BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

17 / 278
2020/01/08 幼馴染たち

 

 

 

昼下がりに目覚め、喉に乾燥から来る違和感を感じる。軽く咳払いもするも、()()()()ないがらっぽい音が鳴るだけ…水分、水分を摂らなければ。

寝間着のままリビングを抜け台所へ。冷蔵庫を開け買い置いていた……あれ?

 

 

 

「…あれぇ?」

 

 

 

気に入っているペットボトルの紅茶をまとめ買いして冷蔵庫に放り込んでいた筈なんだが…一本たりとも見当たらない。親が邪魔くさがって何処かへ遣ったのだろうか。

 

 

 

「………。」

 

 

 

一先ず喉を救うのが先決と判断し、昨日の夜つぐみが作って置いたと思われる麦茶を取り出し、流し台に放置してあったマグカップに注ぐ。

……相変わらず好きになれない味だ。

 

 

 

「…おっ。」

 

「??……あぁ、来てたのか。」

 

「…よぅ。」

 

 

 

後ろ…台所の入り口から小さな声が聞こえたかと思い振り向けば、そこでバツが悪そうに髪を弄る赤毛のノッポ。宇田川の姉の方だが、未だに姉妹揃って俺とは仲が良くない。

凡そ、噛みつき合う事に慣れ過ぎたせいで居心地が悪いんだろうが…

 

 

 

「…今日はお前だけか?」

 

「…いや、(らん)とモカも来てる。」

 

「モカちゃんも?…ほぉ。」

 

「……あの、さ。」

 

 

 

手に持ったマグカップに二杯目の麦茶を注ぎ、今つぐみの部屋にいるであろうモカちゃんの姿を想像する。…銀髪のロングヘアがよく似合う、不思議属性持ちのカワイ子ちゃん。いつも無駄にサイズのでかいパーカーやコートばかり着てるせいで気付かないがスタイルもいい。デカすぎず小さすぎず、程よくを体現したような子だ。

その邪な妄想に気付かれたのか、巴が俺を見る目は不審者を見るそれに変わっていた。一口茶を呷り、彼女の言葉の続きを待つ。

 

 

 

「○○、そっち系の奴なのか?」

 

「……あ"?」

 

 

 

意味が分からない。モカちゃん好きはアブノーマルとでも言いたいのだろうか。…酷く心外だ。

 

 

 

「どういう意味だトモ。」

 

「そのまんまの意味だよ。…まさか、好き…とかじゃぁないよな?」

 

「……………もしそうなら何だってんだ。」

 

「…………それなら尚更、そんな卑劣な行為、辞めた方がいい。」

 

「……お前は何を言っているんだ。」

 

 

 

妄想を辞めろだと?無理に決まってる。

毎日毎日、モカちゃんが彼女になってくれたらの妄想のお陰で生きているようなもんなんだから。睨みを効かせたつもりは無いが、キツイ目になってしまっていたらしく、巴がいつもの様に嫌悪感剥き出しな態度を取る。

 

 

 

「だからつまり…好きなら動いてみろよって話だ。」

 

「あぁ?どうしてお前にそんな指図されにゃならん。」

 

「昔はもちっとまともな男だったのによ。落ちぶれたと思えばそんなところまで腐っちまったってのかよ。」

 

「おいおい酷い言われようだな…。何が腐ってるってんだよ?あぁ?」

 

「……そ、それは……」

 

 

 

そこまでの威勢はどうしたのか、俺の質問に口籠る素振りの巴。こんなんじゃ喧嘩にもなりゃしないし、俺自身何が腐ってる判定なのかは気になる所だ。

 

 

 

「それは?」

 

「……かっ、間接…キス、とか。」

 

「……はぁ?」

 

「だからっその…っ!…あーもうっ!アタシだって苦手なんだこの手の話題はぁ!」

 

 

 

俺はそこまで妄想しちゃいねえ。なんだそのちょっと陰気な匂いすらするマニアックな妄想は。

 

 

 

「なぁトモ、お前は何を言って…」

 

「巴ちゃん??お茶の場所分かった??……あ、お兄ちゃん。」

 

 

 

巴の後ろから顔を覗かせる我が妹。助かった、この話にはまともな進行役が居ないんだ。

 

 

 

「つぐみ、トモがおかしなことを言うんだ。」

 

「おかし??お菓子がどうしたの??」

 

「だってさぁ!○○がさぁ!間接……を狙ってんだもんよぉ!」

 

「狙ってねえっての!!何の話をしてんだお前は!!」

 

「関節??関節…技の話??」

 

 

 

ああもうどうしようもないなこの妹は。日本語にホント弱い。

 

 

 

「つぐ、あのコップ見てみろって!!」

 

「こっぷ??」

 

 

 

巴が指さすのは俺が今まさにお茶を飲むために使っている、流し台で放置されていたカップ…これが何の……ッ!?まさか、これは巴の…!!

 

 

 

「ち、ちちちがわいっ!俺は別に、トモ何かに興味はねえし、そういう陰湿な…とにかくちがわいっ!!」

 

「…あっ、それ蘭ちゃんが使ってたやつだ。」

 

「そうなんだよぉ!蘭が狙われてんだ!!気色悪いだろ?な!!な!?」

 

 

 

………。成程こりゃとんだ勘違いだ。俺が一種でも巴のコップだって想像しちまったのも何だか嫌な感じだし、蘭なんぞを狙ってると思われるのも心外だ。

当然誰かの使ったものだとわかっていれば使わないし(つぐみ除く)…モカちゃんの使用済みと分かればどうなるかは分からないが…。

 

 

 

「巴ちゃんっ!?何で抱きつくの!?…あれっ、右手の場所おかしいね!?何処触ってるの!?」

 

「だって○○がさぁ!蘭をさぁ!!…あれ、つぐ成長し」

 

「おいこらクソレッド。ドサクサに紛れて人の妹にセクハラすんな。」

 

「あぁ!?誰がクソレッドだ!…それに、つぐはお前の妹じゃなくてアタシらの幼馴染だかんな!」

 

「っせぇな!取り敢えずその、なんだ、揉むのを辞めろ。」

 

「ソイッ…嫌だね!それに女同士だし、これはセクハラじゃないっ!」

 

 

 

何だその謎理論。性別絡んでるんなら漏れなくセクシャルなハラスメントだろ。

 

 

 

「ああああのねっ!?巴ちゃんっ、そろそろ、触るのやめてほしいかなって!!あでもねっ!嫌だとかそういうんじゃないけどね!くすぐったいからねっ!?」

 

「…ほら、つぐみもそう言ってるだろ…?だからもう」

 

「何だ?一方的だからセクハラなのか?ようし分かったッ!…じゃあつぐ!つぐもアタシのを揉め!!」

 

 

 

頭の悪さが滲み出ていらっしゃる。どこまでも掴み処の無い超理論により新展開に新展開を重ね掛けする赤髪に、力の差でされるがままのつぐみは涙目だ。…くそっ、何とかして助けなければ…。

 

 

 

「コラ、いい加減離し…服を捲くんじゃねえ変態野郎が。」

 

「あぁ?素肌の方が揉みやすいだろっ!?そいやぁ!」

 

「~~~~ッ!?」

 

 

 

幼馴染の同性とは言え至近距離でそんなもの見せられたらそうなるだろう。突如露わになった宇田川山…いや高台くらいのものかアレは…?森林公園と名付けてやろう。宇田川山改め宇田川森林公園の登場に目を白黒させ声にならない悲鳴を上げる我が妹。

そのテンパった右手を強引に誘導しようと、巴が空いている手で引っ張る。…俺は一体何を見せられているのか。ドタバタと繰り広げられる騒ぎを聞きつけてか、もう一人の幼馴染が台所の入り口に現れる。

 

 

 

「…………何やってんの、二人とも。」

 

「ち、ちがうの蘭ちゃんっ!これはね!巴ちゃんが…その…」

 

「…何にも違わねえよ。頭のおかしい変態が、変態プレイに俺の可愛い妹を引き摺り込もうとしているってだけだ。」

 

 

 

友達想いの心優しいつぐみだが、流石にフォローの仕様が無かったようで。「その、あの、」と滝汗を流していたので見兼ねて加勢した。

 

 

 

「ふぅん……巴、色々見えてるよ。」

 

「おぉ!蘭も揉むか!?」

 

「…………………。」

 

 

 

美竹蘭これを無言で華麗にスルー。困り顔のつぐみを一瞥し、スタスタとこちらへ近づいてくる。

 

 

 

「……それ、あたしのカップなんだけど…洗った?」

 

「あいや、ここにあったから使っちまった。」

 

「ふぅん。……あたしもお茶。」

 

「その棚、コップ仕舞ってあるから持ってこいよ。」

 

「…それでいいよ。頂戴。」

 

「…でもそれじゃあ間接」

 

「いいよ。」

 

「っ!?……マジ?」

 

「直接じゃないだけまだマシだし。早く。」

 

「お、おう……ほれ。」

 

「ん、ありがと。」

 

 

 

何を思ったのか件のカップを使い茶を呷る蘭。前々から思ってはいたが、こいつもこいつで中々に謎の多い女のかもしれん。巴がギャーギャー騒ぐ横で喉を潤し、空のカップを突き出す。お替わりだろうか。

 

 

 

「もう一杯か?」

 

「……ごちそうさま、苦かった。」

 

「おう。味はつぐみに文句言ってくれ。」

 

「ん。」

 

 

 

満足したらしい。特に何も言わず背を向けて歩き出す辺り、クールな切れる女なんだろう。

そのまま入り口近くで未だに暴れている巴からつぐみを引き剥がし、こちらも見ないままに戻って行ってしまった…。

 

 

 

「……おいトモ、二人とも戻ったぞ。」

 

「………そう、だなあ。」

 

「お前は戻らんのか。」

 

「………何だこの虚しい気持ち。」

 

「取り敢えず、前仕舞え。」

 

 

 

何時まで開けさせとくつもりなんだ、それ。

 

 

 

「はぁぁぁぁ……揉む?」

 

「死ね。」

 

 

 

**

 

 

 

煩い連中が帰った後、夕食。

結局あの後自室に籠り、ギャーギャーと煩い妹の部屋からの騒音を聞きながらだらけて過ごした。静かになるまで奴等が絡んで来る事は無かったし、モカちゃんに遭遇するチャンスも無かった。

それでも減った腹を満たそうと、つぐみと二人でもそもそと食事を摂っていたわけだ。

 

 

 

「…二人ってのも静かでいいな。」

 

「そだね。」

 

「………。」

 

「……………。」

 

「……うめぇ。」

 

「…ねえ、お兄ちゃん。」

 

「ん。」

 

「……蘭ちゃんが好きなの?」

 

「………どうしてそうなった?」

 

 

 

親は外出中の為、非常に静かな夜ではあるのだが…妹はまだあの騒ぎから抜け出せずにいるようで。

 

 

 

「さっき、間接ちゅーして喜んでたから。」

 

「喜んでねえ。いつも通りのお兄ちゃんだったろ?」

 

「うーん…わかんない。蘭ちゃんに連れて行かれちゃったから。」

 

「それもそうか…じゃあ喜んでたかどうかは分からないだろうに。」

 

「むぅ…でもそう思ったんだもん。」

 

「あそ…。」

 

 

 

また会話が終わり、食器の音だけが支配する空間となる。やがて食べ終えた食器を片付けようとつぐみが立ち上がったところで…

 

 

 

「あっ。」

 

「??」

 

「でもね、蘭ちゃんはすっごく恥ずかしそうだったよ。」

 

 

 

またもやチンプンカンプンな事を言われる。

 

 

 

「んなわけあるかい。顔色一つ変えずに戻ってったろ?」

 

「んーん。階段上って私の部屋まで行く間、ずっと顔真っ赤だったもん。」

 

「……恥ずかしいならやらなきゃいいのにな。」

 

「うーん…すっごく喉乾いてたんじゃない?」

 

「……そう、かなぁ…。」

 

 

 

幼馴染って、絶妙に面倒臭い。

 

 

 




おやおや。




<今回の設定更新>

○○:暴走気味なところを見ているせいか巴が苦手。すぐ喧嘩腰になる。
   モカを前にすると上手に話せなくなる程意識している模様。

つぐみ:天然?
    家の中でも若干早歩き…というより小股が過ぎるので、足音で身バレ
    するらしい。

巴:ソイヤソイヤ。
  変態かもしれないヤ。

蘭:おやおや?赤メッシュのようすが…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。