BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/13 はじまりはじまり(終)

 

 

 

暖かい眠りの中で、柔らかいものに包まれて…そんな幸せな微睡に、スッと冷たい風が入ってきた。

それが、掛け布団を取り払われたことにより吹き込んできた、冬の朝の風だとワンテンポ遅れて気づく。

 

 

 

「こーらっ、休みだからっていつまで寝てるの?」

 

「んん…っ、紗夜ねぇ、さぶいよ。」

 

「もう八時なのよ?起ーきーなーさーいっ。」

 

 

 

日菜ねぇと抱き合うようにして眠っていた僕を引き剥がす様に、揺さぶり、引っ張り、耳元で囁いて来る紗夜ねぇ。ホントに早起きなんだから、この人は。

またそれを離すまいと抱き締める腕により一層の力を籠める日菜ねぇ。僕の顔に押し付けられる柔らかいものはより存在感をアピールする様に形を変え、温もりと甘い匂いで僕を包む。

 

 

 

「全く…自分だけそんなにくっついて…ズルいじゃないの。」

 

「紗夜ねぇももうちょっと寝よ?」

 

「も、もうちょっとも何も、○○と二人だったら寝てたわよ…」

 

「じゃあどうして早起きなのさ。」

 

「………せ、狭いのっ!シングルのベッドに三人よ?柵も付いてるし…朝起きたら背中に縞々の跡が付いてるんだから。」

 

 

 

赤い顔で背中を摩る紗夜ねぇを、寝返りを打ちながら眺める。…あ、紗夜ねぇ、今日はスカートなんだ。

 

 

 

「ふぅん…跡は残ったら大変だもんね。」

 

「そこまでじゃあないけど…。」

 

「ところで紗夜ねぇ、今日何かあるの?」

 

「…何故?」

 

「紗夜ねぇおうちでスカート履かないでしょ。…でも今日は、その長いスカートだからさ。」

 

 

 

ピンクのロングスカート。前にリサねぇが来た時にも履いてたっけ。

…誰かお客さんでも来るのかな?

 

 

 

「あぁ…何となくそんな気分だったの。…なぁに?○○。お姉ちゃんのスカートの中身、気になる?」

 

「……そんな日菜ねぇみたいなこと言わないでよ…。」

 

 

 

何というか、キャラじゃない。

 

 

 

「…それもそうね。…まぁいいわ、早く起きなさい?リサさんがリビングで待ってるわよ?」

 

「あ、やっぱりリサねぇが来てるのか…って早くない?八時過ぎだよね??」

 

「普段なら学校に行っている時間でしょう?全然早くありません。」

 

「うぇー…紗夜ねぇきらーい…。」

 

 

 

早く起きなくていいってのも休みの醍醐味なのに…紗夜ねぇはその辺分かってないなぁ。真面目なのもいいけど、時にはだらけたい…そんな男心もわかってほしいものだ。

後頭部の上、ずっと消え入りそうな寝息を吐いていた日菜ねぇも目が覚めたようで、ふふと小さく笑っている。

 

 

 

「きっ、嫌い!?…嫌いっていうのは、その、あの…本当に?」

 

「紗夜ねぇは僕に厳しすぎるからなぁ…」

 

「ち、ちちち違うの、私は○○に、立派な大人になって欲しくて、姉として…ね?わかるでしょう?決して意地悪とかじゃなくてその…」

 

「うっひゅひゅ、おねーちゃん嫌われちゃったねー。」

 

「なっ…!日菜っ、あなたも早く起きなさい!」

 

「いやーだよぅ、もっと○○くんとぎゅっ!てしてたいんだもーん♪」

 

「日菜ぁ!!」

 

 

 

僕を挟む様にして言い合いを続ける二人。…凄く今更だけど、本当にそっくりな顔立ちしているなぁって。

最近の日菜ねぇが髪を伸ばしているせいもあって、寝顔なんかは本当にそっくり。鏡でも置いてあるんじゃないかってくらいなんだけど、動き出すと本当に違う。

キッチリ"理"の上を行く紗夜ねぇと自由の名のもとに好奇心と発想力で生きる日菜ねぇ。二人とも目が離せなくて、ずっと一緒に居たくて、大好きで…

 

 

 

「…二人とも、すっごい可愛い。」

 

「「!?」」

 

 

 

うんうん、驚いてる顔もすっごくそっくりで、紅い顔も……って、何をそんなに照れてるんだろう。

 

 

 

「○○くんっ!?ど、どうしたのいきなり!?」

 

「お、おおおっ、お姉ちゃんに、可愛いとは、何ですか…っ!」

 

「………ん、あれ?声に出てた?」

 

 

 

慌て方は似てない。けど、僕の問いに二人とも全力で首を縦に振った。

 

 

 

「…あっはは、ごめんねっ!…でも、本当にそう思ったからさ。」

 

 

 

平和な朝だった。

…が、その言葉のせいで、二人の姉さんという女性にスイッチが入ったことに僕は気づけなかった。

 

 

 

**

 

 

 

「…なーるほど。それでそんな状況なんだぁ。」

 

 

 

リビング。向かいのソファでココアを飲むリサねぇはカラカラと笑う。

僕の両脇を挟む様に密着して座る、二人の姉さんがそれほど面白かったんだろう。日菜ねぇは相変わらず小声で「るんっ、るんっ!」って心情を漏らしてるし、紗夜ねぇは真っ赤な顔で視線をそらして震えている。…けど二人とも、それぞれ僕の左手と右手をしっかり握って、まさに"半分こ"の状態なんだ。

部屋から降りてくるときも、ご飯を食べている時でさえこの状態だったわけで、それをずっと眺めていたリサねぇも嘸かし楽しそうだ。

 

 

 

「リサちーも混ざる??あでも両手埋まっちゃってるね!ざーんねんっ☆」

 

「はっははは!…ヒーナっ♪あとで憶えときなよっ♪」

 

「いやーんリサちーこわぁい☆」

 

「あぁもう、日菜ねぇ!腕捻じらないでっ!!」

 

 

 

最近のフィギュアでさえ可動域は決まってるって言うのに、僕の腕はそんなにグリングリン回りません。おちょくった様子で体を捻じる日菜ねぇは僕の腕ごと体を捩る。千切れます。

対するリサねぇも笑顔を一切崩さず声色だけで日菜ねぇを威嚇するという高等テクを…そして反対側の紗夜ねぇ?一言も発さないと思ったら何処に手ぇ入れてるの??

 

 

 

「さ、紗夜ねぇっ!?…んぅっ、そこは………」

 

「……嫌なの?」

 

「嫌、じゃないよ…でも、紗夜ねぇの手、ひんやりしててくすぐったくて…あうっ」

 

「……お姉ちゃんの事、嫌い?」

 

「……んっんぅ……っ。…だいすき。」

 

「…んふぅ、私もよ。良く言えたわね……。」

 

 

 

こっちはこっちで、リサねぇも日菜ねぇも見えていないかのように僕を溶かそうとする。いつどこでスイッチが入ったのか分からないけど、まるで夜中の紗夜ねぇみたいだ…。

多分これ、いつもなら僕が流されて……な流れなんだけど、朝っぱらという事もあってそうはリサねぇ(問屋)が下ろさない。

 

 

 

「はい紗夜すとーっぷ!弟可愛がりはわかるけど、それ以上目の前でやられちゃうと…ね?」

 

「…リサさん。」

 

「リサねぇ…!!」

 

「あなたも…混ざりたいんですか?」

 

「ちょ、紗夜ねぇ…」

 

「………ふむ、それもアリかにゃー…?」

 

「リサねぇっ!?」

 

 

 

いかん。お色気担当姉さんもスイッチが入ってしまった…!斯くなる上は日菜ねぇ…ッ!!

 

 

 

「あっ!あたしおしっこいってくるー!!」

 

 

 

自由だぁー!!!!このタイミングでトイレってある??それに高校生にもなってその宣言の仕方…子供じゃないんだから…。

空いた僕の片手をすかさず拾い上げ、日菜ねぇと同じポジションから体を絡ませてくるリサねぇ。太腿を撫でてくる手つきも耳元で「いいよね?」と囁く声も、ココアの香りと混ざるその匂いも、何というか大人過ぎる。日菜ねぇとのギャップにクラクラ来そうになる。

 

 

 

「あらあら、モテモテでいいわねぇ○○~。」

 

 

 

母さん!?いるなら止めてよっ!?

というかこの状況を目の当たりにしてニコニコ笑って居られる精神ってどんなの!?

 

 

 

「…これは、孫には困らなそうね。」

 

 

 

意外と現実的!…いやそうじゃなくて、このままだと本当にそうなっちゃうよ!?いいの!?よくないよね!?

…いやでもそうなってくれると僕は幸せで最高で…あれ???

 

 

 

「ねえ、○○。」

 

「は、ひゃい。」

 

「お姉ちゃんの、どんなところが好き?」

 

「さ、紗夜ねぇ!?…ええと…」

 

 

 

ぐるぐると頭がパニックになっているところに、透き通るような紗夜ねぇの声。それも何だか甘えるような、誘う声だ。

いけない、これはいけない。

 

 

 

「えと、紗夜ねぇは…厳しくって、たまに怒ったりもするけど、結局は優しいし甘えさせてくれるし、いい匂いだし…それに」

 

「弟くぅん?紗夜にばっかりデレデレしちゃって、お姉さんは寂しいなぁ。」

 

「り、リサねぇ…!も、勿論リサねぇも大好きだよ!!」

 

「あはは。……やっぱ弟くんは可愛いねぇ。お姉さん、食べちゃってもいいかな??」

 

「こらリサさん、はしたないですよ?」

 

「なにさぁ、紗夜だってそのつもりでしょぉ?」

 

「……私はその、お姉ちゃんですから。」

 

 

 

二人の姉さんが両側から(肉体的にも精神的にも)絡みついて来る…そしてそれを母親が和やかに見守っている、という奇妙奇天烈極まりない状況に僕の脳のキャパシティはとっくに限界を迎えていた。

そんな僕を他所に二人の姉さんは抱きついたり撫でたり匂いを嗅いだりとやりたい放題。

 

 

 

「あぁぁーっ!!リサちー!!そこあたしの場所!!」

 

 

 

未知数(日菜ねぇ)が帰ってきた…!

さっきはダメだったけど今回ばっかりはこの状況を何とかしてくれそうな…

 

 

 

「もー!そっち半分はあたしのなのっ!手返してっ!」

 

「えー、もうちょっとだったのにー。」

 

「リサちーはココア飲んでたらいいでしょ!」

 

「飲み終わっちゃったもんー。」

 

 

 

一瞬半身が解放されるや否や、また違う香りと感触が纏わりつく。「へへへへっ」と日菜ねぇは楽しそうだけど、そうじゃない。そうじゃないんだよ日菜ねぇ。

猫のように側頭部を僕の胸に擦りつけてくる日菜ねぇを見て、「あら、三人ともなのね。良い事。」と母親が呟く。…ホントにいいの?それは。

 

 

 

「日菜ねぇ、くすぐったいよ…」

 

「今ね、あたしの匂いを○○くんにつけてるところなんだよっ!リサちーに取られちゃうからね!!」

 

「…もろマーキングなんだね、日菜ねぇ。」

 

「るるんっ♪るるるんっ♪」

 

 

 

聞いちゃいない。それを見て反対側の紗夜ねぇも控えめに真似しだすし、もう混沌の極みだ。

…紗夜ねぇの「るんっ」は初めて聞いたけど、照れがあって可愛い。

 

 

 

「むぅ……アタシを差し置いてこの姉弟はぁ…」

 

 

「リサちゃん。…前、前。」

 

 

「前ぇ…?……あぁ、なるほど。ありがとーお義母さんっ!」

 

 

「グッドエッ…ラック。」

 

 

 

何やら不穏なやりとりが聴こえた気がしたけど、ステレオで聞かされる「るんっ」の応酬と胸元の摩擦でそれどころじゃない。

…それどころじゃない、が、正面…同じ目線の高さ、それも吐息がかかりそうな距離に無表情のリサねぇが居ることに不安しか感じないのは何故だろう。

ドキドキしつつもその目を見返すこと数秒。急にデレっと微笑んだリサねぇは―――

 

 

 

「貰うね、弟くんっ。」

 

「へ?……んむっ!?」

 

 

 

―――僕の顔をホールドしたかと思えばその甘い唇を僕に押し付けてきた。口から出ようとしていた愚問に蓋をするように。

 

大変なのはそれに気付いた二人の本当の姉さんで。

 

 

 

「「あぁぁあああぁあああああぁぁぁああ!!!!!!!」」

 

 

 

そこからはもう肉食の宴だった。

空腹の肉食獣の檻に放り込まれた生肉のように、僕はきっと貪られ続ける人生を送るしかないんだ。

でもそれはきっと最高に甘ったるくて、最高に幸せなことで…

 

 

 

「○○、あなたはもう逃げられないのよ。」

 

「ずーっと、ずーーっと!あたし達と一緒だよっ!○○くん!!」

 

「弟くんも嬉しいよね?幸せだよね?…なら、委ねちゃいなよ。」

 

 

 

あぁ、ここはなんて狂った世界(しあわせなせかい)なんだろう。

 

 

 

おわり




紗夜ルート、完結になります。
ご愛読ありがとうございました。




<今回の設定更新>

○○:晴れて肉食系姉さん三人の性奴れ…共有物に。
   本人も満更じゃなさそうだし、御の字でしょう。
   戸籍上一生独身として過ごすことになる。つまり、そういうことさ。

紗夜:誰も傷付けず誰も傷つかない。
   妥協と現実逃避から成るこの世界は、きっと紗夜の弱い部分が望んだ
   夢のような世界。
   恥ずかしがり屋さんは今日も紅潮する頬のまま衣服を脱ぐ。

日菜:寧ろこの世界線だと常人なのかもしれない。
   元気いっぱいの不思議系少女は、世界が狂った時こそ存在感の塊に
   なれるのだ。

リサ:影が薄いようで一番やることはやっている。
   このルートに進んだ結果、理性・ブレーキといった概念が吹き飛ん
   だ模様。
   温もりと優しさで隠した彼女の牙は今日も少年を狙う。

ママ:黒幕。

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