BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/10/10 瀬田薫劇場 -漆幕-

 

 

 

「……○○、くん。」

 

 

 

木曜日の放課後。校門で待機していた今井を引き連れ、家に辿り着く。今日は何も予定もなかったし、特に追い返すようなこともなかった為にそのまま付いてきちまったんだが…。

家の玄関の前、すっかり見慣れてしまったワンピース姿で会釈を寄越してくる長身のイケメン…。

 

 

 

「あれ、薫じゃん!…なになに、今日はアポ無しで突撃しちゃったってわけ~??」

 

「あ、いや……うん。○○に、会いたくて。」

 

「………。」

 

 

 

あの日以来、まともに()と話せていない。何だか気恥ずかしい思いもあるが、俺自身どう接していいかわからなくなっているのだ。

最初うちに押しかけてきたときは何事かと思った。妙に格好つけた、中二臭くていけ好かないハンサムボーイ。…や、マジで最初は男かと思ったんだって。女の子侍らせちゃってさ。

そうしたらそいつが、「昔の同級生です」なんて言うんだもんな。…全く理解が追いつかなかったよ…。

 

 

 

「あ、○○っち?…回想入れてるところ悪いけど、あの子達ピッキング始めちゃったよ??」

 

「…は?」

 

 

 

あの子達?とは?…今井に袖を引っ張られ現実に戻ってきた俺は、薫が立っている場所――玄関先を見やる。…と

 

 

 

「ふ、ふえぇ…だめだよ美咲ちゃん、人様のおうちの鍵を…」

 

「いーんですよ、花音さん。所詮○○如きの家なんですから。」

 

「ふえぇぇ…」

 

 

 

美咲め…!久しぶりに見かけたと思ったら謎理論でウチを侵食しようとしてやがる…。そして松原、お前は鳴いてないで止めろ。

隣の今井はケラケラ笑いながら呑気に動画なんぞ撮ってやがるし…。「ウケる~」じゃねえよ。

 

 

 

「やいこら美咲!仮にも実家だぞ!!」

 

「……?」

 

「何が悪いんですか?みたいな顔してんじゃねえよ。第一、ピッキングなんてどこで身につけた。」

 

「バイトで。」

 

「辞めちまえそんなバイト。」

 

 

 

何のバイトだ。

鍵穴を壊されるわけにもいかないので、そっとピッキング道具を取り上げ自分の鍵で開ける。

 

 

 

「ほら、入るなら入れよ。」

 

「うわーい、ただいまぁ!」

 

「……美咲って、あんな奴だったか。」

 

「うーん……ただ燥いでるだけなのかも?」

 

「マジで言ってんのか、松原。」

 

「ふ、ふえぇ…わからないよぅ…」

 

「………お前はかわいいなぁ!」

 

 

 

なんかもう何してても可愛いなこの子は。おっといけない、可愛さに浸るのもいいが、燥いで入っていった美咲が心配だ。何されるかわかったもんじゃねえ。

松原を中に進ませ、後ろですっかり傍観者となっている二人にも視線を向ける。

 

 

 

「なぁに?…アタシらにも入って欲しいの??」

 

「……じゃあ今井だけ帰れ。」

 

「えー??つーめーたーいー。」

 

「かお……瀬田。お前はどうするんだ?上がるのか?」

 

「あ……う、うん。いい、かな。」

 

「あぁ?その為に来たんだろうが。今更遠慮すんな。」

 

 

 

危ねえ。また例の名前で呼びそうになったぞ…。あの時のことを瀬田が覚えているかどうかは分からんが、うっかり呼んでしまったとしたら……恥ずかしいことこの上ないな。

背中を丸め、まるで申し訳ない事でもしているかのように玄関へ入っていく瀬田を見送りつつ、またこれから起こるであろうひと騒ぎに向けて呼吸を整える。…と、

 

 

 

「○○っち。」

 

「んぁ?…結局入らねえのか?お前は。」

 

「……ねえ○○っち。…そろそろ、気づいてあげようよ。」

 

「…あぁ?何に。」

 

「はぁぁ…。○○っち、鈍感すぎるのもどうかと思うよ?…そのままじゃ、本当に嫌われちゃうし、徒に傷つけるだけだって。」

 

「…言いたいことがあるならはっきり言えよ。」

 

「もう、わかってるんでしょ。」

 

 

 

何も、言い返せねえ。言い返せない、けど。

 

 

 

「そんなのお前には…関係ないだろ。」

 

「あるよ。アタシがどうして薫の手伝いをしてるか…まさか○○っち自身が忘れたわけじゃないでしょ?」

 

「アイツが、より女らしくなるためだろ。」

 

「…それは、どうして?」

 

「………。」

 

 

 

わかってるけどさ。でも、なんか認めたくねえんだ。だってあいつは俺にとって…

 

 

 

「……別に無理強いするつもりはないけどさ。アタシは少し嬉しかったんだよね。薫が、あんなに喜んでいるところを見られてさ。

 …呼び方一つでって思ってるかもしれないけど、女の子にはその一つ一つが思い出で、大事なことなんだよ。」

 

「……るせえ。」

 

「はぁぁ……。これは、○○っちの方も、お姉さんが面倒見なきゃいけないかな??」

 

「マジ何なんだお前。……なんでそこまで他人なんかのために…。」

 

「へっへーん。女の子ってのは、美味しいスイーツと甘い恋バナが好きな生き物なのさ~。」

 

 

 

相変わらずムカつく奴だ。けど、それでいて相変わらず憎めない奴だ。

ただこいつと、きっと瀬田も求めてるのは、俺にとって苦手で無縁な恋だの愛だのってやつなんだろう。…ホントに、厄介な問題なんだがな。

 

 

 

「……今井。…いや、リサ。」

 

「ッ。な、なによぅ。」

 

「見とけよ。呼び名の一つくらい、俺にかかれば屁でもねえよ。」

 

「……ふぅん?それはそれは、楽しみだにゃぁ…。」

 

 

 

靴を並べたところで心配そうにこちらを伺っている瀬田。目が合っても相変わらず申し訳なさそうな、何かを期待するような目をする瀬田を……後ろから攻める!

 

 

 

「かっ↑」

 

「……か?」

 

「かっ、かかかかかかかかか…、かお、る。」

 

「ッ!!!」

 

 

 

あぁダメだ。やっぱりこういうのは、苦手だ…。

 

 

 

**

 

 

 

「どうでもいいけど、下の名前で呼ぶのは薫だけにしなよ?」

 

「なんでだよ、リサ。」

 

「っ。……慣れないなぁ。……どうして薫を名前で呼ぶことにしたのか忘れたの?」

 

「…昔馴染みだからだろ?リサは不思議と緊張しないで呼べるから、ガンガン行くぞ。いいな、リサ。」

 

「………嫌われてもしらないからね…。」

 

 

 

???

 

 

 




関係性、進むようで進まず。




<今回の設定更新>

○○:なんだかもうなんなんだこいつ。
   そういった感情は相変わらず欠落しているようで、薫のこともよくわからない状態。
   リサに対して何も思っていないのは確か。

薫:嬉しい時の笑顔よ…。表情一つ一つに女の子らしさが滲み出てきた。
  花音と美咲は、最早止められない。

リサ:お節介姉さん。こういう子、いいよね。
   主人公に対して……??

美咲:どんどん自由人化中。燥ぐ理由は一体…?

花音:ふえぇ。

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