BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/07/29 花園は胃袋(宇宙)

 

 

 

「…美味しいかい。」

 

「うん!」

 

「慌てずよく噛んで食べるんだぞ。」

 

「うん!」

 

「何注文したんだっけ。」

 

「うん!」

 

「…………話、聞いてる?」

 

「うん!」

 

「嘘つけ。」

 

「うん!」

 

 

 

時刻は夜の八時を過ぎた頃。

ボクと花園は遅めの夕食を摂りにハンバーグ専門店に居た。

今日も今日とて所構わず掻き鳴らそうとする花園も流石にカロリー消費はするようで、鳴きやまない腹の虫に夕食を提案したのだ。

…恐らくボクの奢りであろうな。

 

今尚目の前でがっつく様にサラダを掻き込む花園。

全く話を聞いてない辺り、余程美味しいのだろうか。…などと考えて眺めていると、ピタリと花園の動きが止まった。

 

 

 

「どうした。」

 

「…………。」

 

 

 

無表情でこちらを宙を見つめつつ口から半分飛び出した葉菜を食べる姿はうさぎを彷彿とさせる。成程、飼い主はペットに似る、か。

 

 

 

「ここ…ハンバーグ屋さん。」

 

「知ってるが?」

 

「私、サラダしか頼んでない。」

 

「知ってるが?」

 

「お肉食べないの?」

 

「…それはボクに訊いてるのか?」

 

「食べます。ぴんぽーん。」

 

「あもうまた勝手に店員呼んでからに…」

 

 

 

一体目の前の少女は何と会話しているのだろうか。

メニューも見ないまま店員呼び出しボタンを押す。…本当に、次は何をやらかしてくれるのだろうか。

心苦しいので人様を困らせるようなことだけはしないよう祈る。

やがてツカツカと若い女性のスタッフがあの携帯のような機械を持ち近づいてくる。

 

 

 

「ご注文でしょうか?」

 

「はい!このサラダと、このサラダと…あとこのスペシャルプレートください!!」

 

「追加ですね?畏まりました。

 …ご注文繰り返します。…」

 

 

 

果たしてボクが対峙していたのは一人の少女であった筈だが、その胃袋は宛ら宇宙であったらしい。うーんコズミック。

そしてまたサラッとボクの注文は訊かなかったな。

相変わらず独自の世界というか、独立した時間軸を生きる人だ。

 

 

 

「にへへ…たのしみ。」

 

「そうかい。」

 

「見てこれ、全部食べた。」

 

「見せんでよろし。」

 

「ドレッシングも綺麗に飲んだ。」

 

「体に害なレベルだと思うぞそれは…。」

 

「でも、残すの良くない。」

 

「料理はな。それに付随してくるものは別によかろう?」

 

「あ。」

 

「?」

 

「デザート忘れた。」

 

「すっごい食べるね。」

 

「抹茶のやつかこっちのおっきいパフェかと存じます。」

 

「文章省かずに途中経過も喋ってくれたまえ。」

 

「だーかーら!さっきからずーっと迷ってるって話でしょ!」

 

「…初耳だが。」

 

「私の事、嫌い?」

 

「いやまて全部間違っているぞ君は。嫌いじゃない。」

 

「両方注文します。ぴんぽ」

 

「待ちなさい。」

 

 

 

話の渦に呑まれかけていたボクだったが、間一髪といったところでその細い手首を掴む。

不思議そうな顔をしつつも力を全く緩めてくれない花園に対抗する様にその手首を引っ張り上げる。君はもう少し自分の筋力を自覚した方がいいね。全く運動などしていない非力なボクでは到底敵うまいよ。

そういえば、蟻は自分の体重の5倍~10倍の重さを持ち上げることができるという。だがそれを、自覚しているわけではないんだと。まさに目の前の花園ではないか?

彼女は果たして蟻なのか兎なのか。

 

 

 

「はなして。」

 

「待ちたまえ、さっき注文したばかりであろう?

 …次に料理を運んでもらった際に言えば迷惑にならないだろうに。」

 

「はっ。」

 

「はっじゃねえ。」

 

「もしかして、〇〇、私のこと好き?」

 

「どうしてそうなった。」

 

「手、握られてる。」

 

「止めてんだ。」

 

「恥ずかしくて、顔が赤くなっちゃう…。」

 

「全く以てなってないから安心したまえ。」

 

「…紅ショウガ?」

 

「例え!」

 

「お待たせいたしました…」

 

「ほらきたぞ。」

 

「はぁい、全部私です!」

 

 

 

うーん清々しい程に元気。

店員さんの顔を見てごらんなさい。ドン引きです。

 

 

 

「ちゃんと残さないで食べる。」

 

「…うん、それはいいことであるな。」

 

「みてて。」

 

「…はいはい。」

 

 

 

その後2時間ほどかけて目の前の牙城を平らげた花園。

満足そうで何よりだが、遠慮というものを知ろうな?

 

 

 

「おなかいっぱい。」

 

「そうかい。」

 

「御礼しなきゃ。」

 

「普通に割り勘でいいんだけど…」

 

 

 

会計時にふらふらと何処かへ行くのは勘弁してほしい。

今日も気づけばいないし、かと思えば玄関先のピーター・ラビッ〇に話しかけてるし。

一応御礼の概念があるのが驚きだ。

 

 

 

「なにがいいかな。」

 

「…もう慣れてきたなこのスルー力。」

 

「ギター?」

 

「却下。」

 

「歌う?」

 

「いらない。」

 

「むう。…いじわる?」

 

「普通のは無いのかいね。」

 

「…じゃあ、私がぷれぜんと。おりゃー。」

 

「はい抱きつこうとしない。いらないいらない。」

 

「…じゃあまた付き合ってあげる、だーりん。」

 

「意味わかっていってるのかね…。」

 

 

 

そんな概念なかった。

 

 

 




おいしかったです。




<今回の設定更新>

〇〇:花園見習の称号を手に入れた!
   新たに「腕掴み」のスキルを会得した。

たえ:公共の場でもお構いなし。
   彼女の本領は発揮する場所を選ばない。

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