BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/09/11 瀬田薫劇場 -伍幕-

 

 

ピンポーン

 

 

 

「来たか……。」

 

 

 

初めてだった。瀬田がまともにアポイントメントを取ってきたのは。それも電話で直接、だ。

お陰でこうして、茶菓子や飲み物を準備したり部屋を掃除しておいたりできるって訳だ。…全部俺は何もしてないんだけどな。

 

 

 

「おーい〇〇っちー、これどこに仕舞おっか??」

 

「んぁ?…あぁ、それは机の上に上げといてくれー。…つか(瀬田)来たからその辺で良いやー。」

 

「そぉ?じゃあこのまま投げとこ。えーいっ。」

 

 

 

机の上にって言ったろうが…いやいいか。少し前に来て来客対応をしてくれているのが、例の今井リサだ。

相変わらず少々過度な露出の服に茶髪と、どう見ても"GAL"というワードが浮かんでしまうような見た目だこと…。

瀬田の依頼ということもあり初めて家に呼んだが、快く来てくれる良い子である。もうバイトの繋がりもないんだけどな。

 

 

 

「んじゃ、座って待ってるね~。」

 

「あいよ。」

 

 

 

っと、呼び鈴が鳴ってからしばらく経っちまったな。…ここまで待たせても突入してこないなんて、本当にどうしたって言うんだ瀬田は。

玄関まで行くと磨りガラス越しにスラっとした長身のシルエットが見える。下の方の広がりを見るに、またスカートを穿いているようだが…。

 

カララララ…

 

 

 

「あっ……こ、こんにちは、〇〇…。」

 

「…おう、上がんな。」

 

「あっ…う、うん。」

 

 

 

丁寧に靴を揃えヒタヒタと付いてくる足音を聞きながら、俺は内心プチパニック中。スカートを穿いているのも髪を下ろしているのも別にいい。…ところがどうした事か、今日はかなり濃い目のメイクをしているんだが…これがまた酷い。

まるで子供が白い壁を見つけて書き殴ったような、或いは芸術家気取りの馬鹿が適当に筆を振り回したような、要するになかなか()()()なメイクを施しているのだ。

…なんだ?ツッコミ待ちなのか??それともマジ?…これが真剣にやった結果だとしたら、もう二度と化粧なんかしないほうがいいと思う。お前はいつかのエウ〇カか。

 

 

 

「あっ、いらっしゃ…………」

 

 

 

何ともいえない雰囲気のまま自室に到着。いつも通りの明るく人懐っこい笑顔で出迎えようとした今井も言葉半分に固まっている。

口角が震えているのは笑いを堪えている表れか。

 

 

 

「まぁ、なんだ…座ってどうぞ。」

 

「う、うんっ。」

 

「今井、戻ってこい。」

 

「……ぅはっ!?……ちょ、ちょっと、タンマね!」

 

 

 

我に返るなり俺の腕を引き後ろを向かせる。そのまま耳元へ口を寄せてきて

 

 

 

「…あれが瀬田さん!?…歌舞伎…いや落書きみたいな人が来ちゃってるんですケド??」

 

「あぁ、俺も正直ビビった。いつもはあんな感じじゃなくて小憎たらしいイケメンって感じなんだけどなぁ…。」

 

「どどどどどどどーしよっ??」

 

「テンパるな。…いつもみたいに可愛らしく笑ってろ。」

 

「ッ……!」

 

 

 

所謂ひそひそ話ってやつだ。どうやら今井もファーストインプレッションでかなりやられたらしい。血色悪くなってるもん。

一先ずの急造作戦会議を終え、来訪者(侵略生命体)に向き直る。

 

 

 

「なぁ瀬田。お前いつもと雰囲気違うじゃん。…あと、一人なのか今日は。」

 

「ま、まあ…ね。今日は私一人…。」

 

「あっ↑…んん"っ……アタシ、今井リサっていうんだ~、よろしくね!」

 

 

 

緊張のあまり声が裏返っとる。咳払いで誤魔化したが、顔が真っ赤なのは誤魔化せないだろうな。

 

 

 

「あなたが……よっ、宜しくお願いしますっ…!」

 

「…うんうん、よろし……ぶふっ」

 

 

 

あーあ、吹き出しちゃったよ…。

 

 

 

「あはははははは!!ごめん〇〇っち、やっぱ無理!!」

 

「……しゃーないな。…瀬田。」

 

「えっ?えっ??」

 

「その顔はなんだ。化粧。」

 

「あっ…やっぱり変…かな。」

 

 

 

マジなほうだった!!……変わっているのは性格面だけじゃなかったって訳か。

お陰で折角の端整な顔がすっかりセブンスウェル状態に…。

 

 

 

「変…ていうかさ、瀬田さんは普段化粧しない人??」

 

「あ、いや、舞台に立つときはするんだけど……女の子っぽいメイクってどうしても分からなくて…。」

 

「女の子ぉ??」

 

「〇〇っち、そういう言い方はだめだよー。」

 

 

 

つい。瀬田の口から女の子っぽいとか聞けると思わなかったからさ…。

 

 

 

「すまん。…つーとアレか?…その、女の子っぽさ?を学びたくて今井と話したかったと?」

 

「うん…まぁそういう感じかな。」

 

 

 

それで今日はそんな格好なのか。

…まてよ?

 

 

 

「じゃあ、あの変な男装とか喋り方はやめるって事か??」

 

「…うーん、それはどうだろう。」

 

「……ぷふっ」

 

 

 

もう頼むから一旦化粧落としてくれ。今井が笑いを堪えようとして掴んでくる左の二の腕がそろそろ千切れそうなんだ。

 

 

 

「…?やっぱり、私に女の子っぽさとか、似合わないかな…。」

 

「いやそこじゃねえよ!!」

 

「!?」

 

 

 

ごめん、あまりに話が進まな過ぎて大声出しちまった。瀬田も今井もかなり驚かせてしまったみたいでほんとすまん。

 

 

 

「あ、えーっと。…い、今井!化粧とか諸々のレクチャー、頼めるか??」

 

「ん??…あ、勿論いーよー。んじゃ瀬田さん、連絡先交換しよっか。」

 

「あ、はい!…よ、宜しくお願いします。」

 

「あははは、そんなに固くならなくていーってば。それに敬語もなしね?下の名前は?」

 

「う……はい、じゃなかった、うん。ええと…」

 

 

 

おーおー、相変わらずコミュ力の化け物っぷりを前面に押し出してやがるぜ。

俺と初対面の時もあんな感じでぐいぐい来てたもんなぁ。

どうやら連絡先交換も終わったみたいだし、きっとこれから瀬田はメキメキ女子力を磨いていくことだろう。

素材はいいんだし、ちゃんと着飾ってメイクするだけで女の子らしくなると思うんだけどなぁ…。

 

 

 

「あっははは!!やっぱ駄目だ!一回化粧落とそ?ね?」

 

「…り、リサ…そんなに面白い??」

 

「うん!だって薫の顔…あはははははは!!」

 

「もー…笑い過ぎだって…」

 

 

 

ほんの少し目を離しただけなのにここまで仲良くなるとはね。

瀬田も無理してる感じはないし、波長が合ったりするんだろうか?

……リサに薫、ね…。

 

 

 

「そいえばさ、どうして薫は女の子らしくなりたいの?」

 

「えっ…あ……。〇〇…に、構ってほしくて…」

 

「はっはーん?…好きなんだ?」

 

「えっ!?…あいや、その…」

 

「ははっ!いーじゃんいーじゃん。リサさん応援しちゃうよ~??」

 

「…リサって、〇〇と付き合ってるとかじゃないの?」

 

「あははっ、ないない。」

 

 

 

ないない、か…。別に好きなわけじゃないが、あっけらかんと言われると少しハートに響くな…。

 

 

 

「そう、なんだ……。」

 

「うん!〇〇っちは、バイトが一緒だった時の付き合いでさー。

 話とか考え方とか似てるとこあるからよく一緒にはいるんだけどね~。」

 

「いっ…しょに…」

 

「薫は?〇〇っちと昔からの知り合いなんでしょ??付き合っちゃえば?」

 

「勘弁してくれ…」

 

 

 

今井はまだ()()瀬田を知らない。…知れば同じことは口にしないだろう…。

まぁ、今井が場を引っ掻き回すのはいつもの事だからいいとして、女子力やら何やらの相談相手としては適切な人選だったって訳だ。見ていて思う。

このまま、昔の瀬田みたいに女の子っぽくなってくれたらなぁ…。

 

 

 

「まっ、友達くらいの距離が一番いいって相手も居るよね。」

 

「…………リサ。」

 

「んー?」

 

「…私、すっごく可愛い女の子目指すね。」

 

「マジ??楽しみ~。」

 

「だから、色々教えてね。…色々。」

 

「おっけ~。化粧もヘアアレンジも、何なら〇〇っちのあんなことやこんなことまで!

 全部リサさんにお任せだよ~。」

 

 

 

や、余計なことは教えんで良い、というか…本当に勘弁してくれ。

 

 

 




可愛い薫くん…?




<今回の設定更新>

〇〇:リサに対しては気を許している模様。
   異性でこういう関係保てるのって少し羨ましい。

薫:前回の何が彼女を目覚めさせたのか。
  どうやら可愛らしさを磨くそうです。応援してあげましょう。

リサ:主人公を〇〇っちと呼ぶ。
   面倒見の良さがうまいことマッチした結果、薫とは仲良くなれた。
   主人公に対して特別な感情は…勿論持ってない。

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