BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【白鷺千聖】「上司」が「嫁」に転職しまして【完結】
2019/07/31 突然一人暮らしが終了した件


 

 

今日、私は昇進した。

決して自分で望んだものじゃないけど。

 

もちろん、昇進や昇給は働くからには目指すべきものだと思う。

それでも…それでも、実力でそれを手に入れたかった。

少なくとも、今回のような、上が減ることでの()()()()なんか、望んじゃいない。

 

それも、あれだけお世話になったあの人が…。

 

 

 

**

 

 

 

「…えぇ、えぇ…。それでは皆様、私が入社してから今まで、6年ですか…。

 本当に、お世話になりました。

 私、白鷺千聖は、本日を以て退職となります。今までありがとうございました。」

 

 

パチパチパチパチパチ…

 

 

「○○。」

 

「…なに。」

 

「白鷺主任、本当に明日から来ないんだよね。」

 

「…そうだね。」

 

「なんかさ、現実感ないよね。」

 

「うん…。」

 

 

 

事務所の全員から拍手とお祝いの言葉を贈られる()()()上司を遠巻きに眺めていると、隣のデスクの氷川が話しかけてくる。

一応同期の彼女も、年齢は白鷺主任と同じ。私の2歳年上になる。

反応が薄いように取られるかもしれないが、私は私でいっぱいいっぱいだ。だってあの白鷺主任が…あぁ、また視界が。

 

 

 

「…っもー。昨日あれだけ泣いたのにまだ出るの??

 ……ほら、後で返してね??」

 

「うぅ……ありがとう氷川…。」

 

 

 

見かねた様子でハンカチを差し出す氷川。こいつ、いつもふわふわしてるのにこういう時ばっかりいいとこ見せる…。

…ってか、これお姉さんがでかでかとプリントされてる…グッズ?

氷川には双子のお姉さんが居て、バンドマンとして成功し今やテレビにコンサートに引っ張りだこだと聞く。

見た目ソックリなのに、妹のこいつとは似つかない性格をしているとか。

 

そんなお姉さんハンカチを容赦なく湿らせていると、人ごみから吐き出された主任がこちらへ近づいてきていた。

 

 

 

「……ふぅ、やっと解放されたわ…。って、また泣いてるの?○○さん。」

 

「お、白鷺しゅにーん。おっつかれさまでぇす♪

 そーなの、○○ってばずーっと泣き通しでさー。…こんなんで、明日から大丈夫かなーって。」

 

「だっでぇ…だって、じゅに"んと今日までじか一緒にいられなうえ"ぇ~…」

 

「あーあ。主任がまた後輩泣かせてるよーぅ。」

 

「ち、違うでしょ!?…今までしくしくくらいだったじゃないの!!」

 

「ご、ごべんなざいぃ…ぶえ"ぇぇ~!」

 

「な、泣き方の癖!」

 

 

 

我ながら酷い鳴き声だ。だめだ、いざ本人を目の前にするといろいろ思い出とか浮かんできちゃって…

…ダムは崩壊した。

 

 

 

「あぁもう、ハンカチ一枚じゃ足りないわね…

 日菜ちゃん、何か持ってない?」

 

「えっとねぇ……あ!さっき鼻かんだティッシュなら」

 

「捨てなさい!なんで取ってあるの!」

 

「あとでおねーちゃんにあげようと思って…」

 

「汚いなぁ!!」

 

「うぅ…氷川…汚い…。」

 

「あ!○○!意外と余裕あるでしょ!!」

 

「○○さん、だいじょうぶ。大丈夫だから…。ね?

 別に今生の別れってわけじゃないんだから…。」

 

 

 

外野の煩さは大して気にならず。今はただ、憧れの白鷺主任が私の為だけに声をかけてくれているのが嬉しかった。

 

結局勤務時間中にはその絡みが最後となり、デスク周りの片付けも無事完了。

帰りがけに何とか約束できたディナーが、実質最後の時間となってしまった。

 

 

 

**

 

 

 

「…この店もよく来たわよね。」

 

「えぇ、最後はやっぱり行きつけの場所がいいかと思いまして。」

 

 

 

最後に選んだのは、よく悩みを相談したりチームで愚痴を言い合ったりした居酒屋。

事ある毎に足を運んだからこそ、一番気楽に言葉を交わせると思ったのだ。

 

 

 

「注文はいつもの感じでいいですかね?」

 

「えぇ、○○さんに任せるわ。」

 

「…はい。」

 

「センスだよ?センスぅ♪」

 

「…なんで氷川も居るの。」

 

「えぇー?同じチームでしょー?それにほら!この3人といえばほら!

 な・か・よ・し!セイ!」

 

 

 

…イマイチ締まらないのはコイツのせいって事にしておこう。

無事注文も完了し、最初のドリンクが運ばれてくる。

それもいつも通り、私と主任はカシスオレンジ。氷川のバカは生ビールにウイスキーを混ぜて喜々として爆弾酒を製造している。…これもいつも通り。

 

 

 

「この風景も見納めかしらね…。」

 

「…………グズッ。」

 

 

 

乾杯前だというのに、また涙腺が。

 

 

 

「○○さぁ、泣きながら飲んだら潰れちゃうよ?

 普通より酔いが回りやすくなるんだからー。タダでさえ弱いでしょ?」

 

「ふふっ、酔った○○さんは凄いものね。

 あまり無理はしないようにね?」

 

「…はい、気をつけます。最後にご迷惑はかけられないので…。」

 

「迷惑だとは思ってないけど…まずは乾杯しましょ?」

 

 

 

乾杯の音も、心なしか寂しく聞こえた。

チビチビと口をつける度に、アルコールによる程よい弛緩が広がる。

少し気持ちも楽になれた気がした。

 

料理が運ばれてくる頃には雰囲気も盛り上がり、予てより訊きたかった質問をぶつけてみることにした。

 

 

 

「そういえば、主任が辞められる理由って何なんですか?

 色んな説は挙がっているんですが、結局正確には聞かされてなくて…。」

 

「あぁ…。えっと、その…結婚したくって。」

 

「あぁ!そーらったのー?ちさとちゃんってばぁ、さかってれぅね~。」

 

「酔っ払いは黙ってて。…寿退社ってやつですか…。…ん?結婚()()()()()

 まぁいいや、お相手は、会社関係の方ですか?」

 

「んー…まぁ、そんなところかしらね。

 そんなことより、○○さんは素敵なお相手とかいないの?彼氏とか、そういう予定とか…。」

 

「あー…私は、全然…。そ、それにっ」

 

「…それに?」

 

「えっと……その…」

 

 

 

お酒の勢いに任せて言ってしまうべきか否か。一年以上も変わらない想いとは言え、流石に気色悪いだろうか。

 

 

 

「○○はねぇ、ちさろちゃんがしゅきなんらよね~」

 

「ば、ばか!!」

 

 

 

反射的に手が出てしまったが。

まさかここ一番でこのバカがやらかすとは思っていなかった。もっと早く潰しておくべきだったか…。

 

恐る恐る白鷺主任の様子を伺うと…

 

 

 

「…そう、部下にそこまで好かれるなんて、私も幸せ者ね。

 でも、私はもう居なくなるじゃない?そうしたらいい人も見つかるんじゃないの?」

 

「…白鷺主任。私、例え職場から居なくなってしまったとしても、白鷺主任一筋ですから。

 知ってしまった以上、普通の男性と結婚なんか有り得ませんからぁ!」

 

 

 

あぁ…言ってしまった。

絶対引かれてる。でもま、お酒のせいにもできるし、もうどうせ明日から会えないんだし…。

 

 

 

「そう…なの?」

 

「は、はい。」

 

「……えっ…と。じゃあ、○○さんの心の中に住み着いちゃうぞ~…的な?感じ?かしら?」

 

「は、はいその……。なんかすいません。」

 

「あ、謝らないで?…えっと…それじゃあこれからもよろしく、になるのかしら?」

 

「そ、そうですかね…。」

 

「……………。」

 

「……………。」

 

「ふふっ、おかしいわね。この感じ。」

 

 

 

あぁもうそんな困ったように笑わないで。

その赤い頬も、まるで照れているように、勝手に都合のいいように解釈してしまいそうになる。

これは酒のせい、酒のせい…

 

ええい、私も酔ってしまえ。

 

 

 

「…えっ?ちょ、ちょっとまって○○さん、それは日菜ちゃんの…」

 

「…………ぶはぁ!」

 

 

 

近くにあったジョッキを一気に飲み干したが…。

あれ?なんか私今すごいことになってる?地球の回転を感じる??

…あぁ、なんか白鷺主任の声が遠くに聞こえる。主任、好きですよ…大好き…。

 

憧れの人との素敵な上下関係の記憶は、ここで闇に落ちた。

 

 

 

**

 

 

 

「………んー?…痛ッ。」

 

 

 

頭がズキズキする。

どこかにぶつけでもしただろうか…。

 

この掛け布団、この壁に天井。

…あぁ、ぼんやり思い出した気がする。

あれだけベロベロになったってのに、無事に家には帰ってこられたんだ。

帰巣本能…ってやつかな?

 

 

 

「あはっ、服着るの忘れてるよ…。

 脱ぐだけ脱いで寝ちゃったのか……な…?」

 

 

 

パンツ一枚で就寝って…仮にもいい年の女だというのに。

…そんな自分に思わず苦笑しながらも右を見て私は固まった。

 

昨日涙のお別れをした()()()()が一糸纏わぬ姿で隣に寝ているのだ。

布団に放射状に広がる輝く髪、スヤスヤと寝息を零す潤いとハリを湛えた唇。

…正直、いくらでも見ていられる。…と

 

 

 

「…?…あぁ、○○ちゃん。具合はどう?」

 

「お、お、おははは、おははひゃようございまっ」

 

「ふふっ…おはよう…。

 …お仕事の時間は大丈夫?」

 

 

 

その澄んだ瞳が開かれると同時に視線が交差した私は訳の分からない挨拶をかましてしまう。

なんとも思っていないような主任はそのまま体を起こし、あろう事か私の心配をしてくださった。

 

 

 

「あっ、わ、私は、今日有給使う日なので、大丈夫、なんですけど…」

 

「そう?…ふふっ、じゃあもう少し一緒に寝る?」

 

「えっ?えっ!?すみません状況が…」

 

 

 

状況が飲み込めていないのは私だけ?どうして主任はそんなに冷静なの?

あ、もう主任じゃないのか。いやなんて呼べばいいのじゃあ。

 

 

 

「昨日のこと、覚えてない…?」

 

「昨日…?全くですね。」

 

「そう…。じゃあ昨日はOKもらったし、今日も改めて言うけども。」

 

「は、はい…。」

 

 

「私、貴女のお嫁さんになるので。今日から同棲…よろしくね?」

 

 

「…はい?」

 

 

 

あぁ、「結婚するから辞める」じゃなく「結婚したくて辞める」ってそういうことか。

…じゃなくって、訊きたいことが多すぎる!

 

 

 

「え、私の気持ち、気づかれてたんですか?」

 

「…えぇ、まあ。薄々だけどね。

 昨日の居酒屋での会話で確信を得たって感じかしら。」

 

「そ、そうですか…。」

 

 

 

氷川め、酔いの中の発言でラッキーを起こすか。ぐっじょぶ。

 

 

 

「それで仕事辞めるって、思い切りましたね。」

 

「…それだけ私も本気だってことよ。

 もしダメだったらダメで、どのみち辛いでしょ?私も我慢ができなくなったの。」

 

「さすがの決断力だ…。あれ、じゃあこういう流れになるっていうのは…」

 

「契約を取るためには先を見越して計画を立てないとって…教えたわよね?」

 

 

 

つまりは計画通りに事が運んだと。

持っている。確実にこの上司、持っている。流石は入社3ヶ月後の試用期間終了直後にして新設部門を任されただけのことはある。

 

 

 

「…なるほど。それで同棲って、私的には幸せ過ぎるんですけど、本当にいいんですか?」

 

「えぇ。「これからもよろしく」って、言ったじゃない?」

 

 

 

あぁ…そこも伏線だったのかぁ…。

 

かくして、憧れの上司は最愛の嫁(?)になった。

どうしよう。これから始まる同棲生活、希望しかないんだが。

 

 

 

 




新章は女主人公です。
慣れませんね。




<今回の設定>

○○:初の女主人公。23歳独身。
   別にそういった気があるわけではないが、直属の上司ということでつい…ね?
   泣き方が独特。

千聖:25歳。寿退社をでっち上げる勇気と行動力。
   「まぁ貰ってもらえなくてもすぐ再就職したらいいし」とのこと。
   男性にまるで興味がない。

日菜:25歳。社内に於いて数々の伝説を築き上げている"歩く異常事態"。
   ○○と同期として入社するも、かつて同級生だった千聖と出会い頭のおかしさが暴走。
   主人公を含む3人のチームは会社的にも一目置かれている。
   バカ。
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