BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【宇田川あこ】中二病の天災 - MasterKiller -【完結】
2019/08/28 混沌の堕天使 <Angelo Anakumana>


 

俺の名前は○○。

日々この学校のため、そして可愛い生徒たちの為に奮闘する一人の高校教師である。

好きなものは生徒たちの笑顔。…それに仕事終わりの一杯かな。

あとはこの、放課後の静かな事務作業も意外と好きだったりする。

勿論、事務作業が好きで教師になったとかそういうわけじゃない。現に今だって一人の生徒の面談を待っているんだが…。

 

 

 

「いやに遅いな…。もっかい放送かけるか…?」

 

 

 

時刻はそろそろ夕方の五時を回ろうとしている。

放課後すぐ来るように、とあれだけしつこく言ったはずなのに…。

このまま待っていても色々心配だ。機材まで辿り着くのが少々手間だが、もう一度だけ呼び出しとこう…。

 

 

 

「唯一の通路が教材で埋まってるんだよな…。…これをどかして…あぁ、佐藤先生、机一旦お借りします…。」

 

 

 

体育教諭の佐藤先生の机へ一旦教材をどかして…と。ほかの先生に比べて抱く罪悪感が軽くて済むなぁ佐藤先生は。

元から机ぐっちゃぐちゃだしな。…どうやったらノートパソコンの背中部分に米粒がつくんだ…?

 

 

 

「…んん"っ。…えー。1年A組、宇田川。…1年A組、宇田川。…至急職員室まで来なさい。

 …っと。」

 

 

 

さて。

また明日の指導案を練る作業に戻…

 

 

バァン!

 

 

「疾風怒濤の暗黒騎士…またの名を瞬足の堕天使・あこ…

 召喚に従いここに参ったぁ!!」

 

 

 

来たな問題児。

 

 

 

「…最初の予定より二時間近く遅れてる時点で瞬足もへったくれもないんだよなぁ…

 あと、肩書きが多くてごちゃごちゃしすぎだ。」

 

 

 

紫色の髪を高い位置でツインに纏めて、不敵な笑み(本人談)を浮かべている小柄な女子生徒。

…何度言ってもドアを大切に扱ってくれないこいつが、俺の受け持つクラスの一員、宇田川(うだがわ)あこ だ。

格好良いと思い込んでいる痛々しい言葉を用いて話すことがままあり若干面倒な生徒でもある。

 

 

 

「ねーねー、○○っちー。どうしてあこだけ面談なの?」

 

「○○先生、な。…面談の理由は、お前の進路希望が斬新すぎるからだ。」

 

「……せんせぇ…?何か堅苦しくて嫌なんだもん。」

 

「だからって"っち"は違うだろ。」

 

「えー??おねーちゃんだってそう呼ぶじゃん。」

 

「…あれはもう、諦めてる。」

 

 

 

姉。――あこの一つ上の学年、2年A組には(ともえ)という名前の姉がいる。素行が悪いわけではないんだが、人との距離が近すぎるんだアレは…。呼び方に関しては一応注意はしたものの、そもそもの接点がたまの授業だけなので何かもうどうでもいい。

 

 

 

「ずるいなぁおねーちゃん…。」

 

「諦めて先生と呼びなさい。わかったか?」

 

「……うっさいなぁ、ライオット師匠…。」

 

「ッ…!………それは、もっとダメだろう…。」

 

「なんでー?マックだとそうやって呼んでるでしょー?」

 

 

 

マック。――PC・スマートフォン・家庭用ゲーム機のクロスプレイが可能なオンラインゲーム。正式名称は"Mage and Knights"という。ユーザーは頭文字を取ってM.A.K(マック)と呼び親しんでいる。

 

 

 

「だからって、リアルにキャラ名を持ち込むのは御法度だろ…?」

 

「かっこいいのに…。」

 

「いいから普通に先生と呼びなさい。」

 

「はぁい…。」

 

 

 

冒頭のモノローグを修正する必要がありそうだ。

好きなものはオンラインゲームと酒。嫌いなものは仕事だ。

この生徒、宇田川あことの初対面も二年前、ゲームから派生したオフ会で、それ以降ゲーム内でも絡み続けているというわけだ。

…まさかそいつの担任をやることになるとは思わなかったがね。

 

 

 

「お前な、いくら1年生で進路が固まりきっていないからって、これはないだろ。」

 

 

 

それまでずっと立ちっぱなしだった事に気づき、応接用のソファに座らせ自分も向かいの椅子へ。

問題の用紙を机に出す。

 

 

 

「第一希望 国王、第二希望 ドラマー、第三希望 すごい人。……まともに進路っぽいのが唯一第二希望ってどうなんだ?」

 

「えー!?…あこは真面目に書いたのにー。」

 

「まじめに書いてこれだとしたらうちの学校通う必要ねえだろ…。

 日本の教育課程じゃ国王については教えられねえよ。」

 

「そうなのぉ!?」

 

「当たり前だ馬鹿…。それとこの第三希望。…なんつーざっくりした表現だ。」

 

「…飽きちゃったんだもん。」

 

「だろうな。」

 

「でもね、でもね??…おねーちゃんに相談したら、"あこらしくていいんじゃないか!"って…。」

 

 

 

おい宇田川姉…。妹がどうなってもいいんかお前は…。

 

 

 

「…いいか宇田川妹。…進路希望にお前らしさを出す必要はない。

 …いや、必要無くはないが、ある程度のルールの中で個性を出してくれ。」

 

「職業ならいいってこと?」

 

「…まぁ、それでもいいし、やりたいことでもいいし…。」

 

「うーん……。あっ!」

 

「…書き直すか?…ほれ、ペン。」

 

 

 

手ぶらで来やがって…。筆記用具もってこいって言ったろ。

 

 

 

「………………できたっ!」

 

「どれ、見せてみ。」

 

「ふっふっふ……強欲な人間め。聡明なる堕天使こと、このあこ姫様のせん…………せん……ええと、」

 

「いいからはよ寄越せ。」

 

「っあー!まだ最後まで言ってないのに…」

 

 

 

最後まで聞いていると文字通り日が暮れそうだからな。

可愛そうだが油断している左手から文書は頂いたぞ。

…なになに?

 

 

 

「第一希望 ドラムの人、第二希望 今年中に三次転職、第三希望 天皇……。

 もうどこからツッコんで良いやら…。」

 

「…真面目に書いたよ?」

 

「これで真面目だというなら本格的に頭の方を心配せにゃならんのだが…?」

 

「……。結構やばめ?」

 

「やばめ。」

 

「…えー……。」

 

「第一希望はいいとして。…まぁ、さっきドラマーって書けてたろとか言いたいことはあるんだが。

 …第二希望、ゲームのことを書くんじゃないよ。」

 

「だって、やりたいことでもいいって」

 

「だからってこんなこと書かれて、教師陣はどうしてやればいいんだよ…。」

 

「ギフトカード買ってくれるとか?」

 

「買わない。…あと、三次の"じ"って"次"だからな。お前は毎日三時に転職するつもりか?面接で悪い印象しかねえぞ。」

 

「…漢字、苦手なんだもん。」

 

 

 

わからなくはないけどさ。

パソコンに頼った生活してると日本語が浮かばなくなるよな。

俺もこの前片仮名の"ヲ"が出てこなくなったわ。

 

 

 

「じゃあもう少しアナログで文字書く生活を送りなさい。

 それと第三希望。…まぁ国王よりは現実味あるけどよぉ…。」

 

「…そもそも天皇って何?ギルドマスターみたいなもん??」

 

「……oh。」

 

 

 

まずはリアルな日本をちゃんと生きてみようか、あこ。

 

 

 




新シリーズです。
宇田川あこ編、毎回のタイトルで苦労しそうですね。




<今回の設定>

○○:このシリーズお馴染み、名前を呼ばれないタイプの主人公。
   26歳独身、ゲームと酒と惰眠が大好き。
   "冷徹のRIOT"というキャラ名でプレイ中にあこと知り合い、
   彼女の師匠になったのが出逢い。
   ゲーム内ではそこそこ有名なギルドの古参ユーザーとして通っている。
   メインキャラはヒーラー。複数のサブアカウントを持ち、
   学生時代からの知り合いはほぼネット民。
   巴ともそこそこの絡みがあるが…?

あこ:天使…?
   高校1年生。
   NFOもやってはいるが、こちらではMAKという別ゲーをメインでやっているよう。
   キャラ名は変わらず"聖堕天使あこ姫"。空いててよかったね。
   ゲーム内ではまだ新参ながら、癒しキャラとしてすっかりギルドに欠かせない存在に。
   それはそれとして、リアルでは一応Roselia結成済みなので、たまにドラムを叩く。
   直感と運とセンスだけで演奏するタイプ。


MAK:正式名称"Mage and Knights ~ 久遠の旅人と古の魔導"。
    サービス開始からもう4年になるが、未だ勢いの衰えない基本無料型MMORPG。
    濃厚なストーリーに加え、戦闘以外の生活面も充実、と
    様々なニーズを満たし続ける名作。
    尚、豊富なジョブが選択できるが、大まかな括りは"魔道士"か"騎士"しかない。
    パーティを組む従来のマルチプレイに加え、
   "666人 VS 666人"という無駄に大規模なPVPがある。
    勿論実在しない。

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