BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2019/08/26 花園ウイルス

 

 

 

ピンポーン…ピンポーン…

 

 

 

呼び鈴だ。

夜も更け、我が家の遅めの晩飯時。

一応家族揃って晩飯を摂るタイプの我が家だが、基本会話はない。特にお互い仲が良い訳でもなければ関心があるわけでもないし、致し方ないことであろう。

 

…とはいえ。

流石に鳴り続けるチャイムに対応しないままと言う事にも行かない訳で。

 

 

 

「…おい母さん。客だぞ。」

 

「……はぁ。○○、アンタ出なさい。」

 

「チッ……。なんで僕が」

 

「父さんも母さんも忙しいんだ。それくらい気をきかせてさっさと行ってこい。」

 

「…親父もお袋も普通に飯食ってるだけでしょ…。」

 

「いいから、行ってきなさいよ。セールスとかだったらちゃんと断るのよ。」

 

 

 

こんな時間に来るセールスがあるか。

至極面倒くさがりで重量級の腰を持つ父と夜は只管に無気力で無愛想な母。会話が生まれないのも納得ではある。

果たしてこの時間に訪れる迷惑な来訪者は一体何者かと、若干イライラしながら扉を開ける。

 

 

 

「だーりん!!ご飯食べにいこー!!」

 

 

 

夜更けに訪ねてきたのは、とんだ変人だった。

 

 

 

**

 

 

 

えーっと…?

先程の殺伐とした食卓からは想像もできないであろう目の前の光景。思わずつぶやく。

 

 

 

「どうしてこうなった…?」

 

 

 

玄関で"だーりん"を連呼する花園に、何を勘違いしたのかウチの両親は…家に上げてしまったのだ。

そんでこの状態。

 

 

 

「いやぁ、可愛いねぇ!おたえちゃんっていうの??」

 

「いやはや、ウチの息子にもこんな可愛いガールフレンドができていたとはなぁ!」

 

「いつからの付き合いなんだい??」

 

「おかわり!!」

 

「はいはい、ちょっと待っててね…」

 

「いっぱい食べるなぁ…どれ、おじさんの分も分けてあげよう。」

 

「ありがとう!!パパぁ!」

 

「ぱ、ぱぱ…」

 

「はい、おかわりどうぞ~。たんとお上がり。」

 

「ママ!これも食べていーい?」

 

「ふふっ、いいわよぉ。全部食べちゃって~。」

 

 

 

おい花園。どうやってその二人を攻略したんだい?

あと愚かな親共よ。会話も噛み合ってない上にあっさり陥落するのはやめなさい。

あ、これはあれだな?娘が欲しかったんだ本当は…とかってパターンだろ?

 

 

 

「はぁーあ。どうせ生むんならやっぱ娘だったわぁ…。」

 

 

 

言ったよ!

 

 

 

「…う?だーりん、ご飯食べない?残す?」

 

「…食べるよ。」

 

「それがいい。いっぱいおたべ。」

 

「君が作ったかのように言うね。」

 

「…ええと、違うよ?」

 

「知ってるよ!」

 

 

 

心配そうな顔をするんじゃないよ。一応大丈夫だよ、頭は。

 

 

 

「ところで○○、おたえちゃんとはどういう関係なんだ?」

 

「別に…ただの知り合いだよ。

 つーかどうでもいいだろ。」

 

「何だお前、親に向かってその態度は。」

 

「…うぜえ。」

 

 

 

知り合いが来たくらいで急に父親面するのはやめたまえよ。

虫酸が走る。

 

 

 

「あらあら、○○ったら、困った子ね。

 お父さんは純粋に、おたえちゃんを歓迎したくて言ってるのよ?」

 

「……チッ。」

 

 

 

アンタもか。

…こんなことならこいつを家に上げるべきじゃなかっ

 

 

 

「だーりん?お顔、こわい。」

 

「………あぁ、それは、悪いことをした。」

 

「私、食べ過ぎ?」

 

「それはない。…いや、無くはないが、この場合はそこについて問答する場面ではなかろうに。」

 

「…お前、なんだその喋り方。」

 

「ぱぱ、だーりんは、いつもこう。」

 

「…余計なこと言わんでいい。」

 

 

 

親にはあまりバレたくないだろうよ。

()()()()()()()()()()と。

 

 

 

「○○…お前。……あれか?中二病とかいう…」

 

「違うわっ!」

 

「!?…あんた、そんな大きい声も出せるの??

 …お母さん、ちょっとちびったわよ。」

 

「きったねぇ。」

 

「あのね、ぱぱ、まま。」

 

「…なんだい?」

 

 

 

何やら神妙な顔の花園が割り込んでくる。

真面目な雰囲気を出してるところ悪いが、口の周りをケチャップ塗れにしてお袋に拭いてもらっている姿で全部ぶち壊しだぞ?

 

 

 

「はい、これでよし、と。おいしかった?」

 

「うん!ありがとうまま!!」

 

 

 

……………。ほん…わかしとる。

 

 

 

「おたえちゃん…それで、何を言おうとしたんだい。」

 

「あっ、そ、そうだった…。ええと。」

 

「何を言おうというのかね花園。」

 

「あのね、だーりんはね。…凄くいい人。」

 

 

 

はぁ?

散々溜めて何を言うのかと思えば…。

 

 

 

「それで、いつも私を支えてくれて、面倒も見てくれて。

 …ちょっと変な喋り方だけど、みんなが面倒くさがる私と一緒に居てくれる大事な人。」

 

「…………。」

 

「でも、おうちでこんなに怖い人だって思わなかった…。」

 

「や、それは……」

 

「だーりんは…○○くんは、どっちが本当の○○くんなの?」

 

 

 

いつものふわふわした雰囲気が、今の目の前の花園には無い。

というか、君普通に会話できるのね。

 

 

 

「俺は…いや、ボクは。」

 

「……うん。」

 

「家にいると、どうしても空気感とかギスった雰囲気とかでイラついてしまって。

 両親とも冷めてるし会話もないし。正直毎日帰ってきたくもない家に帰ってきてやってる状態だった。」

 

「………。」

 

「今となってはそれがどこから始まったものなのか知る術もないけど。

 とにかく、気づいた時には仮の自分を用意していないとまともに接せなくなっていたよ。」

 

 

 

まぁ、自分を演じている時点でまともには接せていないんだけども。

にしても、じっと聞き入ってるな三人とも。こういった空気にも慣れていないせいか、胃の辺りがキリキリ痛むのだが。

 

 

 

「恐らく花園が今感じているであろう差異は、そこにあるものだと思う。」

 

「…だーりん。」

 

「…何だね。」

 

「私逆だと思ってた。ごめんね?」

 

「へっ?」

 

「おっかないほうが素だと思ってた。間違えちった☆」

 

 

 

おい。

そんなおどけた様子で舌を出しても許されないからな。この緊張感どうしてくれる。

 

 

 

「……なぁ母さん。」

 

「…えぇ。」

 

 

 

目を合わせ、頷き合う二人。

少しの間を明け、意を決したように向き合う親父。

 

 

 

「実はな…。」

 

「うん……。」

 

「お前が中学に入った頃かな。…"ツンデレ"というものが流行っただろう。」

 

 

 

ん??何の話だ。

 

 

 

「息子が思春期に突入するタイミングでなぁ。母さんと話し合ったんだ。」

 

「ここから急に、二人してツンデレを演じたら息子はどういう反応をするのか。ってね。」

 

「あ?」

 

「どうだ?見事なツンっぷりだったろ。」

 

「ツンデレを何と勘違いしてんだ!…そして演技が下手!!

 ただの冷め切った家庭だったぞ!」

 

 

 

ドヤ顔やめろクソ親父。

 

 

 

「確かに下手かもしれないけど…お父さんは。」

 

「なっ!?母さんもどっこいだったろ!」

 

「…まぁ、それにしてもアンタもアンタよ。

 すっっっっかり不良息子みたいになっちゃって。」

 

 

 

なるだろうそりゃ。ある日朝起きたら無視だぞ。

前日まで普通に会話してた家族が、おはようとお休みしか言わなくなったら誰でもこうなる。

 

 

 

「いやいや……え、じゃあ何?馬鹿な両親とそれに気づかないアホな息子の茶番ってこと??」

 

「だーりん、こーゆーのは馬鹿じゃなくてお茶目っていう。」

 

「ちょっと黙ってようか今ややこしいから。」

 

「お茶目?お茶目いいじゃない!ね?お父さん。」

 

「おぉ!いいなぁお茶目なパパ!気に入ったぞ!!」

 

 

 

目ぇ輝かせて何言ってんだこのおっさん。

 

 

 

「でもね、ぱぱとままも悪いよ?

 …ちょっとだけ、だーりんがかわいそう。」

 

「ちょっとだけて…」

 

「おたえちゃん……」

 

「だからこれからは、ちゃんと普通にしてあげて?

 じゃないと私、もうここに来ない。」

 

「そ、それは困るよぉおたえちゃん!!毎日でもパパに会いに来てくれぇ!!」

 

「そうよ!もう変な演技しないからぁ!」

 

 

 

あんたら、花園に支配されすぎだぞ。影響の凄さに引くわ。

あと、何ウチに来る前提で話してんだ。来るなよ。

 

 

 

「花園……。」

 

「う?…だーりん?感動した?嬉しかった?」

 

「…こんな時間にアポ無しで来るのはどうかと思うがね。

 …まぁ、家の誤解問題を解決してくれたことには素直に感謝しようかと思っている。」

 

「…すきになった?」

 

「元より嫌いだとは言っていないだろう。好きでもないやつの面倒なんか誰が見るか。」

 

 

 

ずっとただの知り合いだと思っていたがな。

気づけば大事な友人くらいにはなっていたということか。

 

 

 

「ぱぱーままー!だーりんが私のこと好きだって!」

 

「よかったわねぇ…。これからも、○○のこと宜しくね??おたえちゃん。」

 

「アイツ、どうせ友達もあんまり居ないんだろ?あんなんだし。

 おたえちゃんが面倒見てやってくれなぁ。」

 

「引き受けた!!」

 

 

 

……変人ってのは伝染するウイルスか何かなのか。それともこれが本来のウチの姿なのだろうか。

どのみち勘弁して欲しいが、花園に出逢った時点で何かしら運命は動いてしまったんだろう。

 

 

 

「もうどうにでもなれ……。」

 

 

 

 




狂気は伝染する…。




<今回の設定更新>

○○:家庭のあまりの居心地の悪さに人格が乖離していた模様。
   今後はうまいこと両方を出していくそう。

たえ:頭のおかしさがいい方向に働いた。
   一歩間違えば家庭崩壊に止めを刺す事態になっていたことは敢えて言うまい。
   かわいい。

パパ:お茶目。娘が欲しかった。

ママ:意外と辛辣。娘が欲しかった。

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