BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「しっかし、相変わらずよく食べるな…」
深夜のファミレス。
何故か向かいに座らずに隣で黙々と葉を咀嚼する花園に、呆れつつも最早感心を覚える。この細い体のどこに収納されていくというのか……いや、そもそもこいつの体内に胃袋とそれ以外で境界があるのだろうか。
もしや体中全てが胃袋で…
「??だーりんもきゃべつたべる?」
「いりません。ボクはボクの分を食べ終わったからね。」
花園は追加で注文した三種のサラダをまるで"三角食べ"でもするかのように楽しんでいるが、ボクはとうの昔に注文分の食事を終えている。とは言え、現状急に食べることになったフライドポテトをゆっくり噛み締めているわけなのだが。
はて、食事を終えているのにポテトとな?…要はこの胃袋馬鹿がアホみたいに注文をかました後に「やっぱいらないや」と言った分を押し付けられたのである。
「……あっ」
「今度は何かね?」
「今日、私」
「サラダしか注文してないのは知ってるよ。…全種類制覇するんだって意気込んでたじゃないか。」
「う?そーだっけ?」
「さっきまでの君も同じ花園であるならそうだったよ。」
入店する直前から「今日は全ての葉物を制覇するんだ」と息巻いていた花園。彼女はどうやら、食べ始めると全脳機能を食事に回してしまうタイプの新人類らしい。
「ぴんぽーん!」
「あぁもう、今度は何を注文する気なんだ…。」
少し目を離すとすぐに追加注文をしようとする。食べ終わってからにしろと再三言っているのにこれだもんなぁ。
「…あっ、ええと、このページのこっち側ください!」
「」
ページ注文…だと?
花園が開いているのはパスタのページ。色とりどりのスパゲッティ達が食欲を唆る見開きではあるが…。
少なくとも六~七皿は見えたぞ?…わぁ、店員のお姉さんも中々見られないような焦り方をしている。一生懸命一品ずつ読み上げる店員さんが不憫でならないが、食を前にした花園は止められないんだ…南無。
「ふっふーんっ♪…たのしみ。」
「さいですか…まぁ残さないでおたべ。」
「おたべ?…ちっちっ、私は「おたえ」。」
「そのギャグ気に入ってんの?」
近い言葉を聞くや否や必ず言い返してくるその流れ。彼女と共に過ごすようになって幾度と経験したその流れだが…マジなのかギャグなのか今だにわからないほど彼女の瞳は真剣なのだ。
何にせよ、ボクの問いに花園が答えてくれたことは無い。
「…ぅぷ。流石にこれだけ食べれば腹も膨れるってもんだ。」
「わぉ、全部食べたの?えらいねぇ。」
「君は…なんだかなぁ。」
まるで他人事のようにへらへらと笑う花園。こら、男の頭を撫でるんじゃない。
君が頼みすぎたせいでボクがこうなっているってことをもう少し自覚して欲しいものだね。
「お、お待たせしましたー。」
そんな中、引き攣った笑顔を浮かべた店員のお姉さんが大量にパスタ皿を載せたカートを押して登場した。…おぉ、黒い制服も相まってどこぞの火車のようだ。
「待ちましたぁ!」
「花園、そういうのいいから。」
「ええと、これはどちらに…」
「あぁ、全部このこの前に並べちゃってください。」
「は、はぁ…。」
そりゃそうだ。いたずらか何かだと思っているだろうね。
料理を残されると手間や廃棄物が増える分店舗にも迷惑がかかるわけだし…当然初期の頃は注意されたり断られたりした。だが、すっかり常連となった今ではどんなに周りがざわつこうが料理を出すようになったのである。
…いやな信頼を勝ち取ったものだ。
「うわぁ…!」
「それ食べたら帰るからね。」
「うん!私、残さないで食べるからねっ!」
「残さないのは知ってるが…まあいいや、おたべ。」
「う?…だから、「おたべ」じゃなくて」
「たえ、早く食べて早く帰ろ?もう遅いし。」
「!!…うんっ!」
何が嬉しいのか、いつもより二割増くらいのスピードで掻き込み始める花園。…そんなに空腹だったのだろうか?全てのサラダまで平らげたあとだというのに。
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「ごちそーさまでしたっ!」
「はいはい。満足したかい?」
「うんっ!かーえろっ!」
食事一つで騒々しいやつめ…。
おたべ。
<今回の設定更新>
○○:見ているだけで腹が膨れるのか、最近小食になりつつあるとのこと。
やせ型。
たえ:名前を呼ばれるのが嬉しい。それだけで舞い上がっちゃうらしい。
基本やせ型。