BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/02/06 瀬田薫劇場 -終幕-(終)

 

 

 

「……よう、来たな。」

 

 

 

夕方…いや、もうすぐ夜と呼べる時間か。平日にもかかわらず、俺のガキ時代からの友人二人は予定を空けて訪ねて来てくれたようで。…訪ねてきた、と言っても呼びつけたのは他でもない俺なんだが。

チサトと薫と何故かまいん。無駄に容姿の整った二人+おまけの来訪に、両親も若干引き気味だった。お前の友人は一体どうなってるんだ、と。

 

 

 

「○○っ!あたち、きたわよっ!」

 

「何だ、まいんは呼んでないぞ?」

 

「だってっ!カオがっ!○○に会うって言ったからっ!」

 

「…カオ?」

 

 

 

聞き慣れない単語に思わず訊き返すと隣の紫ノッポがそっと手を挙げた。あぁ、薫→カオってニックネームなのね。

懐かれてんなぁ。

 

 

 

「……その、○○くん、もう大丈夫、なの?」

 

「何が?…あぁこらまいん、今日はお部屋探検は無しだ。ここ座ってろい。」

 

 

 

ジダジダと俺の拘束から逃れようとするまいんを胡坐の上で捕獲する。暫く脱出を試みていたまいんだったが諦めたのか落ち着いたのか、向かい合うようにして抱きついて静かになった。

一方薫は戸惑いの具現のような様子で、オドオドしっぱなし。…そもそも俺に原因があるのだが、少し可笑しいレベルだった。

 

 

 

「えと……ほら、落ち込んでたり、とか、その…」

 

「あのさぁ、二人とも。」

 

 

 

例のケジメの件で呼び出したんだ。細かいことは全部俺から、それも俺のペースで話させてもらおう。

 

 

 

「んっな、なぁに?」

 

「……。」

 

「…晩飯、食ったか?」

 

「い、いや、まだ…だけど…」

 

「食べてないわ。」

 

「……俺腹減っちゃってさ。…良ければ一緒に飯でもどうかと思ったんだけど、どうよ?」

 

 

 

拍子抜けしたような間抜け顔の二人。腕の中のまいんだけがきゃっきゃとテンションを上げている。

これくらいの子は食欲が元気を表すこともあるくらいだしな。素直にがっつくっていいことだ。

 

 

 

「○○、おそとでごはん食べるのっ?」

 

「ん、まいんお嬢様もどうかね?一緒に。」

 

「いくわっ!あ、でも「お嬢様」っていうのは何か嫌っ!」

 

「はははっ、そうかそうか。」

 

「…………。」

 

「………○○、私達の気持ちとか考えたことある?今日までどれだけ心配…」

 

「千聖。……わ、私はお腹空いたかなぁ!○○くんと一緒に過ごすのも久しぶりだし、一緒に、い、いきたいなぁ!」

 

「……薫、あなた…。」

 

 

 

チサトの言葉を遮ってくれた薫の気遣いが痛い程伝わった。胸の痛みからポーカーフェイスも崩れそうだが、本心を話すのはまだここじゃない。

不機嫌さを隠そうともしないチサトと気遣いで胃痛でも起こしそうな薫、それに無邪気におんぶをせがむまいんを連れて、俺達四人は少し離れた個人営業の居酒屋へ向かった。

 

 

 

**

 

 

 

「…じゃぁ、取り敢えず以上で。」

 

「カシコマリマシタァ、オノミモノサキニオモチシマスネェ!」

 

「ぁーい。」

 

 

 

常連グループと思われる青年達が一組居る他は恐ろしく静かな店内。少し大きめの民家を想起させる実にアットホームな雰囲気、お世辞にも愛想が良いとは言えない物静かな夫婦とフロア担当にあたる看板娘らしき女性。

暫し店内を見回していたチサトも席に着き、各々適当な料理を注文し終えた。店員の姿が見えなくなってすぐ…斜め向かいから伸びてきた細腕に襟首を掴みあげられる。…あぁ、ヤンキーに絡まれるってこういうものなのか、と無駄に冷静な感想を思い浮かべる俺に苛ついたようなチサトが低い声で問う。

 

 

 

「何考えてんの?」

 

「………。」

 

「ちょ、ちょっと、千聖!?」

 

「私と薫が…薫がどれほど心配したか、気を遣ったか、分かってんの?」

 

「…………あぁ。」

 

「…あーむれすりんぐ?」

 

 

 

それは腕相撲だぞまいん。言いたいことは分からなくも無いが。

 

 

 

「千聖、やめてっ!」

 

「いや、いいんだ薫。…チサトも、ありがとう。」

 

「…あぁ?違うでしょうが。ここは感謝じゃないでしょう?まずは謝罪から」

 

「心配してくれたんだろう?確かに随分酷い当たり方もしたし、長いこと無視もした。…だがな、その期間のお陰で、俺は気付けたんだよな。」

 

 

 

美咲と話したことも大きかったのだろうか。相変わらず睨みを利かせ続けるキレッキレなチサトもまるで怖くなければ、申し訳なさと情けなさで心が折れそうになることも無い。

思っていることを、ただ冷静に淡々と話す。それだけと言ってしまえばそれだけなんだが、今抱いているこの気持ちを伝えるにはそれが一番いいと思ったんだ。

 

 

 

「……チサト。俺はお前が好きだ。」

 

「へぅ………な、何言ってんの?こんな場面で、正気?」

 

 

 

思わず襟を話し目を泳がせる鬼。別にこれが狙いだったわけじゃないが、首回りが伸び切ってしまう心配がなくなって良いっちゃ良いか。

 

 

 

「そして薫、お前の事も。…大好きなんだ。」

 

「ぇぅ…あぅ…っ!?」

 

「はぁ?……ちょっと○○、それは一体どういうつもりで」

 

「二人とも、俺と出逢ってくれてありがとう。心配してくれてありがとう。……またこうして一緒に過ごしてくれて、ありがとう。」

 

 

 

幸いにも料理はまだ運ばれてこない。後腐れなく食事を楽しむためにもつけるべき話はここでつけてしまわなくては。

意表を突かれたらしい二人はまだあうあう言ってるし、隣の席に座ったまいんは嬉しそうにニコニコしている。普段こういう店に来ることはないだろうし、内装を見ているだけでも結構楽しいのだ。

 

 

 

「感謝しているからこそ、ちゃんと俺のペースで、俺の気持ちで謝らせて欲しかった。……俺さ、まだまだガキみたいなんだよ。だから馬鹿みたいに癇癪起こしたり一方的に意地張っちゃったり…心配もそうだが嫌な気持にさせてしまったと思う。…本当にごめん。」

 

「………!!」

 

「…○○…くん…。」

 

「だからもし許してもらえるためなら、これからはもうちょっと大人に成れるように頑張ってみる。…何をって訊かれたら上手くは言えねえけど、お前等と対等の立場でずっと友達でいられるように…その…」

 

 

 

許さずとも知ってもらえるだろうか。俺がまだまだどうしようもない部分だらけの一丁前に意地だけは張る子供だって事。

ただ純粋に、二人とずっと仲の良い友達で居たいんだって事。最後こそ言い淀んでしまってはいるが、言いたいことは大体言えた筈なんだ。ずっと感じていたのに言えなかった感謝も、恥ずかしさと情けなさから切り出せなかった謝罪も。

 

 

 

「別に………」

 

「…?」

 

「別に、私はそこまで怒ってないわよ。…まさか、あなたがそんな風に素直な口を叩くとも、思ってなかったし…嫌われてないって、分かったし。」

 

「チサト…」

 

「わ、私もねっ!千聖と一緒で、全然怒ってないからね!でもその、ずっと○○くんと会えない日が続いて、声も聞けなくて、心配もそうだけど寂しかったって言うか…私も○○くんのこと、大好き…だから。」

 

「薫。」

 

 

 

伝わった…かは正直分からないが、一先ず互いの言葉は交わした。思いも吐き出し、現状も吐露した。

あとはここから、どういう風にやり直せるか。どこまで溝を埋められ――

 

 

 

「○○、くんっ。…その、大好きって、その…そういう……」

 

「…む?」

 

 

 

真っ赤な顔で俯きがちに何かぶつぶつ言っている薫。やっぱり許してもらえないのかと心なしかソワりつつ目を向ければ、隣で聞き耳を立てた後に邪悪な笑みを浮かべるチサト。本当に悪魔みたいな顔してるなコイツ。

 

 

 

「なぁに薫?」

 

「ち、チサト、えと…………のね?………で………かなー…って……私、何言ってるんだろう。」

 

「そんなこと無いわよ。……だから、……きっと……の………次第で……もの。…………行ってみるしかないわね。」

 

 

 

ひそひそと話す声が途切れ途切れに聴こえてくる。悪寒がするのは気のせいだろうか。

先程までとは違って、逃げようの無い袋小路のような話が、俺を襲うような…。

 

 

 

「○○。」

 

「どしたまいん。」

 

「あたち怖いの。」

 

「……お姉さん二人がか?」

 

「…………うん。」

 

 

 

わかるわかる、俺も怖いもん。

 

 

 

「○○………()なないでね。」

 

 

 

でもその言葉が一番怖ぇよ。

 

 

 

**

 

 

 

勇気を振り絞っただけあって、その後の食事は恙無く、終始楽しい雰囲気で過ごせた気がする。運ばれてきた料理もどれも旨かったし、まいんはイイ食べっぷりを披露してくれるし。

強いて言えば薫の口数が少ないのがちょっと引っ掛かった位か。

 

 

 

「なあチサト、さっき何の話してたん?」

 

「…さっきって?」

 

 

 

雰囲気も悪くないので、先程二人でヒソヒソ話していた件について訊いてみる。俺には関係の無い事なんだろうが、目の前でああされると流石に気になるってもんだ。

それに終始まいんの学校話を聴き続けるよりかは今の俺達に肉薄した話題であるし、薫もきっと喋ってくれることだろうし。

 

 

 

「さっき薫とヒソヒソやってたじゃねえか。…あの時のチサトの悪い顔ったらもう…」

 

「とってもこわかったよっ!」

 

「まいんもそう思うかね。」

 

「うんっ!このお肉美味しいっ!」

 

「……まいん、それ魚だよ。」

 

「あらぁ!不思議ぃ!」

 

「はいはい。……で、何の話だったんだ?」

 

 

 

横槍を入れたいんだが加勢したいんだかよく分からないまいんを躱し、再度チサトに目を向けるも涼しい顔。まるで「私に訊かれても」といった表情だ。

 

 

 

「…訊く相手を間違えたな。」

 

「ええ、ご名答。…薫、さっきの話だけれど。」

 

「んむっ?………千聖これ食べた?シェアする?」

 

「…じゃあ一口頂くわ。………結構胃に来そうな味ね。」

 

「でも私は好きー。…で、さっきの話って?」

 

「ほら、()()()()大好きの話よ。」

 

「~~ッ!!!」

 

 

 

餅をベーコンで包んだ串焼きを美味しそうに頬張っていた薫が唐突に朱に染まった。目も見開いているし…アッチってドッチだよ。

何を言い出すのかと暫く薫を凝視していたが出てくるのは「あうあう」と言葉にならない音ばかり。妙に汗だくに見えるし挙動も不審…どうしちゃったんだろうか。

 

 

 

「なぁ薫?」

 

「…なななななな、なな、何かな、○○、くん。」

 

「"な"が多いわ。お前はジョイマ○か。」

 

「…ジョ○マン??」

 

「いやいい。チサトに何吹き込まれたのか知らんが、言いたいことあるなら何でも言ってくれ。…今日は俺の伝えたいことの為に来て貰ったようなもんだし、これまで心配とか迷惑かけてきたのは俺だし…」

 

「……ですって。言ったらいいじゃない、薫。」

 

「あぅぅ……千聖、他人事だと思ってるでしょ。」

 

「他人事だもの。」

 

「うぅ……。」

 

 

 

成程な、やはりその一件の黒幕はお前かチサト。完全に弄るモードに入ってやがる。…昔の薫ならとっくに泣き出してたぞ。

まだ踏ん切りがつかないのかオロオロ、あうあうと間抜け面を晒している薫を他所に、チサトが毒牙をこっちにまで向けてきやがった。

 

 

 

「ねえ○○。貴方さっき私に好きって言ったじゃない?」

 

「あぁ。好きだからな、チサトが。」

 

「っ…。…でもそれって、勿論異性として…じゃないわよね?」

 

「???…当たり前だろ?昔のお前を知っていながらそういう目じゃ見れねえよ。」

 

「グッ…今日は本当に素直ね。」

 

「お?おぅ。」

 

 

 

どうやら俺の成長っぷりがかなり効いているらしい。おふざけに逃げない素直な言葉にチサトは初めて見せるような複雑な表情をしている。

うんうん、生まれ変わったような気分だ。

 

 

 

「○○、あたちのことも好き??」

 

「ん。」

 

 

 

目の前の料理を粗方食い尽くしたらしいまいんがクイクイと袖を引っ張る。何とも可愛らしい、可愛すぎる仕草だ。

少し汚れていた手をおしぼりで拭きつつ、無垢な少女へも回答を忘れない俺。

 

 

 

「勿論大好きだぞー。」

 

「えへへっ、おねえちゃんに自慢しよー。」

 

「おう、しちゃえしちゃえ。」

 

「しちゃうー。」

 

 

 

うむ。良い笑顔だ。

…と、まいんとじゃれついていた俺のすぐ傍にいつのまにか立っていた薫に気付く。音も無く背後に立つ癖にはもう慣れたが…ううむ、今日のホットパンツな薫も中々に可愛げがあっていい。

太もm…脚綺麗なんだからどんどん出して行きゃいいんだよ、うん。

 

 

 

「どうした?」

 

「……一つ、訊いても良いかな、○○くん。」

 

「ん、どうぞ。」

 

 

 

すーはすーはと深呼吸を繰り返し、睨みつけるように座る俺を見下ろしてくる。どうやら質問が纏まったらしい…が、どんなとんでもない問いが投げ掛けられるのかとつい身構えてしまう。

 

 

 

「……私…のこと、も、好き……かな?」

 

「……………んん??」

 

 

 

これだけ勿体ぶってまいんの真似っ子か…と以前の俺ならば言っていただろう。しかし今日の俺は違う。なんてったって成長したんだ。…うざい?ありがとう。

 

 

 

「おう、大好きだぞ薫。」

 

「……ッ!!…ち、千聖っ、これはっ、これはっ!?」

 

「…落ち着きなさい薫。…まだ大事な部分訊いてないでしょう。」

 

「で、でででっでもっ、す、しゅき、すすきって○○、私っ。」

 

 

 

成程、好きと言われて嬉しい訳か。確かに分からなくもないな。…俺も友達に、改めて「好き」と言葉で伝えられたら少々舞い上がってしまうかもしれない。

何つーか、人の温もり?みたいなのを感じられるのが凄く嬉しいって言うか、有難みが分かるって言うか…

 

 

 

「はいはい…あのね○○。」

 

「ぁんだい。」

 

「薫は、「女の子として」好きって意味なのかどうか…訊きたいみたいなんだけど?」

 

「………女の子…なんだって??」

 

「そうよね、薫。」

 

「はわわわわわわわ…」

 

 

 

あうあうがはわわわに変わった薫は必死に首の縦振りで肯定を示している。

…しかし困った。女の子として、とはどういう意味だろう。

 

 

 

「あのさぁチサト、薫が男っぽいキャラを演じてたってのは随分前に知ったわけよ、俺も。」

 

「…はい?」

 

「いや、だから、薫が女の子だってのは知ってんの。その上で、大好きだよって言ったんだが…」

 

「ちっちちっちっちさっ、ちさっひゃんっ!今好きって、○○がわたひ、しゅきってぇ!」

 

「いーやまだよ薫!この男はきっと解っちゃいないわっ!」

 

 

 

左腕に絡みついて来るまいんを撫で繰り回しつつ、席に座った状態で二人を見上げる俺と何故かラリッて首を振り回す薫、そして何をそんなに熱くなっちゃっているのか立ち上がり舌を回すチサト。何という三つ巴。ボルテージは最高潮だ。

歓びのリアクションに移行しようとする薫を片手で制し詰め寄って来るチサト…何だこいつ、酒でも飲んでんのかと言うくらい元気いっぱいだ。

 

 

 

「○○っ!!」

 

「…はい。」

 

「さっき私に対しての印象訊いた時はちゃんと理解してたじゃないの!?どうして薫相手だと分からないのよっ!」

 

 

 

はて。さっきも今回も、女の子と知った上で好きなのか…という質問じゃなかったか?間違いなく質問には答えている筈なんだが、チサトは一体何と言って欲しいんだろうか。

 

 

 

「だから、チサトは女として見てないし、薫は女の子だって知った上で好きって言ってるだろ?あと何が知りたいんだよ。」

 

「ん~~~~~~ッ!!!!」

 

 

 

イライラしていらっしゃる。

 

 

 

「○○っ、○○っ!」

 

「…なんだいまいん。」

 

「あのね、たぶんね、えとね。」

 

「ん。」

 

「金の人と、カオはね、多分みしゃきとおんなじ好きなのかって訊いてるんだとおもうっ!」

 

「きん…ッ!?」

 

 

 

これまた初めましての表情だ。今日のチサトはやけにいいリアクションをする。

…で、美咲と同じ"好き"か、だって?…あいつはやたら好き好き言ってくるイメージしかないが…あぁ、付き合ったり結婚したりっていう好きか。

 

 

 

「あーはいはいはいはい……なるほどだなまいん。お手柄だ。」

 

「おてがらっ!?あんにんどうふですかっ!?」

 

「はっははは、いいよ、注文しなー。」

 

「やったぜっ!!ぴんぽーん!!」

 

 

 

嬉々として店員呼び出しボタンを押すまいんを横目で見つつ、仮に()()()()好きだった場合として二人に返事を返す。

…と言っても、態々間を持たせるほどの事じゃないし答えなんて決まってるんだけどな。

 

 

 

「チサト。」

 

「あによっ!?」

 

「……そういう異性と付き合う云々の感情があるかどうかで訊かれたらお前は別に好きじゃない。」

 

「…そ、それは別にいいんだけど……じゃあ、薫は?」

 

「薫、うん、そうだな薫は…」

 

 

 

固唾を飲んで俺の言葉を待っている薫。さっきまでのアタフタした様子とは違い、ピリッと引き締まった空気を纏ったその精悍な顔つきはまさにイケメン…男役も十分できる美人っぷりだ。

こんな女性と付き合ったりはたまたその先まで…何て、考えるだけで素敵だ。夢のようじゃないか。

気を抜けば呑まれてしまいそうなその目を負けじと見返し、俺の気持ちを、真っ直ぐに伝える。

 

 

 

「薫も、そういう意味では別に好きじゃねえな。」

 

「………………ぇっ。」

 

「やっぱさ、お前ら二人って俺にとって見たら最高の友人って感じなんだよ。二人に出逢えたからここ最近の俺があったわけで……って、どうした顔怖ぇぞチサト。」

 

「…あんた……あんたねぇ……!!」

 

 

 

俺の返事が不満だったのか、大層お怒りのご様子。…んなこと言ったって、嘘や冗談で濁していい気持ちじゃねえだろうに。

 

 

 

「これだけ想ってくれてるってのに、どうしてその気持ちに報いてあげないのよぉ!!!!」

 

「報い…うぅむそういう考え方もあんのか…。」

 

「気付いていたんじゃないの!?薫があなたに!恋心を抱いているのが!薄々!!」

 

「うすっ……近藤さんの話してる?」

 

「ばかっ!!」

 

 

 

違うのか。…正直なところ、気付いていなかったわけじゃない。ただでさえリサのアピールは凄いし、どんどん変わって行く薫本人の動機も滲み出ていた。…だが、一度もその類の事は口にされなかった。

もしも俺に全くその気がないとして、そういった予感や流れを感じ取ってしまった場合は事前に断らなきゃいけないのか?それは違うだろう。万が一()()()()()()()()場合自意識過剰も良いとこの阿呆になるし、仮にそうであったとしても確実に関係性は悪くなる。

…そういった様々な要素を踏まえて、俺としては真っ向から素直に返事するのが最善だと思ったんだが…。

 

 

 

「第一、貴方みたいな朴念仁、ここまで一途に思ってくれる人なんか居ないでしょう!?どうせモテもしないだろうし…」

 

「失礼過ぎるぞお前。」

 

「うじうじしてるし男らしくないし、面倒事はぜーんぶ投げるような奴だし…」

 

「おい…。いや、おい。」

 

 

 

言い過ぎだ。

 

 

 

「第一、俺彼女いるからね?」

 

「ほんとどうしようもな………何ですって?」

 

「だからさ、浮気とか二股とか、嫌な訳よ。…勿論それだけが理由ってなもんじゃないけどさ。…どうした面白い顔して。」

 

「か、彼女って貴方……次元を超えての結婚は許されてないのよ?」

 

「ちゃんと存在してる人間だボケ…。」

 

 

 

俺を一体何だと思っているのか。俺だって健康な高校男児だ、そりゃ恋人の一人くらいいるさ…。

…だが、この二人のリアクションを見る限り、そうは思われていなかったみたいで。

 

 

 

「○○…くん……彼女、できたの…?」

 

「おう。色々あってな。」

 

「でも、○○くんの女友達って……あぁごめん、いっぱいいたね…。」

 

 

 

そうなのだ。候補を絞ろうにも俺ってやつは、思いの外女子との間に人脈が出来ているようで…容易に想像できるもんじゃない。薫の頭の中にはリサあたりが浮かんでそうなものだが。

 

 

 

「○○、カオに教えてなかったの??」

 

「訊かれてないしなぁ。」

 

「普通訊かないでしょう!?…ってちょっとまって、まいんちゃんは知ってるってことなのかしら?…その、相手とか。」

 

「しってるよ!」

 

「○○……!!!!」

 

「睨むな睨むな…まぁ兎に角さ、俺はチサトとも薫とも、いい関係で居たいんだよ。男とか女とか、そういう垣根も超えてさ。」

 

「……いい関係……とも…だち………あぁぁ…」

 

「薫っ!?」

 

 

 

ふらりとバランスを崩し元々座っていた椅子へへたり込む。ただ膝が折れただけなのだが、その高身長やスタイリッシュな所作も相まってそういうト書きでもあるかのような錯覚を覚えた。

美しい着席だ。

 

 

 

「……ふふ、ふふふふふふ……。」

 

「どうした薫。」

 

「……いや、どうってことは無いさ。私も、○○く…○○とは一生、心の通じ合った唯一無二の存在で居たいと思っているからね。」

 

「ひぇっ!?……か、薫??」

 

「ん、どうしたんだい千聖…そんな、この世の物とは思えない程美しい物を見たような顔をして…。大丈夫、君も眩しい位綺麗さ。」

 

 

 

……薫が戻った。

 

 

 

「…ちょ、ちょっとどうすんのよこれ!○○のせいで、ショックでおかしくなっちゃったのよ!」

 

「落ち着けチサト、こいつは元々こうだ。」

 

「頑張って治したじゃないのっ!!」

 

「……まぁ、こっちの方が過ごしやすいんだろうさ。…友達の俺に対してはさ。」

 

 

 

人は誰しも「こうありたい自分」と「こうなってしまう自分」を抱えて生きている。

それは他人の口出しで治る物でも無ければ、ましてや自分でどうこうできるものでもない。

それらと真摯に向き合う事によって、再度自分を見つめ直すことが…

 

 

 

「勝手に纏めようとするんじゃないわよ。」

 

「良いだろ、もう何も言う事はねえんだし…」

 

「良くないわよ!」

 

「ところで○○…可愛らしい君が選んだ運命の相手というのは…一体誰なんだい?」

 

「かわ……運命の相手ってのは、彼女のことか?」

 

「ふふふ、そう言い換えても問題は無いね。……ムソルグスキー曰く、今夜の」

 

「あのねー、○○はねー、みしゃきに()()()()されてねー、それからねー」

 

「こらこら、まいんが答える事じゃないだろそれは…」

 

「………ほほう、美咲か。…成程成程…ふふふふ、ふふふふふふ……!!!」

 

「薫!?な、泣いてるの!?笑ってるの!?」

 

「あとねー、ぎゅってしたりねー、ちゅーってしたりねー」

 

「おっとそれ以上はいけないぞまいん。」

 

「なんでー??」

 

 

 

危ない危ない…まだまだ子供だと思ってまいんの前で仲良くするのも考え物だな。

ちいちゃなスピーカーちゃんのお陰で薫はすっかりノックアウト寸前、チサトもまた複雑な顔でその報告を聴いている様子だったが。

 

 

 

「………とまぁ、そう言う訳で。俺はこれからも二人とはずっと仲良く」

 

「出来るわけないでしょ!えんがちょよっ、馬鹿!」

 

「…えぇ…?」

 

「何彼女なんか作ってんのよ…。」

 

「いやぁ…そう言われましてもね。」

 

「薫も許せないわよね?……薫??」

 

 

 

やけに静かだと思い二人して見てみれば、俯きがちのイケメンポーズのまま気を失っていた。

 

 

 

「「薫ぅぅううう!!!!!」」

 

 

 

 

 

後日ちゃんと話し合い、いい友人で居続けようと誓うことになるのは別のお話。

結論だけ言うならば、長い期間を掛けても薫は元通り。…すっかりあの鬱陶しくも嫌いになれない美男子キャラに戻ってしまったのだった。

…だけどその期間は決して無駄ではなく、俺が今の俺に成長するための…そして、愛しい友人との間にある何かに気付くための大切なプロセスであったことは、俺自身が保証できる。

掛け替えの無い、俺達の歴史だったから。

 

 

 

 

 

おわり




瀬田薫編、完結になります。
ご愛読ありがとうございました。




<今回の設定更新>

○○:一皮剥けて大人に成れた…気がするがちとアピールがしつこ目。
   実はあのあと美咲と付き合う事に。…うん、言いたいことはわかる。
   でも薫の事は大好きになってしまったが故に異性としての意識は吹っ
   飛んだ模様。
   子供好き。

薫:原 点 回 帰 。
  何だかんだでしっくり来るこっちの薫さんは何だかんだで良い。
  乙女な部分も無くなったわけじゃないが、キチンと割り切ることは出
  来る大人なお姉さん。

千聖:舌好調の鬼。
   結局最後までまいんちゃんに名前を憶えてもらえず。
   特に薫を応援していたわけじゃないが二人の事は気に掛けていた。
   気は遣えるが火が付くと一気に燃え上がる油田のような女。

まいん:かわいい。癒し。いっぱい食べるのが好きで、ご褒美は大体
    食べ物で事足りるらしい。
    余談だが、主人公とまいんの遊ぶ姿に美咲は将来の旦那像を
    見たという。

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