BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2019/07/24 愛の巣
それは、僕に
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先日の鍋事件。
発端は紗夜ねぇが悲しみのあまり幼児退行してしまったことから始まる。
その時は紗夜ねぇの対処に追われて気付かなかったが、どうやら
…いや、欲求か。
その抱えていたものが、紗夜ねぇは「弟に甘える」事だったため、ああなってしまったと。
そして、今日はリサねぇの要求に応えなければいけないらしい。
怖い。
何が待ち受けているのか、この扉の向こうに。
何を、どうされるのか。
「弟くん?…どーして入ってこないの?」
長く考え込み過ぎたんだろうか。
本日のお相手の
「あ、いや…ちょっと、緊張しちゃって…。」
「あはは、いーのいーの緊張なんかしなくたって…。
このお家にはね、アタシと弟くんしか居ないんだから、誰かに見られるとか心配しなくていいんだよ?
自分の家だと思って、寛いじゃってよ~。」
「いやそれもどうなの…リサねぇ。」
「いいんだってばぁ。
弟くんを独り占めするために、態々新しく借りた部屋なんだから…
上がってくれないと、全部無駄になっちゃうなぁ?」
「…わかったよ。」
なんだよその裏事情。今日初めて聞いたぞ…。
僕一人と過ごすためだけにわざわざ賃貸を?
確かに、同じ街に実家があるのにすぐ近くで一人暮らしなんて変だなとは思ってたけどさ。
…根負けした僕は、遂に意を決してお邪魔することにした。
「おじゃましま――」
「…何で鍵?」
「ん~?…邪魔者が入らないように、かなぁ…?」
早速出たぞ!おかしいぞ!
早くも恐怖に駆られている自分の体を、思わず震えさせてしまう。
「り、リサねぇ?僕、何されるの?」
「あっははは!そんな怯えなくても大丈夫だって!!
…ほら、
きっと日頃素直に甘えたりできてないだろうと思って、ここにご招待したって訳。」
「あー…まぁ…。」
どっちかというと面倒見てるのは僕の方だもんな。
特に日菜ねぇ。最近じわじわ紗夜ねぇもか。
「だから、肩の力も抜いて、今だけはアタシを本当のお姉ちゃんだと思ってさ。
「…甘える側、か…。」
「そそ。…それとも…アタシの事、嫌い?」
そっと手を取られる。
そのままリビングの方へ引かれるように歩く。
「う"っ……嫌いじゃ、ないけど…。」
「じゃあ、好き?」
「……そりゃまぁ…。嫌いになる要素もないし。」
「もうちょっと素直になっちゃおっか?」
ずいっと顔を近づけてくる。
あぁ、またこの目だ。悪戯半分揶揄い半分って感じの、それでいて優しい目。
…逆らえない、ずるい目だ。
「…好き。」
「んー。もうちょっと足りないなぁ。」
「??」
「「おねーちゃん、だいすき。」でしょ?」
「…おねーちゃん、だいすき。」
「んー!よくできました!!
よし、素直で可愛い弟くんにはぎゅってしてあげようね~。」
僕の意思などお構いなしに少々強めの抱擁を貰う。
うなじから立ち上る女の子特有の甘い香りとか、鼻先をくすぐる癖のある長い髪。
あぁ、もう何だかどうでもいいや――
「…うん、おねーちゃん、大好き…」
「うんうん、ここに居る間は、弟くんはアタシ
「うん。」
「あっはは!かぁいいね~!!」
僕を抱きしめる腕に力が篭もるのが伝わってくる。
暖かく、柔らかく、心地良い…。
確かに、家の二人が相手じゃ感じることのできない感覚かもしれない。
これが、甘える幸せか。
「あっそうだ!弟くん、プリン好きだったよね??」
「ぇっ?…ぷぁっ、なんで知ってるの?」
胸に埋もれていた顔を上げ問いかける。
…もう少し埋まっていたかったかも。
「へへ~、お姉ちゃんは弟くんのこと、な~んでもしってるんだよ??」
「…すごいね。」
「でしょー?…作ってみたんだけど、食べる??」
「…!!食べる!!」
「うんうん、ちょーっとそこで座ってまっててね?」
お洒落なアンティーク調の椅子に座る。おぉ、固そうな見た目の割にふわふわだ。
お尻が幸せ。
…にしても、どうして僕がプリン好きって知ってたんだろ?
あの二人も知らない事なのに。
と疑問を浮かべていると、目の前に陶器入りのそれが置かれる。
「おぉ……!!」
「ふふっ、おまちどおさま♪
お替わりもあるから、好きなだけ食べてね??」
「うん!ありがとうおねーちゃん!!」
「あぁぁぁぁあああっ!!」
「!?」
身悶えする様に体をくねらせるリサねぇ。
…背中でも痒いのかな。
「おねーちゃん…?」
「ん!な、なんでもないよ!…あ、あはは…」
「えっと…スプーンってどこにあるの?」
正直、この質問は安易すぎた。
先程の身悶えで気付くべきだったんだ。…リサねぇのスイッチが入っていることに。
「…スプーン、要る?」
「だって、ないと食べられないよ。」
「そっかぁ……それじゃあ、じゃーんっ!スプーンでぇす!」
「なんだ、ずっと持ってたの?」
「まぁね~。…ちょっとプリン借りるね?」
「……あーんとかする気?」
「まっさかぁ。…してほしいの?」
「い、いや…別に…」
「だよね。そんなことしてあげませーん。
…あむっ。」
「へ?」
何を思ったかリサねぇは、その取り出したスプーンでお手製プリンを一口掬い取ると、自分の口の中へ。
呆然とする僕を尻目にその味を楽しむ。
「…えーっと、僕の分は…?」
「んぅ?…んふー♪」
美味しそうに頬を緩めるリサねぇは、半分ほど減ったプリンを置き、空いた手で僕の頭をホールド。
…ん、あれ?と考える間もなく距離を詰められ
「――――ッ!?」
「んー……。」
「!!―――ッ!ッ!!」
「んふ……んぅ。」
「ぷぁっ!」
「…ふふっ、美味しかった?」
「はぁっ…はぁっ……!!」
直に口の中に流し込まれたそれは、ただのプリンとは違う滑らかさと甘さがあって…
それをゆっくり感じる間もなく、喉から体内へと流れ込んでいった。
でもあの最中僕の味覚を独占していたのは、感触的に考えてリサねぇの
「リサお姉ちゃん特製の、"プリンチュゥ"だよ?」
**
家に上がったらいきなりあれだもんな。
随分押しの強い姉ができたもんだ。
でもまぁ、嫌って訳じゃなくて
「あっ、も、もう起きるよおねーちゃん!」
あれから暫く、
今回は珍しく既シリーズからの派生シリーズとなります。
あ、プリンチュウっていうお菓子は実際にあります。こういうのじゃないですけど。
<今回の設定>
〇〇:言わずと知れた氷川家の宝。
本シリーズでは「ひかわさんち。」の合間々々に行われる
リサねぇの篭絡シーンが描かれます。
リサ:氷川姉妹が居ると割り込めないため、いっそ自分専用のステージをと思い
わざわざ部屋を一つ押さえた。
主人公を自主的に通わせることにより、徐々に手籠めにするのが目的。
鍋事件の後、「それぞれの姉が一つだけ願望を叶える」流れに沿ったまでであり
氷川姉妹もそこまでする奴はいないだろうと高を括っていた結果である。