BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「アタシね、ずっと弟が欲しかったんだ。」
「…うん?だから、僕がいるじゃない。」
夜、二人でリサねぇの手料理を食べて、お風呂に入った後のこと。気付けばもうすっかりこっちの家に入り浸っちゃってるなぁ…なんてぼんやり考えながらリサねぇと布団に入っていた時の事。
ふと訪れた沈黙の中で、低いトーンでリサねぇが話し出す。
「……ありがと。…昔、一度弟が生まれるってなったことがあったんだけど、結局ダメになっちゃってね。」
「………。」
「それ以来、居もしない弟相手におままごととか、いつか本当の弟に出逢った時の為にお姉ちゃんぶる練習したりしてさ。」
「…うん。」
「そのうち、友希那をお世話する様になって、色々出来ることも多くなって……ここまで来たんだけど。」
リサねぇが僕を弟として可愛がる理由が何となくわかった気がする…けど、どうして急にそんな話を?
「リサね…おねーちゃん?どうしてそんな話を?」
「ふふっ……もう、やめようと思って。」
「えっ。」
やめるって言うのはこの関係の話だろうか。嫌われるようなことしちゃったかな?それとも、正式にリサねぇに彼氏ができたとか?まさかとは思うけど、ウチの二人の姉ちゃんは絡んでないよね?
「…もう、そんな不安そうな顔しないの。…別に弟くんの事が嫌いになったとかじゃないから、安心してくれて大丈夫だよ。」
「よかった……だってあまりに急すぎるから心配しちゃったよ…。」
「あはは……ごめんね。…でも、これは伝えなきゃいけない事だと思ったからさ。」
「そっか。…それで、何をやめるの?」
まだ肝心な部分は聞けていない。何をやめようと思ったのか、何を伝えなきゃいけないと思ったのか。
…正直なところ、少し怖い。聞いてしまったら本当に何かが終わってしまいそうで。
「……弟くん、はさ。…アタシの事、好き?」
「え?…勿論、好きに決まってるでしょ!」
「あっははっ…相変わらず真っ直ぐだなぁ…。…うん、そういうところもおねーさんは…じゃないや、アタシは好きだよ。」
…少し照れる。
「それは…紗夜やヒナに対しての"好き"と同じなのかな。」
それまで明るかったリサねぇの声が、急に小さく窄んだ気がした。勿論声量だけの話じゃなくて、元気というか、自信の無い声に変わったように感じたんだ。
それはどのような心境からくるものなのか……リサねぇも、不安に思うことはあるんだろうか。
「…お姉ちゃんとして、ってこと?」
「………うん。…ほ、ほらっ、アタシ、弟くんのことめーっちゃ甘やかしてたじゃん??
だから…っ。……女の子っていうより、世話焼きのお姉さんって映っちゃってたかなって…。」
…何となくだけれど、リサねぇがやめようとしていることに予想がついた。そのことを考えると、不安がっているリサねぇがとても可愛らしく、愛しく思えてきて…。
「…ッ!?…お、弟くんっ??」
「大丈夫。大丈夫だよリサねぇ。」
何とか安心させてあげる方法はないかとアレコレ考えたが、結局のところ僕に講じられる手段なんて限られていて。つまりは、僕の腕の中にリサねぇを包み込んであげることただ一つだった。
今までも、これからも。
「これまでだって、リサねぇのことは女の子として大好きだったよ。…まぁ、ずっと「おねーちゃん」って呼んじゃってたし、伝わってなかったと思うけどね。」
「……ほんと?」
「ほんと。紗夜ねぇや日菜ねぇとは違って、異性として好きって気持ちを向けてた。だからこそ、毎日一緒に居る為に無茶もしたし、日常の一つ一つの仕草に…なんというか、ときめいて?いたんだよ。」
「……弟くん…。」
「だからさ。」
俯いていたリサねぇの顔を両手で包み込むようにして上向かせる。…いつも真っ直ぐな瞳は揺れ、その潤みが月の光をゆらゆらと映していた。
これ以上不安にさせないよう、しっかりと僕の言葉で伝えるんだ。これからも、
「…もう、姉弟でいるのはやめよう?……僕はリサねぇと…
「………お姉ちゃんじゃないアタシでもいいの?」
「…そもそもリサが「お姉ちゃんみたいに接してよ」って言ったのが始まりでしょ?…未だによく分からない流れなんだから…。」
あの時「リサねぇ」なんて呼ばせるから……あぁ、あの時の騒ぎを思い出したら、思わず頬が緩んでしまった。
「それは…キミがあんまりにも可愛かったから仕方ないじゃん……もー、何笑ってんのー??」
「えっ…ああいや、短い間だったけど、リサ
「別に、弟扱いが終わったわけじゃないんだかんね?」
「……んん??」
あれ、結構勇気振り絞って言ったんだけど、違った…?それか、外した??
「要するに、キミはアタシと対等な関係になりたいわけだ?」
「……そう、なる、けど…。」
おや?さっきまでの不安げな表情はどうしちゃったのか。またいつもの様な悪戯な目をして見つめてくるリサ。
「…ちゃんと、言葉で言って?」
「う"………。…えと、…僕の恋人になってほしい…んですけど、どうですか??」
「ん~~~~~っ!!!!」
すっっっっごい恥ずかしい。ナニコレ。何でこんな恥ずかしい目に…というか、どうしてリサはジタバタしているんだろう。
前に美味しい牛肉を食べた時にも同じリアクションを取っていたんだけど…え、ずっとお肉食べてたの?
「~~~///…んはぁ。やっぱいいなぁ、キミは。」
「…揶揄ってるでしょ。」
「…ううん、そんなことないよ。…アタシって、本っ当に心の底からキミに惚れちゃってたんだって…実感してただけだよ。」
「り、リサねぇの方が恥ずかしい事言ってるよ…。」
「あー、リサねぇって言ったね~?」
しまった、動揺のあまり染み付いた癖が出ちゃった。そしてそこを目敏く見つけたリサの反応は早かった。
こりゃ面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに、その細く艶めかしい指でツンツンと胸板を突いてくる。
「こりゃ、姉弟続行かにゃ~??」
「い、嫌だっ。…僕は、リサと、ちゃんと付き合いたい。姉弟みたいに面倒を見てもらうだけじゃなくて、リサのこと護れるくらいの一人前の男になりたいんだっ!」
「~~~~~///…だぁかぁらぁ…ズルいんだってば、
また少しジタバタと悶えた後、小声で呟きながら目線を逸らす。その姿があんまりにも可笑しくて…
「……付き合って、くれますか?」
ちょっとだけ可愛い子ぶってみた。
「……ん、んぅ…。………んっ!!」
「んむっ!?」
チラチラと目線を寄越してきたかと思うと、顔の赤さが最高潮に達した頃、飛び掛かる様に唇を奪われた。
貪るようにその感触を押し付け合い、唾液を交わし、互いの奥底を求め合うようにその舌を絡めて……やがて、すっかり上気しきった顔を離し再度見つめ合うと、蕩けたような顔で微笑む彼女が居た。
彼女は小さな咳ばらいを一つ吐くと、
「……アタシでよければ、一生隣に居てください。」
と、か細い声で奏でた。
**
「んっふふ~。」
「急にご機嫌だね。」
「だってさ、アタシ彼氏とかできるの初めてなんだもん。」
「…へ?ほんと??」
意外だった。…てっきりそういう点も含めて、お姉さんだと思ってたから。
「ほーんと。…可愛い弟が居なくなっちゃったのは寂しいけど、頼もしい彼氏くんができたからいっかなーなんて。」
「……弟扱い辞めない気だったんじゃないの?」
「んにゃ…してほしい?」
「…お姉ちゃんとしてのリサも、大好きなんだ…もん。」
「………んふふ♪」
今日、僕達は姉弟をやめた。
「じゃあ、これからもずーっと可愛がってあげるかんね。…弟くん!」
それでも、僕の最愛の人はリサねぇ唯一人なんだ。
リサねぇルート完結ですね。
ご愛読ありがとうございました。
<今回の設定更新>
○○:弟は立派に成長しました。
これからもベタベタいちゃいちゃすることでしょう。
一途で素直って素晴らしい。
リサ:弟なんか居なかったんや。
世界で唯一の弟兼彼ぴっぴゲットおめでとう。