BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
学校が終わり、すっかり惰性のままに向かう様になってしまったその足でリサねぇの部屋を訪れる。
おっといけない、前に注意されてたの忘れちゃってたな。「リサねぇの部屋」じゃなくて「ふたりの部屋」って言わなきゃいけないんだった。
僕にとっても帰ってくる場所だから、だってさ。優しいよね、リサねぇ。
「ただいまーっ。」
いつもながら元気のいい声とパタパタという足音がリビングから聞こえてくる。また何かしてたのかな?
靴を脱いで洗面所へ。ちゃんと手洗いとうがいもしなきゃね。
ざぶざぶと手を洗っていると、後ろからふわりとした柔らかい感触に包まれる。
「もー、手ぇ洗いにくいよー?」
「えっへへへー、アタシだって寂しかったんだからぁー。…黙って抱き締められてなさいっ。」
「あうぅぅ……。」
もみくちゃと手の届く範囲をまさぐられる。擽ったいし柔らかいしいい匂いだし…もうホント手洗いどころの騒ぎじゃないなこれ。
やられっぱなしも悔しいので即効で手を拭き終え体を180度回転させる。目の前に来る驚いた顔のリサねぇに思いっきりキスを仕掛ける。
「………………………………もう、やるようになったなぁ弟くんも。」
「……いつまでもやられっぱなしの僕じゃないからね?」
「生意気な弟くんめぇ…」
それから暫くキスの応酬に身を委ねる。リサねぇの舌の感触が、唇の感触が、時折触れる歯の感触が…それらが僕に、リサねぇとしっかり繋がっていることを伝えてくる。
……今更だけど、僕とリサねぇの関係っていったい何なんだろう。こ、恋人?だったりするんだろうか。
「ぷぁっ。…ねえ、おねーちゃん?」
「……ふぅ。なあに?」
「僕とおねーちゃんってさ、どういう関係?」
「???」
何言ってるの?とでも言いたげなキョトンとした顔で見つめられる。や、そんなおかしいこと言ったつもりないんだけどな…。
「…因みに、弟くんはどう思ってる?…若しくは、こうなりたい!でもいいけど。」
「僕は……、この呼び方的には、やっぱり姉弟なのかなって思ってるよ。…本物じゃあないけど。」
「うんうん。」
「でも、やっている
「んー…そうかなぁ?」
手を繋いだりハグしたり、一緒にお風呂で洗いっこしたり一緒に眠ったり…それくらいなら姉弟でも問題ないとは思うけどさ。
でも、キスしたりその先まで行ったり…ってなると、やっぱり姉弟の枠を飛び越えているような気がする。
「普通…が僕にはあんまり分からないから、何とも言えないけど。」
「……でも、ヒナや紗夜ともキスしたりするでしょ?」
「ぅ…………知ってるの?」
「知ってる知ってる~。紗夜はともかく、ヒナなんかはわざわざ教えてくれるからね~。
「〇〇くんとちゅーしちゃったんだぁっ!」って。」
「日菜ねぇ…。」
あの日の事だろうか。あの拓馬が絡んだ、忌々しい事件…。
「あっ、でもでも、お姉ちゃんは全然怒ってないからね?
その分、二度と思い出せないように上書きしてあげればいいだけだし。」
「えっ………んむっ」
「ん………んふ……。」
もう何度目の口付けになるか。こりゃリップクリーム要らず、保湿はばっちりだ。
口を離した後も、リサねぇの悪戯っぽい笑みに釘付けにされてしまう僕としては、姉弟にしかなれないって言うのは少し残念な気もして…。
「ごちそーさまでしたっ。」
「……ねえ、おねーちゃん。」
「んー?」
「……おねーちゃんは、おねーちゃんじゃなくて僕の彼女さんになるってのは…嫌なの?」
「え……?」
思わず口を衝いて出てしまった"告白"と取られても可笑しくない言葉。言ってしまってから気付いて慌てたのでは、時すでに遅し、だこれ…。
一瞬目を丸くしたリサねぇも、寸刻遅れて笑い出す。
「あっはははは!!かっわいいなぁ弟くんは!!
顔、真っ赤じゃん。」
「え、あぅ…あの、違くて…」
「そっかそっかー、そんなにお姉ちゃんが好きかー。あははは!!」
笑いながらくしゃくしゃと強めに頭を撫でられる。心なしか、リサねぇも顔が赤い気がするけど…?
「弟くんに好きになってもらえて、お姉ちゃんすっごく幸せです。
…でもね、彼女さんになるのはごめんなさいかなぁ。」
「えっ……」
「んっふふ~、だってお姉ちゃんじゃなくなったら、こうやって一方的に可愛がったり虐めたりできなくなるわけでしょー??
だったら、関係を表す言葉は"姉弟"のままがいいかなーって。」
フラれた……フラれた…リサねぇにフラれた。
姉弟のままの方がいいって。これ以上先には進みたくないって。………フラれたんだ。
「え?あれ!?どーして泣いてるのかな弟くん!?」
ショックの大きさに、涙腺もすっかり崩壊してしまったようだ。…止めどなく溢れ出す涙に、視界の自由を奪われていく。
何やらリサねぇが焦って拭ってくれているが、もうよくわからない。人生初の失恋、それをこんなにも甘々な関係の相手に味わっているのだから。
「……くそぉ…絶対付き合ってもらえると、思ってたのに…なぁぁ……」
「おかしいな!?おかしいね!?アタシ、別に嫌いとか言ってないよね!?」
「ううぅぅぅぅぅ」
「だ、だって、姉弟の、お姉ちゃんで居るほうが、イロイロ…ってかだめだぁ!泣いてる弟くんカワイー!!!!」
「リサねぇ……のばかぁぁあ」
「バカって言われちゃったよっ!!あっはぁ!!!」
おかしいほどのハイテンションに転身したリサねぇに、それはそれは強く抱きしめられる。息が荒いように感じられるのは気のせいじゃなくて、こうなっている時のリサねぇは大抵興奮状態にある。…性癖的な意味で。
未だ止まってくれない涙をロックオンされたのか、リサねぇの柔らかく温かい舌が僕の頬を這い始める。…不快、ではないのだけれど、この状況端から見るとどう見えるんだろうか。色々マズいんじゃなかろうか、倫理的に。
「はぁ…はぁ……はぁ……んふふ、弟くんの味だぁ…。」
「………汚いよ、おねーちゃん。」
「そんなことないよぉ?…尊い味がするよぉ…。」
「んっ…おねーちゃんは、僕のこと、嫌いなの?」
「……どうしてそんなこと訊くかな。」
あっ。質問が悪かったか、ハイテンションモードの終了に伴いぺろぺろも終わりを迎える。…結構気持ちよかったのに。
「だって、彼女さんになってはくれないって…」
「あーそれね。…弟くん、姉弟って、家族だよね?」
「うん。」
「あと他に家族って言ったらさ、何があるかな。」
「ええと……親子とか、夫婦とか?」
「そだね。…恋人ってさ、家族かな。」
「……まだ、家族になる前だと思う。結婚して、夫婦になったら、家族……?」
「うんうん。そうだよね。……アタシはさ、弟くんが大好きなんだ。
世界で一番って言っていいかもしれないくらい、大好き。」
「………?」
「だからね、恋人――なんて他人止まりの関係じゃなくて、もっと近い関係、家族になって愛したかったんだよね。」
深い…のかな?あまり理屈っぽい話は僕の低スペックな脳には向いてないけど、リサねぇにはリサねぇなりの世界観と考え方があるんだろうな。
…でも、その話を踏まえるとしたら…
「じゃ、じゃあさっ。……同じ家族なら、結婚して夫婦になっちゃえばいいんじゃないの?」
「……………ホント弟くんは可愛らしいことばっかり言って…。
そんなに軽々しく結婚とか言っちゃダメだぞ?…その言葉には、お互いを一生縛り付けるくらいの強い意味があるんだから…ね。」
「いいもん。僕、一生おねーちゃんと一緒に居たいもん。」
一生縛り付ける。そんなの、願ってもないことだ。僕はこの人の隣に一生居られるなら、それ以上の歓びは無いと……あれ?何時からこんなこと思うようになったっけ…?
「…その言葉は嬉しいけど、ね。弟くんがもっと大人になって、紗夜やヒナ達も認めてくれてから改めて聞きたいな。
それまでは姉弟の関係のまま、イチャイチャ……しよ?」
「………本当に、その時になったら結婚してくれるの?」
「ん。お姉ちゃんが嘘ついたことある?」
「……ない。」
「うんっ。……別にいいじゃない?姉弟から始まる恋も、あるんだよ。」
「おねーちゃん…。」
今日も今日とて姉という沼に沈む僕。
果たしてこれは、愛か恋か、……それとも。
リサねぇには何かしらの魔力があると思うんですよね。
<今回の設定更新>
〇〇:おねー…リサねぇ大好き。勿論、異性として。
行く行くはきちんと婚姻関係を結び…という幻想を抱いているが、
その願いは届かなそうなご様子。
リサ:計 画 通 り
年下の男の子の涙・泣き顔に弱い。
もう、逃がさない。