BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/15 瀬田薫劇場 -幕間-

 

コンコンコンコンッ

 

 

 

ぼんやりとした引き籠りの意識の中で激しいノックの音を聞く。俺の部屋には鍵なぞ着いちゃいないのに、それでも尚ノックを続けるのは俺への配慮かはたまたある程度良識を持った人間なのか。

何にせよ、誰もここに用はない筈だし、親でさえ異様な雰囲気に近付こうともしない。…あぁ、そういえばこの前一度チサトが来たっけ。追い返したけど。

 

 

 

コンコンコンコンコンコンコンココンコンッココココンココンッ

 

 

「………。」

 

 

 

時折リズムを変えてノリノリのビートを刻みだす木製のドア。何がしたいんだ。

暫く無視を決め込んでみたが一向に鳴りやむ気配が無い為、痺れを切らしてドアの前に立つ。…少し前に倒れ込むだけで顔が付くほどの距離にまでそれは迫っているというのに、いざ鈍色のノブを回して開ける、その行為が酷く恐ろしいものであるかのように感じた。

嫌な汗が噴き出してくる。ノブへ手を伸ばし、触れそうになったところで思いとどまる…を繰り返し、自分の動悸が嫌に激しく聞こえる時間を過ごした。

 

 

 

コココンコン………コッコココココンッコッコココココンッ!

 

 

「!?」

 

 

 

早く開けろと言わんばかりに激しさを増すノック。一体どんな気持ちで叩いているんだろうか。

余計恐ろしくなったそのドアの異様な雰囲気に、思わず一歩後ずさる。…と、そんな俺の様子を察知したのかノックが止む。

シンと静まり返った部屋に、俺の生唾を飲み込む音だけが響き……ドアの向こうでも何やらガサゴソと動く音が聞こえる。何処の誰かは知らんが、ここまで来たら最後まで見届けてやろう…不思議とそう思った。

 

 

 

コン…………………コン…………

 

 

 

始まった――ッ!

静かに、けれども確かに再び動き出したそれは、新たな小節の始まりを――

 

 

 

コココンッ、コココンッ、コココンッ、コンッ!

 

「よいしょっ!」

 

 

「!?」

 

 

コココンッ、コココンッ、コココンッ、コンッ!

 

「もいちょっ!」

 

 

「!!」

 

 

コココンッ、コココンッ、コココンッ、コンッ!

 

「はぁっ!!」

 

 

「いや何故三本締めだっ!」

 

 

 

我慢できなかった。無駄に楽しそうに掛け声を上げる様子も、若干リズム感の悪さが滲み出たようなむず痒いノックのリズムも、想起させるのは小さな子供の姿だった…が。

思わず開けてしまったドアの前に立っていたのは見知らぬ少女。綺麗で艶のある金髪は足元に届くほど長いのに前髪はバラつきのある変な切り方だし、このクソ寒い時期にノースリーブの真っ黒なワンピースに裸足で、こちらを見上げる姿は満面の笑み。身長と顔つきからして小学生…高学年くらいだろうか。

 

 

 

「天岩戸作戦大成功ねっ!!」

 

「……誰だ?」

 

 

 

誰だ、こいつ。

 

 

 

**

 

 

 

程なくして、その謎の少女に呼ばれるようにして部屋に招き入れられる見知った顔。キャップを脱いでパタパタと仰ぐのはかつて頻繁に出没していた美咲だ。

この「またお前か」感よ。

 

 

 

「説明してもらおうか?」

 

「久々に会ったのにいきなりそれ?もちょっとあるでしょうよ。」

 

「そっちこそ、いきなり押しかけた理由を聞かせてもらいたいもんだが?」

 

 

 

さっきから「さくせんだいせいこう」を誇らしげに自慢していたちびっ子だったが、今は美咲の薦めもあって部屋の中を見て回っている。「すげー」だの「ほほぉ!」だの、感心するのはいいがあまりあちこち見ないでほしい。その、ちびっ子に刺激の強いものも無い訳じゃないからだ。

 

 

 

「いやぁ薫さんがね?珍しく落ち込んじゃってて…あたしらもどうしていいか分かんなかったわけ。」

 

「あたし()ってなんだよ。仲良しグループか何かか。」

 

「?…あれ、もしかしてあたしらの事知らないで接してたの?」

 

「あぁ?」

 

 

 

薫と愉快な仲間たち、じゃなかったのか。美咲の言い方だと「知ってて当然」のような事実がそこにあるようだが…当然俺にはなんのこっちゃわからん。

どんな言葉が出てくるのかと美咲の顔を見詰めて待つ…と、ボッ!と顔が紅に染まった。

 

 

 

「ちょっ、ちょっとたんま!ストップ!あんま見ないで!」

 

「何で。」

 

「ひっ、久しぶりに顔見たから、なんか恥ずかしいの。」

 

「お前のその毎回キャラが違う感じ、嫌いじゃねえぜ。」

 

「ひゃうっ!も、もう……で、話戻すけど。」

 

 

 

人の顔の色もまともに視認できなくなったのかと勘違いするほどの切り替えの早さで真面目に戻る美咲。こいつもどこまでが本当の美咲なのかまるで掴めやしねえんだよな。

 

 

 

「あたし達、Hello,HappyWorld!っていうバンド組んでるんだけどさ。」

 

「バンド……何だ、それに薫が絡んでんのか?」

 

「そゆこと。…薫さんはウチのギターなんだよね。もうすんごい格好良くて、女の子達なんかキャーキャーいってんの。」

 

「お前も女の子だろ。」

 

「あたしは○○一筋だから。」

 

「あそ。」

 

「うん。それでね、薫さんがここのところすっかりしょんぼりモードだからさ…ウチのボスが、何とかして来いって。」

 

「ボス?」

 

 

 

マネージャーか運営企業の話だろうか?どこかと提携でもしているなら、より選択肢は広がるが…ともかく"ボス"という響きはあまりにも物々しすぎるし、そのレベルにまで響く話なのか甚だ疑問ではある。

俺の険しい顔を見てか、茶化す様にヘラッと笑う美咲。

 

 

 

「コーヒーのことじゃないからねぇ。」

 

「わかってらぁ。…んで、そのボスとやらはどういう…」

 

「まぁボスって言ってもウチのボーカル担当の子でね。あたしと同い年の女の子なの。」

 

 

 

なんだ、年下の子か。…要するにグループのリーダーって訳だな?そりゃ自バンドのメンバーがしょぼくれて居たら気にもなるし何とかしようとも思うものか。

しかし美咲と薫が一つのグループとして一緒に居られるようなバンドか…方向性やらジャンルやらも含めて皆目見当が付かないな。

 

 

 

「何だよ…もっと恐ろしいのが出てくんのかと思ったぞ。」

 

「へへへ、言い方が悪かったね。…でもその子、恐ろしいっちゃ恐ろしいかもよ。」

 

「…あぁ?ヤーさんの血筋の子とかじゃねえだろうな?」

 

「…それよりもっと凄いんだから。」

 

 

 

あと怖いものと言ったら何だろう。国に関わるレベル…とか?なんとか省とかなんとか大臣とか…そこまで行ったとして学生のバンドにまで影響が出るほどだろうか。

 

 

 

「弦巻って聞いたら、流石に知らないってことはないでしょ?」

 

「……あの大企業のか?」

 

「そそ。そこの娘さんなの。しかも長女。」

 

「…ほぉ、そっちか。」

 

 

 

財閥だの貴族だの言われている、世界で五本の指に入る程の富豪。今や日本の様々な企業を傘下に置き、事実上国の技術力を担っていると言っても過言では無いほどの名前、知らなければ最早国民ではないだろう。

そこの娘っ子がそんな身近に?しかも庶民に紛れてバンド活動たぁね。

 

 

 

「んで、そのお嬢様が薫を気に掛けたとして、何だってお前がわざわざ」

 

 

 

言いかけたところで背中に軽い衝撃。

何事かと振り返れば背中にへばりついたのはさっきの金髪のちびっ子。

 

 

 

「こらこら…お兄さんは今大事な話をしているからね。離れなさいな。」

 

「や!!!」

 

「……何か用事かい。」

 

「この部屋、いっぱい物があるねぇ!」

 

「あぁ、狭い部屋だからね。」

 

「きったなーい!!」

 

「………なんだって?」

 

 

 

にっこにこと眩いばかりの笑顔で無邪気に暴言を吐く。…確かに、最近片付けも掃除もあまりしていないし、来客どころか俺自体が引き籠っていたせいでリサも来なかった為に散らかり放題…美咲はその辺気にならないみたいだが、とても人を招き入れる状況じゃあないだろう。

 

 

 

「それにね!くっさーい!!」

 

 

 

俺の後頭部に顔を突っ込んですんすんと匂いを嗅ぐ。臭いったってさっき風呂入ったばっかだぞ。

その様子を見てケラケラ笑いだす美咲に若干イラっとしたが、これを引き剥がせるのは彼女しかいないと踏み助けを求める。

 

 

 

「なぁ美咲…俺そんなに臭いか?」

 

「さぁねー…この距離だとそんなに臭わないけど。」

 

「さっき風呂入ったんだぜ。」

 

「あははは…ほら、子供って五感が敏感でしょ?普段嗅いだことない匂いだからそう表現したのかも。」

 

「きゃっははは!!せなかあったかいねぇ!」

 

「…無駄に元気だなコイツ。」

 

 

 

臭い臭いと言いつつも決して嫌がっている様子ではなさそうだ。そのまま力を抜いて、全体重を俺の背中に掛けてくる。必然的に支える様に両腕を後ろへ回すことになり、正面…美咲に向けている側はノーガード状態に。そこを見逃さなかった美咲がそっと距離を詰めてくる。

 

 

 

「…お、おい、近ぇっての。」

 

「臭いか気になるんでしょ?…実際嗅いで確かめてみたら一発じゃん。」

 

「いや、でも、女の子にそんな…」

 

「うるさい。……えいっ。」

 

 

 

座っている為に、正面から俺の鳩尾辺りに抱きつく様に顔を埋める。す、すっげぇ深呼吸している感触がダイレクトに伝わってきて恥ずかしい。

…何分程経っただろうか。ちびっ子は背中で大人しくしている為問題ないが、美咲は未だに顔を埋めたままだ。何というか、すっかり落ち着いて居座ってる感じ?体を預けられているというか。

 

 

 

「……ねえ○○。」

 

「…ん。」

 

「全然臭くないよ。」

 

「そ…そか。…なら早くどけて」

 

「あのさ。」

 

「……何だよ。」

 

 

 

まず顔を上げろと言いたかったが、相変わらずひしっと抱きついたままモゴモゴ喋り続ける。とうに匂い云々の話は終わったはずだが、深呼吸は終わらない。

触れている顔が、腕が…美咲の鼓動と熱を伝えてくる。

 

 

 

「薫さんと白鷺先輩から聞いたよ。」

 

「……………。」

 

「らしくないじゃんさ。…いつも薫さんに手を焼いて、花音さんやあたしを揶揄ってた○○らしくない。」

 

「…………るせえ。」

 

「………寂しかったの?」

 

「………っ。」

 

 

 

二人から聞いた…と言うからには大まかな流れも、どういった話から俺がこうなったかも…もしや昔の俺達の関係性も聞いたのだろう。

腹に巻きつく黒髪少女の声は、いつものように揶揄うものではなく穏やか。諭すように、沁み込むような優しい声色で俺の心を絆しにかかる。

 

 

 

「別にあの人たちの肩を持つわけじゃないけどさ。…悪気があったり、○○を除け者にしてるつもりはないと思うんだよね。」

 

「…わーってるよ。」

 

「それに、薫さん言ってたよ。○○ほど人に優しい男の子は居ないって。」

 

「……ふーん。」

 

「白鷺先輩も悪くは言ってなかった。すっかり捻くれてヤサグレた風を装ってるけど、○○無しに今の私達は居ないんだって。…二人が仲良しになったのって、○○のお陰なんでしょ?」

 

「…………。」

 

 

 

そう言われたらそうだった気もするが、物は言いよう。結局のところ、昔の思い出なんて好きに改変できるし都合のいい所だけ美談にしてしまえばいいのだ。そんな慰めるような言い回しされたって、結局通じ合ったのはあの二人なんだ。そして今日(こんにち)、二人は大きく成長してすっかり大人びてしまって俺だけ…。

 

 

 

「いっつもつんけんしちゃってさ、誰ともつるまないぞーって姿勢でいるけど…○○って本当は大好きでしょ?皆の事。」

 

「……みんな?」

 

「ん。…薫さんを面倒臭がったりリサさんと言い合いしたり。あたしや花音さんにセクハラまがいの事したり…」

 

「おい。」

 

 

 

一つとんだ被害妄想が混じってないか。お前にはしてねえ。

 

 

 

「ふふふ……一緒に居ると、楽しいでしょ?…一人になると、寂しいでしょ?」

 

「………まぁ、否定はしない…が。」

 

「○○的には「子供っぽい」とか「成長してない」とか思っちゃうのかもしれないけど、そういう純粋なとこ、あたしは好きだな。」

 

「…………お前がどう言おうと俺は」

 

「ねえ。…もう少し自分に甘くなろうよ。もう少し自分にも優しくしてあげようよ。」

 

「自分…に?」

 

 

 

何が言いたいんだ。相変わらず顔を上げずに続ける美咲はまだ平坦、静かに優しいままだ。

 

 

 

「○○さ、薫さんも白鷺先輩も大好きでしょ。」

 

「……嫌い、じゃ、ねえけど。」

 

「ん。だから、寂しかったんだよね。自分だけ置いて行かれちゃったような気がしてさ。」

 

「…………………そうなのかもしれない、けど。」

 

 

 

どうしてこうもグサグサ突き刺さるんだこいつの言葉は。どうしてこうも核心を突いてくるんだ。どうしてこうも…優しく語り掛けるんだ。

いつもみたいにキツく当たって来いよ。暴言とか吐けよ。…お前に甘えたくなるだろ。

 

 

 

「……○○は今でも優しいし格好いいよ。臭くも無いしね。」

 

「匂いはもういい。」

 

「…あたしは…ううん、あたしも大好き。きっと、関わった人はみんな○○が好きになっちゃってると思う。だって○○って皆のお兄さんみたいで、すっごく頼れる大人っぽいから。」

 

「……よせやい。」

 

「だから、ね。そんな優しいお兄さんに頼み事なんだ。」

 

「………頼み事、か。」

 

 

 

何となく話の流れでわかる。それと同時に、決して"頼みごと"とやらの為に悪戯に俺を持ち上げた訳じゃないって事もわかる。だって、話している最中美咲は一度も顔を上げなかったから。ずっと鼓動が加速していくのを、ぴったりくっついた部分で感じていたから。

…そりゃそうだ、こんな事大真面目に話せるとしたら大した肝の据わった大物だ。それこそ弦巻程の大企業を立ち上げられる人間でも無ければ、な。

 

 

 

「…薫のことか?」

 

「……そういう気付けるとこ、○○の優しさから来てるんだからね。」

 

「………お前も大概だよ。」

 

「そんなこと……薫さん、多分今いっぱいいっぱいなんだよ。○○が殻に閉じ籠っちゃったけど自分には何もできない、訪ねても掛ける言葉が見つからない…って。…凄く辛そうな顔してる。」

 

「…………。」

 

 

 

すっと温度が離れる感覚。姿勢を戻し、真正面から見つめてくる美咲はすっかり鼻の頭を赤くして、顔も上気させていた。お前は押し付け過ぎなんだよ、何でも。

表情を隠す必要もなくなった美咲は続ける。

 

 

 

「…薫さんのこと、お願いできるかな。」

 

 

 

眉をハの字にして笑って見せる彼女に、ぎゅぅと胸を掴まれたような感覚を覚えた。息苦しく、悲しい気持ち。笑顔を見て苦しくなるのは、これが初めてだったから。

 

 

 

「…任せとけ。」

 

「…ぁっ。」

 

 

 

本当に無意識の内に、その頭をグリグリと撫でつけていた。

小さく声を漏らす美咲の熱が、少しずつ抜けていく。と同時に、部屋に張り詰めていた空気も軽くなる気がした。

 

 

 

「…軽々しく女子の頭撫でるとか、キモ。」

 

「おう復活しやがったないつもの。」

 

「キモいけど、大好き。」

 

「そか、俺も大好きだぞ。美咲。」

 

「………馬鹿。」

 

 

 

幾分か気持ちが解れたような、すっきりした気分だ。美咲の毒で俺の毒を中和した…そんなところだろうか。何にせよ、俺が薫に与えてしまった苦しみを、今度は俺自身の手で消してやらにゃならん。美咲というきっかけが出来た以上もう逃げることは出来ないし、散々リサに言われてきた「ケジメをつける時」もまさにこれから来るのだろう。腹は決まった。

それもこれも、全部こいつが来てくれたからで、まさに天岩戸作戦――

 

 

 

「そういやこのガキは何なんだ。」

 

「…あぁ、それはこころが○○を何とかする為に寄越した…Hello,HappyWorld!のメンバーの一人だよ。」

 

「この無駄に元気なちびっ子が、か?」

 

 

 

気付けば背中で涎を垂らして眠りこけている子供。起こさないように降ろし、胡坐をかいた足の上で寝かせて抱えてやる。

美咲がにこにこと穏やかに笑いその頬を突いている。

 

 

 

「この子は…本当に元気の塊って感じでさ。ウチのボスにそっくりなんだよね。」

 

「元気は伝わったよ。お陰で片づけも大変そうだ。」

 

 

 

好き勝手に漁りまくってくれたようで、机も棚もぐっちゃぐちゃ。気になったものを引っ張り出したのか、床には本やらゲーム機屋らが散乱していた。

 

 

 

「ごめんね…。でも、この子妙にあたしに懐いててさ。世話係みたいなもんなんだ。」

 

「お母さんかよ。」

 

「ふふ、さっきの○○はお父さんみたいだったよ?」

 

「お前と夫婦は疲れそうだ…。」

 

 

 

もぞもぞと身動ぎする少女の前髪をサラサラと梳いてみる。それが擽ったかったのか、眉間に皺を寄せて薄く目を開ける。

起こしてしまったかと少し後悔もしたが何れ帰ってもらわにゃならんし都合よしと言えばよしか。

 

 

 

「…ぅ……みしゃき?」

 

「はいはい。そんなに寝心地よかったの?」

 

「んぅ……ねちゃった。」

 

「そうだね。…そろそろ、帰るよ?」

 

「…んぅぅ……みしゃき、○○にこくはくできた?」

 

「………。」

 

「!!!!」

 

 

 

寝ぼけ眼で零された爆弾発言に思わず固まる俺と取り乱す美咲。あぁ、忙しなく両目が動き回っている。…これは助け舟でも出してやろうか。

 

 

 

「ところで美咲、今日あった事は…」

 

「あ、ああああ、ええ、えとね、だ、誰にも言わないよ?うん!…も、勿論ボスにも。」

 

「そか、助かる。」

 

 

 

いい食いつきだ。勢いそのままに未だ目を擦り続けている少女に話しかける。

 

 

 

「あのね、帰ったらお姉ちゃんに、「何もなかったよ」って教えてあげようね?」

 

「なにも?…でも、○○あったかかったよ?」

 

「あー…じゃあそれだけ報告しよっか。」

 

「うんー…。」

 

「…お姉ちゃん?って?」

 

 

 

帰ったら、報告、お姉ちゃん…そのワードから察するに、俺はとんでもない生命体を抱いているんじゃなかろうか。

恐る恐る美咲に訊いてみると、

 

 

 

「あぁ、この子ね。さっき話したウチのボス…弦巻こころっていうんだけど、その妹なんだ。」

 

「……そういう重大なことは先に言え馬鹿。普通のガキみたいに扱っちまったじゃねえか。」

 

「えぇ?いいんだよ、普通の子供と同じで。」

 

 

 

いい訳あるか。傷物にして殺されたらどうしてくれる。

 

 

 

「ねーねーみしゃき、()()()()は?」

 

「んんんんんんっ!!」

 

 

 

おかえり、話題。

 

 

 

「おう、嬢ちゃん。それくらいにしといてやんな。」

 

「○○??それくらい、ってどれくらい?」

 

「あー……ほら、そろそろ帰る時間だろ?」

 

「うんっ!…あっ、おなかすいたー!」

 

「そっか。なら美咲と一緒に、美味しいご飯を食べて帰るといい。この辺には飲食店もあったはずだから。」

 

「ごはんー!…みしゃき!ごはんたべよっ!おなかっ!すいたっ!みしゃきっ!」

 

「あー…もう、わかったから、ね。一回落ち着こ?」

 

 

 

跳ね上がるバネのように起き上がり、座った美咲の周りで儀式でもするかのように跳ね回る小動物。なるほど元気なこって。

 

 

 

「なぁ、お前んとこのボスもこんな感じなのか?」

 

「ははは…まぁ、もうちょっと元気一杯かな。」

 

 

 

想像しかけたがあまりにも疲れそうなのでやめた。これ以上は恐らく人智を超える。恐ろしいな弦巻。

 

 

 

「ねぇっ!みしゃきっ!」

 

「はいはい、早く帰ろうね。」

 

「うんっ!あたちがんばった!ごほーびっ!」

 

「わかったよ。」

 

 

 

ぴょんぴょんは止まらない。少し寝ただけでこの元気の回復っぷり…核融合炉でも積んでるのか?

見ている分には微笑ましい光景だが、いざ保護者役になるとしたら疲れそうだ。ここはひとつ、俺を立ち直らせてくれた感謝も籠めて…

 

 

 

「美咲。」

 

「ん。」

 

「送るわ。飯も一緒に行こ。」

 

「はぁ?送り狼狙い?キモ。」

 

「はいはい、そっすね。」

 

「○○も来る!?うわーいっ!!」

 

「元気いっぱいだなぁお前…。名前何ていうんだ?」

 

「つるまきまいん、ななさいです!」

 

「七歳!?背ぇでけえな…。小学生高学年くらいだと思ってたぞ…。」

 

「おねえちゃんはこころちゃんです!」

 

「はいはい、聞いたよ。…それじゃあまいん、何食べたい?」

 

「んっとね……えびふらいっ!」

 

「エラく庶民的なもんが好みなんだな……なんだ、どうした美咲。」

 

「……お父さんみたいな○○、尊い、すき。」

 

「お前一気に包み隠さなくなったな…まぁいいけどよ。…行こうぜ。」

 

 

 

 

 

少し、ままごとみたいな親子ごっこと洒落込むことにした昼下がり。

美咲のお陰でようやっと自分が見えたような気もする。これからは卑下し過ぎずに、もうちっと素直にぶつかってみようと思う。

まずは薫、それからチサトにも謝んねえと…

 

 

 

「もう待ちきれなくてクツはけなーい!」

 

「こらこら裸足で行こうとするな。」

 

「いってきまーす!おりゃぁー!!」

 

「行っちまったよ……お前一人じゃ手に負えなかったんじゃないか?美咲。」

 

「…うん。結婚して、○○。」

 

「考えとくわ。」

 

「…マジ?」

 

「腹減ったなぁ…追うぞ。」

 

「えっちょっどっち!?ほんと!?うそ!?」

 

「○○!あしいたーい!!」

 

「言わんこっちゃない…ほれ、足出せ。」

 

「あぁ○○……ほんとすき。」

 

「みしゃきはなぢ!!きったなーい!!」

 

 

 

これだけ賑やかならそりゃアマテラスも出てくるわけだわ。

 

 

 




メインヒロインが一度も出てこないという斬新な(以下略)




<今回の設定更新>

○○:復活。
   面倒見が良く、優しい人当たりが本性の様。
   色々吹っ切れたらしい。

美咲:優しく包み込むような口調の方が素。
   普段は少し捻くれているところがあり、素直になれない為あんなキチガイ
   を演じて…
   いいお母さんになってくれそう。

まいん:元気一杯。
    弦巻こころの妹で、見た目はほぼそのまま小さくしたような感じ。
    七歳にしては成長し過ぎで、中学生に間違えられることすらある。
    こころからブレーキとなけなしの常識を取っ払ったような子。

薫:次回を震えて待て。

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