BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「だーりんっ。」
「……学校でまでそう呼ぶなと言ったろうに。」
昼間。平日は当然学校がある。学生だからね。
そしてこの困った天然さんも当然のようにボクの机に駆け寄ってくる。信じられるか?これが休み時間の度に繰り返されるんだよ。
「だーりんだーりんっ。休み時間だよ。」
「知ってるとも。前の休み時間もそう言っていたろう。」
「ぅ?そーだっけ。」
「…この鳥頭め。」
他に絡みに行けそうな友達は…いないのか。まぁ学校でも陰口か嘲笑しか受けないようなボクが言えたことじゃないが。
学校の弾かれ者同士がこうして一緒にいることはある意味自明の理、それはそれで違和感を覚えることでもないんだが…。
「それでも君は近すぎるんだよ…。」
「??だーりん恥ずかしがり屋??」
「違う。違うから膝の上から降りなさい。」
「やだー。」
「…やだじゃありません。みんなもいる教室なんだから、騒いだら迷惑になることくらいわかると思うがね?」
「……じゃぁ、誰もいないとこ行く?」
「行きません。」
何処に連れて行くつもりだというのだね君は。学校で誰も居ないところなんか…まぁ無くても作れるんだったか。
彼女のギターは人を惹きつける。そして文字通り引き付けた後、猛烈な飽食感のような物を与えてしまい、その結果人々を遠ざけることになるのだ。吹き戻しの逆のようなものだね。
恐らく、彼女がギターを掻き鳴らしていくにつれて自分に酔ってしまい、観客の事などお構いなしに一人盛り上がってしまうからであろうな。
「だーりん…」
「…まだいたのかね。早く自分の席へお戻り。」
「はぁい……。」
全く。
あの我が家での一件以降本格的にべったり付き纏うようになった花園。まさかクソ親父が言っていた「面倒見てやって」を本気で受け止めているわけではあるまいな?もしそうだとしたら…本気で勘弁願いたいところだ、が。
すごすごと自分の席を目指す丸い背中に若干の罪悪感こそ覚えたが、それはそれ。あいつは甘やかすとつけあがるんだ。
…外野が騒がしいな。そんなにボクみたいなハブられ者が
内心苛立ちを覚えつつ次の授業の用意をする。
**
授業中は少し気が落ち着く。花園が絡んでこないことも大きいが、何より周りの人間の関心が授業に向けられるからだ。
下手に揶揄われたり弄られたりする休み時間よりよっぽど平和な一時である。…とは言え、急に自習になんぞなろうものなら途端に混沌とした状況が作られるわけで…
「…おい〇〇。」
「…何だね。」
ええと、この男は誰だったか…。
前の席の坊主頭の男子生徒が椅子を傾けて此方へ身を乗り出してくる。やめ給え、それ以上は僕のテリトリーぞ。
「お前さ、花園と仲いいじゃん?」
「……はて、何の事だか。」
「いやいや!あれだけベタベタくっ付いててそれはないぜ!!」
「そうかい。で?要件は端的に纏め給え。」
「はっははは!!お前は相変わらずクールだな!
…実はさ、俺の知り合いで花園が気になっちゃってる奴がいてな?…まぁアイツはアイツで変わったやつなんだが…」
「…成程。惹き合わせる助力を申し出たいという事かね?」
「…そこまで言うつもりはなかったんだけど…なに、協力してくれんの?」
「断る。」
「…そっかぁ…。やっぱさ、お前ら付き合ってんの?」
「………そう見える?」
「あぁ見えるさ。…だってお前、教室で堂々と「だーりんだーりん」っていちゃついてて、さっきなんか自然に膝にまで乗せてたろ?
ありゃ恋人同士のスキンシップか、兄妹とかそういう身内のレベルだぞ。」
「……そうか。そういう、ものか。」
やはりそう見えていたのか。
案外そういう状態の人間というのは、周りは見えていても自分たちの状況が一番見えていないからな。何とやらは盲目ってやつだろうか。
「…なに、自覚なかったんか?」
「まぁ…ボク自身女性と接するのも初めてでね。適切な距離というか、そういったものがまるで分からないんだ。」
「……勿体ねぇな…。他の女の子たちに相談してみたらどうだ?」
「何を。」
「どうやったら女の子と仲良くなれますかーって。」
「……えぇ…。」
何だそれ。そんな結果が見えていることするわけなかろうに。何を言っているんだこのハゲは。
「坊主頭はハゲじゃねえからな。野球部なんだから仕方ねえだろ。」
「まだ何も言ってないだろう。」
「顔見りゃわかんだよ。」
「侮れないハゲだ。」
「言ってんじゃねえか!…ちゃんと名前で呼べ。」
「名前?…知らんが。」
「マジかよ。ずっと前に座ってただろうが。」
「だから頭の情報しかないんじゃないか?」
「……くそ、口じゃ敵わんな。…
「矢口…矢口…。まぁ気が向いたらそう呼ぶことにするよ。」
「気が向かなくても呼べや…。」
矢口という目の前の男。会話を交わしたのは初めてだったが、存外悪い奴ではないのかもしれない。それよりも、最初話しかけてきた目的であろう友人の件は良いのだろうか。
「あぁ、それな。蓋を開けてみりゃお前の方が面白そうな気がしてよ。
お前と花園を観察することにしたからいいんだ。」
「…そんなにボクは顔に出ているか。」
「おう。」
「そうか。」
「…っと、話し込んじまったな。この授業も終わりみてえだ。」
「ふむ。」
「進捗教えろよ?」
「まぁ、気が向いたらな。」
**
「だーりんっ、お昼だよ。」
「知ってる。」
「う?……お弁当は?」
「…あるけど。」
「私の。」
「…………あるけど、何故それを知っているんだね。」
朝お袋が渡してきた包みは二つ。明らかにボクの分ではない大きめの包みは「おたえちゃんの分」だそうなんだが…。
あぁ、そうそう。お袋とはあの後しっかり話す時間を設けて和解した。はず。
…まぁ、ボクが何かしたわけではないし、あそこまで謝り倒されると許さない訳にはいかなくて。結局、これからは普通に母親らしく振舞ってほしいということは伝えたのだ。
花園を娘と思えとは言ってないんだがな。
「ままから聞いた!」
「弁当があると?」
「うん!いっぱい食べてって!」
「ふーん…。」
「はいっ。」
ボクの渡した弁当箱をもぞもぞするのを一旦止めた花園も何やら包みを渡してくる。
「…や、ボクのはあるんだけど。」
「これね、私のお母さんからだーりんにって。」
「何故?」
「なんか、娘がいつもお世話になってるからって言ってた。
…ムスメってなに?」
「この場合君の事だと思うよ。」
流石にそこは分かってくれ。…にしてもお世話に、か。何だかんだ救われてるのはボクなんだがな。
「だーりん、お弁当ちっちゃいから。」
「あぁ、小食でね。」
「だからもう一個入るよねっ。」
「…相変わらず通じないなぁ。」
はぁ…最近何をしててもやけに陰口叩かれるな。そんなに文句あるなら直接言ってくれたらいいのに。
それも決まって女性陣と来たもんだ。矢口はああ言うが、相談なんかしても気味悪がられて逃げられるだけだと思うんだよな。
「だーりんもてもて?」
「はぁ?」
「私いらない??」
「ええと、何の話だ。」
「だって、周りの女の子たち、すごいよ。」
「あぁ、気にしなくていいのだよ。あれは陰でこそこそ悪口を言っているだけなのだから。」
「う??…悪口じゃないよ。」
「そーかい。」
花園の言ってることだし、きっと聞き間違いか何かだろ。ボクにはもう嫌味にしか聞こえない。
「…ぅー。話聞いてくれないだーりん嫌い。」
「君が言うかね。」
「……あ、このマカロニおいしい…。」
「…それチクワブだぞ。」
「要らない?」
「チクワブ?」
「私。」
「何故?」
「もてもてだから。」
「モテモテじゃないし君も要らなくない。以上。黙ってお食べ。」
「要らなくない?本当?ずっと構ってくれる?」
何だ今日はやけに食い下がるじゃないか。
そんなに周りの言葉が気になるかね。嫌味だと言ってるだろうが。
「…あのねえ。まず前提条件としてだね?ボクはこのクラスで浮いている。とてもじゃないが他人と仲良くできていない。」
「うん。」
「絡んでくるのも君一人だし、…あぁ、まあ矢口みたいな例外はあるか。」
「……呼んでない!!!」
入ってくるなハg…坊主。
「だからその、モテモテなんてのも程遠い話だし、今のボクには君しか居ない。
君が不要になるなんて有り得ない。いいね?」
「ほんと?」
「勿論。ボクが嘘をついたことがあったかい?」
「うん。いっぱいあった。」
「あったね。」
「……でも、今はだーりんを信用することにする。」
「そうしてくれると助かるなぁ。」
「うん。…だーりん?」
「…なんだい。」
「大好き。」
「…………。」
「…………。」
「……そんなにチクワブ気に入ったの?」
「マカロニ大好き!!」
横目で見ているなら気付いただろう、矢口。
こういう子だもんなぁ。
だーりん。
<今回の設定更新>
〇〇:もう逃れられない。
少し被害妄想強めというか、人間を信用していない節がある。
たえ:「ぱぱとままにお願いされたからだーりんの面倒見てます」とか思ってそう。
飼っている兎の面倒を見なくなってきた。
というか家に居ない。
矢口:大体クラスに一人はいるよねっていう底抜けに明るいムードメーカー。
強面だが良い奴。趣味は四つ葉のクローバー集め。