BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/24 花園ランドからは逃げられない

 

 

 

「ねえだーりん。」

 

「何だね。」

 

「うふふっ。」

 

「……特に用はない…ということかね?」

 

「えへへへっ。」

 

「………ほら、もうすぐ家だぞ。」

 

「ん、だーりんも寄ってく?」

 

「寄ってかない。」

 

「えー!なんでぇ??」

 

「何でも。」

 

「だーりん、わたし、嫌い?」

 

「嫌いじゃない。」

 

「じゃあ寄ってこ。」

 

「何が「じゃあ」なんだ。」

 

 

 

帰り道、相変わらず謎の多い花園たえを添えて…か。特にピックアップする意味のないこの会話だが、腕を組む前も合わせるともう今日だけで三度目になる。

何が何でも花園家へとボクを誘導したいらしいが、どんな企みがあってのことか。…何も考えていない可能性も大いにあるが。

 

 

 

「だって、そろそろお母さんに紹介しないと。」

 

「紹介ぃ?……君の母君にならば先日会ったと思うがね?」

 

「むぅ。そういう紹介じゃないの。」

 

「……「この人が私のだーりんなの」って、あれ以上の紹介があるかね?」

 

 

 

以前両親と一緒に突然うちを訪ねてきたたえ。何事かと思い萎縮しながら対応したが、結局のところボクを一目見たい両親の願いを叶えてあげた…つまりはそういうことだった。せめてアポイントメントくらい取るべきだと思ったが、何故かウチの両親は歓迎。気付けばすっかり結婚を前提とした家族ぐるみの付き合いが形成されていて…

 

 

 

「おまけに今じゃ連絡もなしに行ったり来たりする仲じゃないか…近い家でもないのに。」

 

「えへへ~、花園ランドの建設は順調でぇす。」

 

「なっ……全て策略の上でか。…とぼけた顔してやりよる。」

 

「だからぁ、今日はだーりんは私のおうちに帰ってくるのー。」

 

「やれやれ……そう遅くならないうちにはお暇するからな?」

 

「んふふ、了解であります。」

 

 

 

まったく。

 

 

 

**

 

 

 

「ただいまー!おかーさーん!」

 

「……。」

 

 

 

あぁ、すっかり慣れた調子でまたこの家の玄関へ上がり込んでしまった。たえの帰宅を感知するや否や集まってくるカーペットのようなウサギの集団を踏まないように乗り越えていくと、リビングではたえの母親がにこにこと出迎えてくれた。

 

 

 

「おかえり、たえちゃん。○○ちゃんも。」

 

「う……お邪魔、しま」

 

「帰ってきたら「ただいま」でしょ?○○ちゃん。」

 

「……た、ただいま。」

 

「あのねー!今日ねー!学校でねー!…」

 

 

 

我が家もそうだが、()という生き物は自分の家族に異物が混入した時には自分の子供のように扱う習性でもあるのだろうか。

花園家の母君…野々絵(ののえ)さんも、すっかりボクを息子のように歓迎?してくれているようで。…いや、そう親切にしてくれるのは勿論嫌じゃない。だが何というか、彼女の場合子供扱いが過ぎるというか…「他人を自分の家族扱いする」には親身すぎるというか。

 

 

 

「ふふふ、今日も○○ちゃんと一緒に過ごしたのねぇ。」

 

「うんっ!だーりんはぁ、ずーっと一緒!!」

 

 

 

何はともあれ、仲睦まじく会話をする母娘というのは見ていて和やかに感じるものがある。見ている分には、だが。

 

 

 

「まぁ!○○ちゃんったらいつまでそこに立ってるの?…こっちに来て、お母さんの隣に座って?」

 

「ぁ…いや、ボクは…。」

 

「だーりん、こっち来てー。」

 

「いやいや…その二人がけのソファに三人目のボクが入るとそれはもう色々な問題に…」

 

「お母さんの言うこと、きけないの?」

 

「そういうわけじゃ……あぁもう!じゃあお邪魔します!」

 

 

 

同じような顔二つに圧をかけられ敢え無く敗北する。どう見ても座る場所なんか見当たらないそのソファの前で、どこに座るべきかと考えあぐねているとたえが立ち上がった。

 

 

 

「んっ!」

 

「いや「ん!」じゃないが。」

 

「あらぁ!一人分空いたわね!」

 

「…………。」

 

 

 

この二人、ボクをどうしたいんだろう。諦めた心持ちでまだ生暖かいスペースに座ると間髪入れずに腿に跨ってくるたえ。

 

 

 

「おま…向かい合わせは無いだろう…。」

 

「だーりん、ぎゅー!!!」

 

「ふふ、それじゃあお母さんも…ぎゅー。」

 

 

 

何なんだこの状況。クラスメイトの家に連れ込まれ、そこの母親と共に文字通り身柄を拘束される。もう何も言う気になれないし、何も考えられない。

ただ一つ言えることがあるとするなら、このどうしようもなくオチの無い状況に誰か終止符を…

 

 

 

「ただーいま。…おっ!」

 

 

 

親父さんっ!!…さて、一般家庭の大黒柱、その家の父親が帰宅して、最初に見る光景が「自分の妻と娘が娘のクラスメイト(男)を抱きしめている」場面だった場合…どんな心境になるだろうか。そして、どんな行動に移るだろうか。

正直なところ、酷く修羅場な場面が起ころうとてそれは少なからず救いになると思った。…のだが。

 

 

 

「おぉなんだ仲良しだなぁ!」

 

「………うっそだろ。」

 

「なんだ、お前までくっついてるのかー?」

 

「ふふ、可愛い息子ですもの。今のうちから可愛がっておかないとね。」

 

「はっはっは!違いない!…○○くん、私はたえの花嫁姿を今か今かと楽しみにしているからね。」

 

「あのねあのねお父さん。私、オッちゃん達くらい子供が欲しいの!」

 

 

 

真面目に言ってんのか。オッちゃん…花園家で飼育している兎達の事だろうが、確か二十羽だったか居たはずだ。…間違いなくウチの親も止めないだろうが、現実問題としてそれはどうなんだ。

というか、それらを生産するための過程を、このとぼけ顔は解っているのだろうか。

 

 

 

「いいわねぇ。私も今から楽しみになってきたわぁ。」

 

「でしょぉ!」

 

「いやその、お母様?」

 

「○○ちゃんは嫌?…二人とも可愛いし、きっと子供たちも可愛いと思うのだけれど…」

 

「そういう問題じゃ…」

 

「あ、そうだ!ねぇあなた?今日は○○ちゃんに泊まっていってもらいましょう?」

 

「ふむ。確かに二十人となると今から準備を始めたほうが…」

 

 

 

おいこらお父さん。自分が何言っているのかわかってるのかね。

 

 

 

「もー、お父さん、そういうのは結婚してからなんだよー。」

 

「お、そうだったかぁ。あっはっはっは!」

 

 

 

あぁ、ダメなんだ。きっとこの家に足を踏み入れてしまった時点で…この家族と関わってしまった時点で、もう逃げられないのであろう。

彼女の言葉を借りるなら「花園ランド」…とんでも無い魔窟である。

 

 

 




そろそろ終わります。




<今回の設定更新>

○○:アウェイなんだかホームなんだか分からないうちに常識を侵食されている。
   半ば諦めてはいるが、特に結婚願望も人間の好き嫌いもないため受け入れている
   ようだ。

たえ:可愛い。
   最近あまりギターを弾いていない気がする。
   お気に入りの場所は主人公の隣と主人公の腿の上。

野々絵:かわいい。
    色々大きいおたえちゃんといったイメージ。
    多分この人も色々破綻している。
    主人公を「本当の息子のように」ではなく「本当の息子だと思い込んで」
    可愛がっているらしい。怖い。

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