BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2019/09/06 紗夜お姉ちゃん
「あのさ、紗夜ねぇ?」
「どうしたの?苦しい?」
「んーん。」
「…くっつくの、嫌になった?」
「んーん。…怒ってないの?…あの日の事。」
ベッドに座り、僕の頭を抱きかかえるようにして撫でている紗夜ねぇに問いかける。
あの日の事、というのは、リサねぇの誕生日の一件の事だ。…結局あの日は日付が変わるころまで向こうに居たので、帰ってきてから滅茶苦茶怒られたんだよね。
日菜ねぇは、何だか無表情で一瞥していっただけだけど…。
「…あら、怒ってほしいの?」
「いや、そういうわけじゃ…」
ふわっと笑う紗夜ねぇ。今日学校から帰ってきてからというもの、妙にご機嫌だ。何かあったんだろうか。
「じゃぁ別に怒らないわ。…〇〇はリサさんの誕生日をお祝いしに行ったんだものね。
…優しい子に育ってくれて、お姉ちゃん嬉しい。」
「…う、うん…?あれぇ??」
何だろう。…少し小言くらいは貰うかと思ったのに…あと何か引っかかる。
どこだ。今の話のどこにおかしな点が…
「あのね、今度私も、リサさんの部屋にお邪魔しようと思うのよ。」
「え"っ」
「……嫌なの?」
「いやー……別に。」
「…はぐらかさないで大丈夫よ。今井さ…リサさんから全て聞いたもの。」
あっ。…リサねぇの呼び方だ。
今まで紗夜ねぇは、今井さんって呼んでたもんな。
…ということは、だ。この紗夜ねぇの態度と、呼び方の変更から察するに…。
「リサねぇと、何かあったの?」
「…ふふ、まあね。お姉ちゃん同士の話し合いがね、あったのよ。」
どうせ
どうやら、今後の僕との付き合い方に関しての話し合いがあったらしい。付き合い方て。姉弟以外の何があるってのさ。
「姉弟以外もあるでしょう?…〇〇のお姉ちゃんは誰?」
「紗夜ねぇと日菜ねぇ。」
「リサさんは?」
「あぁ、そういうこと…。でも、お姉ちゃんみたいなもんじゃん。」
「…本気で言ってる?」
あれ、地雷踏んだ?紗夜ねぇの整った眉が、ピクリと跳ねる。
だってリサねぇだっておねーちゃんだもんな。僕にとっては。
「あの人も上手くやってるのね…。リサさんは実の姉弟じゃないでしょう?」
「うん。」
「…だから、付き合い方が大事なの。」
「…うん。」
「………そういえば、久しぶりかもしれないわね。こういうの。」
それはあなたが幼児退行を繰り返すからだよ…とは言えなかったが、確かに久しぶり。のんびりとした時間の中で、紗夜ねぇの胸と太腿と両腕と…暖かくていい匂いのお姉ちゃんに包まれている。
…やっぱり、お姉ちゃんといえばこれなんだなぁ…。
「ふふ、緩んだ顔しちゃって…。」
「…紗夜おねーちゃん。」
「んー?…なぁに?懐かしい呼び方しちゃって。」
小学生くらいまでだろうか。僕は二人の姉の事を今とは違う呼び方で呼んでいた。
紗夜ねぇは"紗夜おねーちゃん"。日菜ねぇは"ひーちゃん"。…そんなに昔じゃないのに、随分と懐かしい思い出に感じる。
何時からだろう。…姉に素直に甘えるのが恥ずかしくなったのは。
「紗夜おねーちゃんはさ、僕のこと好きなの?」
「…えぇ、当たり前でしょ?…世界で一番、愛しているわ。」
「…そっか…。」
「なぁに?…不安になっちゃったのかな?」
右の手で耳・頬・唇、と順に撫でられる。顔を這い回るような心地よいこそばゆさと、暫く聞けていなかった甘く蕩けるような声。
吸い込まれるかのような感覚に抗う様に身悶えするも、それは却ってお姉ちゃんの
「んぅっ……そういうわけじゃ、ぅぷっ。…擽ったいよおねーちゃん…。」
「ふふふっ、本当可愛い…。ずっとこうしていたいわね。」
「……しててもいいよ。」
全然嫌じゃない。寧ろ落ち着く。…日菜ねぇに同じことをされたらどうかわからないけど、紗夜ねぇは別だ。…ただただ際限なく甘えてしまいそうになる…。
「…本当?ほんとのほんと?」
「ん。ほんとにほんと。」
「…今日は本当にどうしたの?」
「結局…さ、僕が安心して甘えられるのって二人だけなんだよね。
…紗夜おねーちゃんと、ひーちゃんと…。あっ、勿論リサねぇも嫌いとかじゃないんだけどね。」
「うん。」
「…だから、三人ともお姉ちゃんで、その中でも特に、ずっと僕の事を見ててくれた紗夜おねーちゃんに可愛がってもらえたらなぁ…っていう。
理想とは言え幼稚過ぎかな?」
「…ううん、そんなことないわ。……寧ろそういってもらえて、お姉ちゃん嬉しい。」
堅いイメージも怖いイメージもなく、いつかの幼い日のように笑う紗夜ねぇ。
あぁ、きっと僕は、紗夜ねぇが大好きなんだ。いつだって一番近くで、この人と一緒に居たい。
「ねえ、〇〇?…お姉ちゃん、我儘言ってもいいかしら?」
「いいよ。」
「…お姉ちゃんね、〇〇のことずっと離したくないの。…この先どんなに大きくなっても、どんな道に進んでも。
お姉ちゃんはずっと、〇〇のお姉ちゃんとして一緒に」
「紗夜おねーちゃん。」
「…ッ!」
「それ、僕がお願いしようとしてたやつだよ。」
「――――ッ!!」
顔を真っ赤にして目に一杯涙を湛えた紗夜ねぇが、タダでさえ抱き抱えているような姿勢だってのに覆い被さってくる。
顎と顎がぶつかるような体勢になったけど、そんなことはお構いなしに泣きじゃくる紗夜ねぇ。
…そんなに、距離を感じてたのかな…?それとも―――
「……ぐすっ…約束、よ?〇〇。」
「…ん?」
「……私、もうあなたのこと、誰にも渡さないんだから…。」
「……うん。…ずっと一緒だよ、紗夜おねーちゃん。」
暫くギスギスした空気を感じる姉弟に訪れた、ふとした一日。
きっとこれから、甘えて甘えられて、互いに依存し合うような日々が始まるんだろう。…それでも、それもきっと一つの選択。僕と姉達の生きる道だ。
ここから紗夜ねぇ編が始まります。
このあと日菜ねぇ編も始まるのですが、それぞれ別の世界線での話になります。
2シリーズの間で設定や流れが異なりますので、別のものとしてお楽しみください。
<今回の設定>
○○:決断を下せずに全ての姉と依存しあう道を選んだ世界線。
恐らくひたすらいちゃいちゃべたべたする未来が待っている。
紗夜:厳密には紗夜ルートではなく、"紗夜の望む姉弟関係"ルートになります。
同様に、日菜ルートも、"日菜の望む姉弟関係"ルートとなりますので、
誰とくっつくくっつかないは最後までわかりません。
取り敢えずこのルートの紗夜は優しく、全力で弟を愛し、甘やかす、といった構成になっています。