BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「あたしさ、〇〇のこと嫌いじゃないよ。」
「あ?……つかお前何処から入った。」
外での用事終わり、誰とも絡む事無く部屋まで来たが…先程机に鞄を放り投げるまでは人の気配などしなかったはずだ。
お前は何処から現れたんだ、奥沢美咲。
「ふふふ、そんなのはどーでもいいでしょ。」
「いいわけあるか、帰れ。」
「…あたしが態々遊びに来たんだよ?嬉しくない?」
今日は無性にご機嫌だなと若干の恐怖を覚えつつ無駄にニコニコしている侵略者を観察する。…今日は何のアポも受けていないし、特にこいつとは薫抜きで会う機会なぞ無かった筈だ。
アポイントメントに関しては若干諦めている部分はあるが、だとしてもこの謎ムーブは何なんだろうか。
「…今日は薫は?お前ひとり?」
「えぇ?そんなに薫さんに会いたいの?」
「お前と二人は落ち着かねえだけだわ。」
二人きりで何話せってんだ。接点の一つもねえのに。
「…ふーん?…それって、意識しちゃって…ってこと?」
「意識?…そりゃするだろ。」
プライベートな空間に異物が混ざっているんだぞ。しかもその異物はちょっかいまでかけてくる。
意識するなって方が難しい。
「そ…っか。意識、しちゃうんだ。」
「そうだよ、だから帰れ。邪魔だ。」
「〇〇ってさ、ラノベとかの主人公みたいだよね。」
「知らん、読んだことねえし。」
「……鈍感ってこと。」
「だいぶ敏感だぜ?…この時期、セーターなんて着ようもんなら体じゅう痒くってよぉ…」
あの繊維感というかざらつきと言うか、独特のモサモサ感が俺の敏感な柔肌ちゃんを傷つけるのだ。それもあってか、俺は秋という季節が大嫌いなんだ。
その気持ちを読み取ってか取らずしてか、はぁと深い溜息を一つつく美咲。
「誰も敏感肌の話なんかしてないっつの…。ほんと、そういうとこだかんね?」
「全く言っている意味が…」
直後、くぐもった様な電子音が聞こえだす。発信源はどうやら先程放った俺の鞄の中らしい。
恐らく連絡事項を発信しているであろう相手を待たせるのも悪いので、腕組みに仁王立ちと何やら不機嫌そうな美咲を尻目に鞄を漁る。
「………ん、おっ!?」
表示されている名前を見てテンションが跳ね上がる。なるべくポーカーフェイスを貫き通して通話を承認。
「もしっ…もしもし?どうした?」
『ふ、ふえぇ……〇〇くん、おうち入ってもいーい…?』
「お、おう!全然、入ってきちゃっていいぞー!?」
『ぁ…ありがとう…!いま、入るねぇ?』
「おっけい。」
僅かな会話だったが、それはとても胸躍るものだった。松原…じゃない、花音と呼ぶことにしたんだっけ。花音がうちに来るとは、何という僥倖。
すっかり存在を忘れそうになっていた美咲を見やると、物凄く険しい顔で親指の爪を歯噛んでいた。さっきまでの上機嫌はどこ行ったんだ…?
「どうした美咲。」
「花音さん…来るって?」
「おう、まあな。だから帰っていいぞ。」
「チッ……上手く撒いたと思ってたのに…。」
「えっ…?」
何やら一悶着起きそうな事を呟いた気がしたが、それについて言及する前に部屋の扉が開かれた。
「おっ!!」
「お、お邪魔します…。」
ちらと顔を覗かせるようにして部屋の中に俺を探す花音。目が合うとはにかんで下を向かれなすった……あぁ、尊い。
「…んじゃ、あたしは帰るね〇〇。」
「お?おう。気を付けて帰れよ。」
「うん。ありがとう〇〇、愛してる。」
「あぁ?」
颯爽と、やや早歩き気味で部屋を後にする美咲。去り際にも謎の発言を残していったが…あいつは本当に何がしたいんだ。
まぁそんなことはどうでもいい。部屋の入り口で待たせてしまっている花音を部屋に招き入れる。
「…やー、ごめんな汚い部屋でー!……って、薫も居たのか。」
「ごめんね…急に来ちゃって。」
「別にいいさ、友達だろ。」
「…えへへ。」
そうか、よく花音一人で辿り着いたと思えば薫が付き添って居たのか。こいつ、一人だと何としてでも迷宮入りしちまうような奴だもんなぁ。
その点このノッポが付いてりゃ安心か。
瀬田薫。最近すっかり可愛らしくなっちまって、あの妙ちくりんなキザキャラもすっかり封じ込められたようだ。うむうむ、今日も膝上丈の妙にスリットが気になるスカートに生足と、実に視線を吸いつけるような恰好で…
「…〇〇くん…?どしたの?」
「あ、あぁいや、…ええと……ち、茶でも持ってくるから適当に寛いでてくれ。」
「あ、それなら私も手伝う。」
「おっ、そか?…んじゃ、花音は部屋で……うーん。」
いかんいかん、自分のスケベ心に気付いた途端しどろもどろになっちまった…。
何はともあれ一応客人だし持て成してやろうか…と部屋を出たのだが、付いてきた薫に手伝わせると花音が一人で部屋に残ってしまう。いくら花音とはいえ密室で迷子にはならないと思うが…。
「…皆で近くのコンビニ行かね?」
「……ごめんねぇ、気遣わせちゃってぇ…。」
「ふふ、大丈夫さ、花音……あっ花音、ちゃん。」
「そうそう、それぞれ好きなもん買えるしいいんだよ。」
「ふぇぇ…ありがとぅ…。」
申し訳なさそうについてくる花音と無駄に視線を投げてくる薫。二人を引き連れ、すっかり冷えてきた十一月の風の中を歩きつつ、薫について気付いてしまったことを訊いてみる。
「あのさ、薫。」
「ん?なあに?」
「さっき気付いたんだけど…」
「…?」
「俺とリサに対しては、元の態度で接してるだろ?」
「う、うん。」
先程の会話で気付き、気になって仕方がない事。
「他の奴に対してはさ、あのキザったらしい"瀬田"でやってんの?」
確かにさっき、花音に対して例のキャラが浮上しているのを見た。…語尾で慌てて修正していたせいで、何だかおかしな中間人格になってはいたが。
別段直さなきゃいけないような物じゃないが、使い分けると混乱するし見ていてもしっくりこない。
「やっぱり変……かな。」
「んー……どう思う、花音。」
「ふぇっ?わ、わたし??」
「まぁ花音に取ってはあのキャラが普通なんだろうけどさ。どうしたもんかね。」
「ええとぉ…。」
考え出したところで目的のコンビニについてしまった。暖かい店内に足を踏み入れると、何だか懐かしい気分になった。
「いらっしゃ…ありゃ、〇〇っち。」
「おう、今日も真面目に働いてんな??結構結構。」
「はははっ、何様ー?」
出迎えたのは且つての同僚であるリサと、恐らく初めましてであろう銀髪の少女。歳は同じくらいだろうか、リサの陰に隠れてあまり見えないが。
「…にしても随分なハーレムで来たねぇ~。」
「だろ?…妬くなよ。」
「ははっ、冗談キツ過ぎぃー。」
「混ぜてやらんし、花音はやらんぞ?」
「ふぇっ!?」
「もー、相変わらずケチだなぁ~。」
これだけレジ前でお喋りしていられることからも分かる通り、この寂れたコンビニは恐ろしいほどの閑古鳥だ。
俺が働いていたときだって、十二時間の勤務の内客の対応をしたのは二、三回…なんてザラにあったしな。
連れの二人を店内に放し暇そうなリサと駄弁っていると、隣の銀髪ちゃんが口を開いた。
「…リサさんの彼氏さんですかぁ?」
一体どこを見てそう思ってしまったんだろうか。誤解され続けるのも面倒なので、早めに否定しておこう。
「いや、ちが」
「んっふふ~、どう思う??」
俺の否定を遮る様に、謎質問を吹っ掛けるリサ。
銀髪ちゃんは大まじめに考えだしちまうし…つかあいつらいつ迄商品選んでんだ。
「…おい、リサ…。」
「ッ!…な、なによぅ。」
「どうしてそう掻き回すんだ…。」
「別にいいじゃんさー。…ってゆーか、名前呼び慣れないんだけど。」
それでさっき妙な反応してたのか。
「いい加減慣れろよ…短い付き合いじゃないんだし…。」
「わかりましたぁー。」
「おっ、どっちに見えた??」
「えっとぉー、モカちゃん的にはぁー…付き合っているように見えましたぁー。」
「え、えー?ほんとー?」
このままだと本気でリサの彼氏にされ兼ねない。一刻も早くこの茶番を終わらせてこの店を出……
「…ん。」
後ろから服の裾を引っ張られる感覚。凡そ花音辺りが話しかけられずに駆けてきたアクションだとは思うが…と振り返ってみる。
「…どした薫。」
振り返った先には、予想とは違った人物が立っていた。…目に一杯涙を溜めて。
「……リサと付き合ってるの…?」
「へ?」
「…やっぱり、…女の子っぽい子の方が…いいんだよね…。うぇ…」
「……お前、何で泣いてんの?お腹痛いんか?」
ごすっ。率直な質問をぶつけただけなのに、後ろからレジのアレを投げつけられた。あの、紅いレーザーを放ってバーコードを"Pi"するやつ。
…もっとバーコードっぽい奴にやれよ。
「いってぇ…。」
「ちょっと〇〇っち!泣かしてどーすんの!!」
「俺のせいじゃ無くね…?」
「だとしたらアホみたいな質問してないで、早く弁解なり慰めるなり…」
「何でお前必死なの?」
「〇〇っちがダメダメだからでしょ!!」
「えぇ…?」
しゃがみ込んでボロボロと涙をこぼす薫に、レジを飛び出しハンカチを持って駆け寄るリサ。
二つ目のカゴにこれでもかと菓子をぶち込んでいる花音もさすがの騒ぎに近付いてくる。後ろではさっきの銀髪の子…モカって言ってたか?その子が、例の飛び道具で俺の後頭部をスキャンしようと擦り付けてくるし。
…うん、カオスだ。今日ほどここの寂れっぷりに感謝したことはないだろう。
「だめだめですなぁー。」
「君まで言うんかね…ええと、モカ?」
「はぁいモカちゃんでーす。」
「俺、そんなにダメダメ?」
「うーん…。読み取れないですなぁー。」
そらそうよ。どこぞのヒットマンじゃあるまいし、後頭部でバーコードがスキャンできて堪るか。
「リサさんとは付き合ってるのー?」
「無い無い…昔俺もここでバイトしてただけだよ。」
「なーるー。」
しかし、目の前で起きている騒動の恐らく主要人物であろう俺が蚊帳の外状態って…ちょっと面白いな。中々にシュールだ。
だがまあ、モカちゃんもかなり整った見た目をしておられるし、これもまた眼福と言うことで…堪能させてもらおう。
「ぬー?…モカちゃんの顔に何かついてますかぁー?」
「ん、綺麗な目と控えめな鼻と可愛いお口が付いてんぞ。」
「あははぁー。…くっそつまんねぇー。」
「表情変わんねえな君…。」
どうやら渾身の口説き文句は滑ってしまったらしい。
これ、いつ帰れるんだろう。
「しかし、モテモテですなぁー。」
「別にモテはしねえさ。知り合いが女ばっかなだけだ。」
「ハーレムじゃないですかぁーやだー。」
「望んじゃいないんだよなぁ…。」
「ちょっと!〇〇っちが慰めてあげる場面でしょここは!!」
二人でほのぼのしているとリサが詰め寄ってきて怒られる。俺未だに何が悪いのか分かってないんだけど、何て声かけてやればいいんだ?
「応援してますぜぇー。」
「気の利いた事、言ってあげなよ??」
「えー…。」
仕方なくしゃがみ込む薫の前に、目線を合わせるようにしゃがみ込む。後ろでは花音があわあわと落ち着きなく待機しているが、その状況でもお菓子のカゴは離さないんだね。
「あー…その、なんだ…薫。」
「うぅ…ひっく、ひっく……なぁに、〇〇くん。」
「その、…そんな短いスカートでしゃがみ込むとな?…モロ見えだ、ゾッ!?」
ごすっ、がすっ。
またレジのアレと、追加でカゴまでもが後頭部に浴びせられる。あぁ、これはぜってぇリサだ。
「いってぇな!」
「〇〇っち、それ以上救いよう無くなったらもう知らないかんね?」
「見えんだもんよ!何かエロい形の…ぶっ!?」
またカゴ。
「こりゃ手遅れですなぁー。」
こっちのセリフだ。
…結局その後も皆して薫をあやし、漸く家に着いた時には夜の九時を回っていたのでその場で解散。
ただ皆でコンビニに行くだけの日となってしまった…。
「…俺はどうするのが正解なんだろうな。」
やたらと周りで問題行動を取る女子達…に思わず独り言ちた言葉は、澄み渡る程静かな寒空にすっと溶けて行った気がした。
いつもとは何かが違う。
少年が悩む回。
<今回の設定更新>
〇〇:自分が置かれている沼のような状況に気付いた模様。
時すでに遅し、八方塞がりである。
薫:リサを危険視しだした模様。
だいぶ素の状態が自然になってきたか…?
美咲:狙いは一体…?
何かと謎な行動が多い彼女だが、主人公の事は嫌いじゃないみたい。
花音:ふぇぇ。
リサ:心境に変化が…?
応援しつつ、自分も頑張りつつと、板挟みは辛いですなぁ。
モカ:かわいい。