じゃああとちょっとだけね?今日はちょっぴり忙しいから。」

 

……ドゴォッ!ガッシャァン!

 

「うるさいなぁ!」

 

 

 

後ろの騒音の主(日菜ねぇ)を振り返りつつ、なかなかの音量で聞こえ続けていた音についてキレる。

何がしたいんだあんたは。

 

 

 

「だってぇ!だってぇっ!おねーちゃんばっかりずるいじゃん!

 あたしも○○になでなでされたい!!」

 

「…それより、頭、大丈夫?」

 

「なにそれー!?それがお姉ちゃんに対して言う言葉!?」

 

「そういう意味じゃないよ。ずっと凄い音してたでしょ?痛くないの?」

 

「あ、そっちか。…うーん、不思議と平気。」

 

「じゃあなでなでいらないね。」

 

「あっー!」

 

 

 

頭を抱えて踞る姉②。

ほんと何がしたいんだあんた。

 

 

 

「…はい、それじゃあ紗夜ちゃん。なでなではここでおしまいね?」

 

「うー…うん。ありがとう、○○。」

 

「はいはい。…ところでさ、二人とも。」

 

「「なぁに?」」

 

 

 

ハモった…!!流石双子。

 

 

 

「あのさ?今日って、リサねぇの誕生日じゃん?二人はどうするの?」

 

「…私は、友達との集まりがあるから、そこで祝おうと思ってるわ。今井さんも来るし。」

 

「日菜ねぇは?」

 

「んー。あたしは特には考えてないかなー。

 特に仲良しってわけでもないし、会う予定もないしねー。」

 

「そっかー。」

 

「…まさか○○。お祝いに行こうとか言い出す気じゃないわよね?」

 

 

 

え、何でそんな怖い顔してんの紗夜ねぇ。

さっきまでの可愛らしい紗夜ちゃんはどこへ…?

 

 

 

「お祝いに行くよ?日頃お世話になってるし。」

 

「ッ――!!」

 

 

 

気付いた様子の日菜ねぇ。やめてね?今余計なこと言わないでね??

 

 

 

「おねーちゃん。やっぱり、止めたほうがいいんじゃないかなぁ?」

 

「…そうね。今井さん、最近やたらと○○の話ばっかりするし、二人きりにさせるのも危ないかも知れないわね。

 主に○○の貞操的に。」

 

「貞操…ねぇ?」

 

 

 

うわぁ。そんなハイライトの消えた目を向けないでくれるかな日菜ねぇ。

心臓をぎゅっと掴まれた気持ちになるよ。

 

 

 

「紗夜ねぇは、このあとでかけるってこと?」

 

「えぇ、そうなるけど…。」

 

「そ、そうなんだ!じゃあ日菜ねぇ、後で一緒に遊ばない??」

 

「んー?いいよぉ!!なにしてあそぼっかー。」

 

 

 

顔がぱあっと明るくなる日菜ねぇと、それに反比例するように不機嫌そうな顔になる紗夜ねぇ。

めんどくさいなこの二人が一緒にいると…。

 

 

 

「じゃあ、取り敢えず部屋に行こっか、日菜ねぇ。」

 

「いこいこ~♪」

 

「…………。待ちなさい。」

 

「…はい。」

 

「……………日菜。」

 

「むっふふー。わかってるよっ、おねーちゃん。」

 

 

 

何が、とは恐ろしくて訊けないが通じ合うものがあるのか。流石双子。

そのまま不機嫌そうな紗夜ねぇを残し、日菜ねぇと共に部屋へ移動する。

 

 

 

**

 

 

 

「……ふぅ。」

 

「○○くん?行きたいんでしょ、リサちーのとこ。」

 

 

 

部屋に入るなりいきなり核心を突いてくるなこの人は。

そりゃ行きたいよ。

 

 

 

「まぁね。日菜ねぇ達が何を想定して引き止めているのかはわからないけど、知ってる人の誕生日なら祝わなきゃ。」

 

「…ふーん。」

 

「…だめ?」

 

「…はぁーあ。手ごわいなぁ、リサちーは。」

 

「何の話?」

 

「あたし達がこんなに時間をかけても崩せなかったものをどんどん攻め落としちゃうんだもんなぁ。」

 

 

 

意味がわからない。

ゲームかなにかの話だろうか?

 

 

 

「行ってもいいけど条件があります。」

 

「…っ!……はい。」

 

「絶対に、悪い男の子にはならないこと。」

 

「…はぁ?」

 

「…あのね。今○○くんがしていることって、実はすっごい残酷なことなんだよ。

 今はわからないかもしれないけど。」

 

「…残酷?」

 

「だからね。…最後はちゃんと自分がどうしたいか、どうなりたいかって決めること。

 これは、これからのこと全部に言えると思うけど、"平等"とか"普通"とかって凄く難しいものなの。

 そんなのは誰も望んじゃいない。…どんな結果になろうと、○○くんの意思で一つに決めることが、大事なんだよ。」

 

「…うん…?」

 

 

 

なんの話をしてるんだ??結局、何をさせたいんだ?

 

 

 

「それがわかってるなら、日菜ちゃんは止めないよ~っ♪」

 

「えっ?…そんなんでいいの?」

 

「さっきのこと、ちゃんと約束できるんならね。

 色々経験して、大きい男の人になるんだよ~♪」

 

 

 

シリアスな雰囲気かと思えば急に明るいいつもの日菜ねぇになって。

…そのまま部屋を出ようとする。

 

 

 

「あれ?遊ばないの??」

 

「うーん、何か今日は疲れちゃったなぁって!

 折角の日曜日だし、お部屋でゴロゴロしよっかなぁ!!んじゃねっ。」

 

 

 

………なんだろ。

あんなに、泣いているんだか怒っているんだか笑っているんだかわからない日菜ねぇは初めて見た。

いつもよくわからない人ではあるけど、色んな感情が見えてわからないのは、初めてだったんだ。

 

 

 

**

 

 

 

「お姉ちゃんはゆるせません。こんな遅くに、何時に帰ってくるかもわからないのに外出させるなんて…。」

 

「だって仕方ないでしょうよ、さっきまで紗夜ねぇ達と一緒にいたんでしょ??

 じゃあこの時間になっちゃうのは当たり前じゃんか!!」

 

 

 

夕方?夜?微妙な時間帯だが、リサねぇと事前に約束していた時間が目前まで迫っていた。

このままでは、走っても間に合わないかもしれない。

慌てているのを悟られないように、けれど迅速に、紗夜ねぇを説得する。

 

 

 

「それに今井さんのところでしょう?…別に無理にこんな時間に行かなくても、今度お姉ちゃんがついて行ってあげますから、ね?」

 

「…でも、それじゃダメなんだ。

 …約束、したんだよ。」

 

「…………。はぁ。」

 

「ちゃんと帰ってくるから、悪いことしないで、お祝いしたらすぐ帰ってくるから。…それじゃダメかな?」

 

「…日菜には許可貰ったの?」

 

「うん。条件と引き換えに、だけど。」

 

「……条件?」

 

「絶対悪い男の子にならないって。」

 

「…………そう。」

 

「…うん。」

 

 

 

しばし沈黙。

何かを考え込むように顎に手を当てる紗夜ねぇ。…少し時間を置いては、「あっ」と顔を上げる。…そしてまた、何も言わずに俯く。

それを何度繰り返しただろうか。

長い、深い溜息を吐いたかと思うとゆっくり顔をあげ

 

 

 

「じゃあ、私からも一つだけ条件。」

 

「…なに?」

 

「今度………貴方の丸一日を私にちょうだい?」

 

「どういう…こと?」

 

「まぁ、一日デートにでも付き合ってもらおうかしらね。」

 

「それでいいの??」

 

「……それを3日もらおうかしら。」

 

 

 

あ、今慌てて増やしたな?

凄い汗。…紗夜ねぇ、隠し事とか下手なんだから…。

 

 

 

「それは全然いいんだけど…その条件にした理由は??」

 

「………はぁ。…私は、少しだけ悪い女の子になってしまってるってことよ。」

 

「……??」

 

「いいから、行きなさい。

 約束の時間、過ぎてるんでしょ?」

 

 

 

その言葉にハッとして腕時計を見る。

やばい、やばいやばいやばいやばいやばい…もう走るとかそういう次元じゃない。既に遅刻している…!

紗夜ねぇに「ありがとう」とだけ伝えるとドタバタとコメディ映画か何かのように慌ただしく家を出た。

 

 

 

「私たちの最大の武器が、仇になっちゃったのね。…日菜。」

 

 

 

家を出る時に聞こえた紗夜ねぇの一言は、今の僕にはまだ理解できないものだった。

 

 

 




シリアスめ…?
リサねぇの誕生日に合わせて多めの更新でした。




<今回の設定更新>

○○:戦犯。
   姉という姉を誑かして回っているようですが、まだ幼いので勘弁してやってください。
   リサ編に続いています。

日菜:今回は珍しくまともな事言う。
   石頭(物理)

紗夜:実は日菜より精神年齢低めかも知れない。
   諦めはものすごく悪い。

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