BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/02/10 嗚呼、憧れの(終)

 

 

 

最近学校が終わって家に帰ってみれば物凄く眠い。まさに睡魔という奴だろうが、その名に恥じぬ悪魔の如き眠気である。

それをうっかりたえに知られてしまっただけに余計に性質が悪い…今ではすっかり、「だーりんの快眠は私が守る」とか張り切って、何ならボクより先にベッドに潜り込み待っているんだから。

 

 

 

「だーりん、おーいで。」

 

 

 

おわかりいただけるだろうか。ベッドで横たわり掛け布団を持ち上げ、何故だかドヤ顔風味で誘いをかけてくるのである。

そしてさらに困ったことに…

 

 

 

「ん…じゃあ、今日も宜しく。」

 

「うぇるかむ花園らんど・いんだーりんべっどぉ。」

 

 

 

これがまた心地よく感じるようになってきたのである。前仕方なしに一緒に寝た時には全く以て心が休まることなぞ無かったのだが、最近はどうした事か、こうしてたえと体を密着させて体温と鼓動を感じながら意識を手放すことに得も言われぬ快感を見出したような気がする。

 

 

 

「ふふっ、だーりん赤ちゃんみたい」

 

「赤ちゃんかぁ」

 

「ばぶばぶー」

 

「……そうなのかなぁ。」

 

「言って。」

 

「なにを。」

 

「ばぶー」

 

「……ばぶー…」

 

「よくできました!」

 

 

 

しゅしゅしゅしゅ…と火でも起こせそうな勢いで後頭部を撫で上げられる。何故ボクを赤ちゃん扱いしたかったのかは分かったもんじゃないが、成程確かにこの状況は寝かしつけられる子供のように見えなくもない。

…決してそういうプレイが好きな訳では無いからな。

 

 

 

「だーりん。」

 

「ん。」

 

「私ね、だーりんと過ごす様になって、すっごくすっごく楽しいんだぁ。」

 

「へぇ。」

 

「だーりんはどうして私と一緒に居てくれるの??」

 

 

 

彼女は何時だって突然だ。脳みそ直で喋ってんだろうな。

そしてあまりに広義で核心の掴め無い質問。時には哲学の話と錯覚してしまうようなことも投げ掛けてくる。

 

 

 

「……たえは目が離せないからね。退屈しなくて済むのさ。」

 

「退屈しのぎなの?」

 

「そう言う訳じゃないさ。…ただその、面白いし何してる時でもつい見ていたくなってしまうというか…。」

 

 

 

面白いと言っても笑えるという意味ではなく、興味を惹かれるというか、意識を持って行かれるというか。

兎に角、いつの間にかボクの視界には彼女が居ることが当たり前になっていたわけで、態々一緒に過ごそうとせずともそういう風に()()()()()()かのように身を任せているだけなのである。

 

 

 

「ふーん。」

 

「ふーん、て…」

 

「私ね、だーりんがすきだよ。」

 

「今更だな。」

 

「そうかな。」

 

「そうだよ。たえがボクのことを好きだって、前々から分かっていた事さ。」

 

 

 

両親に引合されるところまで行っているんだ、気付かないはずもないだろう。おまけにたえがボク以外の誰かと一緒に居るところなぞ見たことも無い。

そもそも普段から好き好き言ってくるからな、この子は。

 

 

 

「じゃあさ。」

 

「うん?」

 

「私がだーりんのこと好きって知ってるのに、どうしてずっと一緒に居てくれたの??」

 

「え。」

 

 

 

何が訊きたいのだろうか。そんな問答をしている間にも、たえの柔らかさと温もりと甘い香りに包まれているボクの意識はどんどん落ちて行ってしまっているのだが…

元からの眠気も相まって頭が回らない。…背中に回された腕に込める力を強められ、よりたえの体に密着する。あぁだめだ、クラクラして今すぐにでも眠ってしまいそう。

 

 

 

「……どうしてかはわからないが、たえと一緒に居ると楽なんだよ。」

 

「…らく?」

 

「ああ。…力を入れなくていいって言うか、素で居られるって言うか。…居心地がいいんだ、こうしてると。」

 

「……んっ」

 

 

 

たえの脇の下から腕を回し思い切り抱きついてみる。触れ合っている部分もかなりの面積を占め、その何処もが熱く熱を持っていた。

小さく声を漏らすたえの顔を見ようと、埋めている胸から頭を離し少し上へとずり上がる…と、至近距離に来る彼女のふにゃりとした表情。

 

 

 

「……それじゃあ、だーりんとずっと一緒に居てあげてもいいよ。」

 

「………それもいいな。」

 

「お父さんとお母さんもね、結婚するんならいつでも大歓迎だよーって言ってたよ。だーりんなら。」

 

「既に結婚前提の仲だったのかぁ。」

 

「やだ?」

 

「やじゃないよ。」

 

「よかった。」

 

「うん。」

 

 

 

たえも眠いのだろうか。掛け布団の上で自由になっている片手で相変わらずボクの頭を撫でつつふにゃふにゃふわふわといった表情と雰囲気で、まるで寝言の様に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「私もね、だーりんと一緒に居るとすっごく幸せなんだぁ。」

 

「そっか。…どれくらい?」

 

「んとね。……暫くギターは弾かなくても良いかなーってくらいかな。」

 

 

 

それは大したものだ。あのギターに触れている間は五感がほぼ死滅するレベルの集中力を見せるたえが。

 

 

 

「たえ、眠いんだろう。」

 

「うゅ……ふわわーってする。」

 

「暫く一緒に寝よか。」

 

「そうするぅ………へへへっ、あったかいねぇ。」

 

「落ち着くなぁ。」

 

 

 

叶うならば、もう暫くこのまま。

 

 

 

「なぁたえ。」

 

「んぅ?」

 

「……ボクの、恋人になってはもらえないか。」

 

 

 

おかしな話だ。関係性の逆転現象を起こそうとしている。

両家公認で、婚姻関係でさえも何のハードル無しに結べるような環境下にありながら、敢えて前のステップを踏もうと言うのだから。

正直()()()()()()()()

 

 

 

「えへへへ、だーりん、私のこと好きになっちゃったのー?」

 

「……心外だな。ボクは最初から君が好きだったんだよ。」

 

 

 

それもいいじゃないか。

意味が分からなくて不思議で、掴み処の無い君がずっと好きだったんだから。

 

 

 

おわり

 

 

 




花園たえ編、完結になります。
ご愛読ありがとうございました。




<今回の設定更新>

○○:どうやらずっと両思いだったらしい。
   ただお互い人間として特殊過ぎた為によく分からない関係のままここまで
   来てしまった。
   抱くより抱かれる方が好きらしい。

たえ:どんどん幼児退行が進んだのは好きの気持ちを隠さなくなっていった事により
   甘え方が過激になって行ったためだと思われる。
   その癖主人公が素直に接していると甘やかしたい欲求が湧いてくるとか。
   ギターはもう、弾かない。

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