BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「うなー。つーかーれーたー。」
「またか。ったく、今日何度目だよ…。」
「まぁまぁ、その辺でちょっと休憩でもしたらいいじゃないっスかー。」
いつもと違い無駄に活気溢れる校内を歩く。両サイドには、重りのように引き摺られる後輩と同級生のメガネ。
後輩の方は食べる量に比べて恐ろしく燃費が悪いらしく、少し移動しては鳴きまた移動しては鳴きを繰り返していた。その度に麻弥が休憩できそうなスポットを見つけてきて…って、これじゃあ何のために登校してるんだかわからんな。
そもそも俺が折角の休みの日にこんなところに居る理由。それは、先の文化祭談議の際、何だかんだで一緒に回ると押し切られてしまったところにあった。…まさか二人して俺を拘束してくるとは。
「せーんぱーい。」
「……なんだよ。」
「もう帰るー?」
「もう飽きたのか。」
「うなー。そうじゃないけどー、疲れたっていうかー。」
「はいはい。麻弥は?お前も飽きたとか抜かすんじゃないよな?」
ベンチに四肢を投げ出し、人の膝を枕代わりにして寛ぐ青葉はもう放っておくとして、隣のクラスメイトはどうだろう。まさか飽きたってことはないだろうけど、コイツはコイツで人や物事に関心ない奴だからなぁ…。
「うえっ!?ジブンっすか?……うーん。元より、これと言って見たいものとかは無かったんですよねぇ。」
「……じゃあ、何で来たんだよ。」
「それはほら、〇〇さんを公の場に連れ出すという使命の為というか。」
「余計なお世話だ。」
「うっ……じゃ、じゃあ、〇〇さんと?一緒に居たかった?的な?…フヘヘヘ。」
「思い付きで喋ってんじゃねえよ。」
「…割と本気なんですけどね…。」
本気でも色々困るわ。クラスメイトに登校日以外の時間会いたいとは思わんだろ、普通。……と、こんな話をしている最中だというのに、膝の上の青葉はフリーダムさをこれでもかと出してくる。
「せーんぱーい。せんぱいの鞄、美味しいものの一つも入ってないんだねー。」
「勝手に漁んなこのバカちんが。…そもそも鞄に美味いものが入ってるってどんな状況だよ。」
「うなー?」
「どれどれ……おぉ、フリ〇クが入ってるじゃないですかぁ!青葉さんこれはどうです?」
青葉にチョップをかましている間に俺の鞄は麻弥の手に。だから何故そう勝手に漁る。
ごそごそとフ〇スクを取り出した麻弥は軽快な動きで2,3粒掌に出し、そのまま青葉の口元へ…と思いきやそのまま突っ込んだ!!
直後まるでバネのように跳ね起きた青葉は、未だかつて見たことが無いほどの素早さでソレを吐き捨てた。まるでタネマシンガンの様だ…。
「なんじゃこりゃー?…お口がすーすーしますなぁー。」
体はそれだけの反射を見せているのに、相変わらず平坦な声で喋るんだなおい。
「つーかここ屋内な。廊下に唾を吐くなお前は。一昔前の不良かよ。」
「だってすっごく変な味…あ。」
吐き出した方へとてとてと歩いて行った青葉は、無残にも吐き捨てられている白い粒を拾い上げ…
…俺の口元へ。
「きったねえな。なんだよ。」
「せんぱいも食べてみればー?すーすー。」
「いやもう色々な意味で汚過ぎだから。」
「食べ物を粗末にするのはよくないっすよ?〇〇さん。」
「お前が原因だろうが!」
「てへぺろっす。」
「てへっ」とお茶目な顔をしつつ「ぺろっ」と舌を出して可愛らしさをアピールするのが本物の「てへぺろ」だとするならば麻弥のそれは…。
「それじゃあただ真顔で舌を見せびらかす奴じゃねえか。もうちょっと何かないのか。」
「無いっす。」
「じゃあもうどうでもいいや…。」
俺達は一体何をしているんだろうか。文化祭に来たというのに自分のクラスに立ち寄るわけでもなければ催しや展示物を見て回るわけでもない。
少しずつ休憩所を経由しつつこんな感じでダラダラ過ごしているだけだ。こんなことをしていて、何かが起こるとも思えないし…。
「…帰るか。」
「うなーっ!賛成ー!」
「〇〇さんがそうしたいならそれで…。」
こうして高校2年の文化祭は終了した。
**
で今に至るって訳だ。
あの後特に予定も決まっていなかった俺は、何となくまだ一緒に居たい的なムードを醸し出す女性陣に引っ張られるままショッピングモールをうろついていた。
やはり本物の商業施設ということで売り物もテナントもクォリティが違う。そのためか、二人とも偉く元気だ。
「〇〇さんっ!次はあのお店いきましょーよ!!」
「麻弥…テンションたっけぇな…。」
「フヘヘヘッ!!学生風情のしょーもない出し物より俄然盛り上がるってもんっす!」
「口わっる。」
まぁた悪い部分が出てるぞ。麻弥は普段猫を被っている。…いや、猫を被ってアレなのかっていう声もわかるが、恐らく素の部分をどんどんプッシュしていくともっと孤立してしまうだろうな。…言葉選びが悪すぎるんだあいつは。
俺は別に気にしちゃいないが、そのオタクっぽさと面倒くさそうな雰囲気から麻弥を敬遠する奴は少なくない。まぁ、麻弥本人が然程他人に執着しないのがせめてもの救いか。お陰で何かと俺に付きまとってくるんだが。
「むーっ、むーっ!」
「なんだなんだ…引っ張らないで口でちゃんと言え、青葉。」
颯爽と姿を消した麻弥を見送り佇んでいると隣の青葉にこれでもかと袖を引っ張られる。
「せんぱーい。あれ、あれやろー!」
「どれ。」
「んっ!」
びしっ!と指差す方には人が入れるほどの箱が幾つか……。プリクラか。
玄関近くにアミューズメント施設を置くモールってのも斬新だなぁ。
「プリクラ…撮りたいのか?」
「うなー。」
「よし、百円あげるから行ってこい。」
「……う?」
「……え、百円じゃねえの、一回。」
「うーなー……。」
「えー…何で俺まで…。ハズいじゃん。」
「うなー!うーなーっ!」
「わかったわかった…お前は人の服をなんだと思ってんだ…。」
「うなぁ。」
青葉の説得に負けて渋々簡易個室へ。うわぁ、機械が話しかけてくるぞ…。
青葉、そんなにワクワクしちゃって…すっげぇ髪直してる。ってかさ、今のプリクラって四百円もかかんの?マジの写真じゃん…。
「…コースとかよくわかんないんだけどさ。お前やってくれよ。」
「えぇぇー。プリクラくらい触れないと今時モテませんぞー。」
「求めてねえからいいんだよ。」
「仕方のないせんぱいだー。……ええと、これとこれのー…こっちにしてー…ぁ、こんなのも……んふふ、美白にしちゃおー。」
一人でブツブツ言いながら軽快なタップで進んでいく。さっきから移り変わる画面を見てはいるが、全く以て意味がわからない。
いいじゃんもう、お金入れたらはいシャッターで。
「ぅお、始まったのか。」
「せんぱーい、最初は仲良しのポーズー。」
「何だ仲良しのポーズって…。」
言いながら俺の左手を開かせてくる。開いた指と指の隙間に青葉の指を挟み込むように差し入れ、そのまま握った手を掲げて。
「…これで仲良し?」
「うなー、せんぱい笑ってー」
「こ、こうか?」
眠そうな目のまま顔をキメる青葉とぎこちなく口角だけを釣り上げる俺。自分の様子を確認できるモニターにはそこそこ気色悪い絵面が…うぁっ!あぁシャッターか。
「えっ、ファイティングポーズって格好いいか?」
「やー!とー!」
「痛い痛い痛い痛い!実際に蹴るバカがどこにいんだ!」
「うなー。」
「お返しだっ!」
シャッターの瞬間。恐らく中々に躍動感のある戦闘シーンが撮れていただろう。マジで鳩尾に食らってたしな。
「せんぱーい、次はらぶらぶのポーズー。」
「わけがわからない」
「ぎゅーってしよー?」
「いつもやってると思うけど、あれってラブラブだったのか。」
「ぎゅー。」
「はいはい、ぎゅー。」
抱き合うような格好の二人を横から撮る形になる。…これがプリントされて残るの、まずくない?
「唐突…。」
「ロック!…モカちゃんはぁ、かき鳴らしますぅ。」
「俺は一体…。」
「せんぱいはねー、格好いいと思うポーズとってたらいいよー。」
「はぁ。…こんな感じか。」
閃光。……あ、これ何となくやったポーズだけど、冷静に考えてみたらクラークさんのポーズだ。
別に格好良くねえし。
「急に指示が雑!」
「うなー、せんぱい、だっこー。」
「またぎゅーってやつか?」
「んーん。お姫様のやつ。」
「えぇ…お前重いじゃん。」
「はーやーくーっ!」
結果押し切られる形で青葉を抱え上げ、上機嫌な青葉はダブルピース。お前、笑えんのかよ。
その後隣のブースに移動し、落書きをするらしい。わざわざ特設ブースがあるのか…。
ここでも、喜々として青葉がペンを奮っているためそれをぼーっと眺めて過ごす。何か書けとは言われたが特に書く事もないので、豚のスタンプを押しておいた。
…プリントには少し時間がかかるらしいし、何しろ慣れないことをやらされたせいで酷く疲れた。…近くのベンチで待機しよう…。
「んふふー。せんぱいとー、プリクラとっちゃったー。」
「結構ハードなのな。」
「これはー、みんなに自慢するのでーす。」
「みんな?」
「蘭とー、ひーちゃんとー、つぐとー、トモちんー。」
「あぁいつもの連中か…。…まて、それ俺も写ってるよな?」
「デート記念ー。」
「デートじゃねえよ。」
「うなー。」
俺をバラ撒くんじゃないよ…。
俺はあんまり面識あるわけじゃないんだから。
「あ、でたー。」
「とってきな。」
「うなー。」
取り出し口を覗き込み小刻みに体を揺らす青葉。わくわくしすぎだろ、さっきプレビュー見たじゃないか。
落ちてきた紙をハサミで切り分け、片割れを渡してくる。
「はいどーぞー!」
「…いや別にいらな」
「どーぞー。」
「あぁ…。」
特に欲しくはなかったがくれるというのでもらっておいた。まぁ、青葉も満足そうだしいいか。
「もう気は済んだか?」
「うんー。つかれたー。」
「……帰るか。」
何か忘れているような気もするが、休日に疲労がたまるというのもバカバカしいので帰ることにした。
帰りも青葉がベタベタと暑苦しかったが、それ以外特筆するようなことはなかった。
どうしてもモカちゃんに寄っちゃうなぁ…。
<今回の設定更新>
○○:羨ましいやつ。モカのことは猫か何かだと思って受け流している。
麻弥については恐らく学校一詳しい。
麻弥:あまり人に関心がないのか、ぼっちでも平気なタイプ。
主人公もぼっちだと勝手に思い込んで付き纏っている節がある。
モカ:うなー。うなー?…うなー!!!
可愛い生き物。