BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「…で、瀬田は?」
「あ、それ訊いちゃいます?早く会いたいです?いろいろ期待しちゃってます?」
「あれ、美咲ってそういう感じだったっけ。」
「なんです?」
「えっとな、言いづらいんだけどな、うざい。」
「あはぁー!言っちゃってるなぁ!」
今日は凄い。
学校から帰ってきたら家の前で出待ちしてやがった。
そりゃそうだよな。うちは共働きだ。…こんな時間に来ても誰もいねえよ。
…鍵が開いていたのはちょっと気になったがな。
それよりももっと気になったのは瀬田だ。
…スカートを穿いていた。
一瞬ちょっと懐かしい気分になりかけたが、隣で美咲が笑いを堪えているのが気になってそれどころじゃなかった。
で、頑張って美咲をスルーしつつ瀬田に話しかけたのだが、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
お前、今までもっと恥ずかしい奴だったからな。今更だぞ。
そのままって訳にもいかないので、取り敢えず三人とも家には上げたが…
「ね、ねえ、薫さん??こっちにきて、一緒にお話しようよ…」
「ふ、ふえぇ…!」
……………。
部屋に連れてきて以来ずっとこんな感じだ。
なんだい松原、その鳴き声は。
「で、瀬田は何をそんなに恥ずかしがってんの?
スカートなんか昔普通に穿いてたろ。制服とかさ。」
「お前、あれ格好いいと思ってたんか。引くわ。」
「ブフッ!!」
「お前は笑いすぎな。」
「大ウケてお前…自分で言うかね。」
あと、その机の影から半分だけ顔出すのやめろ。
顔が中性的に整いすぎてて、可愛らしさとか感じられねえんだよなぁ…。
そういうのは松原のポジションだと思うぞ。
「ふ、ふえぇ…○○くん、全部口に出てるよぉ…。」
「まじか、わざとだわ。」
机の影で瀬田が固まっている。そんなにショックかえ?
「ンーーーッ!!ンーーッ!!」
「美咲、笑うなら笑え。顔真っ赤だぞ。」
「み、美咲ちゃぁん…」
「瀬田、いいからこっちこい。
可愛かろうと可愛くなかろうと、話難いやつは勘弁だ。」
すすすすすすっと。
膝を擦り擦り、お話フィールドに入ってくる。
ふむ、最初こそ違和感あったけど別に変じゃねえなスカート。
腿の途中までの短いやつに、ニーソックスが相まって素敵な絶対領域が…。
「…お邪魔します。」
「おう、いらっしゃい。」
「……はずかしいっ。」
目をギュッと瞑り顔を逸らす瀬田。大丈夫か今の逸らし方。首痛めそうな勢いだったぞ。
つかお前…耳まで真っ赤じゃねえか。
「何がそんなに恥ずかしいんだ?…昔みたいに接したらいいだけじゃんかよ。」
「だって!私こんな格好だし!喋り方だって、久しぶりで違和感あるし…」
「俺は今までの方が違和感たっぷりだったぞ。
…ちょっと立ってみ?」
「たっ……なんで?」
「いいから。」
もじもじしながら立ち上がる瀬田。ぉお…こりゃすげえ。
スラッて擬音が文字で見えたぞ。オノマトペだオノマトペ。
「お、オノマトペ…ククッ」
「お前ずっと笑ってんな。可愛いかよ。」
「…立ったけど。何。」
「おぉ、すまん。つい美咲弄っちまった。
…うん、やっぱいいじゃんスカートも。モデルみたいだぞ。」
「ぁ…!おのまとぺって、可愛いキャラクターの名前みたいだね!!」
「お前はなんつータイミングでぶっ込んでくるんだ。可愛いな松原。」
小野真斗辺…。厳つくね?
あぁ、小野まとぺ。…うん、平仮名だと可愛らしい響きだな。きっと、ちょっと憎めないタイプの子だ。
何の話だ。
「も、モデル…!?」
「…なんだ、照れてるのか。」
「だ、だって…そんなこと言われたことなかったから…はずかしいっ」
「瀬田の恥ずかしがり方、癖が強ぇな。跳ねるな語尾。」
「ねね、○○。」
「あん?」
「このスカートいいセンスでしょ?これあたしの。」
「…じゃあ
「はぁ?見たいの?キモ。」
…振り返ってみたら丁寧な振り方だったわ。
入りこそ違和感あったけど。そういや初めて名前呼ばれた。
「そ、そうだよね…私なんかより、美咲が穿いた方が可愛いし、○○も見てて幸せだよね…。」
そっちはそっちで分かりやすく凹むなよめんどくせえな。
「あー…あのさ。
可愛いとか可愛くないとか、人の評価ってそれだけじゃないじゃん?」
「…え?」
「何故そこだけの評価に拘ってるか分かんないんだけどさ。
別に瀬田は可愛くなくてもいいんじゃね?…あ、別に貶してる訳じゃなくてな。」
「???よくわかんない。」
「俺は…あぁ、飽く迄俺の主観だけど。
俺は、瀬田は可愛い系よりも綺麗系だと思うんだよな。」
「綺麗…?」
「美人っつったら伝わるか??それこそ、女の子が憧れる一つの形だと思うがね。
…瀬田はそこに属するんだと思う。」
背も高いしスタイルもいいし。
…あの変な瀬田で居る間だって、所作一つ一つは艶があるというか、色気があるというか。
結構魅了される部分多いんだぞ。まぁ中学の頃はそんな印象無かったし、本人的にも否定したいのかもしれんがな。
「○○、くん?また、全部声に出てるよぅ…ふえぇ…」
「いいんだ。わざとだ。」
「ッ…!!」
息を呑みつつも何やら考え込んでいる瀬田。
ほら、その顎に手を当てている様子だって素敵なもんだぞ。無意識だろうけど。
「…可愛くなきゃ、いけないのかと思った。」
「は?」
「だって、女の子って、可愛いもんでしょ?」
「…そうとは限らねえだろ。」
「そう、なんだね…可愛くなくてもいいんだ…。」
「俺は、そう思うがな。」
…頭硬いんだな。
考えてみりゃ、昔からこんな奴だったかもしれない。
融通も効かない、ルールと常識とマナーが口癖のような…。
「…ふっ。それなら、やはり今までどおりの私でいいということかな?」
「…あぁ?」
「可愛らしくなくて良い…。要するに自然体。無理をせず、ありのままの私で居ることが最善だということだろう?」
…始まった。
何も響いてねえこいつ!!
「ふふっ、有難う○○。君のお陰で迷いは晴れた。
…あぁ!なんて清々しい気分だ!!無意識に抱え込んでいたものが一遍に解消された気分だ!」
「…まんまじゃねえか…。」
違う、突っ込みたいわけじゃない。
もっとこう根本的な…。
「どうしたんだい○○、そんなに難しそうな顔をして…。
…私の魅力に溺れている、そういうことかな?…うぅん、我ながら素晴らしく詩的な表現だ。」
「ばっ…!そんなんじゃねえよ!
…俺が言いたかったのはだなぁ…」
こら、外野二人。急に黙り込むんじゃない。
こいつの暴走を止めてくれ。
「いいんだ、隠すことは無い。…私はどんな汚れた欲望も受け止めてみせよう。
そう、ヤコポ・ペーリ曰く「かくれんぼは、お尻を出したもん勝ち」だ。つまり、そういうこ」
「帰れ!!」
誰がそんなものお前にぶつけるか!!
そして誰だ!お前らもでんぐり返しでバイバイしやがれ!!
「…さ、薫さん。今日もやることやったし帰りますか。」
「あぁ、また次来るまでにもっと磨きをかけておこう。」
「…ふぇ!?ふぇぇ!?」
「はい、花音さん。可愛らしさ稼がない。いくよ。」
「そ、そんなつもりないのにぃ…」
「……儚い。」
「…あいつら、帰るときはえらく手際いいんだよな。」
…あー。
真面目に語った俺が馬鹿みたいだ。
薫さんには叶いません。
<今回の設定更新>
○○:たまにはいいこと言う。薫が来るのが少し楽しみになってきた。
薫:果たして今回の様子は台本か・本心か。
花音:抱きしめたい。
美咲:実はこっそり主人公と連絡先を交換してます。