BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/12/14 瀬田薫劇場 -玖幕-

 

 

 

「……余計おかしくなっちゃってるんじゃないの。」

 

「…うるせぇ。」

 

 

 

久しくリラックスした時を過ごしていた俺達だったが、目の前の金髪…詐欺師のチサトこと白鷺千聖の何気ない一言により、優雅なリラックスタイムは完膚なきまでにぶちのめされた。

 

 

 

『最近薫が大人しくなって物足りないのよね。…ね、以前までの薫はもう出ないの?』

 

 

 

お陰で目の前は酷く滑稽なことに。

 

 

 

「ワハハハハハ!レディース&ジェントルメーン!世界の瀬田薫くんだよぉ!!」

 

 

 

つまりは、あの演技がかった"瀬田薫"を忘れてしまっているのだ。…まぁあれ程必死になって元に戻したんだし、無理もないっちゃぁないが…。

 

 

 

「チサト、どうしてくれんだこれ。」

 

「知らないわよ。なんとかしなさい。」

 

「他人事だと思いやがって……おい薫、もう普通にしていいぞ。」

 

「普通?普通とは何だね?私にとっての普通とはありのままの瀬田薫であり、君達にとっての瀬田薫は普通ではないと?…ハハッ!こりゃたまげたねぇ!!」

 

 

 

誰やねんお前。

折角あの昔みたいな可愛げのある薫に慣れてきた…いやもういっそ好きになりかけてたのにこれだもんな。戻るんなら戻りやがれってんだ。

チサトも言い出しっぺの癖にドン引きだし、どう収拾を付けたもんか。

 

 

 

「それにしても汚いねぇこの部屋はぁ!…まるで、そう、数日放っておいた金鍋の隅にこびり付いた頑固汚れの様だ!」

 

「言い過ぎだぞお前。」

 

「言葉のチョイスも薫らしくない…これは、由々しき問題ね。」

 

「冷静に分析してないで何とかしろやコラ。」

 

「五月蠅い。」

 

「ハハハハハハ!!仲良しだねぇキミたちは!!フォーリンラブしちゃってるのかなぁ!?」

 

 

 

あぁもう面倒臭い。タチの悪い酔っぱらいを相手にしている気分だ。…そうか、ノリがおっさん臭いのか。

実は、話していて頭の中に浮かんだ一つの案はある。それはある意味決戦兵器。卑怯と言えば卑怯だし、大事な友人の気持ちをわざと傷付けてしまう行為だとも取れる為使いたくは無いんだが。

チサトはチサトで宛てにならないし、かましてみるしかないか。

 

 

 

「薫。」

 

「なんだい!?」

 

「…悪いけど、今のお前すげぇ嫌いだわ。顔も見たくねぇ。」

 

「なっ………。」

 

 

 

敢えて酷い言葉を選んでみたが…どうだ?

因みに、罪悪感に耐え切れずに薫から視線を切っているが、代わりに目が合っているチサトはものすごい勢いで頷いている。ボブルヘッドかお前は。

少しの沈黙の間…胃が痛くなりそうな時の末に、チラリと薫の顔を見ると…

 

 

 

「………///」

 

 

 

言葉こそ発さないが、何故かうっとりとした目でこちらを見詰めている。イミガワカラナイヨ。

 

 

 

「か、薫…?」

 

「…うぅん……。今の低めの、不機嫌そうな声!…渋い響きがたまらないねぇ…!!」

 

 

 

言葉は届いていなかったようだ。

隣で「ズベシャァァアアアア」と凄い音を立てながら、チサトが盛大にズッコケていた。背中見えてるぞ。

 

 

 

「お前、嫌いとか言われてショックじゃねえの?」

 

「え?…ふふ、私にはわかるのさ。〇〇、君は本気でソレを言った訳じゃぁないねぇ!!」

 

「う……くそ、途中までは良い雰囲気だったのに。」

 

「ちょっと、惨敗じゃないの○○。」

 

 

 

何もせずにリアクションだけとってた奴は黙ってろ。…と言うのも後が怖いので、軽く睨みつけるだけにしておいた。

 

 

 

「お前もなんかやれ。」

 

「雑っ。嫌な上司のフリじゃないんだから……。」

 

 

 

文句を言いながらでも行動を起こすのは良いところだと思うぞ、チサト。

立ち上がり服装を軽く整えたかと思うと、ゆっくりとした足取りで薫へと近づいていく。未だケラケラと阿呆のように笑い続ける薫の耳元へ顔を近づけると、ボソボソと何か囁いた。…直後。

 

 

 

「!?…なっ、ち、千聖!?何を言って…!!」

 

 

 

ビクリと体を震わせた後、目を見開いて汗をダラダラ…あの美少女悪魔め、何を言いやがったんだ?

その様子を確認してか、軽い足取りで戻ってくるチサトは何とも愛らしい笑顔を浮かべている。どうでもいいが、正面でおかしくなっている薫サイドとこちらで作戦を練りながら傍観している俺・チサトサイドに完璧に線引きされているのが少し笑える。

 

 

 

「…なぁ、何を耳元でかましたんだよ。」

 

「ふふっ、乙女の秘密よ。」

 

「乙女って柄じゃねえだ……うっ!?」

 

 

 

激痛に下を向くと、左足の爪先にチサトの可愛い踵を落とされていた。折れるぞマジで。

 

 

 

「ぐぅぅぅうう……。」

 

「何か言ったかしら?」

 

 

 

思わずしゃがみ込んでしまったが、見上げてもそこに居るのは相変わらず笑顔のチサト。…変わってねえなホントに。

とは言え、薫にはさっきの一撃がだいぶ効いたようで。すっかり青白くなった顔色を隠すことも無く呆然と立ち尽くしている。目はどこか遠くをぼんやり見つめているし、別の意味でおかしくなっちまったんじゃねえだろうな。

 

 

 

「…っつぅぅぅ……ふぅ。」

 

「立てる?」

 

「お前のせいでこうなってんだからな…。」

 

「クリティカル、って感じかしら?」

 

「死ね。」

 

「あ?」

 

「………薫、おい薫。」

 

 

 

平仮名一文字にあれだけ威圧を込められる女はそう居ないだろう。本能的に恐怖を感じた俺は、未だ微動だにしない紫髪のイケメンの魂を現世に呼び戻す作業にシフトする。

然程大きくない声で呼んだのだがしっかりと届いたようで、ハッとしたようにこちらを見る薫。依然顔色は優れないままだが、ぎこちなく笑って答える薫。

 

 

 

「やぁ、〇〇。……一体今は何時かな?」

 

「えっ?あっ、……二十時…半くらい。」

 

「ふむ…となると、一時間くらいか。」

 

「…何が?」

 

 

 

気色悪い…とも思ったが、考えてみりゃ最初の頃押しかけてきた薫はこんな感じだった。ある意味で懐かしくもあるが…やはり嫌だなこの薫は。

一方、隣のチサトは満足げな表情だ。こっちの方が好きなんだろうか。

 

 

 

「実はだね…ここを訪れて、千聖や○○と話している途中からの記憶が無いんだ。その時間が、大体一時間くらいなのさ。」

 

「へぇ…。」

 

「その間、何か覚えていることはないかしら?」

 

「そうだね…一瞬昔の懐かしい記憶が蘇ったような感覚はあったかな。幼い頃の格好つけがちな○○と、よく泣いていた千聖。」

 

「よせやい。」

 

「……そんなに泣き虫だったかしら。」

 

 

 

恐らくその空白の時間はトリップしていた為だとは思うが、思い出したという古い記憶は何なんだ?チサトがよく泣いていたといえば小学生の頃…あたりのだとは思うが。

チサトにとってもそれは予想外の結果らしく、恥ずかしそうに髪をいじいじしている。

 

 

 

「あぁそうだ。確かあの頃、千聖とは芝居の道について語り合ったこともあったね…。どうして今まで忘れていたんだろうか。」

 

「懐かしい話ね。…私は忘れたことは無かったけれども。」

 

「はは、千聖は手厳しいね…。でも、もう大丈夫。ちゃんと思い出したよ。」

 

「そう、もう忘れないでね。」

 

 

 

なんだろう、この疎外感。俺の家、俺の部屋なのに物凄くアウェイだ。

薫がおかしくなくなった…まぁおかしいっちゃおかしいんだけど、それはいいとして、この二人だけ分かり合えてる感は何なんだ。俺もその頃いたよね?仲良しだったよね?あれ?

 

 

 

「……ちょっと、○○、泣いてるの?」

 

「…え"?」

 

「おや、本当だ。…どうしたんだい、何か辛い事でも…」

 

「な、泣いてなんか…」

 

 

 

言われて気付いたが視界が歪みに歪みまくっている。これは果たしてどういう感情から来た涙なのだろうか。

薫が戻ってきてくれて嬉しい涙なのか、仲間はずれが辛過ぎての悔し涙なのか……それとも…。

 

 

 

「そんなに仲間外れが嫌だったの?」

 

「………わかんねえけど、何かずりぃよお前ら。」

 

「だってあの頃の○○って……ねぇ?」

 

「そうだね。兎に角やんちゃなガキ大将って印象だったよ…ふふ。」

 

「…そう、かも知れねえけど…。」

 

 

 

わかった。二人を見てて気づいちまったんだ。

 

 

 

「でも大丈夫、昔から○○はずっと○○。私達にとって掛け替えの無い友人だよ。…ね?千聖。」

 

「そうね。まさか泣いちゃうとは思わなかったけれど…。可愛い所もあるのね。」

 

 

 

昔も今も、こいつらは俺よりも大人なんだってことに。その差を感じて、自分の気持ちをどこにもぶつけられなくなった挙句涙として流れたのだ。

自分がまだまだガキであると実感した直後の俺にとって、その二人が掛けてくれる嬉しい言葉ですら追い撃ちの言葉に感じられてしまう。そんな部分も己が未熟であることの証拠でしかないんだが、今は只、悔しくて辛くて…。

 

気付けば、薫が以前の状態に戻っていることも忘れて、感情のままに二人を追い出していた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと○○、お客様にその仕打ちはないんじゃないの??」

 

「そうだよ○○、幾ら私が魅力的だからって、そんなに強く押されると参ってしまうな。」

 

「うるせぇ…うっせぇんだお前ら!いいから出て行け!!」

 

「…何よ急に怒って、意味わからない。そういうところはずっと子供なんだから…」

 

 

 

こういう時って本当にどうかしているよな。冷静な時であればチサトがよく俺を小馬鹿にしたように言う煽りだって気付けるはずなのに。

"子供"というキーワードにのみフォーカスしてしまって、昂る感情が抑えられなくなる。引っ込みがつかないともいうが、その流れに任せて俺は二人を追放した。

…つまりは、まんま子供の様に逃げたのだ。

 

 

 

「二度と面見せんな…お前らはお前らで大人同士で仲良くやってりゃいいだろ!!」

 

「そんな、私は…」

 

バァン!!

 

 

 

ドアが閉まる直前に聴こえた薫の声は()()()()薫だっただろうか。

力任せに閉めた扉の向こうから聞こえる優しげな声も、一人自分の内に閉じ籠る俺には聞こえていなかった。

 

 

 

「私はまた来るから。」

「○○くんがどんなに拒んでも、私は○○くんに尽くすから。」

 

「…私もよ。」

「尽くす気は無いけれど、あなたは私達が出逢うに欠かせなかった人だもの。」

「頭が冷えた頃にまた来るわ。」

 

 

 

…うるせえ、俺なんか放っとけばいいだろ。

 

 

 




主人公が荒れるのは波乱の予感です。
この日イベ対象の二人を引いた時の気持ちをオーバーに書いたらよく分からなくなりました。




<今回の設定更新>

○○:おいおいどうした。
   でも時折あるよね、誰かと比較して自分が物凄く子供に思える時。
   それの最悪なパターンがこれです。
   はてさてここに漬け込む輩の影が見えますなぁ。

薫:戻っちゃった★

千聖:優しいんだか腹黒いんだからわからん人。
   多分根はまともなだけに賢さが恐ろしい。

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