BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/03 縁

 

 

 

「あなた……自分が何を言っているか分かってるの?」

 

「勿論。…でも、もう見過ごしちゃいられないよ。」

 

 

 

和やかなお正月になるはずだった三が日。それも今日で終わろうとしている。

僕はすっかり気持ち悪くなってしまった紗夜ねぇの部屋…その入り口で、紗夜ねぇと対峙していた。きっかけはまたしても紗夜ねぇの行動。

リビングでダラダラとテレビを見ていた僕と日菜ねぇを紗夜ねぇが叱ったわけだけども、その指摘点は二人の距離が近い事、だった。

確かに、ソファに座る日菜ねぇに膝枕をしてもらう形で寝転がっていたけれども、「姉弟でそんな淫らな事すべきじゃない」とまで言われるほどの事か正直分からない。

当然離れることに難色を示した日菜ねぇを、紗夜ねぇは平手打ちで鎮めた。頬を赤く腫らした日菜ねぇは涙を浮かべながらも「大丈夫」と笑っていたけれども…連日のそういった行き過ぎた行動に、僕はもう許せなくなっていたようだ。

 

 

 

「紗夜ねぇ、本当にどうしちゃったのさ!あの優しかった紗夜ねぇは何処へ行っちゃったの!?」

 

「…だから、何時までも甘やかしている訳には行かないと言ったでしょう。日菜に強く怒るのは、あなたと違って大きな「お姉ちゃん」だからよ。」

 

「お姉ちゃんだからって…やり過ぎだよ……!」

 

「何もあなたが怒る様な事じゃ」

 

「馬鹿!!紗夜ねぇがおかしくなったから僕も怒るしどうしていいか分かんないし、不安だし…日菜ねぇだって、あんなに悲しんでるじゃないか!!」

 

 

 

込み上げてくる気持ちは抑えられない。どうしたらいいんだ、どうしてこうなってしまったんだ、何が二人の姉さんをこんなに拗れさせてしまったんだ…僕一人じゃ抱えきれないし究明も出来ない疑問と問題がうず高く積みあがってる。その山を登ることも下ることも出来ないまま泣き叫ぶことしかできない僕でも、もしかしたら動けることがあるのかもしれない…そう思って、僕の考えを伝えにこの部屋まで来たんだ。

普段大声を出さない僕の今の姿に驚いたのか、びくりと体を震わせる紗夜ねぇ。それでも表情は変わらず、只管冷たい瞳で威圧する様に見つめて来るだけだった。

 

 

 

「……あなたは何もわかっていないのよ。」

 

「わからないよ!紗夜ねぇが何も言ってくれないからでしょ!?」

 

「わた……し…は…」

 

「だから僕は……僕は、もう弟辞める。」

 

 

 

逃げかも知れない。それでも、ずっと小さい時から一緒に過ごしてきた大好きな姉さんがおかしくなっていく。関係も、繋がりも壊れていく。それが辛過ぎるんだもの。

 

 

 

「……ッ、え?」

 

 

 

流石の紗夜ねぇも目を見開いて絶句している。当然だ。辞めるったって辞められるわけがない。まだ自立にも早すぎる今の僕が何を言ったって子供の我儘でしかない訳だ。それが分かって、笑いたいのか怒りたいのか、何とも言えない複雑な表情で何かをぶつぶつ言っている。

 

 

 

「どうして○○が弟を辞める?そんなの有り得ない、だって私は姉であることを選んで姉としての当然の振舞いで姉として弟と妹に好かれようと。好かれようと?いやそんなはずは、元から仲のいいキョウダイとしてその形を保つために、でも日菜がそんな爛れた想いを抱いてしまったから私は私として正さなきゃいけなくて斯くあるべき姿として弟を、あれ?弟も弟じゃ無くなったら私はまた家族を…独りに…ぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「さ、紗夜ねぇ!?」

 

「どうしたの○○くん!!…おねーちゃん!?」

 

 

 

物凄い速さで何かを呟いたかと思うとそのまま自分の体を抱き締める様に抱え込み、大きな声を上げつつしゃがみ込んで震え出した。急変ぶりに慌ててしまった僕と、咄嗟に駆け付け状況を把握した日菜ねぇ。

蹲る様にして泣き叫びイヤイヤと首を振る紗夜ねぇに背中を摩りつつ言葉を掛ける日菜ねぇ。目の前の異常さに、得体の知れない恐怖感を抱きつつその原因を必死に探っている僕。まさに修羅場だ…そう思った。

 

 

 

「いやあぁぁああああ!!!!行かないで!!!!行かないで!!!!!!私を置いて行かないでぇ!!!!」

 

「大丈夫だよ!大丈夫だよおねーちゃん!!!あたしも、○○くんもここに居るよ!」

 

「ぁああああああ!!!!!だめ!!!やめてやめて!!!!だめだってばぁああ!!!!」

 

「おねーちゃん!まずは…ええと、深呼吸してみよ!?ね!?…まず落ち着いて、○○くんともう一度話してみよ!?」

 

「いやああ!!!!いやなの!!!!ごめんなさいごめんなさごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!私が悪いの!!!!ぁぁああああ!!!」

 

「紗夜……ねぇ…?」

 

 

 

髪を振り乱し喉を掻き毟り、目を剥いて声帯が千切れんばかりに泣き叫ぶ。目の前にいるその人は、僕の見慣れたあの姉さんじゃなかった。

 

 

 

「○○くん!!」

 

「…えっ、あっ、は、はい!!」

 

「ここはあたしが何とかするから、○○くんは自分のお部屋で待っててくれるかな!?」

 

「で、でも…」

 

「おねーちゃんなら、大丈夫だから!…ね??」

 

「……う、ううん…」

 

「よーしよし、○○くんは言うこと聞けるいい子だもんね!後でお部屋行くからね~」

 

「あぁぁあああああ!!!!行かないでぇ!!!離れないでぇええええええ!!!!!!いやあああああああ!!!」

 

「おねーちゃん!おねーちゃーん!!あたしがわかる??日菜だよ??ここに居るよー???」

 

 

 

壮絶な現場から逃げる様に、日菜ねぇの未だかつて見たことのないほどまともなお姉さんっぷりに圧倒されつつも従う事にした。

部屋に入り扉を閉めても尚、紗夜ねぇの悲痛な叫びが聴こえてしまい、つられて叫び出してしまいそうな程不安になる。リサねぇに連絡しようとも思ったけど、そんな気力も勇気もなく一人布団に包まって耳を塞いだ。

 

 

 

**

 

 

 

どれくらい経ったろう。ぼーっとした空っぽの頭のまま暗い闇を見詰めていると、不意に身体を揺すられる感覚があった。

布団から這い出てみれば優しい笑顔の日菜ねぇが見下ろしていた。

 

 

 

「ごめんね、遅くなっちゃった。」

 

 

 

少し疲れたような表情を浮かべる日菜ねぇ、辺りもすっかり暗くなっているし、長い戦いがあったんだろう。

 

 

 

「…日菜ねぇ……僕…。」

 

「○○くん、ちょっとお話…聞いてもらえるかな??」

 

「お話?」

 

「うん。おねーちゃんとあたしと、リサちーと○○くんのお話。」

 

「…リサねぇも?」

 

「うん。ちょっと長いけど…こういう時は冬休みに感謝だねっ。」

 

 

 

悪戯っぽく笑った後、「あったかいもの持ってくるね~」と部屋を飛び出していった日菜ねぇ。気付けばお腹もすいているし、お話とやらに備えて部屋とテーブルを用意しておこう。

電気をつけ、ちゃぶ台を拭いてクッションを置く。位置的にベッドに凭れ掛かる状態になるし、座椅子は要らないか…と部屋を見回していたところ、ぱたぱたと予想より軽い足音を響かせ日菜ねぇが戻ってくる。本当タフだな、この人は。

 

 

 

「じゃーんっ!日菜ちゃん特製のクリームシチューだよぉ!」

 

「……流石日菜ねぇ、めっちゃ零してるよ。」

 

「へっへー、階段駆け上がってきたからね♪」

 

「…また紗夜ねぇに叱られるよ。…あ。」

 

「………じゃあ、まずは食べよっか。冷めちゃうし!」

 

 

 

カチャカチャと食器の音だけが支配する空間で二人静かにシチューを食べる。一口、また一口と進むごとに泊まっていた頭も顔も動く様になり、最初の言葉は自然と零れ落ちた。

 

 

 

「お話って?」

 

「……そうだね。…まずさ、○○くんから見て、今の家族構成ってどんな感じかな。」

 

「??ええと、僕がいて、姉さんが二人、父さんと母さん…の五人家族だよね。」

 

「うん、正解っ。…それじゃあ、リサちーは○○くんにとってどんな存在??」

 

「えっ。……えーと…ちょっと気になる人…っていうか、そんな感じ。」

 

「うんうん、正直で良い子だね!じゃあ次はぁ…」

 

 

 

このシチューほんとにおいしい。

 

 

 

「○○くんとあたし達お姉ちゃんズ、違うところってどこかな??」

 

「違うところ……そりゃ当然、歳と性別だよね。」

 

「…あとは?」

 

「……あとは、うーん…その三人だと、僕だけ茶髪ってことくらいかなぁ…。」

 

「そうだねぇ♪…おとーさんとおかーさんの髪の色ってどうだろうねぇ??」

 

「……二人とも黒い。」

 

「うんうんっ、ちゃんと把握できてて偉いねえ!」

 

 

 

確かに、これだけ髪色も…今気づいたけど瞳の色も違う家族って言うのも珍しいよね。珍しさで言えば、姉さん達が抜群におかしいんだけど。

 

 

 

「態々こんな話をするあたり、もしかして~とは思っちゃってるかもしれないけどさ。…あたし達、本当は血の繋がりが無い所があるんだよね。」

 

 

 

…衝撃だった。

僕自身姉さんや両親との関係を疑った事なんか勿論無い訳だし、髪色に関しても"そういうもんだ"と流してた。周りにはいろんな髪色の人がいるし、知り合いのあこちゃんなんかはお姉ちゃんと違う髪色だったと思うし。

うちもきっと、双子ってきっとそういうもんなんだと…。

 

 

 

「えっとね。…ショックだったらごめんだけども。」

 

「…うん。」

 

「あたしとおねーちゃんはね、元々捨て子だったんだ。」

 

「えっ」

 

「幼稚園くらいかなぁ。本当のパパとママがあたし達と家を置いて出てっちゃったんだよね。…その頃は、あたしは黒髪だったみたい。」

 

 

 

ってことは…氷川家に於いて、姉さん二人が血縁外の存在という事になるのかな…?そして髪色、日菜ねぇが黒髪…?じゃあ地毛の色も変わったって事??

 

 

 

「おねーちゃんはその時のショックで髪の色が変わっちゃったみたいで…。」

 

「じゃあ、さっきの発作みたいなのは…」

 

「うん。あたしはそうでもなかったけど、おねーちゃんはパパもママも大好きだったから…。同じように大好きな○○くんが"家族じゃ無くなる"って思って、久しぶりに出ちゃったんだと思うな。」

 

 

 

そんな重い過去を知らずに…僕はあんなことを。奥歯を噛み締めるももう遅く、紗夜ねぇは、とうに傷つき壊れた後なんだから。

…あれ?今の話にリサねぇと僕は絡んでなくないか?

 

 

 

「おねーちゃんはそういうこともあるから、今はそっとしておいてあげてって言ったの。」

 

「…ごめん。何も知らないのに。」

 

「んーん、言ってなかったのも悪いんだし。…それに、まだこの話は終わりじゃないよ。」

 

「……僕も、何かあるの?」

 

「うん!あるよっ!」

 

「無駄に元気だね。」

 

「隠し事が減るって、良い事だからかな♪」

 

 

 

正直、あまりいい結果は見えず嫌な予感しかしないんだけど、ここまで来たら全部を聞かないとそれはそれで嫌だ。

何故かるんるんしだした日菜ねぇは促すまでもなく続けようとするので大人しく聞く事にする。

 

 

 

「○○くんもね、おとーさんとおかーさんの子じゃないんだよ。」

 

「……っ。」

 

「おとーさんもおかーさんも、子供ができない体質らしくってね。男の赤ちゃんを養子に取ったんだ。」

 

「養…子…?」

 

「うん。…それが○○くん。元の苗字は……今井。」

 

「イマイ…?…今井!?」

 

 

 

やっぱりそこでつながるのか。声こそ驚いてしまったが、内心パーツの消去法から予想は出来ていた為にさほどのショックは受けなかった。

となると、僕とリサねぇは…実の姉弟ってことになる。じゃあこれ以上の発展は…

 

 

 

「髪色も瞳の色もおんなじでしょー?リサちーがそのことを知ってるかはわかんないけど、案外世界って狭いんだよね!」

 

「そう……なんだ。でも、どうしてその話を今僕に?」

 

「ふふ……。だってさだってさ!普通に姉弟だって思いこんだままより、こんなに入り組んだ関係なんだよって分かったほうが面白くない!?あたしと○○くんだって、結婚出来ちゃうんだよ!リサちーとはダメだけどね!不思議だよねぇ!!」

 

「そ…んな…。」

 

「あ、でも、おねーちゃんは○○くんのこと本当の弟だと思ってるから、この話しちゃだめだよ??親の事は知ってても養子とかの話までは知らないって事ね。」

 

「……日菜ねぇは、どうしたいの?今こんな話をしたところで、混乱するし余計にギスギスしちゃうし…」

 

「あたしは、○○くんともっと仲良くなって、おねーちゃんとも仲良しでいたいだけだよっ!勿論、○○くんには男の子としての好きをぶつけるつもりだけどね。おねーちゃんにもリサちーにも渡さないんだから。」

 

「渡さないってそんな……」

 

 

 

そこまで言って、手元の食器が片づけられる状態にあることに気付いた日菜ねぇはお盆に纏めて部屋を出て行こうとする。だが僕はまだ引っ掛かりを覚えてしまっていた。

 

 

 

「日菜ねぇ。」

 

「なあに~。」

 

「…今の話、全部本当の事?」

 

「えー、当たり前じゃーん!全部あたしがちゃんとお話ししてあげたでしょっ!」

 

「……でも、紗夜ねぇに言っちゃいけないとか、日菜ねぇしか知らない情報とか、リサねぇも知ってるかわからないとか…あまりに情報が独占的すぎない?」

 

「……………。」

 

「…日菜ねぇ?」

 

 

 

相変わらず笑顔のままだが目は笑っていない。何を隠しているのかは分からないけど、日菜ねぇなりの狙いがあることは確実だ。紗夜ねぇだって何を言われたのか、何を知っているのか、何がしたいのか…。

 

 

 

「あははー!もう、素直じゃない○○くんは可愛くないぞぉー!そんなにあたしって信用無いかなぁ??」

 

「…………いや、ちょっと引っ掛かっただけだから別に。」

 

「そっかそっか!それじゃ、るんっ♪って片づけてきちゃうね~」

 

 

 

謎は余計深まった気がする。

 

 

 




紗夜ねぇ…。




<今回の設定更新>

○○:どんどん人を信用できなくなっていく。
   取り敢えず、紗夜ねぇのアレはトラウマになりかけた模様。

日菜:狙いは何処にあるのか。話の真偽も関係性も、全ては彼女が握っている。

紗夜:辛い過去がある。実は物語に登場していないだけで時たま発作は起きている。
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