BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/03 騒ぎの中に答えは在らず、静かに事は運ぶべし

 

 

 

自分の部屋、自分の布団、自分の枕。パーソナリティスペースと呼ばれる、自分だけの場所。

リラックスできる場所でもあり、孤独になれる場所でもある。

特に何かがあったわけではない平日の夜、僕がここで過ごすのも必然なわけで。

 

 

 

「んっふふ~♪○○くん、いい匂いだねぇ。」

 

「だめだよ日菜ねぇ、まだお風呂も入ってないんだから。」

 

 

 

そこに()のうち一人がくっ付き居座っているのもまた必然なんだ。…あの一件以来、日菜ねぇはまたグンと距離を縮めた。それこそ、街中では恋人と間違われるほどに。

…でも、その裏側で、もう一人の姉さんとの関係性は悪くなっていく一方で。

 

 

 

「お風呂ぉ?いいねぇ。今日も一緒に入る?ね、ね、一緒に入るぅ??」

 

「今日()って…いつも入ってるみたいな言い方しないでよね…。」

 

「あたしは毎日でもいいんだよぉ??」

 

「僕がよくないの。」

 

 

 

日菜ねぇと紗夜ねぇの間にどんな会話があったかは分からない。知らない事だし、何故か教えてくれない。それでも、確実に二人は壊れて行っている気がする。

そのどちらにも僕が絡んでいるのか、何が二人をそうさせてしまっているのか。

 

 

 

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン

 

激しいノックの音。僕はもう慣れてしまったんだけど、この音が聞こえるたびに父さんも母さんも不安そうな顔をする。

 

 

 

「あっ、おねーちゃんだ!…はぁい!!」

 

「日菜~?ちょっといいかしら~??」

 

 

 

ドア越しに聞こえてくるフワフワとしたご機嫌な声。紗夜ねぇだ。

決してドアは開けず、顔も見せず…声だけでの応答を徹底しているのは果たしてどのような意図があっての事か。

僕にはそれを推し量ることはできないが、この後の流れは容易に想像できる。

 

 

 

「ちょーっと待っててね!〇〇くんっ!」

 

 

 

るんるんとまるでハイキングにでも行くかのような軽やかな足取りで扉へ。ノーウェイトで開けた先には()()()()()()()()()紗夜ねぇが一瞬見えた。

前にも同じことがあり声をかけてみたが無視されてしまい、ショックを受けて以来気軽に呼び掛けることのできなくなった姉さん。ホント、どうしちゃったんだろう。

パタム、と静かに閉まる扉にすぐさま駆け寄り耳を当てる。

…足音…数歩歩いて、扉を開ける音……閉まった。どうやら紗夜ねぇの部屋に行ったらしい。音を立てないようにドアを開け、紗夜ねぇの扉に耳をつける。

 

 

 

「……何度言ったら分かるの。」

 

 

 

紗夜ねぇの声だ。取り繕っていない、素の。

 

 

 

「…何度も言ってるように、あたしは変わるつもり無いから。」

 

 

 

日菜ねぇの、少し怒った様な声。

 

 

 

「ッ!だから!もう止めなさいって言ってるの!!」

 

「意味が分からないよ。おねーちゃんの言ってることはおかしいと」

 

「おかしいっ!?私がおかしいのだとしたらあなたもおかしいのよ!日菜!!」

 

 

 

言い争う声。紗夜ねぇは最近ずっとこうだ。沸点が低いというか、加速が早いというか。

冷淡な様子から突然大声を出したりする、酷く波のある人になってしまったイメージだ。

 

 

 

「あたしはおかしくないよ。」

 

「あらそう。ええそうね。おかしくないわよね。」

「あなたは〇〇にあそこ迄慕われて、懐かれて、受け入れられて認められて愛されて!!」

「……私の欲しかった、求めていたものを全て持って行ってしまうんだもの…。」

 

「おねーちゃん…。」

 

「昔からそう!!…そうよ、あなたは昔からそうだったわ。」

「私の手に入れたものを片端から奪い取っては誇らしげに見せつける!」

「あなたは一体何がしたいの!?私をどうしたいの!?苦しんでいる私を見て、何が楽しいの!?」

 

「………。」

 

「そうよね、都合悪くなったらだんまりは昔からの癖だったわよね。」

「私もそうしていれば○○に好かれるのかしら?」

 

「おねーちゃん、いい加減にしなよ。」

 

「……あぁ?」

 

 

 

正直、姉さん達が揉めているのを見て見ぬフリはしたくない。…それでも、何の解決策も思いつかず、この一枚のドアさえ開けられないのが僕、ただの無力な弟ってわけだ。

 

 

 

「おねーちゃんは逃げてるだけでしょ!?」

 

「この…っ、分かったような口を…!」

 

「そうやってまたあたしを叩いて終わりにするの?それじゃあ何も変わらないんだよ?」

 

「……うるさい…うるさいうるさいうるさいっ!!」

 

 

 

ヒステリックな紗夜ねぇの声と、ドアに何かがぶつかる音・衝撃…それも二、三度。と同時に近づく足音。

…来る。きっと紗夜ねぇは、今まさにこのドアを開いて出てくるはずだ。

 

バァン

 

 

 

「……っ!」

 

「………○○。」

 

「紗夜……ねぇ。」

 

 

 

思わず尻餅をついて、紗夜ねぇを見上げる格好で固まる僕。怒りや悲しみの篭った冷たい目で見下ろしてくる紗夜ねぇ。

 

 

 

「……○○、その…」

 

「……。」

 

「私は……私は………。」

 

 

 

何かを言おうと口を動かすも、先程までとはうって変わって小さな声が漏れるだけだった。次第にそわそわと視線を彷徨わせ始めた紗夜ねぇだったが、その最中に元いた部屋の中を見るや否や大きく目を見開いた。

震える瞳を伏せ、唇を力いっぱいに噛み締めた紗夜ねぇは表情の読み取れない平たい声で、

 

 

 

「盗み聞きなんて品のないことをして……恥を知りなさい、○○。」

 

 

 

そう言い残して階段を下りていってしまった。足音に混ざって嗚咽が聞こえたのは僕だけの幻聴か…背中が悲しみを帯びていたのかもしれない。

!!それはそうと、日菜ねぇだ。さっきまで戦場と化していた紗夜ねぇの部屋へ駆け込む。ドアは開け放たれていたおかげで、ノックだなんだと気にする必要はない。

 

 

 

「日菜ねぇ!!…うっ!?」

 

 

 

一言で言えば異常、だった。

壁や天井中に貼られた僕の写真も然ることながら、机やベッドに染み込んだ赤黒い液体。そしてこの臭気。

生臭いような、鉄の酸化したような匂いが立ち込めていて、あんなにも清潔感が溢れていた紗夜ねぇの部屋の面影はどこにも残っていない。暗く、生温いといった印象だった。

 

 

 

「○○くん…?…あ、あはは、やっぱり驚くよね、これ…。」

 

「何…これ……。」

 

「今おねーちゃんはね、色々いっぱいいっぱいなんだよ。だからやっぱり、誰かが分からせてあげなくちゃいけなくて、○○くんも見守ってあげてて欲しいんだ。」

 

「見守るったって……あっ、日菜ねぇ、大丈夫!?」

 

 

 

部屋の惨状に気を取られすぎていたらしい……声のする方に視線を向けて思わず泣きそうになるくらい驚いた。

えへへと眉をハの字にして笑う日菜ねぇの頬は内出血を起こしているのか青黒くなっており、へたりと力なく座り込む体、そのスカートから見える綺麗な腿には真っ黒な痣ができている。

 

 

 

「あ、いーのいーのこれは。ちょっと怒らせすぎちゃったみたいだから…痛っ…!」

 

「ひ、日菜ねぇ…。」

 

 

 

有り得ない位置にまで転がっているキャスターチェアーを見る限り、これをぶつけられたか殴られたかの線が濃厚だろう。

さっきまで心の中に渦巻いていた、もう一人の姉さんへの心配や同情といった感情が静かな怒りに変わっていくのを感じた。

 

 

 

「だ、だめだからね。おねーちゃんはそっとしておいてあげないと…」

 

「日菜ねぇ。…こんなの間違ってるよ。こんなの紗夜ねぇじゃない。」

 

 

 

何より、そんな姉さん、嫌いだ。

 

 

 

「ね、ね、○○くん。あたしは大丈夫だからね、おねーちゃんは、もうすぐなんとかなるんだから。」

 

「そんなこと言ったって、日菜ねぇ…」

 

「今はあたしと一緒にいて?やっぱりちょっと痛いのは痛いし、治まるまで傍にいてよぉ。」

 

「日菜ねぇ。……ん、わかった。僕のベッドでいいよね?」

 

「…うん。ありがと。」

 

 

 

このままじゃダメだ。紗夜ねぇも日菜ねぇも、どっちも僕が救わなきゃ。僕が、動かなきゃ。

日菜ねぇを抱えながら、すっかり泥沼のようになってしまった姉弟の関係に頭を痛めている僕だった。

 

 

 

 

 

「ふふっ♪ごめんね、おねーちゃん♪」

 

「??何か言った?」

 

「…何も言ってないよ…痛っ」

 

「だ、大丈夫??冷やす??」

 

「ううん、大丈夫だから…ぎゅってしてぇ…。」

 

「うん…。」

 

 

 

 




日菜ルートもぐちゃぐちゃしてきましたね。




<今回の設定更新>

○○:目の前のことで手一杯。まだ若いから仕方ないといえば仕方ないが…
   其れ故に話は拗れていく。

日菜:いいことを言っているように見える。
   許しが出たため主人公にべったり。
   おねーちゃんとも仲良くなりたい……??

紗夜:壊レ始メてイる。

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